雑渡夢
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タソガレドキ忍軍に入ってからというもの、どこに行くにも大きな影がつきまとう。
雑渡昆奈門。この忍軍の組頭だ。
包帯でぐるぐる巻きにされた大きな体、右目だけが覗く顔。誰もが一目置く存在で、部下からの信頼は絶大だ。……なのに、なぜか私にだけやたら絡んでくるのだ、この人は。
「🌸。今日もよく働いた。褒美に私の特製雑炊をあげよう」
竹筒を手に、いつもの横座りでずいっと寄ってくる。包帯の下で、絶対ニヤついてるな。
「結構です! 自分で何か食べますから!」
「遠慮するな。愛情たっぷり込めて作ったから」
「そんなのいりませんよ!」
手を振って即座に断る。この人の言う「愛情」なんて、ただの雑炊に変なこだわりが混じってるだけなんだから。
周りの仲間は「また始まった」と呆れ顔。高坂さんが尊奈門に「組頭、あいつに絡みすぎだろ」と耳打ちしてるのが見える。
私が必死に抵抗しても、相手は凄腕の忍者。敵うはずがない。毎日こんな調子だから、忍びの鍛錬よりこの人の相手をする方がよっぽど疲れる。
——
ある夜、組頭に呼び出された。
「🌸、今日の任務はお前と二人だよ。」
組頭が巻物を広げながら、いつもより少し低めの声で言う。その声には、かすかに真剣さが伺える。
言い渡されたのは、ドクタケ忍者隊の隠れ里に潜入して、奴らの秘密の兵力配置図を奪うという厄介な任務。もうすぐ戦が始まるのだ。
「簡単な任務じゃないけど、こうやってお前と二人きりになれるんだから……まぁ、悪くないかな」
「悪いです! 真面目にしてください!」
そう言うと組頭は、ほんの一瞬、目を鋭く光らせた。
「お前は私の部下なんだ。勝手に他の奴と任務に行ったりしたら、許さないよ」
冗談っぽい口調の裏に、冗談だけじゃない、どこか本気の感情がちらつく。
「組頭こそ、勝手に私の所有権を主張しないでください!」
私は負けじと声を張ったけど、組頭はピースサインを決めながら「ふふっ」と笑うだけ。ほんと、いつもこの人のペースに巻き込まれるんだから。
里は深い山奥にあり、仕掛けられた罠が無数に張り巡らされていると聞く。失敗すれば命の保証はないし、成功しても敵に気付かれれば大規模な戦に発展する可能性が高い。組頭である彼が直々に動くのも、その重要さゆえだ。
——
夜の森を、組頭と並んで進む。普段の軽いノリは消えて、右目が月明かりに鋭く光る。気配を霧のように溶かして、木々の間を滑るように動く。
「🌸、息を抑えろ。敵が近い。」
囁きが耳元でひんやり響いて、背筋がピンと伸びる。この人の動きは、まるで夜そのもの。
木の根元に仕掛けられた針の罠を軽々と避け、見張りをしている敵を一瞬で仕留める。気配の欠片も残さないその姿に思わず息を呑んだ。
(これが…… 本気の組頭か……)
隠れ里の入り口に近づくと、敵の警戒がさらに厳しくなる。里の中心に小さな砦があり、そこに兵力配置図が保管されているらしい。
組頭が手信号で止まれを示し、木陰から里の様子を窺う。敵の忍者が数人、巡回を繰り返している。
「私が陽動する間に、お前は裏口から潜入して兵力図を奪え。」
その声は低く、落ち着いていた。
私は頷き、影に溶け込むように裏口へ。心臓の音が耳に響くなか、ようやく扉をこじ開け、中に滑り込んだ。棚を探すと、巻物が束ねてある。その中から兵力配置図を見つけ、懐にしまう。
でも、その一瞬の油断が命取りだった。
「――っ!」
突如、足元が絡まる。縄の罠に捕まって、身動きが取れなくなってしまった。「持ち堪えないと」――心の中で必死に自分を奮い立たせる。
暗闇に溶け込むように、数人の敵忍者が音もなく近づいてくる。月明かりを浴びた刀身が冷たく光り、その長い影が地面を這った。恐怖が喉を締めつけ、思わず息をのむ。
(だめだ、やられる……!)
そう思った時、森の空気を切り裂くような低い声が響いた。
「……貴様ら、誰のものに手を出したか、分かってるな」
組頭の声は静かだった。だが、その低く響く声音は、空気を凍らせるような威圧感を放つ。
一瞬、影が舞ったかと思うと、疾風のように敵が薙ぎ払われていく。
彼は敵の一人を縄から引き剥がし、喉元に手刀を入れる。残る奴らも、わずかな気配の揺らぎさえ見逃さず、一撃で仕留めていった。
縄を切られて、地面にへたり込んだ私に、組頭が寄ってくる。
「刃を向けられたくらいでビビってたら、忍びは務まらないよ。……でも、お前は兵力図を守り抜いた。まぁ、及第点だね。」
厳しい言葉なのに、声の端に温かさが滲む。包帯の奥の目が、ほんのり柔らかく見えた気がした。
「……組頭」
胸の熱が、じわっと広がる。こんな時だけかっこいいんだから、ほんとずるい。
——
任務を無事に終え、日常が戻ってきた。
鍛錬の後、装束を上半身だけ脱いで水を浴びていると、あの影が忍び寄ってきた。
「🌸、ちょっと腕見せて。」
「うわあ!? なんですか、急に!」
驚いて振り向くと、そこには竹筒を持った組頭が。
「昨日の罠で擦りむいたろ? 腫れてないか診てあげよう。」
いきなり二の腕に手が触れ、心臓がどきんと跳ねる。
「ふむ……問題ないね。腕の筋肉もだいぶ締まってきたけど、柔らかさが残ってる。……私の好みだよ」
「ちょ、ちょっと、触らないでください!」
慌てて手を振り払って飛び退く私に、組頭は竹筒を差し出してくる。
「鍛錬後は栄養補給が大事だよ。はい、私の特製雑炊」
「水で十分ですって!」
「水じゃ味気ないだろ。第一、愛情が足りないよ」
「だから愛情いらないんですよ!」
私の叫びに、周りがくすくす笑う。高坂さんは「🌸、顔が真っ赤っかだぞ」と茶化してくるし、尊奈門は「もう諦めろ」と肩をすくめている。
……なのに当の本人は、包帯の下で余裕の笑みを浮かべているのだ。
(任務の時はあんなに頼もしかったのに……この人、ほんと、ずるい!)
任務中の鋭い眼差しと、日常のこのふざけた態度。どっちも組頭で、どっちも私の心を振り回す。
――この人には、結局、敵わないんだよな。
雑渡昆奈門。この忍軍の組頭だ。
包帯でぐるぐる巻きにされた大きな体、右目だけが覗く顔。誰もが一目置く存在で、部下からの信頼は絶大だ。……なのに、なぜか私にだけやたら絡んでくるのだ、この人は。
「🌸。今日もよく働いた。褒美に私の特製雑炊をあげよう」
竹筒を手に、いつもの横座りでずいっと寄ってくる。包帯の下で、絶対ニヤついてるな。
「結構です! 自分で何か食べますから!」
「遠慮するな。愛情たっぷり込めて作ったから」
「そんなのいりませんよ!」
手を振って即座に断る。この人の言う「愛情」なんて、ただの雑炊に変なこだわりが混じってるだけなんだから。
周りの仲間は「また始まった」と呆れ顔。高坂さんが尊奈門に「組頭、あいつに絡みすぎだろ」と耳打ちしてるのが見える。
私が必死に抵抗しても、相手は凄腕の忍者。敵うはずがない。毎日こんな調子だから、忍びの鍛錬よりこの人の相手をする方がよっぽど疲れる。
——
ある夜、組頭に呼び出された。
「🌸、今日の任務はお前と二人だよ。」
組頭が巻物を広げながら、いつもより少し低めの声で言う。その声には、かすかに真剣さが伺える。
言い渡されたのは、ドクタケ忍者隊の隠れ里に潜入して、奴らの秘密の兵力配置図を奪うという厄介な任務。もうすぐ戦が始まるのだ。
「簡単な任務じゃないけど、こうやってお前と二人きりになれるんだから……まぁ、悪くないかな」
「悪いです! 真面目にしてください!」
そう言うと組頭は、ほんの一瞬、目を鋭く光らせた。
「お前は私の部下なんだ。勝手に他の奴と任務に行ったりしたら、許さないよ」
冗談っぽい口調の裏に、冗談だけじゃない、どこか本気の感情がちらつく。
「組頭こそ、勝手に私の所有権を主張しないでください!」
私は負けじと声を張ったけど、組頭はピースサインを決めながら「ふふっ」と笑うだけ。ほんと、いつもこの人のペースに巻き込まれるんだから。
里は深い山奥にあり、仕掛けられた罠が無数に張り巡らされていると聞く。失敗すれば命の保証はないし、成功しても敵に気付かれれば大規模な戦に発展する可能性が高い。組頭である彼が直々に動くのも、その重要さゆえだ。
——
夜の森を、組頭と並んで進む。普段の軽いノリは消えて、右目が月明かりに鋭く光る。気配を霧のように溶かして、木々の間を滑るように動く。
「🌸、息を抑えろ。敵が近い。」
囁きが耳元でひんやり響いて、背筋がピンと伸びる。この人の動きは、まるで夜そのもの。
木の根元に仕掛けられた針の罠を軽々と避け、見張りをしている敵を一瞬で仕留める。気配の欠片も残さないその姿に思わず息を呑んだ。
(これが…… 本気の組頭か……)
隠れ里の入り口に近づくと、敵の警戒がさらに厳しくなる。里の中心に小さな砦があり、そこに兵力配置図が保管されているらしい。
組頭が手信号で止まれを示し、木陰から里の様子を窺う。敵の忍者が数人、巡回を繰り返している。
「私が陽動する間に、お前は裏口から潜入して兵力図を奪え。」
その声は低く、落ち着いていた。
私は頷き、影に溶け込むように裏口へ。心臓の音が耳に響くなか、ようやく扉をこじ開け、中に滑り込んだ。棚を探すと、巻物が束ねてある。その中から兵力配置図を見つけ、懐にしまう。
でも、その一瞬の油断が命取りだった。
「――っ!」
突如、足元が絡まる。縄の罠に捕まって、身動きが取れなくなってしまった。「持ち堪えないと」――心の中で必死に自分を奮い立たせる。
暗闇に溶け込むように、数人の敵忍者が音もなく近づいてくる。月明かりを浴びた刀身が冷たく光り、その長い影が地面を這った。恐怖が喉を締めつけ、思わず息をのむ。
(だめだ、やられる……!)
そう思った時、森の空気を切り裂くような低い声が響いた。
「……貴様ら、誰のものに手を出したか、分かってるな」
組頭の声は静かだった。だが、その低く響く声音は、空気を凍らせるような威圧感を放つ。
一瞬、影が舞ったかと思うと、疾風のように敵が薙ぎ払われていく。
彼は敵の一人を縄から引き剥がし、喉元に手刀を入れる。残る奴らも、わずかな気配の揺らぎさえ見逃さず、一撃で仕留めていった。
縄を切られて、地面にへたり込んだ私に、組頭が寄ってくる。
「刃を向けられたくらいでビビってたら、忍びは務まらないよ。……でも、お前は兵力図を守り抜いた。まぁ、及第点だね。」
厳しい言葉なのに、声の端に温かさが滲む。包帯の奥の目が、ほんのり柔らかく見えた気がした。
「……組頭」
胸の熱が、じわっと広がる。こんな時だけかっこいいんだから、ほんとずるい。
——
任務を無事に終え、日常が戻ってきた。
鍛錬の後、装束を上半身だけ脱いで水を浴びていると、あの影が忍び寄ってきた。
「🌸、ちょっと腕見せて。」
「うわあ!? なんですか、急に!」
驚いて振り向くと、そこには竹筒を持った組頭が。
「昨日の罠で擦りむいたろ? 腫れてないか診てあげよう。」
いきなり二の腕に手が触れ、心臓がどきんと跳ねる。
「ふむ……問題ないね。腕の筋肉もだいぶ締まってきたけど、柔らかさが残ってる。……私の好みだよ」
「ちょ、ちょっと、触らないでください!」
慌てて手を振り払って飛び退く私に、組頭は竹筒を差し出してくる。
「鍛錬後は栄養補給が大事だよ。はい、私の特製雑炊」
「水で十分ですって!」
「水じゃ味気ないだろ。第一、愛情が足りないよ」
「だから愛情いらないんですよ!」
私の叫びに、周りがくすくす笑う。高坂さんは「🌸、顔が真っ赤っかだぞ」と茶化してくるし、尊奈門は「もう諦めろ」と肩をすくめている。
……なのに当の本人は、包帯の下で余裕の笑みを浮かべているのだ。
(任務の時はあんなに頼もしかったのに……この人、ほんと、ずるい!)
任務中の鋭い眼差しと、日常のこのふざけた態度。どっちも組頭で、どっちも私の心を振り回す。
――この人には、結局、敵わないんだよな。
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