Case4【祈り】

リヴァイが一方的に切り出したエルヴィンとの【契約】の【解除】の一報は瞬く間に三兵団に伝わり全兵士に知れ渡っていく。
『リヴァイ兵長とエルヴィン団長が【契約】を【解除】したらしいぜ。』
『マジ!?』
『修羅場で喧嘩する声が部屋の外まで響いたんだって。』
『尾ひれつけすぎ。鵜呑みにすんな。』
『どーせ団長が飽きたんだろ。』
『はぁ…1度でいいからに兵長に抱かれてみたい。』
情報は錯綜し混乱を極めたが、2人への配慮から表立って話が出ることはなく入れ替わりの激しい兵団内では噂話に留まり次第に消えていった。
2人の関係は一見すると今までの日常と何も変わらないように見えるが、【解除】を突きつけた筈のリヴァイは契約する以前にも増してエルヴィンの側から離れなくなっていた。
それを傍らで見る度に嫌な汗が体に纏わりつき、ハンジの脳内で不協和音のようにミケの言葉が響いてくる。
寄り添うことしかできないもどかしさから抜け出せず、月日が経つに連れ気持ちが焦り始めていた。

******

『エレンはお前の境遇に似ていないか?』
エレンを調査兵団に迎え入れる事を反対していたリヴァイに向かってエルヴィンはそう問いかけてきた。
過酷な幼少期を経て兵団に入団し、巨人化能力の持ち主として国と兵団の畏怖と好奇な眼差しに晒されている状況がよく似ているらしい。
詳細を比較すればキリがなくエレンを手に入れるための強引なこじつけ話に過ぎないが、リヴァイの考えが立ち止まるきっかけになったのは確かだった。
『調査兵団に入って、とにかく巨人をブッ殺したいです。』
初対面で見せたエレンの狂気はその場におらずとも察するものがあり、強固なまでの意志と底知れぬ闇の深さに圧倒される。
同時に心の奥底でどうしようもなく惹かれる感覚は本能を刺激する快楽に近く、その時の様子を饒舌に語るリヴァイの表情がとても印象的だった。
(…だから私は、君に賭けて見ようと思ったんだ。)

******

『エレンが可愛いからってストーカーはダメだよ。』
馬小屋を掃除するエレンを離れた場所から監視するリヴァイを見つけ声をかけるも無視をされる。
『そんなに好きなら今度イイモノあげようか♡』
『くたばれ。』
『もー。エレンが入ってきてからリヴァイ私に冷た……ん?』
突然やってきた数人の先輩に取り囲まれるエレンとその横で(いたと思われる)アルミンが困惑している。
リヴァイとハンジがいる位置から馬小屋までは程よく距離があり、細かく聞き取ることはできないが面倒事に巻き込まれてるのは見て取れた。
『あちゃー。人気者はツライねぇ。』
『………。』
興味なさそうな態度のリヴァイに対し、ハンジは呆れ顔で溜息をつく。
『どうでもいいって顔してるけど、ケンカの見守りだけじゃないって分かってる?』
『エレンの下まで監視しろと?』
『そこまで言ってないけど、、104期の子たちもそろそろシステムの存在に気づく頃でしょ。属性が大規模に変動するデリケートな時期なだけに、エレンの精神状態が安定しないと実験に影響を与えかねないよ。』
『ひゃああっ』
『お前らアルミンに何した!』
『ケツ触るくらいいいだろ。減るもんじゃねーし。』
『なっ…死んじゃえよクソ野郎!』
会話を遮るようにエレンのがなり声が聞こえ、今まさに取っ組み合いのケンカが始まろうとしていた。
すると、突然現れたミカサに男たちが瞬殺されエレンとアルミンが唖然としている間に5m先まで吹っ飛んで事なきを得る。
始終を見て苦い顔をするハンジに向かってリヴァイが涼やかに言い放つ。
『十分成立しそうだな。』
『あんな例外兵団内でそうそう通用しないから。ねぇ、覚えてる?以前同じように先輩方に絡まれて輪姦されそうになってた新兵の子をリヴァイが助けてあげたこと。あの子、エレンによく似てた。』
『…まぁ、一定の人間を黙らせる効率的な方法は考えねぇとな。』
リヴァイの変化を感じ取ったハンジが気を利かせて視線を外す。
しかし、その先に見えた窓からこちらを見つめる碧の瞳に気づき背筋がゾクリと震えた。
―【契約】?俺とエルヴィンがか?―
―そうだ。私と君のこれからのことを真剣に考えて欲しい。―
ハンジは喉をゴクリと鳴らし、眼鏡のブリッジを中指で押さえ視線を元に戻す。
幼馴染の前で屈託のない笑顔を向けるエレンを見つめるリヴァイの心はここにあらず、横顔は愁いを帯びていた。
(業、とでも言うべきか。)
あの日はとても穏やかで、私がリヴァイへの気持ちと決別するには少しだけ胸が痛む夜だった。
『…テメェ…』
『リヴァイって本当私に甘いよね。身内だからって油断しちゃダメだよぉ?』
『コレ(紅茶)に何入た…!!』
『今度イイモノあげるって言ったでしょ♡エレンは顔が可愛いし、スタートはそこからでいいと思うんだ。』
『はぁはぁ…エレン?…っ…さっきから、何言って…』
『起爆剤が欲しい。ダメだったら次。それだけだよ。』
『…クソが…待ちやがれハンジ…』
口の悪さとは裏腹に必死に堪えようと机に置いた拳を固く握り締め、眉を顰めるリヴァイの息遣いが少しずつ荒くなっていく。
地下街で手に入れた媚薬は想像以上で、理性と本能の狭間で揺れる表情はとても美しかった。
椅子から立ち上がり眼下の黒髪にキスをすると、リヴァイの体が小さく反応する。
『…じゃあね。』
確認を終え部屋を出ると、エレンが対面から廊下を歩いて来るのが見える。
こちらに気づき会釈するエレンの表情は重く険しい。
すれ違いに別れた後すぐ背後からドアをノックする音が聞こえ、ゆっくりと扉が開き閉まる音がした。
自然と足が止まり、両目を閉じて小さく深呼吸をする。
身勝手で愚かな行動。
それを上回る期待感。
言葉にできない感情が込み上げてきて、声を殺して笑った。
「ぎゃああーっっ!!」
「死ね!2度と俺に近づくな!」
ドアの向こうですったもんだがあった末にがなり声をあげてエレンがリネン室に入ってくる。
「お前なぁ…折角完治したのに何で前より傷だらけなんだよ。」
先に片付けをしていたジャンに案の定嘲笑われ、エレンは怒りを爆発させる。
「若いから、人類最強の相手だったから、巨人を征服してみたいetcの変態ばかりに言い寄られてうんざりだっっ!!」
「いつまでも兵長にこだわってるからだろ。」
「はぁ??こだわってなんかいねぇよ。」
エレンはジャンを睨みつけそう吐き捨てると、荒っぽい靴音を立てながらリネン室の奥へ向かった。
タオルやシーツを所定の位置に戻し終わる頃には気持ちが少し落ち着き始め、エレンはふぅと溜息をつく。
すると、今まで気づかなかった背後にピタリとくっつくような気配を感じて動けなくなった。
「この間地下牢で話した内容覚えてるか?」
「…ハァ。お前との【契約】の話か?冗談だろ。」
相手がジャンと分かるとエレンは背中を向けたまま面倒くさそうな態度で遇らおうとした。
しかし、思惑とは真逆にジャンの両腕が背後からスッと伸びてきつく抱き締められエレンは思わずドキッとする。
「んだよ。近いから離れろって…っ!」
「【契約】の話覚えてたんだな。良かった…。」
密着するジャンの体温を感じながら吐息混じりの濡れた声で囁かれると、気持ちとは裏腹にエレンの体の奥がジンと熱を帯びていく。
地下牢で口移しで薬を飲ませてもらったこと、封印していた会議室での行為が脳内でフラッシュバックして恥ずかしさのあまりエレンは顔を真っ赤にする。
「心臓の音が早い……緊張してんのか?」
「さ、触んなヘンタイ!」
「たまたまだろ。それにもう無理強いなんてしねぇよ…優しくする…。」
「んんっ…!」
宝物に触れるようにそっと耳の後ろやうなじにキスをされ、くすぐったいようなもどかしい感覚にエレンの体がビクビクと震える。
突然の出来事とはいえ今までとは想像もつかないジャンの甘く優しい態度にどう対応していいか分からず、エレンはリネン室の棚を力なく握り締めされるがままだった。
「いい匂い…ちゅ…体も柔らかくて、スゲェ気持ちいい…」
「あっ…あ、ジャン…そこ…っ…ん、やだぁ…」
「あぁ、ちゅ…首の後ろ好きか?…なら乳首と一緒にイジメられるのも好きだよな…ちゅむ…」
「あんん…っ!!」
エレンのシャツを捲り上げ両手の親指と人差し指の腹でエレンの乳首をギュッと摘みながら首の後ろにキスすると、弾けるような快感に我慢できずエレンは髪を振り乱して悶える。
久々に聞くエレンの啼き声に興奮したジャンの行為はさらにエスカレートし、右手でエレンの乳首を愛撫したまま、左手でエレンの腰を引き寄せると臀部に股間を押しつけるように前後に大きく腰を揺らし始めた。
「っ…たまんねぇ…はぁ…今すぐ挿れたい…」
「あっあっ…ジャン…ん、らめ…っジャン…あんっ…んんっ…」
「エレン、頼むから拒絶しないでくれ。俺、お前のことが…」
「はい、ストーップ。」
パンパンと場の空気を壊すようにゆっくり大きな拍手がリネン室に響き渡る。
2人が音の鳴る方に視線を向けるとニッコリと微笑みを浮かべるアルミンが佇んでおり、エレンは喜びジャンはげんなりする。
「アルミン!」
「いいとこだったのに邪魔s…」
「ジャンは黙ってて。」
アルミンはリネンの棚とエレンの間にするりと入り込むと、エレンの頬にそっと手を添える。
「よしよし。怖かったね。もう大丈夫だよ。」
「アルミ~ン。助かったぁ。」
「でもでも、中途半端にセクハラされて悶々としてるのも辛いでしょ。」
「あ、後で自分でするし。」
「ううん。すぐ終わるから。だからこの間の続き、しよ?」
「うわっ!」
アルミンはエレンのシャツを引っぱり強引にエレンの視線を自分と同じ位置に合わせると、考える隙を与えないように目の前にある唇に甘えるように舌でペロペロと舐めたり角度を変えて何度もキスをする。
「あ、アルミン…ちゅ…いいって…んくっ」
「ダーメ。」
「んんっ…!」
アルミンは器用にエレンのズボンのベルトを外してジッパーをさげると、パンツを少しずらして半勃ちのペニスを取り出す。
自分のポケットからハンカチを取り出してエレンのペニスにふんわりとかけると、それごと包み込むようにペニスをやんわりと握りしめ一定のリズムで上下に動かし始めた。
「あぁはぁ…ん、ちゅ…はぁ、アル…っあ、んむむ…」
アルミンと舌を絡め舐め合いながら気持ち悦さそうに喘ぐエレンを見て、傍観させられていたジャンは激しい嫉妬に駆られる。
「クソッ…何で俺はダメでアルミンはいいんだよ…。」
ジャンは右手の中指と人差し指を口に含みねっとりと唾液で濡らすと、ズボンから半分はみ出た臀部の割れ目に焦点を当てた。
「俺以外のヤツでよがるなよエレン。」
「んんぅっっ!!」
エレンの臀部に手を這わせ唾液で濡れた指で蕾を押し拡げながら挿入すると、エレンは下腹部の圧迫に体をぶるぶると震わせ必死にアルミンにしがみつく。
内側でみっちりと埋まるジャンの指が内壁を擦って挿入を繰り返し、2人に煽られたアルミンによってさらに激しくペニスを扱かれ、終わりの見えない快楽にエレンは身を捩らせて啼き続ける。
「はぁはぁ…っああ、ん…ちゅ…あっあん…あああっっ」
「エレン…ちゅ…かわいい…すき…。」
「お前は俺のことだけ考えてろ。いいな。」
「ん、んんっ…あんっ…らめ、らめ、…ちゅ…俺、おかしくな…んあっ、あっ、」
2人の間で愛情を一身に受けるエレンは蕩けるようなキスと激しい愛撫に溺れ、次第にそれ以外何も考えられなくなっていた。
「きもち、い…気持ちいぃ…ちゅ…あ、あ、きもち…」
「エレンすき…大すき…!」
「エレン…っ…好きだ…。」
「あっ…イく、らめ…イっちゃ…んむっ…むぅっ…ん、ん、んぅうううう!!!」
アルミンに唇を塞がれジャンに首の後ろを噛まれた瞬間、エレンの体がビクンと大きく波打ち白濁とした体液がハンカチの内側にべっとりと染みついた。
「っ…はぁはぁ…んんっ……」
「エレン気分はどう?スッキリした?」
「え…いや、…そうだな…すげぇ疲れた…。」
崩れるように床にへたり込むエレンと一緒にジャンとアルミンも床に座り込み、3人は余韻に浸るように暫く抱き合った。

エレンが落ち着きを取り戻したところで、すかさずアルミンがエレンの乱れた衣服をニコニコしながらテキパキと整えていく。
「オイ、エレンの服直すなよ。」
「セクハラ馬面男の話は聞いてませーん。」
「お前が言うな。」
続きを要求する言葉をバッサリと斬られ、ジャンはエレンの髪を撫でながらブスッと不満気な表情を浮かべる。
「ふふ。あの時の続きをしてあげれて良かった。」
「お前はそんなこと気にしなくていいんだよ。」
エレンの身支度を整え乱れた髪を直し終わると、アルミンは改めてエレンの目をじっと見つめる。
「実は僕、エレンに伝言を伝えに来たんだ。兵長が『今夜俺の部屋に来い。』だって。」
「!」
「久しぶりに会えるね。ゆっくり話しておいで。」
エレンは一瞬大きく目を見開いだが、すぐに表情は陰り無言のまま頭を垂れる。
そんなエレンの態度を見てアルミンはうんうんと小さく頷き、ゆっくりと語りかけるように話し始めた。
「少し話が逸れるんだけど、僕この間偶然シェルムさんに会ったんだ。『次にあいつに会ったら伝えておけ。俺はあの人を手に入れるためなら手段を選ばない。お前が指を咥えて見てるだけなら俺が団長から奪ってやる。』だって。」
「………。」
「巨人を殺すことに執着する君が団長相手だと簡単に諦めるなんて、今でも純粋に兵長のことだけを想ってるシェルムさんとは大違いだね。」
「…なぁ…そろそろ黙れよ…。」
「これ以上傷つきたくないから僕にまで威嚇するんだ。カッコわる。団長にあんな形で兵長を奪われて哀しくないの?悔しくないの?怒りが湧かないの?奪われたものはどうするのか言ってみろよさあ!」
「~っっ!!」
エレンは感情を露わにしてアルミンを睨みつけるも、何も言わずに立ち上がりリネン室から走り去って行った。
やれやれとため息をつくアルミンがふと視線を向けると、ジャンが怪訝な表情でこちらを見ている。
「…お前どういう神経してんだよ。」
「好きな子ほどイジメたい気持ちは分かるけど、人の恋路を邪魔してばかりいると嫌われちゃうよ。」
「はぁ?いつ俺が死に急ぎ野郎を好きに??あんなのからかっただけだろ。」
「さっき散々エレンが好きだって連呼してたクセに。」
行為中のセリフをさらりと持ち出され、ジャンは顔を真っ赤にして悔しそうに舌打ちをする。
「だったら何で兵長のとこに行かせるんだよ。お人好しにも程があるだろ。」
「エレンが最後に戻って来るのは僕のところだからいいの。」
「あーそーですか。俺には熟年夫婦的な考え方は全く理解出来ねぇ。」
「ジャンこそいつもエレンと喧嘩ばかりしてるのに何で好きなの?」
「!?あ、改めて聞かれると俺にも分かんねぇよ。あいつが側にいるとどうしようもなく気持ちが抑えられなくなって……仕方ねーだろ。」
気不味そうに頭を掻きながらも純粋にエレンを想い続けるジャンの側で、アルミンの中で少しずつ憑き物が落ちていくような清々しい気持ちになっていく。
「じゃあ、僕たちの勝負はエレンがもう1度兵長にフラれてからにしよっか。」
「どーだか。そこまで待てる気がしねぇわ。」
ジャンとアルミンは目を見合わせ気恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべる。
死と隣り合わせの世界で胸の内に刻まれる確かな感情。
君を想う気持ちが、生きる強さと証になる。

to be continued…
4/4ページ
スキ