白夜

「エレン…お前、俺のものになれ。」
リヴァイの唐突な一言に、エレンは思わず口をぽかんと開けた。
「何だその間抜け面は。」
「え…それって新しいいじめか、何かですか…?」
「はぁ?」
噛み合わない二人の会話に、気まずい空気が流れた。
廊下の奥から、数人の兵士の笑い声が微かに聞こえてくる。
訓練が終了し、皆が部屋に戻って夕食時まで思い思いに休息をとっていた。
そんな中、突然リヴァイの部屋に呼び出されたエレンにとって、それは予期せぬ出来事であり、どう返答すれば良いか分からず戸惑いの色を隠せなかった。
「グズ…俺の言ってることを理解したのか。」
ため息混じりにリヴァイが会話を切り出すと、エレンは頭をフル回転させ、出来るだけ上官の意に沿う答えを導き出そうとする。
「あの…それは部下として、ですか…それとも俺の巨人化能力を独占したい、という事ですか…。」
「てっとり早く言えば、お前はただの性欲処理だ。」
「!」
デートもしたことのない十五歳の少年にとって、それはあまりにも淫猥で刺激的な内容だった。
「えっ…え、何で俺なんですか?兵団に女子は沢山いるじゃないですか。」
「バカか…ここは戦場だ。兵団内での恋愛は禁止されている上に、万が一女が妊娠でもしたらさらに兵力が減るだろうが。」
その性格や口調に似合わず従順に規律を守るリヴァイの言葉に間違いはなく、エレンは思わず納得してしまった。
「性欲は人間の本能だから否定するつもりはない。」
「はぁ…。」
「だがその捌け口として男同士でヤってる奴らも多い。」
「!!」
エレンが一瞬にして自分の置かれている立場を理解するには、十分すぎる言葉だった。
「気づいていないだろうが、若い兵士達の中でもお前は整った顔をしている。巨人化の能力がなければとっくに輪姦されていたかもな。」
(本気か?!)
そんな扱いを受けるために調査兵団に入ったのかと思うと、エレンのショックは計り知れず、眩暈を覚えた。
「あ、あの…。」
「何だ。」
「俺を相手にするって事は…兵長も…その、既に男とヤってたりするんですか…俺より(小柄だし)断然カッコイイですし…。」
不躾な質問と分かってはいても、聞かずにはいられなかった。
「入団当初はよく寝込みや風呂場で襲われたが、そのまま返り討ちにしてやった。」
あまりにも兵長らしい武勇伝に、聞くまでもなかったとエレンは後悔する。
「だったら俺だってそんな惨めな思いは嫌です。お断りします。」
吐き捨てるようにそう言い放つと、エレンはリヴァイを睨みつけた。
「ほぅ…俺に盾突くのか。」
「自分の気持ちを曲げたくないだけです。」
大方予想通りのエレンの意思表示に、リヴァイは目を細める。
「躾が足りないようだな。」
リヴァイは椅子から立ち上がると、エレンに近づいた。
華奢な容姿とは裏腹に、エレンを見上げるリヴァイの目は獲物を狙う鷹のように強く鋭くなっていた。
「お前が嫌だと言うのなら、俺はミカサをもらう。」
―ミカサ―
その名にエレンは強く反応し、心拍数が一気に跳ね上がった。
「何で、こんなところで名前が出るんですか…?」
「絶滅種である東洋の血を引いているそうだな。」
「あいつを巻き込まないでください。」
「東洋人は床上手だったらしい。ただ…」
「やめてください。」
「あの女、壊れるかもな。」
「兵長!!!!」
エレンは怒りとも悲痛とも言える声で叫んだ。
一触即発になってもおかしくないほど、ヒリついた空気が部屋に充満する。
過去に触れられ興奮気味になっているエレンに対し、リヴァイは腕を組んだまま表情一つ変わることはなかった。
「俺が憎いか、エレン?だが、今のお前ではどう足掻いても俺には勝てねぇ。」
「ミカサは俺の大切な家族です。傷つけないでください。」
「さぁ…?」
「お願いします!!」
「エレン。」
静かだが強い口調で名を呼ばれ、エレンは体を強張らせる。
「それで、お前はどうしたいんだ?」
リヴァイの声は異常なまでに優しかった。
「…あ…。」
エレンの頭の中は真っ白になり、跪く形でその場に崩れ落ちると、完全に戦意を喪失していた。
リヴァイはエレンの胸ぐらを強引に掴むと、俯いていたエレンの顔を無理矢理起こした。
「返事は?」
憔悴しきったエレンは、少し苦しそうに眉間に皺を寄せた。
「俺は…あなたのものになります…。あなたのものです…。」
たどたどしい口調で屈辱的な言葉を並べ、エレンは涙を滲ませる。
「そうか。」
リヴァイはエレンの耳元に軽く唇を押し当て、囁いた。
「いい子だ。」
その言葉はエレンの絶望となり、頬を濡らした。
「ありがとう…ございます。」

end.
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