君とのキセキ

「うわー!キレイ!」
「すごーい!」
祭りの後。
賑やかな人の波は消え去り、点々と民家の灯りだけが残る静寂な夜に包まれる。
近くにあった高台に登り、太輔と正孝は夜空に浮かぶ満天の星々を見上げ感嘆の声をあげた。
「東京でこんなに素敵な夜空が見られるなんて驚きだなー。」
「写真撮りましょーよ!」
夜空を背景に二人は肩を寄せ合い、お互いのスマホで記念撮影をする。
「今日は楽しかったな。祭りに来たのも久しぶり。」
「太輔君が浴衣をプレゼントしてくれたお陰でさらにテンション上がっちゃいました。ありがとうございます。」
(マサの浴衣姿カワイイんだもん。衣装(二人分)買い取っておいて良かった~。)
太輔は白地に紺色の格子網柄が入った浴衣にストローハットと扇子を合わせた格好を、正孝は赤地に細いストライプが入った浴衣を着用し、さながら二人だけで最後の舞台挨拶を再現しいるようだった。
「ところで、織姫と彦星はどの辺りにいるんですか?」
「よし、探してみるか。まず東の方角に向いて。…マサ、それ反対。こっち。ベガ(織姫)とアルタイル(彦星)が天の川を挟んである筈なんだけど……見つけた!あの二つの星!」
「おおー!」
「一年で最も光り輝くことから、七夕伝説はこの日を巡り合いの日として作られたらしいよ。」
「へ~。」
「でもさ、恋人同士なのに織姫と彦星は一年に一回しか会えないなんて切なすぎ。恋愛は残酷だ。」
「そうそう。僕たちの関係も織姫と彦星に似てますしね。」
(ん?)
思いもよらない角度から話を振ってきた正孝に、太輔は苦笑いをする。
「またまた~テキトーすぎるでしょ。」
「そうですか?アイドルと俳優という別々のフィールドで生きてきた二人が、ドラマという共通の場所で出会い、短い時間を共有し、終わりが来れば強制的に離れ離れになってしまうんです。僕たちはそれをもう三回も繰り返しているんですから、この巡り合わせはキセキですよ。」
柔らかな風に正孝の漆黒の髪がさらさらと揺れ、月明かりに照らされた凛とした横顔に太輔は釘付けになった。
(いつものテキトー発言かと思ったら、サラッと嬉しいこと言ってくれちゃって…。)
胸の奥がきゅんと切なく、高まる鼓動は五年前の記憶を呼び起こす。
初めて出会ったあの日。
少し寂しそうな佇まいと強く澄んだ瞳に惹かれ、思わず声をかけた。
「マサ。」
名前を呼ばれ振り向いた正孝の頬を太輔の手が包み込み、桜色の唇にそっと口づけをする。 
「ん……。」
太輔から離れた唇はすぐに下を向き、頬を紅く染めた正孝は照れ隠しに俯いていた。
「不意打ちですか。」
「恋人同士だからいいでしょ?マサの横顔が月のようにキレイだからキスしたくなったの。」
もじもじとする正孝の両肩に手を添えて額にもキスをすると、太輔はそのまま体を抱き寄せ優しく頭を撫でた。
「太輔君は、ずっと藤ヶ谷太輔を貫いてて、カッコよすぎてずるいです。」
自分より少し広い背中に腕をまわし、正孝は太輔の耳元でポツリと呟く。
「僕も。さっき太輔君がキスしてくれたらなって思ってました。」
表情を見られまいとぎゅっと抱きついてくる正孝が可愛くて、太輔の中で悪戯心が芽生える。
「それ、俺に対するお願いごと?」
「え?…まぁ、はい。」
「エッチでカワイイおねだりしてくれたら、毎日何十回でもしてあげるよ♥」
「しません!もーやだぁ!」
羞恥がピークに達し半泣きになっている正孝を、太輔はクスクスと笑いながらきつく抱き締める。
「大好きだよ。ずっとそばにいて。」
「………僕も大好きです。」
高台の麓にある民家から聞こえてきた花火の音が心地いい。
瞬く星々に見守られ、誰にも邪魔をされない二人だけの静かな夜。
体温を通して伝わる、どうしようもない程の愛情。

重ねた唇に願いを込めて。


end.
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