Case2.5【想】

「セックスってさ、どうしたら上手くなれんの?」
突然部屋に押しかけてきたかと思えば真剣な眼差しで質問をしてくるエレンに対し、ライナーとベルトルトは開いた口が塞がらない。
「…お前、自分が何言ってるか分かってるのか?」
「分かってるよ、お前ら毎日エッチしてるから上手いだろ」
どう解釈しても兵長が好きとしか聞こえないのだが、果たして今それを言っていいものなのか2人は迷う。
(ここは敢えて様子を見てみるか…)
(ジャンとアルミンには口が裂けても言えないね…)
リヴァイとエレンが【契約】をした直後、各々から内緒にして欲しいと相談を持ちかられていた為、2人はエレンとジャンとアルミンの関係を全て把握していた。
※ジャンが会議室でエレンをレイプした事は唯一知らない。
「お前あんなに兵長と関係を持つ事を嫌がってただろ、どういう風の吹きまわしだ?」
「ん…今でもヤだなって思う時あるけど、兵長から一方的なのが申し訳なくて…」
のろけ話を聞かされてるのか?と困惑するライナーをよそに、ベルトルトはエレンに語りかける。
「エレン、普段から兵長の目をちゃんと見てる?」
「えっ…」
その言葉にエレンは思わずドキッとする。
「上手くなる方法を考える前に、まずはそこから始めてごらん?そのうち一方的だと感じなくなるから」
金色の瞳を見つめて微笑む顔が近づいたかと思うと、エレンはベルトルトに軽くキスをされる。
「!」
「おまっ…何でエレンにキスしたんだ?!」
「エレンが可愛くて、つい」
「つい、じゃないだろ……たく、後で覚悟しとけよ」
「あはは、お手柔らかに」
動揺するライナーを完全に手玉にとるベルトルト。
2人のやり取りに、エレンは感嘆のため息をつく。
「…よく分かんねぇけど、お前らすげぇな」
「遅い」
「すみません…」
開口1番で不機嫌さを露わにされ、エレンは目を伏せる。
しかし、多忙な日々にすれ違い、それまで毎晩通っていたせいか久々のリヴァイを前にして緊張は高まっていた。
「あ、あの、同期のライナーとベルトルトと一緒にいました…し、失礼します」
上半身を起こしベッドで本を読むリヴァイの横で、エレンはそそくさと布団に潜り込む。
思わず背を向け、エレンはぎゅっと目を瞑った。
(あーもー兵長の目なんかまともに見れねぇよ…っ!!)
ジャンとの一件以来、エレンは契約者としてのリヴァイに対し少しずつ心を開くようになっていた。
恐怖や遠慮から逸らし続けてきたリヴァイの目を、視線が合うだけで意識するようになったのはごく最近の事だった。
(いつかあの2人みたいになっちゃったりするのかな…)
無意識にそんな事を考えてしまい、矛盾する自身に何度葛藤しただろうか。
エレンとリヴァイとの間には、ライナーとベルトルトとの決定的な違いがあり、それがシステム本来の一般的な契約条件なのである。
ミカサの為、そう言い聞かせて。
「眠いのか?」
頭上から聞こえてきた声にエレンの肩がビクンと跳ねた。
「んっ、……あー…」
午後の訓練の疲れもあってかこの布団の心地良さは堪らず、悶々としていたら気づかない内に意識がトんでいたようだった。
「起きてます、…はい、えーと、…」
霞がかった頭の中で必死に会話の内容を捻り出す。
(兵長…リヴァイ、兵長…)
俺に、自由の翼を見せてくれた人。
「兵長は、何で調査兵団に入ったんですか?」

end.
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