闃然に熄え、澱渦に還る
まだ幼かった一彩は、危ないからと森へ入ることを止められていた。
森の高台には時々、赤い髪の青年が村を見下ろす姿があった。
何かをするでもなく、ただ立っているのを、一彩は不思議そうに下から見上げていた。
九つを過ぎた頃から、一彩も大人たちに混じり、季節ごとに山菜を採ったり、薪にする木を切ったりと、森での手伝いをするようになった。
それと並行して、木に手を添え、じっと見つめる赤い髪の青年を見かけることも増えていった。
ある時は動物と目線を合わせ、またある時には腕に何かを抱えていた。
視線を外し、戻す頃にはいつの間にかその姿はなくなっていた。
初めのうちは、赤い髪の青年について周囲に尋ねることもあった。
けれど、尋ねられた大人たちは首を傾げたり、知らないとばかりに首を横へ振ったりするばかりだった。
それを繰り返すうちに、一彩も次第に尋ねることをやめた。
それでも森へ入れば、度々その姿を見つけた。
名前も知らないまま、言葉を交わすこともないまま、そんな日々が幾年か続いた。
そしてその日も、初めはいつもと何も変わらなかった。
夜のうちに降った雪が、家々の屋根や畑、道端に残る草の根元を薄く覆っている。
小路は軽く雪を掻いてあり、人の行き来が多いところでは、ところどころ湿った土が覗いていた。
家々から立ちのぼる炊事の煙は、冷えた空気の中でゆっくりと輪郭をぼかし、消えていく。
一彩は外へ出ると、いつものように里の人たちに声を掛けられ、頼まれるままあちこちの用事を手伝って回った。
途中からは同じように声を掛けられた子供たちも何人か加わり、荷を運んだり、家先の仕事を手伝ったりしながら過ごしていく。
そうして最後の手伝いを終える頃には、日はすっかり高くなっていた。
一仕事終えた子供たちは、その家の者に勧められるまま、皆そろって昼餉まで馳走になった。
食事を終えて再び外へ出る頃には、朝の冷え込みも幾分か和らいでいる。
畑の周辺には、子供たちの姿がちらほらと増え始めていた。
畑の間を縫う細道を駆け回る者もいれば、畦道(あぜみち)の上を、両腕を広げて落ちないように歩く者もいる。
「お兄ちゃん!」
不意に聞こえた声に、一彩は足を止めて振り返った。
小さな手のひらに雪うさぎを乗せた子供が、こちらへ駆け寄ってくる。
「うしゃぎしゃん、つくったー♪」
一彩はその場にしゃがみ込み、差し出された雪うさぎに目を向けた。
「お、上手だね♪」
子供が嬉しそうに笑うと、一彩も笑顔を返す。
「いっしょにつくろー♪」
後から追いついたもう一人が、道端に雪の残る方を指さした。
「うむ!」
そのまま袖を引かれ、一彩は子供たちの後を歩いていく。
一彩も子供たちと一緒にしゃがみ込み、道端に残った雪を両手ですくい、形を軽く整えると、細い葉を一枚、もう一枚と耳代わりに差し込む。
二枚目を差し込んだ時、不意に後ろから片腕を引かれた。
驚いて振り向くと、友人は一彩の腕を掴んだまま走り出す。
引かれるまま身体を起こした拍子に、手の中の雪うさぎが柔らかな雪の上にぽろりと落ちた。
一彩は慌てて足を踏み出し、そのまま友人に引かれるように駆けていく。
前を走っていた子供たちに追いつき、いつの間にか鬼ごっこが始まっていた。
ひとしきり走り回るうちに息も上がり、駆ける足は次第に緩やかになっていく。
一彩は息を整えながら振り返り、火照った頬を照らす茜色にわずかに目を細めた。
視線の先では、いつの間にか日が傾いていた。
辺りを見ると、畑の周辺に残っている子供たちも、もう数えるほどしかいない。
残っていた一彩たちも、それを機に遊びを切り上げた。
森の高台には時々、赤い髪の青年が村を見下ろす姿があった。
何かをするでもなく、ただ立っているのを、一彩は不思議そうに下から見上げていた。
九つを過ぎた頃から、一彩も大人たちに混じり、季節ごとに山菜を採ったり、薪にする木を切ったりと、森での手伝いをするようになった。
それと並行して、木に手を添え、じっと見つめる赤い髪の青年を見かけることも増えていった。
ある時は動物と目線を合わせ、またある時には腕に何かを抱えていた。
視線を外し、戻す頃にはいつの間にかその姿はなくなっていた。
初めのうちは、赤い髪の青年について周囲に尋ねることもあった。
けれど、尋ねられた大人たちは首を傾げたり、知らないとばかりに首を横へ振ったりするばかりだった。
それを繰り返すうちに、一彩も次第に尋ねることをやめた。
それでも森へ入れば、度々その姿を見つけた。
名前も知らないまま、言葉を交わすこともないまま、そんな日々が幾年か続いた。
そしてその日も、初めはいつもと何も変わらなかった。
夜のうちに降った雪が、家々の屋根や畑、道端に残る草の根元を薄く覆っている。
小路は軽く雪を掻いてあり、人の行き来が多いところでは、ところどころ湿った土が覗いていた。
家々から立ちのぼる炊事の煙は、冷えた空気の中でゆっくりと輪郭をぼかし、消えていく。
一彩は外へ出ると、いつものように里の人たちに声を掛けられ、頼まれるままあちこちの用事を手伝って回った。
途中からは同じように声を掛けられた子供たちも何人か加わり、荷を運んだり、家先の仕事を手伝ったりしながら過ごしていく。
そうして最後の手伝いを終える頃には、日はすっかり高くなっていた。
一仕事終えた子供たちは、その家の者に勧められるまま、皆そろって昼餉まで馳走になった。
食事を終えて再び外へ出る頃には、朝の冷え込みも幾分か和らいでいる。
畑の周辺には、子供たちの姿がちらほらと増え始めていた。
畑の間を縫う細道を駆け回る者もいれば、畦道(あぜみち)の上を、両腕を広げて落ちないように歩く者もいる。
「お兄ちゃん!」
不意に聞こえた声に、一彩は足を止めて振り返った。
小さな手のひらに雪うさぎを乗せた子供が、こちらへ駆け寄ってくる。
「うしゃぎしゃん、つくったー♪」
一彩はその場にしゃがみ込み、差し出された雪うさぎに目を向けた。
「お、上手だね♪」
子供が嬉しそうに笑うと、一彩も笑顔を返す。
「いっしょにつくろー♪」
後から追いついたもう一人が、道端に雪の残る方を指さした。
「うむ!」
そのまま袖を引かれ、一彩は子供たちの後を歩いていく。
一彩も子供たちと一緒にしゃがみ込み、道端に残った雪を両手ですくい、形を軽く整えると、細い葉を一枚、もう一枚と耳代わりに差し込む。
二枚目を差し込んだ時、不意に後ろから片腕を引かれた。
驚いて振り向くと、友人は一彩の腕を掴んだまま走り出す。
引かれるまま身体を起こした拍子に、手の中の雪うさぎが柔らかな雪の上にぽろりと落ちた。
一彩は慌てて足を踏み出し、そのまま友人に引かれるように駆けていく。
前を走っていた子供たちに追いつき、いつの間にか鬼ごっこが始まっていた。
ひとしきり走り回るうちに息も上がり、駆ける足は次第に緩やかになっていく。
一彩は息を整えながら振り返り、火照った頬を照らす茜色にわずかに目を細めた。
視線の先では、いつの間にか日が傾いていた。
辺りを見ると、畑の周辺に残っている子供たちも、もう数えるほどしかいない。
残っていた一彩たちも、それを機に遊びを切り上げた。