えんだんよせあつめ
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なんだか熱っぽいな、と思ったら何故だかすぐに気付かれて布団に閉じ込められた。うちの人たちは俺が寝ているすぐ隣に陣取ると口を揃えて、頑張りすぎだと怒る。それからおれが寝るまで見張ると言って座布団にごろんと転がりだした。ちょうど日差しが心地よい。どうやら幸せな昼寝時間になりそうだ。
***
村の人からハンカチーフを頂いた。お出かけする時に使おうと思ったけど、薄手で白いものだったから頭にのせて…ヴェールみたい?と縁側の陽太郎に見せた。彼は私を手招きして呼ぶと、白い布を捲って言う。本番のあなたはもっと綺麗なんでしょうね。そして額にちゅ、と口付けを残して畑に戻っていった。
***
虎が嬉しそうに私を呼ぶ。小さな手で静かに来いの仕草。何かなとそっと近付くとそこには寝ている陽太郎の姿。髪に沢山の花を飾られている。これよく気付かなかったな。私の気配でようやく目を覚ました彼は慌てて起き上がる。その頭には豪華な花冠。かわいい。虎のいたずらに私は声を出して笑った。
***
夜明け。虎が泥だらけで帰ってくる。最近不審な動きをしている。何をしてるんだと次の夜に虎を追うと森を抜けた山の中腹で一心不乱に穴を掘っている。どんどん深さを増す穴をなんとか覗き見るとそこには無数の目が見えた。おれが驚き声を上げると、気付いた虎は言った。「次はお前だーー!」
*
とか、どうですか?と話す陽太郎に白目を剥いて倒れている虎。
今日も平和だな。
***
雨が降ってる。洗濯物は明日にして畑仕事も今日はお休み。家の中でもやることは沢山あるけど、たまにはのんびり過ごしたい。だけど陽太郎は本とにらめっこ。真面目で勤勉なとこも好きだな、とよく見ると読んでいるのは「シチュウの作り方」。食べたいって言ったの覚えててくれた。やっぱり好きだな。
***
雨が降ってる。うちの人は虎が退屈しないようにとねこじゃらしを持ってきた。すぐに反応した最強の怪モノはそれに弄ばれながら蕩けるような顔をしている。あの顔を見ると嬉しくなると言ううちの人に同意しながらおれは立ち上がる。今日は特別にけぇきを作ろう。虎の顔みたいな蕩ける様な蜂蜜をかけて。
***
なんだか疲れたなと思ったら今日はずっと下を向いた同じ作業だった。お風呂に入ってもいまいちスッキリしなくて首を回してたら陽太郎が揉んでくれるって。ちょっと緊張しながらお願いしたら、優しい手つきなのにとても力強い。畑は力仕事。いつも頑張ってるもんね。次は私が陽太郎を揉んいたたたたた
***
並んで歩く村からの帰り道。夕日が綺麗で胸がいっぱいになって、思わず陽太郎の手を取る。恋や愛よりもっと大きな感謝を、あなたがいてくれる事の嬉しさを伝えたくて、でも言葉にならなくて。なのにちゃんと握り返してくれるその手が、わかっていますと言ってくれるから夕日がもっと綺麗に見えるよ。
***
陽太郎が手をグーにして私に突き出す。何が入ってると思いますか、って。んー、キャラメルかなぁ?「あなたが開けてください」と言われてそっと彼の手を開いたけど何も入っていない。不思議に思った瞬間、彼は私の手首を優しく捉えて「おれの手には、あなたが入っていました」と、いたずらに笑った。
***
用もないのに彼の名前を呼ぶ。呼んだだけ、って言っちゃうけど本当は。きっとあなたの名前と一緒に大好きの気持ちも届けたいからたくさん呼んでしまうんだ。私の呼びかけに陽太郎はいつも春のひだまりみたいに笑ってくれる。まるで想いを返してもらったみたいで嬉しい。あなたがいる。なんて幸せ。
***
しとしとと降る雨に畑に行けなくて残念そうな彼。なんとなく二人で縁側に腰掛けている。私はこの時間が好き。葉を濡らす音、地面に雫が跳ねる音。彼の鼓動が伝わる距離で二人きり、雨の中に閉じ込められたみたいでしょ?私はなんだか急に彼の体温が欲しくなって、陽太郎の肩に体を預けて目を閉じた。
***
寝付けないのかと心配してくれる陽太郎に、私は返事ができなかった。眠る瞬間が怖いなんてどう伝えたらいいんだろう。形容しにくい気持ちを持て余して言葉に詰まったら、困った人ですね、我慢しすぎですと頭を撫でてくれた。涙が溢れそうな位の安心感と彼のぬくもりが一緒だから今夜は何も怖くないね。
***
少しお寝坊をした朝。縁側へ向かうと陽太郎はもう配達から戻っていた。ぼんやりとした頭のまま、おはよう、と笑う彼の胸に飛び込んだ。距離を0にすることを許されている私の特権。嫌な夢を見た時もここにいれば大丈夫。あったかい心音と大きな手に満たされた私は、おはよう!と笑顔で今日を始める。
***
好きになった人が好きと話したことがあるのに、雑誌に写る人物を褒めたら目の前の彼は少しご機嫌斜めで、こういうのが好みなのかと聞いてきた。「私の好み?優しくて誠実で陽太郎っていう名前の人」正直に答えたら、背を向けた彼の耳が真っ赤だから、私の好みに「かわいい人」も追加しようと思った。
***
虎を呼ぶ。虎おはよう、虎ご飯だよ、ちゃんと拭いて虎!いつものやり取りな筈なのに隣には少しむくれた陽太郎。おれのことは呼んでくれないんですかって完全に拗ねている。珍しい。確かに今日は畑と台所だったもんね。月明かりの縁側で、抱えきれない程の愛を込めて彼の名前を呼ぶ。夜更しはこれから。
***
眠れなくて夜更しのお誘いをしてみたら、陽太郎は困った人ですねと一言。けどその目は私に一直線で、困ってるようには到底見えない。私は「無理ならいいの」と拗ねたふりをしたら温かい大きな手で私を撫でながら「本当はおれから誘おうと思っていました」って。私は今日も彼の優しさに包まれている。
***
陽太郎が犬になった。…うん、まぁ怪モノがいる世界だもん、そんなこともあるよね。とりあえず保護をする。ふわふわしてこちらを見上げる姿がかわいいけど、なんだか心配そうにしているね。私、不安そうにしてたかな?どんな姿でも私を気遣う所は変わらない彼に、やっぱり好きだなって思い直した。
***
曇天。やる気が起きないなくて縁側で足をぶらぶらさせる。陽太郎は畑仕事、虎は散歩。何もしたくない私。これじゃダメだな。ふと、遠くから私を呼ぶ声がして顔を上げれば虎を肩に乗せた陽太郎が歩いてくる。曇り空なのにそこは陽だまりみたいで。動かなかった体が自然に走り出す。私の太陽に向かって。
***
二人から仕掛けられたイタズラにおれは心を鬼にして言う。「二人とも今日のおやつは無し」そういうとまるでこの世の終わりのような顔をするから鬼にしたはずの気持ちがすぐに緩んでしまう。しょんぼりと反省している姿に、鬼はお休みしておやつの代わりの生姜湯を用意する。蜂蜜をたっぷり入れて。
***
陽太郎の手を取る。大きい。畑仕事を頑張ってる、節ばった、なのに綺麗な手。私はこの手が大好き。美味しいご飯も私を不安から救い上げてくれるのも、優しく叱ってくれるのも全部この手。不思議そうにこちらを見る彼に「いつもありがとう」って伝えたら「こちらこそ」って大好きな手で撫でてくれた。
***
もう何度陽太郎に救われたかわからない。頑張らなきゃって少し無理をしていても直ぐに見つかって、ちゃんと休んでと笑う。春だけじゃない、夏も秋も冬だって。いつもあなたの笑顔と手の暖かさが私を、心を守ってくれてる。ありがとう、じゃ足りないよ。私の溢れ出る気持ちを表す様に、庭の桜が舞った。
***
頼まれた慣れない机仕事。陽太郎がお茶を淹れてくれた。私が、もう少しと作業を続けていると後ろからそっと目を塞がれる。突然視界が無くなって動揺したら、耳元で無理はだめ、休憩しませんかと吐息混じりの声がした。おれの事も見てください、の追撃に私は彼との時間を選ぶ以外の選択肢が無かった。
***
ふと我にかえる。あ、疲れた。私はすぐに彼の気配を探る。忙しいかな?でも。縁側で作業をしている陽太郎の後ろから思いきりしがみつく。前触れもなかった筈なのに彼は全く驚かないから不思議に思ったら「足音がしたので」とくすくす笑う。釣られて笑えばいつの間にか疲れた気持ちは無くなっていた。
***
いいですか、と陽太郎が言う。調子が悪い時は早く寝てくださいって。私は平気なのに、夜の縁側で過ごす時間が好きなのに。黙り込んだ私を彼は困り顔で撫でながら、代わりに1つ願いを叶えますからなんてあやす様に言い出す。それなら。「一緒に寝て」と賭けに出る。まだ離れたくないと伝わったかな。
***
逃げる虎を追う。作業材料を持って行かれた。遊んでほしいのかぴょんぴょんと軽快に走る虎に少し本気を出そうとした時、虎が勢い良く襖を開けた。そこに居たのは着替え中のおれの好きな人。すみません!と我ながら俊敏な動きで方向を変える。顔が熱いのは仕方ないだろ。今日の夕食はニラ御膳に決めた。
***
村の用事を終えて帰ろうとしたら通り雨。やむまでと軒下でただその音に耳を澄ます。陽太郎心配してるかな。遠く私を呼ぶ声に視線を上げると傘を持った彼が見えた。嬉しくて雨の中走り出した私を彼が慌てて傘に入れる。結局濡れた私を見て困った人ですね、と笑うその手には使われない私の傘があった。
***
村の青年にお花を貰ったと見せたら陽太郎は渋い顔。貰っただけ?っていつもより低い声で問われて驚いた。私の手から花を取り上げながら反対の手で抱きしめられる。「これは没収です」と耳元で囁かれたから、いいよと彼の背中に手を回す。満足気な彼の声がしたけど、結局何の花かは教えてくれなかった。
***
村のご婦人に端切れを沢山頂いた。二人に何か贈りたい。考えながら縁側で生地を広げていたら、いつの間にか隣にいた陽太郎がこれください、とその中の1枚を取って部屋に戻っていった。翌日、彼が私の髪につけてくれたのは春色の可愛いリボン。陽太郎の色だと喜べば、彼は照れながら破顔一笑していた。
***
桜が散ったら次は新緑の季節がやってくる。巡る四季を大切に過ごせるサカモトが私は好きだ。思い返せば陽太郎と虎との暮らしは笑顔が増えるばかりで、幸せを沢山もらってるんだ、と自然と涙が溢れて。そうだ、今日はご馳走を作ろう。思い出話をしよう。二人に感謝を伝えたくなって、私は日記を閉じた。
***
押入れの片付けをしていたらたくさんの本が出てきた。陽太郎のお母さんが好きだった恋愛小説に混ざって薄い覚書。拙い字で一生懸命書いてあるそれは彼の家族の名前だった。私はそれをそっと胸に抱えて、そろそろ畑から戻る陽太郎に見せることにした。私と虎の名前も一緒に書いて欲しいと伝えるために。
***
毎日一緒なのに夜ふかしができない日はやっぱり残念で。縁側で彼女の髪に口付ける。様子を窺うと照れながらもどこか嬉しそうにしてくれるから、そのまま髪を耳にかけて頬にもお休みの挨拶をする。すると彼女もおれに口付けをくれて甘やかな雰囲気のままおやすみ、と笑う。うん、おやすみ。また明日。
***
彼女はちゃぶ台に肘をつき組んだ指を口元に当て、眉間に皺を寄せた真剣な目でおれを見ている。ただならぬ雰囲気に思わず体を正す。どうしたのかと話を聞こうとした時「…堪らない」と声がした。「陽太郎の…肩甲骨が見たくて堪らない…」とゆらりと立ち上がる彼女に、逃げる場所はなさそうだと悟った。
***
縁側に人影が3つ。村の子供がうちの人を挟んで遊んでいる。すると突然自分の方が彼女を好きだと奪い合いが始まった。それは聞き捨てならない。参戦しておれが彼女を取り返せば、子供達は「陽太郎のバカー!」と悔しそうな顔で帰っていく。得意顔のおれに、彼女は少し呆れ気味に照れながら笑っていた。
***
この間春が来たと思ったのに、もう夏が手を振っている。陽太郎と虎とこのサカモトで暮らす日々が愛おしくて季節の流れが早く感じてしまう。縁側で新緑を眺めていたら「あっという間に夏が来そうですね」と笑う彼。同じことを考えていたんだと嬉しくなって彼を見れば、その瞳に浮かぶ私が色付いていた。
***
陽太郎と喧嘩をして縁側から逃げてきた。なんて本当は私が勝手に拗ねただけってわかってる。とぼとぼ歩く昼下がり、風が私の髪を撫でていく。それがまるで彼みたいに優しくて私はすぐに帰りたくなってしまった。うん、ちゃんと謝ろう。そう決めて風の行方を目で追えば私を探しに来た彼の姿があった。
***
撫でてもらうより手を繋ぐより、ただ名前を呼んでほしいだけの日がある。例えばこんな雨の夜。静かな雨が私を月闇へ誘っている気がしてしまうから。そんな時陽太郎はいつも私の隣りに居てくれる。何度も何度も私を呼ぶ声に冷えた心が熱を持って心臓が騒がしい。私はどうやって好きの気持ちを返そうか。
***
珍しく虎と言い争う陽太郎。右だとか左だとか聞こえてくるけど何だろうと耳を傾けていたら、どうやら私の膝枕の位置の取り合いをしていたらしい。なかなか決着がつかないから、私が虎をお腹にのせて陽太郎の膝枕で寝ることにした。満足そうな虎と眉尻を下げる陽太郎。うん、これは最高だな。
***
陽太郎のサイドアップ。急に反対の髪も耳にかけてみたい衝動に駆られた私は無言で彼の耳に手を伸ばす。そしたらそのまま手首を引かれて逞しい胸の中へ飛び込んでしまった。そう簡単に触らせません、と笑う彼に包まれてしまえば髪型はまた今度、と私はすぐに掌を返してその温もりを享受することにした。
***
流し素麺をしたいという私の希望で、陽太郎が竹を用意してくれた。ちょうどいい長さに切っていく姿がかっこよくて、ずっと見ていたいなってつぶやいた声が聞こえたみたいで、彼は竹を予定より切ってくれた。さすがに流し素麺には使い切れないから水羊羹でも入れようか、と笑いあう。夏はすぐそこだ。
***
朝から雨降り。私は彼と過ごす理由になる雨が好きだった。二人並んで同じ本を読む。いつもより近い距離にドキドキしてたら突然泥だらけの虎が襖を開けて入ってきたから心臓が飛び出すかと思った。どうやら鼠を追って外に出ちゃったみたい。一気に賑やかになる私達。毎日楽しい。明日は晴れるといいな。
***
陽太郎が作る生姜湯は蜂蜜がたっぷり入っていてとても甘い。だけど夜更しの時は少し甘さ控えめ。寝る前だからかな、と聞いてみたら「同じですよ」って笑う。不思議に思ってたら彼はそっと私の頬に手を添えて優しく見つめてくれる。その目の奥に熱を感じて、私はやっと理解した。彼が、甘すぎるんだ。
***
ひとくち食べてすぐに気付いた。こういう時は先手必勝。「ごめんねっ☆」きゅるんと片目を瞑って謝ってみる。朝ご飯の卵焼き、砂糖と塩を間違えた。珍しいですね、と笑いながら食事を続ける陽太郎…の隣には眉間に深いシワを寄せ、目を見開き牙を剥いた最強の怪モノの姿があった。ごめんて。
***
風のいたずらに、私の被っていた麦わら帽子を飛ばされてしまった。庭の桜の木に引っかかって背伸びしても届かない。虎を呼んで持ち上げたけどやっぱり少し届かない。最終手段で陽太郎を呼んでくる。陽太郎が私を持ち上げて、私が虎を持ち上げる。三重塔が完成した。帽子?はしごで取りました。
***
村の人からハンカチーフを頂いた。お出かけする時に使おうと思ったけど、薄手で白いものだったから頭にのせて…ヴェールみたい?と縁側の陽太郎に見せた。彼は私を手招きして呼ぶと、白い布を捲って言う。本番のあなたはもっと綺麗なんでしょうね。そして額にちゅ、と口付けを残して畑に戻っていった。
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虎が嬉しそうに私を呼ぶ。小さな手で静かに来いの仕草。何かなとそっと近付くとそこには寝ている陽太郎の姿。髪に沢山の花を飾られている。これよく気付かなかったな。私の気配でようやく目を覚ました彼は慌てて起き上がる。その頭には豪華な花冠。かわいい。虎のいたずらに私は声を出して笑った。
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夜明け。虎が泥だらけで帰ってくる。最近不審な動きをしている。何をしてるんだと次の夜に虎を追うと森を抜けた山の中腹で一心不乱に穴を掘っている。どんどん深さを増す穴をなんとか覗き見るとそこには無数の目が見えた。おれが驚き声を上げると、気付いた虎は言った。「次はお前だーー!」
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とか、どうですか?と話す陽太郎に白目を剥いて倒れている虎。
今日も平和だな。
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雨が降ってる。洗濯物は明日にして畑仕事も今日はお休み。家の中でもやることは沢山あるけど、たまにはのんびり過ごしたい。だけど陽太郎は本とにらめっこ。真面目で勤勉なとこも好きだな、とよく見ると読んでいるのは「シチュウの作り方」。食べたいって言ったの覚えててくれた。やっぱり好きだな。
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雨が降ってる。うちの人は虎が退屈しないようにとねこじゃらしを持ってきた。すぐに反応した最強の怪モノはそれに弄ばれながら蕩けるような顔をしている。あの顔を見ると嬉しくなると言ううちの人に同意しながらおれは立ち上がる。今日は特別にけぇきを作ろう。虎の顔みたいな蕩ける様な蜂蜜をかけて。
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なんだか疲れたなと思ったら今日はずっと下を向いた同じ作業だった。お風呂に入ってもいまいちスッキリしなくて首を回してたら陽太郎が揉んでくれるって。ちょっと緊張しながらお願いしたら、優しい手つきなのにとても力強い。畑は力仕事。いつも頑張ってるもんね。次は私が陽太郎を揉んいたたたたた
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並んで歩く村からの帰り道。夕日が綺麗で胸がいっぱいになって、思わず陽太郎の手を取る。恋や愛よりもっと大きな感謝を、あなたがいてくれる事の嬉しさを伝えたくて、でも言葉にならなくて。なのにちゃんと握り返してくれるその手が、わかっていますと言ってくれるから夕日がもっと綺麗に見えるよ。
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陽太郎が手をグーにして私に突き出す。何が入ってると思いますか、って。んー、キャラメルかなぁ?「あなたが開けてください」と言われてそっと彼の手を開いたけど何も入っていない。不思議に思った瞬間、彼は私の手首を優しく捉えて「おれの手には、あなたが入っていました」と、いたずらに笑った。
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用もないのに彼の名前を呼ぶ。呼んだだけ、って言っちゃうけど本当は。きっとあなたの名前と一緒に大好きの気持ちも届けたいからたくさん呼んでしまうんだ。私の呼びかけに陽太郎はいつも春のひだまりみたいに笑ってくれる。まるで想いを返してもらったみたいで嬉しい。あなたがいる。なんて幸せ。
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しとしとと降る雨に畑に行けなくて残念そうな彼。なんとなく二人で縁側に腰掛けている。私はこの時間が好き。葉を濡らす音、地面に雫が跳ねる音。彼の鼓動が伝わる距離で二人きり、雨の中に閉じ込められたみたいでしょ?私はなんだか急に彼の体温が欲しくなって、陽太郎の肩に体を預けて目を閉じた。
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寝付けないのかと心配してくれる陽太郎に、私は返事ができなかった。眠る瞬間が怖いなんてどう伝えたらいいんだろう。形容しにくい気持ちを持て余して言葉に詰まったら、困った人ですね、我慢しすぎですと頭を撫でてくれた。涙が溢れそうな位の安心感と彼のぬくもりが一緒だから今夜は何も怖くないね。
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少しお寝坊をした朝。縁側へ向かうと陽太郎はもう配達から戻っていた。ぼんやりとした頭のまま、おはよう、と笑う彼の胸に飛び込んだ。距離を0にすることを許されている私の特権。嫌な夢を見た時もここにいれば大丈夫。あったかい心音と大きな手に満たされた私は、おはよう!と笑顔で今日を始める。
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好きになった人が好きと話したことがあるのに、雑誌に写る人物を褒めたら目の前の彼は少しご機嫌斜めで、こういうのが好みなのかと聞いてきた。「私の好み?優しくて誠実で陽太郎っていう名前の人」正直に答えたら、背を向けた彼の耳が真っ赤だから、私の好みに「かわいい人」も追加しようと思った。
***
虎を呼ぶ。虎おはよう、虎ご飯だよ、ちゃんと拭いて虎!いつものやり取りな筈なのに隣には少しむくれた陽太郎。おれのことは呼んでくれないんですかって完全に拗ねている。珍しい。確かに今日は畑と台所だったもんね。月明かりの縁側で、抱えきれない程の愛を込めて彼の名前を呼ぶ。夜更しはこれから。
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眠れなくて夜更しのお誘いをしてみたら、陽太郎は困った人ですねと一言。けどその目は私に一直線で、困ってるようには到底見えない。私は「無理ならいいの」と拗ねたふりをしたら温かい大きな手で私を撫でながら「本当はおれから誘おうと思っていました」って。私は今日も彼の優しさに包まれている。
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陽太郎が犬になった。…うん、まぁ怪モノがいる世界だもん、そんなこともあるよね。とりあえず保護をする。ふわふわしてこちらを見上げる姿がかわいいけど、なんだか心配そうにしているね。私、不安そうにしてたかな?どんな姿でも私を気遣う所は変わらない彼に、やっぱり好きだなって思い直した。
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曇天。やる気が起きないなくて縁側で足をぶらぶらさせる。陽太郎は畑仕事、虎は散歩。何もしたくない私。これじゃダメだな。ふと、遠くから私を呼ぶ声がして顔を上げれば虎を肩に乗せた陽太郎が歩いてくる。曇り空なのにそこは陽だまりみたいで。動かなかった体が自然に走り出す。私の太陽に向かって。
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二人から仕掛けられたイタズラにおれは心を鬼にして言う。「二人とも今日のおやつは無し」そういうとまるでこの世の終わりのような顔をするから鬼にしたはずの気持ちがすぐに緩んでしまう。しょんぼりと反省している姿に、鬼はお休みしておやつの代わりの生姜湯を用意する。蜂蜜をたっぷり入れて。
***
陽太郎の手を取る。大きい。畑仕事を頑張ってる、節ばった、なのに綺麗な手。私はこの手が大好き。美味しいご飯も私を不安から救い上げてくれるのも、優しく叱ってくれるのも全部この手。不思議そうにこちらを見る彼に「いつもありがとう」って伝えたら「こちらこそ」って大好きな手で撫でてくれた。
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もう何度陽太郎に救われたかわからない。頑張らなきゃって少し無理をしていても直ぐに見つかって、ちゃんと休んでと笑う。春だけじゃない、夏も秋も冬だって。いつもあなたの笑顔と手の暖かさが私を、心を守ってくれてる。ありがとう、じゃ足りないよ。私の溢れ出る気持ちを表す様に、庭の桜が舞った。
***
頼まれた慣れない机仕事。陽太郎がお茶を淹れてくれた。私が、もう少しと作業を続けていると後ろからそっと目を塞がれる。突然視界が無くなって動揺したら、耳元で無理はだめ、休憩しませんかと吐息混じりの声がした。おれの事も見てください、の追撃に私は彼との時間を選ぶ以外の選択肢が無かった。
***
ふと我にかえる。あ、疲れた。私はすぐに彼の気配を探る。忙しいかな?でも。縁側で作業をしている陽太郎の後ろから思いきりしがみつく。前触れもなかった筈なのに彼は全く驚かないから不思議に思ったら「足音がしたので」とくすくす笑う。釣られて笑えばいつの間にか疲れた気持ちは無くなっていた。
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いいですか、と陽太郎が言う。調子が悪い時は早く寝てくださいって。私は平気なのに、夜の縁側で過ごす時間が好きなのに。黙り込んだ私を彼は困り顔で撫でながら、代わりに1つ願いを叶えますからなんてあやす様に言い出す。それなら。「一緒に寝て」と賭けに出る。まだ離れたくないと伝わったかな。
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逃げる虎を追う。作業材料を持って行かれた。遊んでほしいのかぴょんぴょんと軽快に走る虎に少し本気を出そうとした時、虎が勢い良く襖を開けた。そこに居たのは着替え中のおれの好きな人。すみません!と我ながら俊敏な動きで方向を変える。顔が熱いのは仕方ないだろ。今日の夕食はニラ御膳に決めた。
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村の用事を終えて帰ろうとしたら通り雨。やむまでと軒下でただその音に耳を澄ます。陽太郎心配してるかな。遠く私を呼ぶ声に視線を上げると傘を持った彼が見えた。嬉しくて雨の中走り出した私を彼が慌てて傘に入れる。結局濡れた私を見て困った人ですね、と笑うその手には使われない私の傘があった。
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村の青年にお花を貰ったと見せたら陽太郎は渋い顔。貰っただけ?っていつもより低い声で問われて驚いた。私の手から花を取り上げながら反対の手で抱きしめられる。「これは没収です」と耳元で囁かれたから、いいよと彼の背中に手を回す。満足気な彼の声がしたけど、結局何の花かは教えてくれなかった。
***
村のご婦人に端切れを沢山頂いた。二人に何か贈りたい。考えながら縁側で生地を広げていたら、いつの間にか隣にいた陽太郎がこれください、とその中の1枚を取って部屋に戻っていった。翌日、彼が私の髪につけてくれたのは春色の可愛いリボン。陽太郎の色だと喜べば、彼は照れながら破顔一笑していた。
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桜が散ったら次は新緑の季節がやってくる。巡る四季を大切に過ごせるサカモトが私は好きだ。思い返せば陽太郎と虎との暮らしは笑顔が増えるばかりで、幸せを沢山もらってるんだ、と自然と涙が溢れて。そうだ、今日はご馳走を作ろう。思い出話をしよう。二人に感謝を伝えたくなって、私は日記を閉じた。
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押入れの片付けをしていたらたくさんの本が出てきた。陽太郎のお母さんが好きだった恋愛小説に混ざって薄い覚書。拙い字で一生懸命書いてあるそれは彼の家族の名前だった。私はそれをそっと胸に抱えて、そろそろ畑から戻る陽太郎に見せることにした。私と虎の名前も一緒に書いて欲しいと伝えるために。
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毎日一緒なのに夜ふかしができない日はやっぱり残念で。縁側で彼女の髪に口付ける。様子を窺うと照れながらもどこか嬉しそうにしてくれるから、そのまま髪を耳にかけて頬にもお休みの挨拶をする。すると彼女もおれに口付けをくれて甘やかな雰囲気のままおやすみ、と笑う。うん、おやすみ。また明日。
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彼女はちゃぶ台に肘をつき組んだ指を口元に当て、眉間に皺を寄せた真剣な目でおれを見ている。ただならぬ雰囲気に思わず体を正す。どうしたのかと話を聞こうとした時「…堪らない」と声がした。「陽太郎の…肩甲骨が見たくて堪らない…」とゆらりと立ち上がる彼女に、逃げる場所はなさそうだと悟った。
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縁側に人影が3つ。村の子供がうちの人を挟んで遊んでいる。すると突然自分の方が彼女を好きだと奪い合いが始まった。それは聞き捨てならない。参戦しておれが彼女を取り返せば、子供達は「陽太郎のバカー!」と悔しそうな顔で帰っていく。得意顔のおれに、彼女は少し呆れ気味に照れながら笑っていた。
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この間春が来たと思ったのに、もう夏が手を振っている。陽太郎と虎とこのサカモトで暮らす日々が愛おしくて季節の流れが早く感じてしまう。縁側で新緑を眺めていたら「あっという間に夏が来そうですね」と笑う彼。同じことを考えていたんだと嬉しくなって彼を見れば、その瞳に浮かぶ私が色付いていた。
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陽太郎と喧嘩をして縁側から逃げてきた。なんて本当は私が勝手に拗ねただけってわかってる。とぼとぼ歩く昼下がり、風が私の髪を撫でていく。それがまるで彼みたいに優しくて私はすぐに帰りたくなってしまった。うん、ちゃんと謝ろう。そう決めて風の行方を目で追えば私を探しに来た彼の姿があった。
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撫でてもらうより手を繋ぐより、ただ名前を呼んでほしいだけの日がある。例えばこんな雨の夜。静かな雨が私を月闇へ誘っている気がしてしまうから。そんな時陽太郎はいつも私の隣りに居てくれる。何度も何度も私を呼ぶ声に冷えた心が熱を持って心臓が騒がしい。私はどうやって好きの気持ちを返そうか。
***
珍しく虎と言い争う陽太郎。右だとか左だとか聞こえてくるけど何だろうと耳を傾けていたら、どうやら私の膝枕の位置の取り合いをしていたらしい。なかなか決着がつかないから、私が虎をお腹にのせて陽太郎の膝枕で寝ることにした。満足そうな虎と眉尻を下げる陽太郎。うん、これは最高だな。
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陽太郎のサイドアップ。急に反対の髪も耳にかけてみたい衝動に駆られた私は無言で彼の耳に手を伸ばす。そしたらそのまま手首を引かれて逞しい胸の中へ飛び込んでしまった。そう簡単に触らせません、と笑う彼に包まれてしまえば髪型はまた今度、と私はすぐに掌を返してその温もりを享受することにした。
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流し素麺をしたいという私の希望で、陽太郎が竹を用意してくれた。ちょうどいい長さに切っていく姿がかっこよくて、ずっと見ていたいなってつぶやいた声が聞こえたみたいで、彼は竹を予定より切ってくれた。さすがに流し素麺には使い切れないから水羊羹でも入れようか、と笑いあう。夏はすぐそこだ。
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朝から雨降り。私は彼と過ごす理由になる雨が好きだった。二人並んで同じ本を読む。いつもより近い距離にドキドキしてたら突然泥だらけの虎が襖を開けて入ってきたから心臓が飛び出すかと思った。どうやら鼠を追って外に出ちゃったみたい。一気に賑やかになる私達。毎日楽しい。明日は晴れるといいな。
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陽太郎が作る生姜湯は蜂蜜がたっぷり入っていてとても甘い。だけど夜更しの時は少し甘さ控えめ。寝る前だからかな、と聞いてみたら「同じですよ」って笑う。不思議に思ってたら彼はそっと私の頬に手を添えて優しく見つめてくれる。その目の奥に熱を感じて、私はやっと理解した。彼が、甘すぎるんだ。
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ひとくち食べてすぐに気付いた。こういう時は先手必勝。「ごめんねっ☆」きゅるんと片目を瞑って謝ってみる。朝ご飯の卵焼き、砂糖と塩を間違えた。珍しいですね、と笑いながら食事を続ける陽太郎…の隣には眉間に深いシワを寄せ、目を見開き牙を剥いた最強の怪モノの姿があった。ごめんて。
***
風のいたずらに、私の被っていた麦わら帽子を飛ばされてしまった。庭の桜の木に引っかかって背伸びしても届かない。虎を呼んで持ち上げたけどやっぱり少し届かない。最終手段で陽太郎を呼んでくる。陽太郎が私を持ち上げて、私が虎を持ち上げる。三重塔が完成した。帽子?はしごで取りました。
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