鳥籠のジレンマ
【籠の中】
午前7時32分。
最寄駅からいつもの電車にエレンは乗る。
椅子は満席だが車内は比較的空いていた。
左側ドア近くに背中を預けスマホ弄りを再開する。
午前7時40分。
(来たっ…!)
ドアの開閉と同時に大量の人がなだれ込む。
乗車率100%を越えた車内は一気に温度湿度が上昇し酸素が低下する。
(サイアク…。)
こんなことならもっと勉強して地元の進学校に入ればよかったと何度後悔したことだろう。
小さなため息をつきながら、足元の鞄がズレないよう両足で再度挟み直した。
その時、
「!?」
下腹部に違和感を感じて体の芯がじわっと熱を帯びる。
突然のことにエレンは焦り、慌てて目線を下へ落とす。
混雑する車内で他人とありえないほど密着するのは仕方ないことだが、エレンの両脚の間に見ず知らずの太ももが割って入り股間を押し上げていた。
「すまない。」
「い、いえ…。」
目の前にいる30代くらいのサラリーマンの男性が小声で謝ってきた。
さらさらとした短髪の黒髪、切れ長の目を持つその人物は、同性にも関わらず思わず心が動かされるほど綺麗な顔立ちをしていた。
すし詰めの車内が相当ストレスなのか眉間のシワが目立つのが気になる。
(背が低いし体も細っ…これが女の子だったら最高なのに…。)
スマホも出来なくなった窮屈な時間をエレンはくだらない妄想で紛らわせていた。
「っ……!!」
この先カーブですのアナウンスと同時に立っていた人間が一斉に左側へ傾いく。
目の前の男はかろうじてエレンの横にある持ち手に捕まったが、後ろの乗客に押されほぼ抱きつかれているような状態だった。
太腿が股間にさらにくい込み、意志とは無関係に甘い吐息が溢れる。
「ふっ…んん…。」
よりにもよって同性相手に声を出してしまったとなれば一生の恥。
エレンは慌てて口をつぐんだ。
少しでも離れたいと狭いながらもモゾモゾと動いてみたが、背後は車体、横は椅子の手すり、その反対は男がドア横の持ち手を掴んでおり、四方囲われたこの状況では逃げ場がないことに気づく。
なにより足元で挟んでいた分厚い鞄が邪魔をして脚を閉じることが出来ず、目的地にたどり着くまで耐えるしか選択肢はなかった。
(早く駅に着いてくれ……っ!)
現状に対して諦めたエレンは、さりげなく手で口元を抑え誤解を与えぬよう寝たフリをして誤魔化そうと考えた。
「…っ、ん、…」
電車の揺れに合わせペニスが太ももを擦る度、エレンの全神経が否が応でも敏感なそこへと集中してしまう。
内側に宿した熱に腰が揺らめき、男の首筋からほのかに漂うムスクの香りに頭の中が蕩けそうだった。
(ヤバい…俺……)
思春期真っ盛りのエレンは理性と本能の狭間で泣きそうになっていた。
「大丈夫か?」
「!!」
耳元で囁かれた声にドキッとして現実に引き戻される。
確か男は自分より少しだけ背が低かった筈。
気づかれてしまったかもしれない恐怖と表情を見られているかもしれない羞恥が、エレンの体をさらに高ぶらせていく。
(ど、しよ…。)
初めて知る快感に力が抜け、ガクガクと震える足では立っていられなくなっていた。
それを察したのかエレンを支えるようにまわされた腕に腰をグッ引き寄せられる。
「んぁ…はぁっ…。」
スラックス越しにも分かるほど硬く膨らんだ男のそれをエレンに押しつけながら、深くゆっくりと突き動かしていく。
公衆の面前で擬似セックスをしているような体感は、経験無知なエレンにはあまりにも刺激が強すぎた。
「あ…っく、んぅ…!」
エレンは男の胸元のシャツをぎゅっと掴み、痺れるような快感に翻弄されながらひたすら時が流れるのを待ち続けた。
「次はー、〇〇駅ー。〇〇駅ー。」
再び流れた車内アナウンスにエレンはハッと我に返る。
気づいた時には電車のドアは開き、人が半分に減った解放感漂う車内にはエレンの前にいた男性の姿も消えていた。
エレンは急いで鞄を掴み、膨んだズボンの前を隠すように抱え込んだ。
(ま、満員電車が原因だもんな…あれは、たまたまで…。)
窓から見える外の景色に視線を向ける。相手は男なのに、未だドキドキする気持ちが収まらない。
『……またな。』
ふと、脳裏をよぎった低く静かな声。
気のせいと自分に言い聞かせ、2つ目の駅でエレンは電車を降りた。
午後7時10分。
部活帰りの疲れた体で電車に乗る。
週末の車内は帰宅する者と夜の街へ繰り出そうとする者でごった返していた。
(早く帰りてぇ…。)
夢うつつ、イヤホンで音楽を聴きながらかろうじて意識を保っているエレンは吊り革に掴まりこうべを垂れる。
目の前にはイスに座り気持ち良さそうに眠ってるOLやスマホをしている学生などなど。
ご乗車ありがとうございますのアナウンスが入る度に密集した人ゴミを掻き分けて何人かは下車をし、次の乗客がその隙間を狙って入ってくる。
エレンが降りる駅はまだまだ先だ。
「オイ。」
突然片側のイヤホンを外され偉そうに呼ぶ声が耳に入ってきた。
普段なら相手を睨みつけるところだが、寝ぼけまなこにぼんやりと声のする方に顔を向ける。
右正面から斜め下へと少しだけ目線を下げると、漆黒の瞳がエレンを捉えていた。
「俺のこと、覚えてるか?」
忘れたくても忘れられないその容姿に眠気が一気に吹き飛ぶ。
「い、いえ、知らないです…。」
動揺を隠しきれずエレンは即答して顔を背けた。
あの日の出来事が悶々と思い出され、エレンは頬を紅潮させる。
ドアから距離を置いても無意味な事は分かっていたが、再び現れ声をかけられるとは予想打にしていなかった。
『次はー、□□駅ー。』
運よく飛び込んできたアナウンスの声に気づき、この場から解放される術を見つけエレンは胸を撫でおろす。
(助か…)
「今日は寝たフリをしないのか。」
「!!」
背後から囁かれた台詞は一瞬でエレンの体を凍りつかせた。
「…ガキ。」
男の指先がエレンの背中を上から下へゆっくりとなぞらえる。
エレンの体が小さく震え警戒心が綻んだ瞬間、後ろズボンに勢いよく男の手が入ってきた。
呆気にとられるエレンをよそに、パンツの中にまで入ってきた手が親指ほどの小さな異物を尻の割れ目に強引に押し込んできた。
「やめ…」
「男のお前が叫んでも変な目で見られるだけだぞ。」
正論で遮られ、エレンは出かけた言葉をグッと飲み込む。
悔しさに涙を滲ませるエレンを見上げ、男は不敵な笑みを瞳に宿した。
「せいぜいお前も楽しめ。」
男がズボンから離した手を自らのポケットに忍ばせると、エレンの内側で激しいバイブ音が鳴り響く。
「ひぃっ…!」
狭い内側にフィットしてぶるぶると震えるそれに、エレンは堪らず奥歯を噛みしめる。
強制的に引き出される快楽はある意味暴力的で、与えられる快感と植え付けられる恐怖心に頭上から足先まで支配されていく。
「ふぅ、…ふ、…っんん…。」
不意に了承もなく男の両手がエレンの腰や太腿に触れてきて、その焦れったくむず痒い感覚にエレンは身を捩らせる。
声が漏れないよう口元を覆い、体が崩れないようつり革を掴むことに精一杯で、エレンは男にされるがままだった。
「…っく、ぅんん…っっ!」
布越しに尻を撫でられ、指で何度も奥を押される度にバイブが内側を擦ってビクビクと体が跳ね上がる。
イくだけの熱量は与えられず寸止めのような状態に悶え、それ以外考えられないほど頭の中が真っ白になっていた。
「あの…大丈夫ですか…?」
「!?」
目の前に座って眠っていた若いOLがいつの間にか起き、躊躇いがちにエレンに声をかけてきた。
現実に戻され周囲を見渡せば、何人かが心配そうな表情や怪訝な表情でこちらを窺っている。
「…ぁ…」
感じている表情を他人に見られていたかと思うと、羞恥と屈辱に顔から火が吹き出そうだった。
「体調が悪いようだ。コイツに席を譲って貰えるか。」
言葉に詰まるエレンの横で男が平然とOLに語りかける。
窓に手をつき顔を近づけ、その美貌で骨抜きにするとOLは頬を赤らめ席を立った。
「良かったな、座らせてもらえ。」
嬉しそうに男の横に立つOLと入れ違いに、流されるままエレンはよろよろと椅子に腰をかける。
反発や拒絶する意志などなく、とにかく体を休めたいと目を閉じた。
しかし、
「ーーっっ!!」
再び響き始めたバイブ音にエレンの体が震え上がる。
椅子に座ることで突きつけられる確かなバイブの感触と、さらに感じる他人の視線。
エレンが慌てて顔を上げると、男が手の平に収まる小さな黒いリモコンを持っていた。
「耐」
「え」
「ろ」
男は口パクで言葉を並べ終えると、カチカチとリモコンの調節キーを押し上げていく。
見下してくる視線は冷たいのに、火照る体は疼くばかりで一向に収まらない。
「や、やだぁ…。」
哀願する声は這い上がる快感の前で虚しく消えていった。
【鳥は啼く】
「はぁ、はぁ、…。」
あれからどうなったかの記憶は曖昧で、いつの間か電車を降りて車に乗せられていた。
道中男2人が寄り添って歩く姿を大勢の人に変な目で見られたかもしれない。
今はホテルか家か、検討もつかないベッドの上。
考えたくもないし、考えられない。
自分の意志ではどうにもならなくなった体を、縋りつくように男に委ねていた。
「…っく、…はぁ、…。」
荒い息遣いで肩を上下させながら、エレンは力なくシーツを掴む。
布越しにも分かるほど硬く膨らんだ股間は痛いくらい熱く、バイブから解放されてもなお体の疼きは増していくばかりだった。
苦痛に顔を歪ませ1人喘ぐエレンを見下ろし、男は目を細める。
スーツの上着を脱ぎ、ネクタイを緩めるとエレンに覆い被さるようにベッドへ乗り込んできた。
「っ…離せ…!!」
小柄で細い見た目とは裏腹に男の体は筋肉質で重い。
エレンは必死に抵抗するが、力の入らない体はあっさりと組み敷かれてしまった。
「やめ…」
「エレン。」
突然名前を呼ばれエレンは驚き抵抗を緩める。
じっと男の顔を見つめ、あっと思い出したかのように叫んだ。
「手帳勝手に見んな!」
「それがどうした。」
男はエレンの髪を撫で、紅く染まった耳に口唇を押し当て囁いた。
「俺の名はリヴァイ。」
「っ……。」
柔らかい吐息が耳にかかり、甘噛みをされる感触がくすぐったい。
言葉で拒絶を示しても、少し触れられただけで体が反応してしまうのは紛れもない事実だった。
「これで対等だ。逃げも隠れもしねぇよ。」
その言葉と同時に、薄い口唇がエレンの口唇に触れてきた。
「ん…っ!」
自分の置かれている現状を把握出来ないまま突然キスをされエレンは呆然となる。
ファーストキスを奪われたショックと、今までの行動や言動から考えられないほどの優しいキスのギャップに気持ちがついていけない。
「んぅ…ちゅ…ふっ…むむ…。」
リヴァイはエレンの柔らかい口唇の感触とぬくもりを確かめるようキスを繰り返し、それは徐々に深くなっていく。
「ん…ちゅ…っ…ふぁ、あんっ、…んぅ、ちゅむ…んん…ぅ…。」
ねっとりと絡み吸いついてくる舌が想像以上に気持ちよく、時折胸の奥がきゅっと締めつけられる不思議な感覚に戸惑いを覚える。
バイブで飼い慣らされた体は快感を素直に受け入れており、エレンは無意識に男の背中へと腕をまわしていた。
「ひぁ…っ!」
隙をついて直にペニスを握り込んできたリヴァイの手に、頭の中を掻き乱される。
「あん、…あ!やめっ、…っ、あ、あ…っっ」
「我慢する姿もエロいが、素直によがり声を出されるとたまんねぇな。」
オナニーと違い他人の手によって引き出される快楽は、言いようのない羞恥心を駆り立てられる。
上下に扱かれる度に卑猥な水音が立ち、敏感な先端を執拗に弄られ続けその強烈な快感にエレンは身を捩らせて喘いだ。
「これだけじゃ物足りないだろ。」
「っく、…ぅあ…ぁ、…」
ペニスを握られたまま反対の手がエレンの尻を掴み、細長い指がエレンの秘部へと挿入される。
既にとろとろに解れたそこはもう指だけでは満足できず、ぬるぬるとした動きに頭の中がおかしくなりそうだった。
「待って、…ぁ、ダメ、…はぁ、はぁ、リヴァイ、さ…も、やだぁ、…っ!!」
リヴァイの胸元のシャツを掴み、懇願するように見つめてくる金色の瞳。
初めて会った相手に全てを奪われ悔しくて許せない筈なのに、自ら求めてしまう矛盾が愛しい。
「欲しいか、エレン。」
甘い誘惑の言葉は媚薬のようにエレンの心を痺れさせる。
「は、…はい…。」
「良い子だ。」
エレンの両脚を胸まで折り曲げると、リヴァイは自らのペニスを取り出す。
ペニスに吸いつくようにヒクヒクと動く窄みに宛てがうと、エレンの体が小さく震えていた。
涙で頬を濡らし期待と不安が入り混じる幼い表情がいやらしい。
「あああっ……!!」
窄みを押し拡げて入ってきたペニスに、エレンのしなやかな体が弓なりに仰け反る。
下腹部の不快感に顔を歪ませながらも、みっちりと内側が埋まっていく感覚はエレンの体が欲して止まないものだった。
リヴァイはエレンを抱きしめ、ゆっくりとした律動は徐々に激しさを増していく。
「初めてお前を見かけた時から惚れていた。」
「はぁっ、んぁ、…ああ、んっ!」
「毎日車内で見ることしか出来ない距離と時間がもどかしくてな。いつか誰かに奪られるくらいなら俺の存在をお前の心に焼きつけたかった。」
秘めた想いは抑えられず、リヴァイのペニスが最奥を突く度にエレンの中にどうしようもないほどの切ない感情の波が押し寄せてくる。
「…ぁ…リヴァ……。」
全てを受け止めきれないままエレンは精を放ち、抱きしめられた腕の中で静かに目を閉じる。
リヴァイはしっとりと汗で濡れたエレンの首筋に舌を這わせると一点を強く吸い上げた。
「エレン愛してる…ようやく手に入れた……。」
end.
午前7時32分。
最寄駅からいつもの電車にエレンは乗る。
椅子は満席だが車内は比較的空いていた。
左側ドア近くに背中を預けスマホ弄りを再開する。
午前7時40分。
(来たっ…!)
ドアの開閉と同時に大量の人がなだれ込む。
乗車率100%を越えた車内は一気に温度湿度が上昇し酸素が低下する。
(サイアク…。)
こんなことならもっと勉強して地元の進学校に入ればよかったと何度後悔したことだろう。
小さなため息をつきながら、足元の鞄がズレないよう両足で再度挟み直した。
その時、
「!?」
下腹部に違和感を感じて体の芯がじわっと熱を帯びる。
突然のことにエレンは焦り、慌てて目線を下へ落とす。
混雑する車内で他人とありえないほど密着するのは仕方ないことだが、エレンの両脚の間に見ず知らずの太ももが割って入り股間を押し上げていた。
「すまない。」
「い、いえ…。」
目の前にいる30代くらいのサラリーマンの男性が小声で謝ってきた。
さらさらとした短髪の黒髪、切れ長の目を持つその人物は、同性にも関わらず思わず心が動かされるほど綺麗な顔立ちをしていた。
すし詰めの車内が相当ストレスなのか眉間のシワが目立つのが気になる。
(背が低いし体も細っ…これが女の子だったら最高なのに…。)
スマホも出来なくなった窮屈な時間をエレンはくだらない妄想で紛らわせていた。
「っ……!!」
この先カーブですのアナウンスと同時に立っていた人間が一斉に左側へ傾いく。
目の前の男はかろうじてエレンの横にある持ち手に捕まったが、後ろの乗客に押されほぼ抱きつかれているような状態だった。
太腿が股間にさらにくい込み、意志とは無関係に甘い吐息が溢れる。
「ふっ…んん…。」
よりにもよって同性相手に声を出してしまったとなれば一生の恥。
エレンは慌てて口をつぐんだ。
少しでも離れたいと狭いながらもモゾモゾと動いてみたが、背後は車体、横は椅子の手すり、その反対は男がドア横の持ち手を掴んでおり、四方囲われたこの状況では逃げ場がないことに気づく。
なにより足元で挟んでいた分厚い鞄が邪魔をして脚を閉じることが出来ず、目的地にたどり着くまで耐えるしか選択肢はなかった。
(早く駅に着いてくれ……っ!)
現状に対して諦めたエレンは、さりげなく手で口元を抑え誤解を与えぬよう寝たフリをして誤魔化そうと考えた。
「…っ、ん、…」
電車の揺れに合わせペニスが太ももを擦る度、エレンの全神経が否が応でも敏感なそこへと集中してしまう。
内側に宿した熱に腰が揺らめき、男の首筋からほのかに漂うムスクの香りに頭の中が蕩けそうだった。
(ヤバい…俺……)
思春期真っ盛りのエレンは理性と本能の狭間で泣きそうになっていた。
「大丈夫か?」
「!!」
耳元で囁かれた声にドキッとして現実に引き戻される。
確か男は自分より少しだけ背が低かった筈。
気づかれてしまったかもしれない恐怖と表情を見られているかもしれない羞恥が、エレンの体をさらに高ぶらせていく。
(ど、しよ…。)
初めて知る快感に力が抜け、ガクガクと震える足では立っていられなくなっていた。
それを察したのかエレンを支えるようにまわされた腕に腰をグッ引き寄せられる。
「んぁ…はぁっ…。」
スラックス越しにも分かるほど硬く膨らんだ男のそれをエレンに押しつけながら、深くゆっくりと突き動かしていく。
公衆の面前で擬似セックスをしているような体感は、経験無知なエレンにはあまりにも刺激が強すぎた。
「あ…っく、んぅ…!」
エレンは男の胸元のシャツをぎゅっと掴み、痺れるような快感に翻弄されながらひたすら時が流れるのを待ち続けた。
「次はー、〇〇駅ー。〇〇駅ー。」
再び流れた車内アナウンスにエレンはハッと我に返る。
気づいた時には電車のドアは開き、人が半分に減った解放感漂う車内にはエレンの前にいた男性の姿も消えていた。
エレンは急いで鞄を掴み、膨んだズボンの前を隠すように抱え込んだ。
(ま、満員電車が原因だもんな…あれは、たまたまで…。)
窓から見える外の景色に視線を向ける。相手は男なのに、未だドキドキする気持ちが収まらない。
『……またな。』
ふと、脳裏をよぎった低く静かな声。
気のせいと自分に言い聞かせ、2つ目の駅でエレンは電車を降りた。
午後7時10分。
部活帰りの疲れた体で電車に乗る。
週末の車内は帰宅する者と夜の街へ繰り出そうとする者でごった返していた。
(早く帰りてぇ…。)
夢うつつ、イヤホンで音楽を聴きながらかろうじて意識を保っているエレンは吊り革に掴まりこうべを垂れる。
目の前にはイスに座り気持ち良さそうに眠ってるOLやスマホをしている学生などなど。
ご乗車ありがとうございますのアナウンスが入る度に密集した人ゴミを掻き分けて何人かは下車をし、次の乗客がその隙間を狙って入ってくる。
エレンが降りる駅はまだまだ先だ。
「オイ。」
突然片側のイヤホンを外され偉そうに呼ぶ声が耳に入ってきた。
普段なら相手を睨みつけるところだが、寝ぼけまなこにぼんやりと声のする方に顔を向ける。
右正面から斜め下へと少しだけ目線を下げると、漆黒の瞳がエレンを捉えていた。
「俺のこと、覚えてるか?」
忘れたくても忘れられないその容姿に眠気が一気に吹き飛ぶ。
「い、いえ、知らないです…。」
動揺を隠しきれずエレンは即答して顔を背けた。
あの日の出来事が悶々と思い出され、エレンは頬を紅潮させる。
ドアから距離を置いても無意味な事は分かっていたが、再び現れ声をかけられるとは予想打にしていなかった。
『次はー、□□駅ー。』
運よく飛び込んできたアナウンスの声に気づき、この場から解放される術を見つけエレンは胸を撫でおろす。
(助か…)
「今日は寝たフリをしないのか。」
「!!」
背後から囁かれた台詞は一瞬でエレンの体を凍りつかせた。
「…ガキ。」
男の指先がエレンの背中を上から下へゆっくりとなぞらえる。
エレンの体が小さく震え警戒心が綻んだ瞬間、後ろズボンに勢いよく男の手が入ってきた。
呆気にとられるエレンをよそに、パンツの中にまで入ってきた手が親指ほどの小さな異物を尻の割れ目に強引に押し込んできた。
「やめ…」
「男のお前が叫んでも変な目で見られるだけだぞ。」
正論で遮られ、エレンは出かけた言葉をグッと飲み込む。
悔しさに涙を滲ませるエレンを見上げ、男は不敵な笑みを瞳に宿した。
「せいぜいお前も楽しめ。」
男がズボンから離した手を自らのポケットに忍ばせると、エレンの内側で激しいバイブ音が鳴り響く。
「ひぃっ…!」
狭い内側にフィットしてぶるぶると震えるそれに、エレンは堪らず奥歯を噛みしめる。
強制的に引き出される快楽はある意味暴力的で、与えられる快感と植え付けられる恐怖心に頭上から足先まで支配されていく。
「ふぅ、…ふ、…っんん…。」
不意に了承もなく男の両手がエレンの腰や太腿に触れてきて、その焦れったくむず痒い感覚にエレンは身を捩らせる。
声が漏れないよう口元を覆い、体が崩れないようつり革を掴むことに精一杯で、エレンは男にされるがままだった。
「…っく、ぅんん…っっ!」
布越しに尻を撫でられ、指で何度も奥を押される度にバイブが内側を擦ってビクビクと体が跳ね上がる。
イくだけの熱量は与えられず寸止めのような状態に悶え、それ以外考えられないほど頭の中が真っ白になっていた。
「あの…大丈夫ですか…?」
「!?」
目の前に座って眠っていた若いOLがいつの間にか起き、躊躇いがちにエレンに声をかけてきた。
現実に戻され周囲を見渡せば、何人かが心配そうな表情や怪訝な表情でこちらを窺っている。
「…ぁ…」
感じている表情を他人に見られていたかと思うと、羞恥と屈辱に顔から火が吹き出そうだった。
「体調が悪いようだ。コイツに席を譲って貰えるか。」
言葉に詰まるエレンの横で男が平然とOLに語りかける。
窓に手をつき顔を近づけ、その美貌で骨抜きにするとOLは頬を赤らめ席を立った。
「良かったな、座らせてもらえ。」
嬉しそうに男の横に立つOLと入れ違いに、流されるままエレンはよろよろと椅子に腰をかける。
反発や拒絶する意志などなく、とにかく体を休めたいと目を閉じた。
しかし、
「ーーっっ!!」
再び響き始めたバイブ音にエレンの体が震え上がる。
椅子に座ることで突きつけられる確かなバイブの感触と、さらに感じる他人の視線。
エレンが慌てて顔を上げると、男が手の平に収まる小さな黒いリモコンを持っていた。
「耐」
「え」
「ろ」
男は口パクで言葉を並べ終えると、カチカチとリモコンの調節キーを押し上げていく。
見下してくる視線は冷たいのに、火照る体は疼くばかりで一向に収まらない。
「や、やだぁ…。」
哀願する声は這い上がる快感の前で虚しく消えていった。
【鳥は啼く】
「はぁ、はぁ、…。」
あれからどうなったかの記憶は曖昧で、いつの間か電車を降りて車に乗せられていた。
道中男2人が寄り添って歩く姿を大勢の人に変な目で見られたかもしれない。
今はホテルか家か、検討もつかないベッドの上。
考えたくもないし、考えられない。
自分の意志ではどうにもならなくなった体を、縋りつくように男に委ねていた。
「…っく、…はぁ、…。」
荒い息遣いで肩を上下させながら、エレンは力なくシーツを掴む。
布越しにも分かるほど硬く膨らんだ股間は痛いくらい熱く、バイブから解放されてもなお体の疼きは増していくばかりだった。
苦痛に顔を歪ませ1人喘ぐエレンを見下ろし、男は目を細める。
スーツの上着を脱ぎ、ネクタイを緩めるとエレンに覆い被さるようにベッドへ乗り込んできた。
「っ…離せ…!!」
小柄で細い見た目とは裏腹に男の体は筋肉質で重い。
エレンは必死に抵抗するが、力の入らない体はあっさりと組み敷かれてしまった。
「やめ…」
「エレン。」
突然名前を呼ばれエレンは驚き抵抗を緩める。
じっと男の顔を見つめ、あっと思い出したかのように叫んだ。
「手帳勝手に見んな!」
「それがどうした。」
男はエレンの髪を撫で、紅く染まった耳に口唇を押し当て囁いた。
「俺の名はリヴァイ。」
「っ……。」
柔らかい吐息が耳にかかり、甘噛みをされる感触がくすぐったい。
言葉で拒絶を示しても、少し触れられただけで体が反応してしまうのは紛れもない事実だった。
「これで対等だ。逃げも隠れもしねぇよ。」
その言葉と同時に、薄い口唇がエレンの口唇に触れてきた。
「ん…っ!」
自分の置かれている現状を把握出来ないまま突然キスをされエレンは呆然となる。
ファーストキスを奪われたショックと、今までの行動や言動から考えられないほどの優しいキスのギャップに気持ちがついていけない。
「んぅ…ちゅ…ふっ…むむ…。」
リヴァイはエレンの柔らかい口唇の感触とぬくもりを確かめるようキスを繰り返し、それは徐々に深くなっていく。
「ん…ちゅ…っ…ふぁ、あんっ、…んぅ、ちゅむ…んん…ぅ…。」
ねっとりと絡み吸いついてくる舌が想像以上に気持ちよく、時折胸の奥がきゅっと締めつけられる不思議な感覚に戸惑いを覚える。
バイブで飼い慣らされた体は快感を素直に受け入れており、エレンは無意識に男の背中へと腕をまわしていた。
「ひぁ…っ!」
隙をついて直にペニスを握り込んできたリヴァイの手に、頭の中を掻き乱される。
「あん、…あ!やめっ、…っ、あ、あ…っっ」
「我慢する姿もエロいが、素直によがり声を出されるとたまんねぇな。」
オナニーと違い他人の手によって引き出される快楽は、言いようのない羞恥心を駆り立てられる。
上下に扱かれる度に卑猥な水音が立ち、敏感な先端を執拗に弄られ続けその強烈な快感にエレンは身を捩らせて喘いだ。
「これだけじゃ物足りないだろ。」
「っく、…ぅあ…ぁ、…」
ペニスを握られたまま反対の手がエレンの尻を掴み、細長い指がエレンの秘部へと挿入される。
既にとろとろに解れたそこはもう指だけでは満足できず、ぬるぬるとした動きに頭の中がおかしくなりそうだった。
「待って、…ぁ、ダメ、…はぁ、はぁ、リヴァイ、さ…も、やだぁ、…っ!!」
リヴァイの胸元のシャツを掴み、懇願するように見つめてくる金色の瞳。
初めて会った相手に全てを奪われ悔しくて許せない筈なのに、自ら求めてしまう矛盾が愛しい。
「欲しいか、エレン。」
甘い誘惑の言葉は媚薬のようにエレンの心を痺れさせる。
「は、…はい…。」
「良い子だ。」
エレンの両脚を胸まで折り曲げると、リヴァイは自らのペニスを取り出す。
ペニスに吸いつくようにヒクヒクと動く窄みに宛てがうと、エレンの体が小さく震えていた。
涙で頬を濡らし期待と不安が入り混じる幼い表情がいやらしい。
「あああっ……!!」
窄みを押し拡げて入ってきたペニスに、エレンのしなやかな体が弓なりに仰け反る。
下腹部の不快感に顔を歪ませながらも、みっちりと内側が埋まっていく感覚はエレンの体が欲して止まないものだった。
リヴァイはエレンを抱きしめ、ゆっくりとした律動は徐々に激しさを増していく。
「初めてお前を見かけた時から惚れていた。」
「はぁっ、んぁ、…ああ、んっ!」
「毎日車内で見ることしか出来ない距離と時間がもどかしくてな。いつか誰かに奪られるくらいなら俺の存在をお前の心に焼きつけたかった。」
秘めた想いは抑えられず、リヴァイのペニスが最奥を突く度にエレンの中にどうしようもないほどの切ない感情の波が押し寄せてくる。
「…ぁ…リヴァ……。」
全てを受け止めきれないままエレンは精を放ち、抱きしめられた腕の中で静かに目を閉じる。
リヴァイはしっとりと汗で濡れたエレンの首筋に舌を這わせると一点を強く吸い上げた。
「エレン愛してる…ようやく手に入れた……。」
end.
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