パルマのおはなし
お名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「今日は誕生日だから。これを君に」
そう言ってなんの前触れもなくチアキくんが差し出したのは可愛いラッピングをされた小さな白い箱。ソファでふたり並んでワイングラスを揺らしていたときだった。
ぱちぱちと何度か瞬きをする。
今日は確かに誕生日だ。だけど私じゃない、チアキくんの誕生日。
先程まで、ささやかなバースデーパーティーと称した夕食を楽しんでいた気がする。チアキくんの好きなメニューだけを集めて、小さめのホールケーキに「チアキくんおめでとう」のプレートを乗せて、ろうそくを吹き消してもらって。それから、たくさん悩んで選んだ贈り物を渡したらくすぐったそうな笑顔で喜んでくれていた筈なんだけど。
「誕生日なのはチアキくんだよ?」
ふは、とこらえきれなかった声を出す彼を少しだけ睨んでみる。謎が謎を呼ぶ出来事に疑問だらけの顔をした自覚はあるけど、困惑している私を見て吹き出すのはひどいんじゃないかな、と目で訴えた。
「…ごめん。君がかわいくて、つい」
謝ってるようには見えないけど、今日はチアキくんの誕生日だし、かわいいと言われればまぁ悪い気はしないから寛大な心で私は彼を許す。それはそれとして、チアキくんからの贈り物の意味は依然として見当もつかなかった。
「……チアキくんの誕生日に。私に?」
だから確認するようにゆっくりと、今度は笑わずに答えてね、と言外に添えて彼の目をじっと見つめて質問をする。
「そう。俺の誕生日だから、君に」
チアキくんは手に持ったままの私宛の可愛い贈り物の金色のリボンを外していく。結局彼の答えは何もわからないまま、私は少し骨ばった長い指が1つずつラッピングを解いていく様子を見ていた。
まるでスローモーションのようにゆっくりと解放されていくその箱には、さらさらと控えめに輝くブレスレットが入っていた。
プラチナの細いチェーンが繊細で、だけど3連になっているそれは絶対に切れない意思を感じさせるもので、私は吸い寄せられるようにその輝きを手に取った。
「すごい……きれい……」
思わずこぼれた感嘆の声に、チアキくんが笑った気がしたけど全然彼の方を見る余裕もないくらい、私は手の中にある贈り物に心を奪われてしまっていた。
「君が俺のためにパーティーをすると言ってくれた日から色々考えていたんだ」
静かに話しながらチアキくんは私の手からブレスレットを掬い出して、そのまま左手首に付けてくれた。まるでシャラリと音がしそうな軽い付け心地は、オーダーメイドかもしれないと思うほど私に馴染んで目が離せなくなってしまう。
「何を考えていたの?」
そういえば、チアキくんの誕生日に私が贈り物をもらう理由をまだ聞いていなかったと思い出して、彼の話の続きを促す。
「…今までの俺の全部を受け入れてくれた、君のこと」
彼は私の手首をブレスレットごと両手で包み込む。落としていた視線を上げて私を見たチアキくんは困ったように眉尻を少し下げて微笑んでいた。
「俺は……わがままになった」
「チアキくんが、わがまま?」
全く覚えがない。私からすれば足りないくらいだ。普段は平気なのかもしれないけど時々悪夢にうなされていることを知っているから、眠れないとか寒いとか、何でももっともっと言って欲しいと思っているくらいなのに。
「そう。自分の誕生日に、ブレスレットを贈ってしまうくらいには、ね」
何故か自嘲気味に睫毛を伏せるチアキくんは、全然ピンとこない私の頭を撫でると小さくひとつため息を吐いた。
「よくわからないけど、こんなに素敵なプレゼント、私は嬉しい」
ありがとう、と一向にはっきりした答えをくれない彼を追求することを諦める。急がない。話したくなったら話してくれたらいいよ。だって私はずっとチアキくんと居ると決めているのだから。
チアキくんがくれたブレスレットを改めて見てみる。すると間接照明の緩やかな灯りにキラリと反射する宝石が付いていることに気がついた。
「あ…ガーネット」
既視感。いつかの島の収容所でチアキくんがくれたのもガーネットのブレスレットだったと思い出す。
その言葉が引き金になったみたいに、チアキくんは私を撫でていた手を腰へ流して自分の方へと思い切り引き寄せたから、私は勢いよく彼の胸へ倒れ込むような形になってしまった。チアキくんは気にすることなくそのまま私を抱き込んで、今度は大きく息を吐く。
「あの時とは…比べ物にならないくらいの気持ちを込めてる」
囁くようにつぶやいてから私の額にキスをしたチアキくんを見上げる。彼は視線だけで照れていることを表現できてしまう。多分彼自身もそれは自覚しているのだろう、ちらりと私を見たあとすぐに私の頭を抱えこむように抱きしめられてしまった。
「ねぇ、ガーネットのブレスレットを改めて贈ってくれた意味、教えてくれる?」
きっとここに、彼の「わがまま」の答えがあるんだと感じた私は、チアキくんの胸に埋もれながらも問いかけてみた。彼の想いをちゃんと知りたかった。なのに。
「…これから先も、君とずっと」
そうヒトコトだけ言うと、彼は熱い両手で私の頬を包んでキスをする。これ以上の質問は受け付けてくれなさそうだなと、私はほのかなワインの香りを受け入れることに集中することにした。
ブレスレットも、宝石も。それぞれに意味があって、そこにチアキくんの想いと、わがままだと言った彼なりの理由を重ねて贈ってくれたのは、二人の未来。
「これから」を望むことをわがままだなんて思わなくなるように、明日はチアキくんのアフターバースデーパーティーをしようと心に決めて、繰り返されるキスの合間に私は彼の目を見つめて言った。
「チアキくん、お誕生日おめでとう」
これからも、ずっと、ふたりで。
そう言ってなんの前触れもなくチアキくんが差し出したのは可愛いラッピングをされた小さな白い箱。ソファでふたり並んでワイングラスを揺らしていたときだった。
ぱちぱちと何度か瞬きをする。
今日は確かに誕生日だ。だけど私じゃない、チアキくんの誕生日。
先程まで、ささやかなバースデーパーティーと称した夕食を楽しんでいた気がする。チアキくんの好きなメニューだけを集めて、小さめのホールケーキに「チアキくんおめでとう」のプレートを乗せて、ろうそくを吹き消してもらって。それから、たくさん悩んで選んだ贈り物を渡したらくすぐったそうな笑顔で喜んでくれていた筈なんだけど。
「誕生日なのはチアキくんだよ?」
ふは、とこらえきれなかった声を出す彼を少しだけ睨んでみる。謎が謎を呼ぶ出来事に疑問だらけの顔をした自覚はあるけど、困惑している私を見て吹き出すのはひどいんじゃないかな、と目で訴えた。
「…ごめん。君がかわいくて、つい」
謝ってるようには見えないけど、今日はチアキくんの誕生日だし、かわいいと言われればまぁ悪い気はしないから寛大な心で私は彼を許す。それはそれとして、チアキくんからの贈り物の意味は依然として見当もつかなかった。
「……チアキくんの誕生日に。私に?」
だから確認するようにゆっくりと、今度は笑わずに答えてね、と言外に添えて彼の目をじっと見つめて質問をする。
「そう。俺の誕生日だから、君に」
チアキくんは手に持ったままの私宛の可愛い贈り物の金色のリボンを外していく。結局彼の答えは何もわからないまま、私は少し骨ばった長い指が1つずつラッピングを解いていく様子を見ていた。
まるでスローモーションのようにゆっくりと解放されていくその箱には、さらさらと控えめに輝くブレスレットが入っていた。
プラチナの細いチェーンが繊細で、だけど3連になっているそれは絶対に切れない意思を感じさせるもので、私は吸い寄せられるようにその輝きを手に取った。
「すごい……きれい……」
思わずこぼれた感嘆の声に、チアキくんが笑った気がしたけど全然彼の方を見る余裕もないくらい、私は手の中にある贈り物に心を奪われてしまっていた。
「君が俺のためにパーティーをすると言ってくれた日から色々考えていたんだ」
静かに話しながらチアキくんは私の手からブレスレットを掬い出して、そのまま左手首に付けてくれた。まるでシャラリと音がしそうな軽い付け心地は、オーダーメイドかもしれないと思うほど私に馴染んで目が離せなくなってしまう。
「何を考えていたの?」
そういえば、チアキくんの誕生日に私が贈り物をもらう理由をまだ聞いていなかったと思い出して、彼の話の続きを促す。
「…今までの俺の全部を受け入れてくれた、君のこと」
彼は私の手首をブレスレットごと両手で包み込む。落としていた視線を上げて私を見たチアキくんは困ったように眉尻を少し下げて微笑んでいた。
「俺は……わがままになった」
「チアキくんが、わがまま?」
全く覚えがない。私からすれば足りないくらいだ。普段は平気なのかもしれないけど時々悪夢にうなされていることを知っているから、眠れないとか寒いとか、何でももっともっと言って欲しいと思っているくらいなのに。
「そう。自分の誕生日に、ブレスレットを贈ってしまうくらいには、ね」
何故か自嘲気味に睫毛を伏せるチアキくんは、全然ピンとこない私の頭を撫でると小さくひとつため息を吐いた。
「よくわからないけど、こんなに素敵なプレゼント、私は嬉しい」
ありがとう、と一向にはっきりした答えをくれない彼を追求することを諦める。急がない。話したくなったら話してくれたらいいよ。だって私はずっとチアキくんと居ると決めているのだから。
チアキくんがくれたブレスレットを改めて見てみる。すると間接照明の緩やかな灯りにキラリと反射する宝石が付いていることに気がついた。
「あ…ガーネット」
既視感。いつかの島の収容所でチアキくんがくれたのもガーネットのブレスレットだったと思い出す。
その言葉が引き金になったみたいに、チアキくんは私を撫でていた手を腰へ流して自分の方へと思い切り引き寄せたから、私は勢いよく彼の胸へ倒れ込むような形になってしまった。チアキくんは気にすることなくそのまま私を抱き込んで、今度は大きく息を吐く。
「あの時とは…比べ物にならないくらいの気持ちを込めてる」
囁くようにつぶやいてから私の額にキスをしたチアキくんを見上げる。彼は視線だけで照れていることを表現できてしまう。多分彼自身もそれは自覚しているのだろう、ちらりと私を見たあとすぐに私の頭を抱えこむように抱きしめられてしまった。
「ねぇ、ガーネットのブレスレットを改めて贈ってくれた意味、教えてくれる?」
きっとここに、彼の「わがまま」の答えがあるんだと感じた私は、チアキくんの胸に埋もれながらも問いかけてみた。彼の想いをちゃんと知りたかった。なのに。
「…これから先も、君とずっと」
そうヒトコトだけ言うと、彼は熱い両手で私の頬を包んでキスをする。これ以上の質問は受け付けてくれなさそうだなと、私はほのかなワインの香りを受け入れることに集中することにした。
ブレスレットも、宝石も。それぞれに意味があって、そこにチアキくんの想いと、わがままだと言った彼なりの理由を重ねて贈ってくれたのは、二人の未来。
「これから」を望むことをわがままだなんて思わなくなるように、明日はチアキくんのアフターバースデーパーティーをしようと心に決めて、繰り返されるキスの合間に私は彼の目を見つめて言った。
「チアキくん、お誕生日おめでとう」
これからも、ずっと、ふたりで。
1/1ページ