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2018年 年賀状

新年元旦。

朝、初詣に行くから早く起きなさいと母さんに無理やり起こされた一松は、地獄のように寒い廊下をまれにみる素早さで移動し、早くおこたに入ろうと居間のふすまを開けた。その目に飛び込んできた光景は――なんてこと無い、いつも通りの風景だった。

おそ松はこたつに入りながらテレビを見て、カラ松は鏡を眺め、チョロ松はおそ松の膝の上でみかんを剥き、十四松とトド松は仲良く福笑い(十四松式)をやっている。正月仕様のいつも通りの風景だ。一松はしばらく考えた末、おそ松の向かい側のおこたに入り、末二人の福笑いを眺めることにする。

「ねぇ、それ楽しい?」
「うん、楽しいよ!一松兄さんもやる?」
「おれ?俺はいいや、見てるだけで。……トッティはそれ面白いの」
「ううん、全然。てか、ぶっちゃけ気持ち悪いっていうか……不気味だよね」

そういいながら十四松が後ろを向いている間に福笑いを目隠しもせずにトド松が並べていく。「いいよー、十四松兄さん」とトド松が声をかけると十四松が勢いよく振り向いた。

「どお?!一緒?!」
「わーすごーいすごーい」

どういう原理なのか、振り返った十四松の顔はトド松が作った福笑いと全く同じになっていた。全く感情のこもってない声で褒めるトド松の目は遠い。一松はとりあえず何も見なかったことにしてこたつに向き直った。

ふぅ、と息を吐き出してこたつの布団を深くかぶりなんとなく顔を上げると、今度はせっせとみかんを剥いているチョロ松と目が合う。

「ねぇ、俺にも剥いて」
「はぁ?自分で剥けよ」

にべもなく断られた直後、チョロ松の背後でテレビに視線を向けながらもニヤッと一松を笑った長男にちょっとイラっとしたがそれもいつものこと。

「猫やがるし、手冷たい」

机に顎をのせ、口を大きくして待つと納得いかないといった顔をしながらもチョロ松は今しがた剥き終えたみかんを半分にして一松の口元に持ってくる。あー、なんだかんだ言ってやっぱちょれーなチョロ松はと心の中でしめしめ思ってみずみずしい果実が舌の上に乗せられるのを待っていると、まっすぐ一松の口を目指していたはずのチョロ松の腕が横から割り込んできた手につかまれ元来た道を引き返す。あれ?と思う暇も無くパクリと大きな口にミカンは吸い込まれ消えていった。犯人は言うまでも無い。やつだ。

「チョロ松は俺のだし!」
「はあ?この場合は俺じゃなくてみかんだろ?てか、お前のじゃねーし!」
「チョロ松が関係してるのは全部俺のですー」
「どこのジャイアンだよ」
「でもホントのことだろ?」
「ぅ、……いわせんなよ」

わーい、新年一発目のおそチョロいただきやしたー。藪をつついて蛇を出してしまったと一松が後悔してると背後から高圧な負のオーラを感じた。恐る恐る振り返らなくても分かる。やつ(トッティ)が射殺さんばかりの視線を送っているのだ。わざわざトッティの居る後ろを向きたくないし、かといって目の前は人前気にせずいちゃつくカップルがハートをまき散らしている。終わった……一松がそう思った時、鶴の一声ならぬ松代の一声が場を救った。

「ニートたちー、ご飯よー。手伝いなさーい」

た、助かった。普段なら自ら進まずのろのろ手伝いに行く一松もこのときばかりは素早く立ち上がり、松代が居る台所へと向かう。

「あら珍しいわね。いつもならチョロ松が一番最初に来るのに」
「そ、それは……」
「あぁ、なるほどねぇ。……どうせなら孫ができればいいのに。はい、これ持ってって」

雑煮が人数分乗ったお盆を持たされた一松は今しがたさらりと放たれた松代の言葉にガタガタ震えが止まらなくなる。この母はすべてを見透かしている。見透かした上で知らないふりをし、さらに息子同士でも良いから孫が欲しいと言ってのけたのだ。

「ちょっと一松兄さん邪魔ー。母さん、これ持ってけば良いの?」
「そうね、お願い」
「十四松兄さんはこっちもって」
「了解しましタイムリー!」

母の闇を垣間見て震える一松をドライモンスターの名を欲しいがままにしているトド松は十四松を連れてさっさと残りの料理を運んでいく。何時までも突っ立ってる訳にもいかないためなんとか震える足をそろそろと動かして二人の後を追い、居間に戻るとなにやらおそチョロとカラ松がもめていた。

「めしの時間だぞ、そのカッコは行儀が悪い」

どうやらカラ松が飯の時間ぐらいチョロ松を下ろせと言ってるらしい。珍しく気の利くことしてんじゃんとか少し関心してみるがなんだか少し雲行きが怪しい。

「あー、でもしょうがねーんだよ。チョロ松今腰痛いから暖めてやんねーと」
「ちょっとおそ松兄さん?!」
「そうか……それなら仕方ないな!」

仕方が無くねぇよこのクソ松がっ。満面の笑みで食卓に向き直るカラ松に闇のオーラがあふれ出る。余計なこと言って余計な情報聞き出してんじゃねぇよクソがッ。生々しい情報を手に入れてしまったがために無心を心がけても次々と頭の中をよぎるのはバカップルのことだ。そういや昨夜は二人だけ遅くまで下に居ましたよねぇ、とか昨日までは無かったチョロ松の首筋の赤い痕とか次々と入ってくる情報に脳が勝手に想像を始める。嫌だ、やめてくれ!せっかくのおせち料理がまずくなるッ!一松がチラリと横を確認すれば末弟は安らかな顔をして遠くへ旅立とうとしていた。待てトド松!まだ傷は浅いぞぉお!おまえがココで戦線離脱したら新年早々松野家はおそチョロの魔の手に落ちることになる!

「ねぇねぇ、食べないの?僕もうおなかすいちゃった」

はっと意識を現実へ戻すといつの間にか料理がすべて並べられた食卓に十四松が座り涎を垂らしている。

「そうだな。早く食べよーぜ」

自分のせいで新年早々一人の松が死にかけたことなど知りもせずのんきに言ってのけるバカップル(旦那)は無理やり意識の外へはじきだし、一松は目の前に広がる年に一度の豪勢なおせち料理に意識を向けた。そうだ。バカップルの公害はいつものことだが、おせち料理は365日に一度しかないのだから優先すべきことは火を見るより明らか。

食卓に並んだ松代お手製のおせちはどれも輝いてとても食欲をそそる。何よりも目をひくのは人数分揃えられた大きなエビ。皮を剥かれる前のそのままの姿で置かれているそれは食べるのは大変だが、その分美味しいのだ。人数分あるとは言ってもここは戦場。もたもたしてれば奪われること必須のため、まずはエビを確保しなければ。

「「いただきまーす」」

みんなそろって挨拶をすますと思った通り、皆の箸は真っ先にエビへと向かう。

「チョロ松エビ!エビ剥いて!」
「はぁ?食いたいなら自分で剥けって」
「えー?チョロ松みたいにうまくむけねーし。いいじゃん剥いてよー」
「はぁ、たっくしょうがないなぁ」

予想していたやり取りは皆スルーして、十四松がそのままエビを口に入れバリボリ食っているのを横目で見つつ、一松は悪戦苦闘しつつエビの頭をもいで殻を取っていく。

みずみずしい身が現れ、べとべとになってしまった手をティッシュで拭こうと横によけていたボックスに手を伸ばしたとき迂闊にも視界に入れてしまった奴ら。

剥き終えてべたべたになった手をどうしようかと見渡しているチョロ松の手をおそ松が捕まえて、おもむろに自分の口元に持ってくるとぱくっと指をくわえるところを見てしまった一松は、あぁ……と思わず膝から崩れ落ちた。食事中のためちゃんと座っていたが冗談ではなくそんな思いだった。ほんの些細なことでも二人のやり取りは見えてしまうし、聞こえてしまう。

「あ!おい、何やってんだよ!」
「だって汁勿体ねーじゃん。それに綺麗になるだろ?」
「逆にべとべとだわ!もー……一松僕にもティッシュとって」
「……はい」
「ありがと」
「ほらほらチョロちゃんあーん」
「あ、バカっ!醤油垂れんだろ!」

せっせとチョロ松が良妻よろしく剥いたエビに醤油を付けてチョロ松の口元に持っていくおそ松。醤油がしたたり落ちる前に慌ててエビをおそ松の手から食べたチョロ松の表情に花が咲き、それに釣られてかおそ松も満足そうに笑い、抜け目なく伊達巻きや数の子を二人分キープしていく。

「おいしぃ!」
「これもうめーからくってみ」
「こら。そんなに取ったらみんなの分がなくなるだろ」
「いーのいーの、二人分なんだから普通だって。それよりもほら、いっぱい食えって」

あの食べ物に名前が書いてあってもお構いなしに食い散らかすほど食い意地を張った長男が、あろうことかかいがいしくチョロ松の世話(?)をしている光景に呆然とする。頭がお花畑な筋肉二人は分かってんだか、みじんも気にしてないのかいつも通り食事をすすめていく中、ずっと下を向き表情変えずに黙々と食べていたトド松の眉間に努筋が浮かんだのを一松は見逃さなかった。

「今日もいっぱい動くんだからちゃんと栄養つけとけよ~」
「何言ってんだよっ、もう!」

チョロ松の突っ込みが全く機能していない。この浮かれ松め。いっそのことイチャイチャするならよそでやってくれとぶち切れたいところだが、それは去年もおととしも、はたまたその前の年にも注意してきたのだ。しかし効果があるどころか年々いちゃつき度が上がっていってる気がするのだ。間違いなく長男の当てつけだろう。チョロ松はことおそ松が絡むとポンコツになるため意図的にいちゃついてるとは考えにくい。何はともあれ今年は切れるなんて無駄な体力は使わないことにしたのだから二人が何をしたって気にしないのだ。気にしな……。

「あ、そうだ。俺たち今日帰らねーからよろしく!」

おそ松の言葉に気が遠くなるのを感じながらエビのうまみをかみしめ、堪えきれなかった末弟の叫び声をBGMに毎年変わらぬ新年が始まった。


あぁ、もう。勝手に今年も仲良くしてくれ!
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