GOLDEN SPYDER

【ーsideLー】

 その長く柔らかな髪は、蜘蛛の糸のように細く、艶やかで美しい。

「…ん、…んんっ…ふ…。」
「ちゅ…リヴァイさんお願い…声我慢しないで……。」
「…はぁ、…あっあっ…やめっ…」
「…耳から首筋にかけて本当弱いですよねぇ……。」
「エレンまて、…」

派遣アルバイトとして配属されてきたエレンに、年甲斐もなく一目惚れしてしまった。
その大きな瞳、整った顔立ち、サラサラのロングヘアは、初めてエレンを見たスタッフ全員が言葉を失うほどだった。
誰もが見とれていたのだから、俺は決して間違っていない。
人懐っこい笑顔で、あっという間に社内の人気者になったエレンに、仕事一筋で大した恋愛経験もない仏頂面のおっさんが相手にされるはずもなかった。
エレンには付き合っている恋人がいた。
しかも、社内の何人かとも浮気をしているようだった。

「っ…もうやめろ…おっさんからかってそんなに楽しいか。」
「ちゅ……人聞き悪いなぁ。最初に誘ってきたのはリヴァイさんでしょう?毎日毎日迫られて、おかげで俺の首筋リヴァイさんのキスマークでいっぱいで隠すの大変なんです。」
「!…お前がつけろって、」
「そりゃあ愛されてますから。そして、リヴァイさんの全身には俺がつけた跡がある。……なんで、今日ボタンを全部閉めて、出社してきたんですか?」
「毎回見せびらかしながら、仕事出来るわけねぇだろ。」
「出来ないんですか。寂しい……じゃあ、今からお仕置きですね。」
「オイオイ待て待て。どう考えてもおかしいだろうが。」
「でも、嫌いじゃないですよね。」

屈託のない笑顔で、さらりと悪魔的な言葉を放つエレン。
そのたび、俺の感情はかき乱される。
体の関係を迫ったのも、頬を赤らめて動揺する表情に突き動かされ、二度も無理やりキスをしたのも、すべて俺だ。
酔いつぶれた勢い任せの一度目のキスでは、エレンの唇は硬く一文字に結ばれたままだった。
二度目は、一人暮らしのエレンをアパートまで送り届けた帰り、車から降りる直前のこと。
貪るようにキスをしていると、堪えきれなくなったのか、エレンの唇が熱く湿った吐息とともに、ほんの少し、開いた。
その瞬間、俺は自分を過信し、驕りたかぶっていた。

「ね、下ばかり見てないで俺のこと見て下さい。」
「………。」
「リヴァイさん。睨んでるように見えて、瞳が蕩けてますよ。そのまま口を開けて下さい…そう。舌を出して…」
「っ…はぁ…」
「やらしくて、全部好き…。」

エレンの長く柔らかい髪が、優しく頬を撫で、首筋に、スーツの上にさえ纏わりつく。
細くしなやかだが、強靭なその髪は、獲物を捕らえるために張り巡らされた罠のようだ。
何も知らずに近づいてきたこのバカは、じわじわとその蜘糸に絡め取られ、いずれ喰い尽くされるその時を、ただじっと待っている。

「ぷはぁっ……はぁはぁ…。」
「まだキスしかしてないのに、腰ガクガクですね。リヴァイさん本当可愛い…」
「チッ。」
「も〜恥ずかしくなると、すぐ舌打ちする。もっと素直に、甘えて欲しいなぁ…。」
「は…?」
「今日のお仕置き決まりました。ちゃんとおねだり出来たら、イかせてあげますね。」
「〜っ!!」

エレンが俺の額に、コツンと自分の額をくっつけて、ネコ撫で声で甘えてきた時、背筋がゾクッと震えた。
あの時、なぜ俺はエレンをコントロールできるなどと思えたのだろう。

【ーsideEー】

『絹のように綺麗な髪だな。』

リヴァイさんは俺の側に来ると、必ず長い髪を触ってきた。
手櫛で梳かしたり、毛先を人差し指にくるりと巻きつけたり。
ほんの短い時間だけれど、それ以上の幸せはなく、俺は一生この髪を切らないと心に誓った。

『エレン君、そのキーホルダーかわいいね!彼女とお揃い?』
『えっ…』

ある日、部署の人たちに誘われた飲み会(俺はジュース。仕方ない。)に参加すると、友達のお土産で貰ったテーマパークのキーホルダーが、なぜか彼女の話で盛り上がり始めた。
ふと、端で静かにビールを飲んでいるリヴァイさんに視線を向けると、リヴァイさんもこちらの様子を伺っていることに気がついた。
雨に濡れた子犬のように、うつむき加減で寂しげなその横顔が、なぜか胸を騒がせた。
俺は、ほんの少しだけ、この「彼女がいる」設定を続けてみることにした。

確信は、すぐに訪れた。
休憩時間、自販機でジュースを買っていたら、先輩の女性スタッフが昨夜振られたと突然泣き出し、面倒だなと思っていたその時、リヴァイさんが偶然通りかかった。
視線がバチリと合う。
咄嗟に、泣いている先輩の肩を抱くと、リヴァイさんの表情が一瞬で凍りつくのが見えた。

(ああ……やっぱり、嫉妬してる。)

憎しみと哀しみが混じったリヴァイさんの視線を浴びていることへの罪悪感よりも、むしろ自分の心が高鳴っていることに気づいた。
口元が緩むのを抑えきれなかった。
そうだ。この感情をもっと確かめたい。
リヴァイさんの心をもっと揺さぶるために、これからは少しだけ、他の誰かと「仲良く」してみよう。

『リヴァイさーん。家に着きましたよー。飲みすぎなんですよもー。』

何度目かの飲み会で、珍しく酔いつぶれたリヴァイさんを介抱し、タクシーでマンションまで送り届けた。
リヴァイさんの鞄から勝手に鍵を取り出し、部屋に入って施錠する。
すると、ベロベロの人間には思えぬ力で、いきなり玄関のドアに押しつけられた。
直立不動のまま何もできない俺の髪を、リヴァイさんは少量、手に取る。
毛先をくるりと人差し指に巻きつけながら、その様子をぼんやりと見ている。
仕事中の隙のない姿とはまるで違う、無防備で甘いリヴァイさんの佇まいからは、むせ返るような色気が漂っていた。
心臓の鼓動が、早くなる。

『…エレン、俺と寝ろ。』
『え?』
『彼女持ちで社内でも食い散らかしてるらしいな。暇だから遊んでやる。』

「…この人、普段絶対こんなこと言わないよな。俺が…言わせてるんだ」
そんな感動に浸っているうちに、19歳のファーストキスは、甘くてほろ苦い香りに包まれて終わった。
リヴァイさんを好きになり、リヴァイさんが同じ感情を抱いている(いや、抱かせいる)ことに気づいてから、俺は少しずつ、少しずつ糸を紡いできた。
職場、飲み会、プライベート、メール、人脈に至るまで。
すべてはリヴァイさんの心を縛り、俺だけのものにするための、柔らかくて解けない糸だった。

『着いたぞ。』
『残業に付き合ってもらった上に家まで送って下さってありがとうございました。おやすみなさい。』
『このまま部屋に行ってもいいか。』
『えっ…』
『それともお前は、ベッド以外でする方が、好みか?』

限界まで張り詰めた糸が、リヴァイさんの重力を感じてぐにゃりとたわむ。
その歪みを、指先で撫でるような感覚に、ほくそ笑まずにはいられない。
躊躇いで焦らして、ゆっくりと時間をかけて。
どうか、あなたを、存分に味わわせてください。

「リヴァイさん、早く。」

眉間に皺を寄せながらも、俺の白いシャツのボタンを一つ、また一つと外し終える。
すると、リヴァイさんの細い指が、生暖かく、震えながら、肌に触れてきた。
おねだりには教えた手順があり、胸、鎖骨、首筋に跡をつけてから耳に唇を寄せて囁く。

「お前はいつになったら、俺だけのものになるんだ?」
「…おっと」
「俺にはあれこれ要求するくせに、自分は奔放キャラを気取ってやがる。そんなに人を煽って楽しいか?」

楽しいですよ。
あなたの心も体も、俺のことしか考えられなくなるまで、導いてあげるのが。

「あ?」
「いいえ。相変わらず、おねだりが下手だなぁと思いまして。不器用なところも好きですけど、やっぱりお仕置きですね。」

リヴァイさんをベッドに押し倒し、上から見下ろす。
すると、リヴァイさんが表情を強張らせ、硬直した瞳でこちらの顔を見据えている。
俺が誕生日にプレゼントしたネクタイを、リヴァイさんの襟から外して、両手首に巻きつけきつく縛った。

「綺麗ですよリヴァイさん。プレゼントして良かった。」
「…ヘンタイが。」
「クス。それは褒め言葉として、受け取っておきます。」

縛った両手の甲で赤くなった顔を隠している隙に、リヴァイさんのベルトを外し、スラックスのジッパーを下げて、パンツからペニスを取り出す。
既に半勃ちのペニスの付け根を両手で支えながら、ねっとりとした舌を絡ませてリヴァイさんの匂いを感じながらゆっくりと頬張っていく。

「うんんッ…!」
「んふっ…おいひぃ…」
「…あっ、あぁ、…ん、…はぁっ…えれ、ん…っ…」

戸惑いを含んでも快楽には抗えず、喉の奥にペニスの先端が当たる度に、頭上から吐息混じりの低く甘ったるい声が漏れてくる。
手首を縛られ、思うように体を動かせないリヴァイさん。
もどかしそうに腰を揺らしながら、俺の頭を撫で回す指に、長い髪が絡まっていく感覚がたまらない。

「えれ、…エレン…」
「イきたいですか?」
「頼むから…っ…焦らさないでくれ…」
「ん〜…もう少し、えっちでかわいいリヴァイさんが見たいです…♡」
「ひっ、あ、…あああ…っ!!」

行き場のない熱と快楽に悶え、逃がれられない甘い罠にかかった愛しい人。
啼いて、縋って、溺れて、堕ちて。

end.


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