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病弱チョロ松

わずかな星と月に照らされている暗い部屋に、ケホッと控えめな咳が聞こえた。うるさすぎるいびきの中では本当に申し訳程度に空気を振るわせたそれは、だんだんと大きくなり止らなくなってくる。ヒューヒュー鳴る喉に、少しでも音を小さくしようと口元を覆い、我慢するもどんどん酷くなるばかりだ。ごほっ、ごほっと咳をするたびにどうしても体は揺れてしまい、慌てて熟睡している兄弟たちを起こしてしまわぬよう布団から抜け出ようとするもあまりの苦しさに上手く動けない。
「……ん、ぁ??」
すると右となりで寝ていたおそ松が咳き込む音に気づき、目をこすりながら未だ苦しそうに体を丸め咳を止めようとしている影を見上げる。しばらく寝起きでボーっとしてたが、止まることのない咳に目をしぱしぱさせつつ起きだしてきた。
「ちょろまつ、」
「っゲホ!……ご、めっ」
「あー……いいから、大丈夫だからなー。ゆっくり息して、咳も無理に止めようとすんな」
もぞもぞ布団から這い出たおそ松が、優しくチョロ松を抱きしめトントンゆっくり背中を叩いて擦る。
「……あれ、ちょろまつにいさん、くるしいかんじっすか??」
「あぁ、十四松ちょうど良かった。ちょっと半纏取ってきてくれるか?」
「あいあい、今日は冷え込みまっからな〜」
一番左端で寝ていた十四松が、右隣でごそごそしているのと咳の音でパチッと目が覚め、起きだしている兄二人を眠気眼で見上げた。それに気づいたおそ松が半纏を持ってくるように頼めば、全て把握した十四松は寝起きの割りにすばやくとりに行く。体を冷やすのは良くない。
そうすると複数の気配が動くため、自然と残りも起き出して来た。
「……んー、あー、……やっぱりなっちゃったかぁ。カラ松兄さんストーブ持ってきてあげて」
「あぁ、わかった。ちょっとまってろ、凍てつく闇を照らす一筋の光を「いいから早く!」あっ、ハイ」
「一松兄さんは白湯作ってきて」
「……トッティが行けばいいだろ」
「それは夜一人でトイレに行けない僕に死ねと言ってるの?!」
ヒヒっと笑いトド松をからかいつつさっさと下に下りていく一松に続き、カラ松も最近あったかくなってきたため使う機会の減っていたストーブを取りに下の居間に行く。
「あれ、ここにおいてあった薬は?」
「そっちの棚にねえ?」
「あー……と、あったあった!もー、ちゃんといつものところに置いといてよ」
「メンゴメンゴー」
「チョロ松兄さん半纏着ましょうねー」
十四松がとってきた半纏にチョロ松の腕を通してやって、おそ松と一緒に背中を撫でてあげる。苦しさから強張っている手を優しく握って、いつもよりへの字になっている口にトド松が吸引ステロイドを当てた。
「もってきたぞ」
「鈍間、くそ邪魔、さっさと退け」
「うおっ?!」
すぱんっと襖を開け、ストーブを小脇に抱えたカラ松がいったん足元にストーブを置いていると、その間に戻ってきた一松が容赦なくその背を蹴って中に入ってくる。
「うるさいよカラ松兄さん!」
「お、俺だけか……?」
「窓も少し開けて、換気しよう」
酸素が薄くならないように少しだけ窓を開け、寒くならないよう火を付けたストーブがじんわりと冷え切った空気を温めている中、皆でチョロ松の周りを囲む。チョロ松はいまだケホケホしているが、明らかさっきまでよりも良くなっていてホッと息をついた。
「最近暖かかったから油断してたね」
「それに今日は結構騒いだからなぁー、疲れも出たんだろ」
よしよしとチョロ松の背中を撫でるおそ松の愛しくて仕方が無いとでも言いそうな緩んだ顔に、一番いいところをとられて皆ムカッとするがそれでも一番早く気づいたのはおそ松だし、なんだかんだチョロ松が一番安心できるのもおそ松なのだから仕方ない。
おそ松の肩に頭を預け、ひゅーひゅーゆっくり息をするチョロ松の咳が止まったことを確認して口元に当てていた薬をどける。よほど苦しかったのだろう、目じりに涙が溜まって今にも零れ落ちそうなのをぬぐってやりながら一松は持ってきていた白湯をチョロ松に差し出す。
「……飲めそう?」
「ん、ありがと」
ゆっくりと受け取ったチョロ松がしっかりとコップを持ったのを確認して手を離す。咳のしすぎでひりひり痛む喉が優しく潤う感じに、チョロ松は息をついて強張っていた身体の力を抜いた。
「ごめん、みんな起こしちゃって」
「チョロ松ー、気にすんなって前お兄ちゃん言ったばかりだろ??」
「でも、やっぱり」
「気を使われたほうがへこみーマッスルハッスルー!」
「そうだぞマイスウィートブラザー!俺にもお前が背負いしt」
「まぁ、隠されたほうが気分悪いよね!」
「……俺たちクソニートに睡眠妨害とかあってないようなものだし」
発作は収まったとはいえ、まだ少し苦しげに声を出し謝ったチョロ松に、皆目を丸くして仕方ないなと笑う。普段なら皆ぐっすり寝ているのを邪魔されるのをすごく嫌うくせにこういうときは決まって優しいのだ。その優しさが物凄く申し訳ないのだが、それでも心がぽかぽかする感じにチョロ松は眉を下げて微笑む。
「さ、もう少し落ち着いたら寝るぞー」
しばらくぐだぐだ他愛無い話をしてれば浅かった呼吸も正常に戻り、うとうとしだしたチョロ松。そのまま布団に寝かせて簡単に物を片付け窓も締め、それぞれいそいそと布団の中に戻る。
まだ布団の中は温もりが残っていたが、寒くないようにと嫌がるチョロ松をおそ松が自分の方に引き寄せると、十四松も外側から引っ付いて真ん中のほうに押していく。そうすればおそ松の右側に居る三人も少しでも暖かくなればとぎゅうぎゅう真ん中に寄って団子のようになった。他から見れば大の成人男性たちが引っ付いてなにやってんだと思うかも知れないが、これが松野家では当たり前のことだった。
チョロ松が他の兄弟たちよりも体が弱かったのは生まれつきだった。生まれたときも一際未熟児で両親をひやひやさせたものだが、しかしそれも最初のうち。歳を重ねるごとに他の兄弟たちと遜色なく走り回るし、おそ松と一緒にやんちゃをしていたのもチョロ松だ。ちょろちょろ走り回るチョロ松に、両親ともに元気に育ってよかったと思っていた矢先、事件が起きた。いつも通り悪戯をして走り回っていたチョロ松が突然前触れもなく倒れたのだ。ついさっきまで誰よりも早く走っていたチョロ松が糸が切れたかのように倒れてしまい、居合わせた兄弟は心底驚いて、慌てて当時から力があったカラ松がチョロ松を抱えて皆で母親の元まで走った。その後急いで病院に駆け込み先生に診てもらった結果、その時はただの貧血だと診断が出たのだが、この日を境にだんだんとチョロ松が体調を崩すことが多くなった。突然酷い貧血で倒れることはもちろん、風邪を引きやすい上に肺炎までこじらせることもしばしば。病気にかかりやすいし治りにくくなったチョロ松は後天性の喘息にもなってしまい、苦しそうにしているのを見るたびに皆顔を見合わせて、医者と違い何も出来ない自分たちに落ち込んだ。
そもそもが世に珍しい六つ子だ。チョロ松の病弱さが何が原因なのかも分からず、未熟児として生まれた為に免疫が極端に足りないのかとか、憶測ばかりが飛び交い根本的な解決は出来ない、と時間もかからず医師から告げられた。
しかしそれについてチョロ松本人は特に何を思うわけでもなく、体が弱いとは悟らせないほど普通に暮らしていた。そりゃあ、発作が出たり倒れたりするたびにみんなに申し訳ないなとは思いつつも、今日もこうして生きてられるし、困ることといわれれば病気にかかりやすいだけで運動が出来ないわけではない。こうして心配してくれる兄弟も居る。自分は恵まれてるなと、チョロ松はあくまでポジティブだったのだ。
けれど、それだけで済ませられないのがおそ松を筆頭に兄弟の五人だ。僕たちは僕、俺は俺たちが根本的な考えで根付いている六つ子の中で、チョロ松が苦しんでいるのに自分たちが何も出来ずに飄々としているのが心底我慢できなかった。自分たちの意思で兄弟を嵌めたり貶めたりはするものの、それは所詮じゃれあいに過ぎない。けれどチョロ松が患っているのは自分たちの与り知れない大きな理不尽。生まれたときに神様から無理やり与えられた物だ。チョロ松だけが不平等に苦しめられ、それを変わってやれないのは五人を変えるのに十分すぎた。
一番最初に変わったのはやっぱりおそ松だった。普段からチョロ松と一番一緒に居たのはおそ松だったし、皆のリーダー的存在だったおそ松が一番に行動に移すのは当たり前だといえた。常にチョロ松の様子を見ては、無理をしていないか確認する。調子が悪そうだと思えばすぐに母親に伝え、寝込んでいるときは騒ぎ立てずそばに寄り添うことが多くなった。そんなおそ松に続いて皆が皆自分に出来ることをとチョロ松を支える様になったのだが、しかしそれは手放しに喜べることではなかった。
「おはよう〜。あ、チョロ松兄さん、今日は冷え込むらしいからちゃんと着込んだほうがいいんじゃない?」
「おはよう、トド松。分かった、それじゃほっかいろでも持って行くかな」
「え?……チョロ松、出かけんの?」
「ん?あぁ、うん。結局先週行き損ねたし、今日こそハロワに行こうかなって」
ふわぁと大きなあくびをしながら起きてきたトド松がスマホで情報を手に入れたのだろう。少し早く起きていたチョロ松が着替えようと自分のカラーボックスに入っている服を引っ張り出して居るところに声をかける。
重ね着しすぎてもこもこするのは嫌だから張るほっかいろをさがしに立ち上がると、既に着替えも終わって部屋の隅にいた一松が顔を上げチョロ松を見た。
一松の問いにきょとんと返すチョロ松に、二人の表情が固まる。
「やめときなよ。夜だって発作出ちゃったんだし、今日一日ぐらいゆっくり休んでなって」
「え、いやなんで?別に行って話し聞いてくるだけだし……」
「それなら今日行っても明日行っても変わんないでしょ。……どうせあっちだってクソニートに紹介する仕事なんてないって思ってるよ、絶対」
「いや、流石にそれは無いでしょ一松。いくらニートだからって仕事ぐらい紹介してくれ、」
「「いいじゃん、別にそんなに慌てて仕事見つけなくったって」」
チョロ松の声を遮るように放たれた言葉が不気味なぐらいにハモッて、思わずたじろぐ。にやにや笑っているわけでも、呆れた風でもない。至極真面目な顔で四つの瞳がチョロ松を見据える。有無を言わせぬそれに、どう切り返したものかと考えあぐねていると、スパンっと台所につながる襖が元気良く開き、大皿を持った十四松が中に入ってくる。後ろには同じように皿を持っているカラ松の姿も見えた。
「あっれー?どーしたんっすか?!」
「おぉー、十四松どん。チョロ松兄さんがな今日も世間の激しい荒波に挑もうとしてな」
「ななな、なんやてー!」
「いつも思うんだけど、お前らのそのノリホントなんなの?」
「だめでっせーチョロ松兄はん。世間の荒波に揉まれたらもう二度とお天等さん拝めなくなるって」
「大げさな!俺荒波にもまれたぐらいで死んじゃうほど弱くないからね?!」
「……いや、今回ばかりは十四松の言うとおりだ、チョロ松」
一松となぞ設定のコントを繰り広げながら手早く大皿をちゃぶ台に置いた十四松が腰に抱きつき首を横に振る。コイツの中で俺のイメージはどうなっているんだと声を荒げれば、十四松を援護する酷く落ち着いた声音。
まさかと顔を上げれば珍しく真顔のカラ松が真っ直ぐチョロ松を見据えて更に言葉を続ける。
「何も今すぐ焦って職を見つける必要は無いだろう」
「いや、でも少しぐらいは、」
「俺は、俺たちは、お前にもしものことがあれば堪えられない」
きっぱりと言い切ったカラ松の迫力にチョロ松が少したじろぐ。心配そうに見上げてくる十四松に、チョロ松の反応をうかがっている一松にトド松。目の前のカラ松は何も間違ったことを言っていないと自信にあふれた顔で立っていて、今までの経験上こいつらを論破して出かけることは不可能だと悟る。
けれどここで折れてしまえばこいつらの持論が正しいことだと言っているようなもので、この先さらに出かけること……就職活動なんて出来なくなることは目に見えている。
ただでさえ自分は体が弱いし、高校を卒業してから何年も空白期間が出来てしまったのだ。これ以上遅れれば本当に就職できなくなるかもしれない。
「でも、そんなことばっかり言ってられないよ。みんな就職する気が無いのに僕まで諦めるわけには」
「何も心配することはない、チョロ松。お前からしてみれば俺たちは頼りなく見えるかもしれないがもしもの時は何とかする力はある」
「何とかって」
「チョロ松。」
その声は卑怯だ。わがままを言う子供をなだめしかるような声音で名を呼ばれて、困ったようにぐりぐり頭を撫でられてしまえばただ駄々をこねて迷惑をかけているのが自分のような気がして今度こそ返す言葉が出てこない。
「おはよ〜……あれ、どったの?」
「あぁ、おはよう。いやちょっと出かけようとしていたチョロ松を止めてただけだ」
「ありゃー、なにチョロちゃん今日出かけようとしてたの」
「いや、だって、」
髪の毛に盛大な寝癖をつけて大口開けてあくびをしながら入ってきたおそ松は、居間に集まっている兄弟たちのただならぬ雰囲気に首をかしげる。
それにカラ松が答え、この話はもう終わりだとでも言うようにチョロ松の腰に抱きついていた十四松を連れてもう一度台所に戻っていく。
それを見送ったおそ松がチョロ松の前まで来ておもむろに頬に手を伸ばし、するりと撫でながら首もとに添え自分のおでことチョロ松のおでこをくっつけた。
さわさわと触られるくすぐったさに身を引かすチョロ松だが、逃げるなと意思をこめて目を見ればおとなしくおそ松の好きなようにさせる。
このなんだかんだ言ってちゃんと長男やっているこいつが出てきてしまえば、どうあがいたって言いくるめられるに決まっている。無駄な体力は使わないほうがいい。
「んー……やっぱりチョロ松、少し熱あるだろ?夜中発作出ちまったし。今日は家で安静な」
「……はぁ。はいはい、わかりましたー。なら僕の変わりにハロワ行って職見つけてきてよ」
「えぇ〜?ヤダよ俺は。トド松が行ってこいよ、お前バイトしてたんだし働く意識はある方だろ?」
「なんで僕が!!本来なら長男のおそ松兄さんが真っ先に就職して家でて、実家に仕送りするものでしょ?!チョロ松兄さんは末弟の僕に任せて、さっさと稼ぎに行ってよね」
「なんて言う理不尽?!長男っつったって同い年だからね?!この際一松、お前でもいいわ、お前もバイトしようとしてただろ!?」
「は?意味分かんないんですけど。……ぶち切れそう」
「あぁあああっ!ごめんなさい!虎はやめてぇえ」
駄目もとで言った就活して来いに全力で拒絶する兄弟たちに何とも言えぬ渋い気持ちになりながら、今日は家から出してもらえなさそうだしいつものパーカーで良いかと騒ぎを横目に着込んでいると料理を並べ終わったらしい十四松が昨晩のように半纏を持ってきて背中にかけてくれる。
それにお礼を言いながらさっさと先に食べてしまおうといただきますをすると皆も慌てて自分の場所に座り、ようやく遅い朝ごはんを食べ始めた。しばらく無心にご飯を食べていたが、落ち着いてきたころに毎日恒例の今日の予定についておそ松が皆に問いかける。
「今日出掛ける奴は?」
「はいはいはーい!俺公園で素振りして来る!!」
「僕は買い物。多分そんなかかんないと思うけど」
「……俺はいつも通り」
「カラ松は今日出かける予定無いの?」
「あぁ、たまにはカラ松girlにも休息は必要だからな」
「お前ホントそればっかだなー。出掛けてくれればチョロ松と二人っきりだったのにー」
「おそ松兄さんも出掛けないの?」
「おー、今日は一緒にDVDでも見てよーぜチョロ松!」
「それならば俺もミューズと共に憩いのひと時をs」
「カラ松はトイレにでも籠ってて」
「えっ?」
もそもそ白米を粗食しつつ、チョロ松は今日もまるで就職する気の無い兄弟に呆れる。けれど彼らが就職する気をまるで無くしたのには自分のせいもあるため強く言えない現状にため息をついた。
潜在能力は決して悪くないはずの彼らが就職しないのは単衣に働きたくないでござるを地で行くクズだからなのも関係するが、それよりも大きなウェイトを占めるのがチョロ松の病弱さのせいだった。どうしても就職してしまえばその分会社に縛られ自由に身動きが取れなくなる。そしたら自分が会社に居る間チョロ松に何かあればどうする?無茶を普通にやってのけるチョロ松を見守るのは?会社なんかに居たらどこかでチョロ松が倒れてしまっても気づけない。そのせいでもしものことがあれば、犯罪者にだってなる自信が五人にはあった。何時だって傍に居たい。少しの不調にも直ぐに気づけるようにと思う五人が就職をしないという選択肢を選ぶのはごく自然のことだった。そのためチョロ松が就職するなんてもってのほかだ。今日だって、先週だって何だかんだで言いくるめられて就職紹介雑誌すら眺めていない。
「ごちそうさま。それじゃ行ってくるね」
「いってらっしゃい、気をつけて」
皆食べ終わり、休んでろと煩いカラ松を押し切り食器の片付けをしていると、今日出かける組の下三人が揃って家を出る。それを見送って、今日は何だかんだチョロ松に甘い弟たちではなく、チョロ松の事になると途端に神経質になるおそ松とカラ松、兄二人が揃って居るため外に出るのは絶望的だ。大人しくにゃーちゃんの曲を聴きながら雑誌でも読んでるかなと二階に行こうとすると不意に腕を掴まれる。
「どこ行くの。ほら、ここおいでって」
胡坐かいて座っているおそ松が自分の膝を叩きながら引っ張ってきて、そういや一緒にDVD見ようって言われていたことを思い出す。
笑っているはずなのに何故か笑っていないように感じる強い眼力を飛ばす目に拒否権を奪われ、断る理由だって特に無いため大人しく隣に腰掛ける。あえて横に腰掛けたのは意趣返しだ。流石に素直におそ松の膝の上に座る気はない。そんな甘えてくれないチョロ松に少々不満そうな顔をしつつ、隙間を許さないとでもいうかのようにひっついてリモコンを操作する。
「あ、カラ松そこにあるDVDセットして」
「おい、少しは動けよ長男」
「これか?」
良いようにこき使われていると知ってか知らずかカラ松が言われるままDVDをセットすると機械音と共に映画が再生される。
さらにカラ松は頼んでも居ないのに甲斐甲斐しく飲み物やお菓子を用意して、しかも冷えるといけないからともこもこブラウンケットをチョロ松の膝の上にかけてくれる気づかいのオンパレードだ。隣でさっそくお菓子を開けている長男とは全く違う、気づかい系次男にチョロ松がお礼を言うと、頭を撫でつつおそ松と反対側の横に腰掛ける。両端を兄に挟まれギュウッとひっつかれ、同じ顔の成人男性が何をやってんだと少々しょっぱい気持ちにもなるが、不快には思わない。むしろちょっと安心している自分が居て妙に恥かしい。
始まった映画は少し前に話題になっていたSF映画で、おそ松のことだからネタチョイスしてくるのかと思いきや普通に無難で安心した。今日は本格的に大人しく休ませるつもりらしい。
「うおっ、この女優おっぱいちょーでけぇ!グラビアの間違いじゃねぇの?」
「外人なら普通なんじゃない?それより俺はこっちの男優のマッチョさ加減が気になりすぎるんだけど」
「良い体つきだな」
「男とかどうでもいいしっ。てかカラ松ー、その言い方ちょっとホモっぽいよ?」
「えっ」
「あぁ、確かに。真顔で淡々と言ったところとかガチっぽい」
「いや、俺はただよりワンランク上の男を目指しているうえでの参考みたいな!」
「チョロ松もうちょいこっちおいで。掘られるよ」
「掘られるの?!」
「掘らないよ!?」
くだらないじゃれあいをしながら概ね仲良く映画鑑賞をする。確かにおそ松の言うとおりその女優は動くたびにたわわなおっぱいが揺れていて少し目のやり場に困るし、マッチョ過ぎる男優は何だかんだヒロインを庇ったり、叱咤する姿はイケメンだった。
いつの間にかおそ松に後ろから抱き締められる体勢になっていたが、背中はぬくいしよりかかれるのは楽なためにまぁ良いかと大人しくしてる。
映画も中盤に差し掛かり、アクション要素が多くて速い場面展開に無意識にドキドキと鼓動が早まって気分が高まっていく。
けれど高揚する気分に比例するかのようにチョロ松は、頭痛までとはいかないが頭が重くなってきて息苦しく感じる。浅くなりそうな呼吸を意識的に深呼吸になるよう心がけるもなかなか収まらない。
「ん?チョロ松??」
「……ちょっと顔色がすぐれないな」
「結構思ってた以上にカメラが動くから酔っちゃったか?……少し休憩だな、横になろう」
深呼吸を何度も続けていたためにおそ松がチョロ松の様子に気が付き、カラ松が顔を覗き込む。血の気の引いた様子に一旦DVDプレイヤーを止め、カラ松が慣れた手つきでおそ松の膝に座っているチョロ松をブランケットごとひょいっと横抱きで抱き上げた。
「え、……ちょっと、自分で歩けるから」
「いいから。大人しく甘えてろ」
「いや、でもっ」
「カラ松より兄ちゃんの方がいい?兄ちゃんは何時でもウェルカムだけど」
どっこいしょと立ち上がったおそ松がチョロ松に向けて手を広げるも、チョロ松は数秒の思考の末大人しくカラ松に運ばれることを選択する。
何もいわず、そっぽ向いてカラ松のパーカーを握ればちぇっとおそ松はつまらなそうに腕を下ろした。
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