病弱チョロ松
「あーぁ。カラ松ばっかりずるいんだ—」
「おそ松、お前がそれを言うか?」
「ずるいもんはずるいだろー」
成人男性を抱き上げているというのに慣れた足取りで階段を上っていくカラ松の後ろでぶーぶーおそ松が文句を垂れる。何時だってチョロ松を抱き上げ運ぶ役目はカラ松で、それがおそ松には面白くなかった。その分抱きしめる回数が多かったり、良い所を取っていくのは棚上げたために、カラ松にじと目を食らったがそんなのおそ松は気にもならない。
「布団しくか?」
「……其処まで酷くないから大丈夫」
「んじゃあ、お兄ちゃんが膝枕してあげるからおいで」
「……え?いや、ふつうの枕で」
「ほら早く、余計なことは考えなくていいから」
兄弟部屋でもう既にしまわれていた布団を再び出すほどではないならと、おそ松がソファーに腰掛け太ももを叩く。それに渋い顔をしたチョロ松だが、またおそ松の有無を言わせぬ眼力にノーとは言えなくなる。カラ松もどうせなら自分がチョロ松に膝枕をしてやりたがったが、何だかんだ言って一番チョロ松に依存しているおそ松を押しのけ争ってまでやろうとは思わず、大人しくチョロ松をソファーの上におろしてやった。しばらく寝っ転がるのを躊躇っていたチョロ松だが、おそ松に腕を引かれ仕方なく太ももに頭をのせるかたちで横になった。おそ松の手が優しく頭を撫でてくるその心地よさにやはり疲れもあってか自然と瞼が重くなる。
「んー……、ちょっと熱上がったかもな」
「熱さまシート持ってこようか」
「あぁ、そうだな」
完全に熱が出たわけではなさそうだが、朝よりも熱く感じる額におそ松は眉をひそめる。その様子を見たカラ松はチョロ松にブランケットをかけ、冷蔵庫で冷やしてあるほぼチョロ松用の熱さまシートを取りに下に戻る。
「気分は?寒くねーか?」
「……ん、大丈夫だよ、そんな心配しなくても」
「ばーか、そうやって油断してると酷くなるんだよ」
「ばかって……」
「ほら、もう寝とけって。後で辛くなるぞ」
いつもはちゃらんぽらんなくせして、こうして体調を崩し始めると急に心配性になって甘やかして来るのはずるいとチョロ松は思う。真っ直ぐ上を向いているのは何だか気恥ずかしくて、横に寝がえりを打って赤いパーカーに顔をうずめた。
しばらくして戻って来たカラ松に冷え冷えな熱さまシートをおでこに貼ってもらって、心地よい冷たさにほっと息をつきチョロ松は本格的に寝に入る。正直言うと頭は重く鈍く痛むし、胸やけのように苦しくて胃がぐるぐるして結構しんどかった。
「……これは今夜くるかもな」
「そうだな。……母さんに伝えてくるか」
「ついでにあいつらに連絡して薬処方しに行ってもらえ」
「切らしてるのか?」
「いんや、一回分はあるけどそれじゃ心もとないからな」
「分かった」
チョロ松の血の気の引いてる顔色に嫌な予感を感じ、2人は早めに対策を練る。
チョロ松の様子を見ているおそ松の代わりにカラ松が慌ただしくもしもの時のために準備に走る。最近皆で買いそろえたスマホを片手に今日は外に出ている弟たちにラインで指示を仰ぎ、一階で家事をこなしている松代にチョロ松の様子を伝え、夕飯はおかゆを作ってもらえるよう頼む。そう言えば台所にリンゴがあったのを思い出し、軽く洗ってからおろし金と皿類と薬箱を持って二階に戻った。
「チョロ松の様子はどうだ?」
「あ〜……やっぱちょっとヤバいかもな」
「リンゴ持ってきたがどうする?薬、今のうちに飲ませるか?」
「熱次第だな。あんま直ぐ飲ませるのも身体によくないだろ」
やさしくチョロ松の頭を撫でているおそ松の顔は厳しい。顔を見られたくないとでも言うかのように腹部に顔を埋めて大人しく横になっているチョロ松の呼吸は荒くなる一方だ。
カラ松が持ってきた薬箱から体温計を取り出していると、おそ松がチョロ松の着込んでいるYシャツのボタンを3個開け、脇に体温計を挟む。
少しの間の後ピピピっと鳴った電子音に体温計を取り出して見れば、37.5度の表記。普段は低体温なチョロ松にしてみれば微熱より高い熱だが、高熱とは判断しにくい。処方されている薬は効能が高い分ホイホイと飲んでいいものではないため判断が難しい。
「……微妙なラインだな」
「ん〜……、ちょーろ松??ちょっとだけ起きれるか?」
熱は確かにあるはずなのに、血の気が引いたように顔色の悪いチョロ松の頬をおそ松は優しく撫で、刺激しなよう声音に気を付けながら声をかける。
すると深く寝むれていなかったのか、ゆるりとチョロ松は閉じてた瞼を開けておそ松を視線だけで見上げる。
「薬、飲んどくか?」
「飲むならリンゴ、すり下ろしてやるぞ?」
おそ松とカラ松の声に、五、六秒間だけゆっくりと思考した後チョロ松は緩く頭を縦に振る。チョロ松が自分から薬を飲むだなんて相当切羽詰まっている証拠だ。いよいよもって危ないだろうと2人は危惧しながらも、カラ松は手際よくリンゴをカットし、すり下ろしておそ松はゆっくりとチョロ松を抱き起こす。
「ほら、チョロ松あーん、だ。辛いとは思うが少しでも食べてくれ」
皮ごとすり下ろしたリンゴを小さめのスプーンですくい、チョロ松の口元にもっていくカラ松。しばらくの間スプーンを眺めていたチョロ松だがゆっくりと口を開け、ぱくっと大人しく食べる。吐き気はなさそうなチョロ松の様子に2人はひそかに安堵し、数回にわけリンゴ半分を食べきったチョロ松に錠剤二粒と白湯を渡す。それをチョロ松がこくんっと薬を飲んだのを確認してからまたおそ松の膝を枕に寝かせて、カラ松は皿などを片しに行く。
「それ片したらもう布団も敷いちまおう」
「分かった。少しまっててくれ」
食器を下に置いてきたカラ松は押し入れから一人用の布団を引っ張りだし綺麗にメイキングをすませる。
そこにゆっくりチョロ松を寝かせ、布団をかける。布団に横になったチョロ松は細く息をつき身体の力を抜いて静かに目を閉じた。そんなチョロ松の目元をおそ松は優しくなでる。
「なんか欲しくなったら言えよ」
「ん、」
もうすでにまどろみの中にいるチョロ松は小さくおそ松に返事をして眠りに入る。そんなチョロ松を二人は両脇から愛おしさと憂心のこもった瞳で見つめた。
「このまま薬が効いてくれればいいが」
「どうだろうねぇ。最近チョロ松ますます体力おちてっしなぁ」
普段はきゅっと閉じられているへの字口が息苦しさからか少しだけ開いて三角になっている唇を人差し指で優しくつつきながらおそ松はため息をつく。
「こういう時は決まって悪化するからなぁ」
「それは“長男”としての感か?」
「はんっ、そういうお前だって感じてんじゃないの“兄”としての勘ってやつ?」
「フッ、俺とチョロ松はソウルメイトだからな」
「口ではどうとでも言えるよねー」
「——馬鹿言ってないでよこの愚兄ども。チョロ松兄さん挟んでちゃちなことしてないで」
「oh〜、トッティ!戻ったか」
「ちゃちなことじゃありませんー!いつまで経ってもカラカラ空っぽな頭の次男君に分からせてやらねーと」
何も目論見もなく呟いた言葉に目敏くカラ松が牽制してきたためにおそ松も無駄だとわかっていながら言い返えしていれば自然と会話に入ってきたのは買い物から帰ってきたトド松だ。普段あざとさを売りにしているとは到底思えないほど両手いっぱいに買い物袋を引っ提げた男らしい佇まいのトド松は、床に荷物を下ろすと兄二人に目もくれず中をあさりだす。
「はい、カラ松兄さんお湯入れてきて。おそ松兄さんはこれ。空気清浄機のフィルター買ってきたから綺麗にしてきて」
「えぇ?兄ちゃんなるべくチョロ松についててやりたいんだけど」
「いいからさっさとやる!あんたが愚図れば愚図るだけチョロ松兄さんが良くなるの遅くなるんだからね!」
「トッティ、これは」
「ちょっとマジでカラ松兄さん?!湯たんぽだよわかんないの?!うちのは古いから新しい良いのを買ってきたの!お湯入れればいいだけなんだから簡単でしょ?!わかったら二人ともさっさと動く!」
「「あ、ハイ」」
トド松の勢いに押され、先ほどまでいいお兄ちゃんでいられた二人はすごすご言われたとおりに動く。カラ松はお湯を汲みに、おそ松は日々大変お世話になっている除菌機能もついている空気清浄機の掃除に下へ。まったくもう!と二人を見送ったトド松はさらに袋からピンク色のもこもこ靴下と耳まで隠れる天然シルクの暖かナイトキャップを取り出しチョロ松を起こさぬようそれぞれを着させる。
「何それ。……わざわざピンクなんてマーキングのつもり?」
「やるなぁトッティ!」
「あれ?二人とも帰ってたんだ」
「今ね」
見立て通りよく似合っている。
「おそ松、お前がそれを言うか?」
「ずるいもんはずるいだろー」
成人男性を抱き上げているというのに慣れた足取りで階段を上っていくカラ松の後ろでぶーぶーおそ松が文句を垂れる。何時だってチョロ松を抱き上げ運ぶ役目はカラ松で、それがおそ松には面白くなかった。その分抱きしめる回数が多かったり、良い所を取っていくのは棚上げたために、カラ松にじと目を食らったがそんなのおそ松は気にもならない。
「布団しくか?」
「……其処まで酷くないから大丈夫」
「んじゃあ、お兄ちゃんが膝枕してあげるからおいで」
「……え?いや、ふつうの枕で」
「ほら早く、余計なことは考えなくていいから」
兄弟部屋でもう既にしまわれていた布団を再び出すほどではないならと、おそ松がソファーに腰掛け太ももを叩く。それに渋い顔をしたチョロ松だが、またおそ松の有無を言わせぬ眼力にノーとは言えなくなる。カラ松もどうせなら自分がチョロ松に膝枕をしてやりたがったが、何だかんだ言って一番チョロ松に依存しているおそ松を押しのけ争ってまでやろうとは思わず、大人しくチョロ松をソファーの上におろしてやった。しばらく寝っ転がるのを躊躇っていたチョロ松だが、おそ松に腕を引かれ仕方なく太ももに頭をのせるかたちで横になった。おそ松の手が優しく頭を撫でてくるその心地よさにやはり疲れもあってか自然と瞼が重くなる。
「んー……、ちょっと熱上がったかもな」
「熱さまシート持ってこようか」
「あぁ、そうだな」
完全に熱が出たわけではなさそうだが、朝よりも熱く感じる額におそ松は眉をひそめる。その様子を見たカラ松はチョロ松にブランケットをかけ、冷蔵庫で冷やしてあるほぼチョロ松用の熱さまシートを取りに下に戻る。
「気分は?寒くねーか?」
「……ん、大丈夫だよ、そんな心配しなくても」
「ばーか、そうやって油断してると酷くなるんだよ」
「ばかって……」
「ほら、もう寝とけって。後で辛くなるぞ」
いつもはちゃらんぽらんなくせして、こうして体調を崩し始めると急に心配性になって甘やかして来るのはずるいとチョロ松は思う。真っ直ぐ上を向いているのは何だか気恥ずかしくて、横に寝がえりを打って赤いパーカーに顔をうずめた。
しばらくして戻って来たカラ松に冷え冷えな熱さまシートをおでこに貼ってもらって、心地よい冷たさにほっと息をつきチョロ松は本格的に寝に入る。正直言うと頭は重く鈍く痛むし、胸やけのように苦しくて胃がぐるぐるして結構しんどかった。
「……これは今夜くるかもな」
「そうだな。……母さんに伝えてくるか」
「ついでにあいつらに連絡して薬処方しに行ってもらえ」
「切らしてるのか?」
「いんや、一回分はあるけどそれじゃ心もとないからな」
「分かった」
チョロ松の血の気の引いてる顔色に嫌な予感を感じ、2人は早めに対策を練る。
チョロ松の様子を見ているおそ松の代わりにカラ松が慌ただしくもしもの時のために準備に走る。最近皆で買いそろえたスマホを片手に今日は外に出ている弟たちにラインで指示を仰ぎ、一階で家事をこなしている松代にチョロ松の様子を伝え、夕飯はおかゆを作ってもらえるよう頼む。そう言えば台所にリンゴがあったのを思い出し、軽く洗ってからおろし金と皿類と薬箱を持って二階に戻った。
「チョロ松の様子はどうだ?」
「あ〜……やっぱちょっとヤバいかもな」
「リンゴ持ってきたがどうする?薬、今のうちに飲ませるか?」
「熱次第だな。あんま直ぐ飲ませるのも身体によくないだろ」
やさしくチョロ松の頭を撫でているおそ松の顔は厳しい。顔を見られたくないとでも言うかのように腹部に顔を埋めて大人しく横になっているチョロ松の呼吸は荒くなる一方だ。
カラ松が持ってきた薬箱から体温計を取り出していると、おそ松がチョロ松の着込んでいるYシャツのボタンを3個開け、脇に体温計を挟む。
少しの間の後ピピピっと鳴った電子音に体温計を取り出して見れば、37.5度の表記。普段は低体温なチョロ松にしてみれば微熱より高い熱だが、高熱とは判断しにくい。処方されている薬は効能が高い分ホイホイと飲んでいいものではないため判断が難しい。
「……微妙なラインだな」
「ん〜……、ちょーろ松??ちょっとだけ起きれるか?」
熱は確かにあるはずなのに、血の気が引いたように顔色の悪いチョロ松の頬をおそ松は優しく撫で、刺激しなよう声音に気を付けながら声をかける。
すると深く寝むれていなかったのか、ゆるりとチョロ松は閉じてた瞼を開けておそ松を視線だけで見上げる。
「薬、飲んどくか?」
「飲むならリンゴ、すり下ろしてやるぞ?」
おそ松とカラ松の声に、五、六秒間だけゆっくりと思考した後チョロ松は緩く頭を縦に振る。チョロ松が自分から薬を飲むだなんて相当切羽詰まっている証拠だ。いよいよもって危ないだろうと2人は危惧しながらも、カラ松は手際よくリンゴをカットし、すり下ろしておそ松はゆっくりとチョロ松を抱き起こす。
「ほら、チョロ松あーん、だ。辛いとは思うが少しでも食べてくれ」
皮ごとすり下ろしたリンゴを小さめのスプーンですくい、チョロ松の口元にもっていくカラ松。しばらくの間スプーンを眺めていたチョロ松だがゆっくりと口を開け、ぱくっと大人しく食べる。吐き気はなさそうなチョロ松の様子に2人はひそかに安堵し、数回にわけリンゴ半分を食べきったチョロ松に錠剤二粒と白湯を渡す。それをチョロ松がこくんっと薬を飲んだのを確認してからまたおそ松の膝を枕に寝かせて、カラ松は皿などを片しに行く。
「それ片したらもう布団も敷いちまおう」
「分かった。少しまっててくれ」
食器を下に置いてきたカラ松は押し入れから一人用の布団を引っ張りだし綺麗にメイキングをすませる。
そこにゆっくりチョロ松を寝かせ、布団をかける。布団に横になったチョロ松は細く息をつき身体の力を抜いて静かに目を閉じた。そんなチョロ松の目元をおそ松は優しくなでる。
「なんか欲しくなったら言えよ」
「ん、」
もうすでにまどろみの中にいるチョロ松は小さくおそ松に返事をして眠りに入る。そんなチョロ松を二人は両脇から愛おしさと憂心のこもった瞳で見つめた。
「このまま薬が効いてくれればいいが」
「どうだろうねぇ。最近チョロ松ますます体力おちてっしなぁ」
普段はきゅっと閉じられているへの字口が息苦しさからか少しだけ開いて三角になっている唇を人差し指で優しくつつきながらおそ松はため息をつく。
「こういう時は決まって悪化するからなぁ」
「それは“長男”としての感か?」
「はんっ、そういうお前だって感じてんじゃないの“兄”としての勘ってやつ?」
「フッ、俺とチョロ松はソウルメイトだからな」
「口ではどうとでも言えるよねー」
「——馬鹿言ってないでよこの愚兄ども。チョロ松兄さん挟んでちゃちなことしてないで」
「oh〜、トッティ!戻ったか」
「ちゃちなことじゃありませんー!いつまで経ってもカラカラ空っぽな頭の次男君に分からせてやらねーと」
何も目論見もなく呟いた言葉に目敏くカラ松が牽制してきたためにおそ松も無駄だとわかっていながら言い返えしていれば自然と会話に入ってきたのは買い物から帰ってきたトド松だ。普段あざとさを売りにしているとは到底思えないほど両手いっぱいに買い物袋を引っ提げた男らしい佇まいのトド松は、床に荷物を下ろすと兄二人に目もくれず中をあさりだす。
「はい、カラ松兄さんお湯入れてきて。おそ松兄さんはこれ。空気清浄機のフィルター買ってきたから綺麗にしてきて」
「えぇ?兄ちゃんなるべくチョロ松についててやりたいんだけど」
「いいからさっさとやる!あんたが愚図れば愚図るだけチョロ松兄さんが良くなるの遅くなるんだからね!」
「トッティ、これは」
「ちょっとマジでカラ松兄さん?!湯たんぽだよわかんないの?!うちのは古いから新しい良いのを買ってきたの!お湯入れればいいだけなんだから簡単でしょ?!わかったら二人ともさっさと動く!」
「「あ、ハイ」」
トド松の勢いに押され、先ほどまでいいお兄ちゃんでいられた二人はすごすご言われたとおりに動く。カラ松はお湯を汲みに、おそ松は日々大変お世話になっている除菌機能もついている空気清浄機の掃除に下へ。まったくもう!と二人を見送ったトド松はさらに袋からピンク色のもこもこ靴下と耳まで隠れる天然シルクの暖かナイトキャップを取り出しチョロ松を起こさぬようそれぞれを着させる。
「何それ。……わざわざピンクなんてマーキングのつもり?」
「やるなぁトッティ!」
「あれ?二人とも帰ってたんだ」
「今ね」
見立て通りよく似合っている。
