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彼女に声をかけられたのは屋上で昼食を済ませてから教室へ戻る途中だった。
外は陽射しが強くて、日陰にいたとしてもあまり長居はできない。季節は夏。サーフィンが一番気持ちいい時季だけど、僕にとってはただ暑いだけの時季でもあった。
「一紀くん!」
少し離れたところから僕を呼ぶ声。それだけで心拍数が上がる。僕のことをこうやって呼ぶのはただ一人だけ。振り返らなくてもどんな顔でこちらに向かっているのかがわかるくらいには、彼女は僕の日常に溶け込んでしまっていた。
パタパタと近付く足音がすぐ後ろに来るタイミングで僕はゆっくりと振り返る。もったいぶった動き。だけどそうでもしないと顔が緩んでポーカーフェイスを保つことができない。
「やっと見つけた!お誕生日おめでとう!はい、プレゼント!」
僕と視線が合うが早いか、彼女から発せられた祝いの言葉に、さっきの自分の努力が無駄だったと悟る。この存在を前にしたら「ポーカーフェイス」なんて単語、この世から消えてしまうに違いない。
祝辞とともに差し出された贈り物は綺麗にラッピングされていて、ますます僕の表情筋は仕事を放棄しそうになっていた。
「…どうも」
上ずってしまいそうな声をなんとか制してやっとの思いで一言だけ返事をする。頬のあたりが熱くなってきた気がするけど、これはたぶんきっと屋上で日差しを浴びすぎたせいだ。と思う。
そんな僕の内情を知る由もない先輩は、跳ねるようにそわそわしていた。何それ。変なの。なにをそんなに期待しているんだか。プレゼントを受け取った僕が小躍りして喜ぶとでも思ってるのだろうか。
「ね!開けてみて!」
弾けるような笑顔が僕の二の句を告げなくしていく。本当に何なの。小躍りすればいいわけ?
何故か嬉しそうなにこにこの笑顔を直視できなくなって、頂いたプレゼントを開けてみようとした瞬間、突然予鈴が鳴り響いて彼女はびくりと肩を揺らした。
「わ!もうお昼休み終わり?次、移動教室なの!一紀くん、またね!」
と、来たときと同じようにパタパタと踵を返した先輩は数歩進んだところで急に立ち止まって、バタバタとすぐにまたこちらへ帰ってきたと思ったら、パチンと胸の前で両手を合わせながら僕を見た。
「ね!一紀くん、今度の花火大会、一緒に行かない?かわいい浴衣買ったの!」
かわいい浴衣?今の君よりかわいいものなんてあると思う?とどこに向けたらいいのかわからない謎の怒りを自分の中に閉じ込めていつもの様に返事をした。
「…あ、そ。じゃ、楽しみにしてる」
「ふふ!私も!」
おめでとうだよー!ときらきらの笑顔を残して今度こそ慌てて走って行く後ろ姿。さらさらと揺れる髪すら眩しくて、自分が重症だと思い知った。
嵐のようなひと時のあと、2年の教室の廊下に一人残された僕の手元には彼女が選んでくれた贈り物と、花火大会の約束。
昼休みのこの一瞬の邂逅で僕の想いはまた強くなる。彼女がどんなつもりでこうやって自分の傍にいてくれるのか、それはまだわからない。だけど少しは自惚れてもいいのだろうか。
彼女が走り去った方向をぼんやり眺めながら、ふと我にかえれば碌なお礼も言えてなかったことに気付いて頭を抱えたくなった。僕の気持ちがどうとかじゃない、人としてダメだ。
お詫びとお礼を兼ねて、花火大会の次は僕からデートに誘おう。なんと言っても夏だ。海がいい。あぁ、浮かれてるな、と手元のプレゼントに視線を落とせば、そのリボンに飾られたサーフボードのキーチェーンが揺れた気がした。
外は陽射しが強くて、日陰にいたとしてもあまり長居はできない。季節は夏。サーフィンが一番気持ちいい時季だけど、僕にとってはただ暑いだけの時季でもあった。
「一紀くん!」
少し離れたところから僕を呼ぶ声。それだけで心拍数が上がる。僕のことをこうやって呼ぶのはただ一人だけ。振り返らなくてもどんな顔でこちらに向かっているのかがわかるくらいには、彼女は僕の日常に溶け込んでしまっていた。
パタパタと近付く足音がすぐ後ろに来るタイミングで僕はゆっくりと振り返る。もったいぶった動き。だけどそうでもしないと顔が緩んでポーカーフェイスを保つことができない。
「やっと見つけた!お誕生日おめでとう!はい、プレゼント!」
僕と視線が合うが早いか、彼女から発せられた祝いの言葉に、さっきの自分の努力が無駄だったと悟る。この存在を前にしたら「ポーカーフェイス」なんて単語、この世から消えてしまうに違いない。
祝辞とともに差し出された贈り物は綺麗にラッピングされていて、ますます僕の表情筋は仕事を放棄しそうになっていた。
「…どうも」
上ずってしまいそうな声をなんとか制してやっとの思いで一言だけ返事をする。頬のあたりが熱くなってきた気がするけど、これはたぶんきっと屋上で日差しを浴びすぎたせいだ。と思う。
そんな僕の内情を知る由もない先輩は、跳ねるようにそわそわしていた。何それ。変なの。なにをそんなに期待しているんだか。プレゼントを受け取った僕が小躍りして喜ぶとでも思ってるのだろうか。
「ね!開けてみて!」
弾けるような笑顔が僕の二の句を告げなくしていく。本当に何なの。小躍りすればいいわけ?
何故か嬉しそうなにこにこの笑顔を直視できなくなって、頂いたプレゼントを開けてみようとした瞬間、突然予鈴が鳴り響いて彼女はびくりと肩を揺らした。
「わ!もうお昼休み終わり?次、移動教室なの!一紀くん、またね!」
と、来たときと同じようにパタパタと踵を返した先輩は数歩進んだところで急に立ち止まって、バタバタとすぐにまたこちらへ帰ってきたと思ったら、パチンと胸の前で両手を合わせながら僕を見た。
「ね!一紀くん、今度の花火大会、一緒に行かない?かわいい浴衣買ったの!」
かわいい浴衣?今の君よりかわいいものなんてあると思う?とどこに向けたらいいのかわからない謎の怒りを自分の中に閉じ込めていつもの様に返事をした。
「…あ、そ。じゃ、楽しみにしてる」
「ふふ!私も!」
おめでとうだよー!ときらきらの笑顔を残して今度こそ慌てて走って行く後ろ姿。さらさらと揺れる髪すら眩しくて、自分が重症だと思い知った。
嵐のようなひと時のあと、2年の教室の廊下に一人残された僕の手元には彼女が選んでくれた贈り物と、花火大会の約束。
昼休みのこの一瞬の邂逅で僕の想いはまた強くなる。彼女がどんなつもりでこうやって自分の傍にいてくれるのか、それはまだわからない。だけど少しは自惚れてもいいのだろうか。
彼女が走り去った方向をぼんやり眺めながら、ふと我にかえれば碌なお礼も言えてなかったことに気付いて頭を抱えたくなった。僕の気持ちがどうとかじゃない、人としてダメだ。
お詫びとお礼を兼ねて、花火大会の次は僕からデートに誘おう。なんと言っても夏だ。海がいい。あぁ、浮かれてるな、と手元のプレゼントに視線を落とせば、そのリボンに飾られたサーフボードのキーチェーンが揺れた気がした。
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