闃然に熄え、澱渦に還る
少し離れた高台で続いていた騒ぎも、やがて周囲の者たちに引き離されるうちに、次第に声が小さくなっていった。
その様子を見ていた人々も徐々に騒ぎから目を逸らし、使い終わった椀や残った食べ物を片付ける者、風除けを整えに向かう者など、高台のあちこちへ散っていく。
一彩も手元の椀を持って立ち上がり、周囲の者たちに混じって片付けを手伝った。
辺りを見回していると、少し離れた風除けの中から年配の人が周囲へ声を掛けながら、何度も手招きをしていた。その傍らでは、隣に座る者が身体をずらして一人分の隙間を空ける。
その場に立ったまま僅かに戸惑っていると、年配の人はその姿に気づき、今度は一彩へ向けて強めに手招きをした。
少し目を瞬かせると、そちらへ歩いていき、小さく頭を下げながら空いた場所へ腰を下ろした。
隣の者と肩を寄せるように身体を縮める。
外では冷たい風が風除けの布を揺らし、その隙間から、所々に赤い火の明かりが残る村の輪郭が遠くに覗いていた。
暗がりの境に淡い橙が滲み、ゆっくりと赤みを帯びたかと思うと、再び黒の中へ沈んでいった。
薄絹を引くような白が細くたなびき、風にほどかれながらゆるやかに広がって、幾重にも重なる切れ間から差した光が、斜めに走る影を濃くした。
それは焼け焦げ、凭れた柱のひび割れた肌に残る小さな火だった。
焼け崩れた木材のさらに奥で、黒が揺れた。
柱の影がほどけるように、黒が前へ出ると、裾の内に沈んでいた赤がひとすじ覗いた。
未だ燻る灰色の骨組みの間を通り抜け、道沿いに残る家の中へ時折足を踏み入れ、燐音は確認しながら進んだ。
火の手を免れた壁には赤黒い跡が残り、薄く積もった雪の上にも、途切れながら小路の先へ続いている。
その先では、泥と血に汚れた衣服のまま壁に凭れる者や、道端に身体を投げ出すように倒れた者の姿があった。
少し先の壊れかけの家へ近づき、入口の柱へ手を添えた瞬間、頭上で低い軋みが鳴った。
咄嗟に身を引くと、家屋が崩れ小路を塞いだ。
巻き上がる煤に袖を持ち上げ、顔半分を覆いながら脇の小路へ入る。
足取りを緩め、その手を顎に添えた。
不意に顔を上げると、狙いすましたように開いた戸口から中へ入って行った。
程なくして、意識のない人を横抱きにしたまま戸口から現れ、その先の建物の陰へ身を沈めた。
しばらくして、来た道を一人で引き返すと、道角に蹲る人の脇を通り過ぎ、小路へ折れた。
薄暗い道端には、壁に力なく凭れた人の足だけが伸びていた。燐音はその傍を通り、奥へ姿を消した。
正面から歩いてきた二人組の一人が建物の角を指さすと、二人で駆け寄り、建物の陰に消えた。
一彩が再び視線を向けると、燐音は見晴台らしき物の前を横切り、半ば外れてひしゃげた戸の家へ向かっていた。
戸口の前で中を覗き込み、踏み出しかけた足を留めると、踵を返した。
白い息を長く吐き出すと、横へ視線を移して歩き出した。
揺れる袖口から覗く手は強く握り込まれていた。
一彩はその姿を、しばらく瞬きもせず見つめていた。
やがて顎下に手を添え、視線を落とした。
ひときわ大きな声が響き、弾かれるように顔を上げ視線を巡らせると、すぐ近くで村人たちが何やら揉めていた。
囲まれた男が人垣の一角を指さすと、そこにいた男が片足を引き、後ずさるや否や人垣を押しのけるように駆け出す姿を、数人が声を荒らげながら追い駆けた。
騒ぎの外れでは、農道を歩いていた燐音が足を止め、片膝をついた。
葉に手を添え、積もった雪をそっと払い除けると、葉は黒く萎れ、根は痩せ細っていた。
道沿いへ目を向ければ、同じように枯れた草が点々と続いている。
その奥へ目をやると、水路の流れが淀んでいた。
顎に手を添え、眉根に皺を寄せた。
その足元へ、影が伸びてきた。
伸びる影を追うように顔を上げると、目がみるみる見開かれ、顎に添えていた手がするりと下がった。
遠くから何かを打ち砕くような音が響き、遅れて悲鳴が耳に届くと、とっさに駆け出した。
背後から黒い大鷲が追いつき、脇へ並んだ瞬間、速度が一気に跳ね上がった。
その様子を見ていた人々も徐々に騒ぎから目を逸らし、使い終わった椀や残った食べ物を片付ける者、風除けを整えに向かう者など、高台のあちこちへ散っていく。
一彩も手元の椀を持って立ち上がり、周囲の者たちに混じって片付けを手伝った。
辺りを見回していると、少し離れた風除けの中から年配の人が周囲へ声を掛けながら、何度も手招きをしていた。その傍らでは、隣に座る者が身体をずらして一人分の隙間を空ける。
その場に立ったまま僅かに戸惑っていると、年配の人はその姿に気づき、今度は一彩へ向けて強めに手招きをした。
少し目を瞬かせると、そちらへ歩いていき、小さく頭を下げながら空いた場所へ腰を下ろした。
隣の者と肩を寄せるように身体を縮める。
外では冷たい風が風除けの布を揺らし、その隙間から、所々に赤い火の明かりが残る村の輪郭が遠くに覗いていた。
暗がりの境に淡い橙が滲み、ゆっくりと赤みを帯びたかと思うと、再び黒の中へ沈んでいった。
薄絹を引くような白が細くたなびき、風にほどかれながらゆるやかに広がって、幾重にも重なる切れ間から差した光が、斜めに走る影を濃くした。
それは焼け焦げ、凭れた柱のひび割れた肌に残る小さな火だった。
焼け崩れた木材のさらに奥で、黒が揺れた。
柱の影がほどけるように、黒が前へ出ると、裾の内に沈んでいた赤がひとすじ覗いた。
未だ燻る灰色の骨組みの間を通り抜け、道沿いに残る家の中へ時折足を踏み入れ、燐音は確認しながら進んだ。
火の手を免れた壁には赤黒い跡が残り、薄く積もった雪の上にも、途切れながら小路の先へ続いている。
その先では、泥と血に汚れた衣服のまま壁に凭れる者や、道端に身体を投げ出すように倒れた者の姿があった。
少し先の壊れかけの家へ近づき、入口の柱へ手を添えた瞬間、頭上で低い軋みが鳴った。
咄嗟に身を引くと、家屋が崩れ小路を塞いだ。
巻き上がる煤に袖を持ち上げ、顔半分を覆いながら脇の小路へ入る。
足取りを緩め、その手を顎に添えた。
不意に顔を上げると、狙いすましたように開いた戸口から中へ入って行った。
程なくして、意識のない人を横抱きにしたまま戸口から現れ、その先の建物の陰へ身を沈めた。
しばらくして、来た道を一人で引き返すと、道角に蹲る人の脇を通り過ぎ、小路へ折れた。
薄暗い道端には、壁に力なく凭れた人の足だけが伸びていた。燐音はその傍を通り、奥へ姿を消した。
正面から歩いてきた二人組の一人が建物の角を指さすと、二人で駆け寄り、建物の陰に消えた。
一彩が再び視線を向けると、燐音は見晴台らしき物の前を横切り、半ば外れてひしゃげた戸の家へ向かっていた。
戸口の前で中を覗き込み、踏み出しかけた足を留めると、踵を返した。
白い息を長く吐き出すと、横へ視線を移して歩き出した。
揺れる袖口から覗く手は強く握り込まれていた。
一彩はその姿を、しばらく瞬きもせず見つめていた。
やがて顎下に手を添え、視線を落とした。
ひときわ大きな声が響き、弾かれるように顔を上げ視線を巡らせると、すぐ近くで村人たちが何やら揉めていた。
囲まれた男が人垣の一角を指さすと、そこにいた男が片足を引き、後ずさるや否や人垣を押しのけるように駆け出す姿を、数人が声を荒らげながら追い駆けた。
騒ぎの外れでは、農道を歩いていた燐音が足を止め、片膝をついた。
葉に手を添え、積もった雪をそっと払い除けると、葉は黒く萎れ、根は痩せ細っていた。
道沿いへ目を向ければ、同じように枯れた草が点々と続いている。
その奥へ目をやると、水路の流れが淀んでいた。
顎に手を添え、眉根に皺を寄せた。
その足元へ、影が伸びてきた。
伸びる影を追うように顔を上げると、目がみるみる見開かれ、顎に添えていた手がするりと下がった。
遠くから何かを打ち砕くような音が響き、遅れて悲鳴が耳に届くと、とっさに駆け出した。
背後から黒い大鷲が追いつき、脇へ並んだ瞬間、速度が一気に跳ね上がった。