えんだんのおはなし
お名前変換はこちら
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
つい数日前は少し外にいるだけで汗ばんでしまうくらいだったのに、今日は一気に寒くなって季節がひとつ、戻った気分。何かに羽織るもの欲しいなぁと箪笥をのぞき込んでみても、衣替えを終えたばかりのその中は夏服が出番を待っているだけだった。
自分を抱きしめるように両腕を組んで少しでも温まるよう擦って見るものの大した効果はなくて、私はとりあえず暖を取るために虎を探すことにした。
朝日はおやすみしている。厚い雲に覆われた空からはしとしとと雨が降り続く。梅雨空ってやつだ。雨は嫌いじゃないけど、衣替えした後に寒いのはやめてと、どこに向けたらいいかわからない気持ちを抱えたまま縁側に出る。寒い。今日はもう虎を抱えて部屋から出ないでおこうと踵を返した時、小さく足音が聞こえてきた。雨の音に紛れてだんだん大きくなるそれは、配達から戻ってきた陽太郎のものだった。
「陽太郎、おかえり!」
「はい、ただい……どうしたんですか?」
身体を縮こまらせている私を見て、陽太郎が心配そうな顔をする。荷物をおろして私を見上げている。縁側の上に立つ私と、地面に立つ陽太郎。見上げられるのはちょっと新鮮だな。
「羽織るもの、衣替えでしまっちゃったから寒くて」
正直に白状すれば、陽太郎は私の両手を掬い取って自分の手の中にすっぽりと包み込んでくれた。
「確かにだいぶ冷えてますね」
そういうと、彼は視線を落とし繋がれた手を見て少しだけ何かを考えたあとゆっくりと顔を上げる。その顔は何度か見たことがある。ちょっとこちらを試すようなときに浮かべる悪い笑顔だ。
「……陽太郎、何を考えたの?」
恐る恐る問いかけてみれば、悪い笑顔はスッと姿を隠し、気のせいだったのかな、と自分を疑うくらい何もなかったかのような優しい顔をして彼は言った。
「あなたを暖める方法を考えていました」
あんなに悪い顔で?
具体的にどんなことを考えたのか聞いてみたいような聞きたくないような。複雑な気持ちになったけど、変わらず繋がれたままの両手と、なんだか嬉しそうに私を見上げる陽太郎を見れば、暖めてもらう間もなく勝手に上がる体温で、もう寒さなんて感じなくなってしまっていた。
自分を抱きしめるように両腕を組んで少しでも温まるよう擦って見るものの大した効果はなくて、私はとりあえず暖を取るために虎を探すことにした。
朝日はおやすみしている。厚い雲に覆われた空からはしとしとと雨が降り続く。梅雨空ってやつだ。雨は嫌いじゃないけど、衣替えした後に寒いのはやめてと、どこに向けたらいいかわからない気持ちを抱えたまま縁側に出る。寒い。今日はもう虎を抱えて部屋から出ないでおこうと踵を返した時、小さく足音が聞こえてきた。雨の音に紛れてだんだん大きくなるそれは、配達から戻ってきた陽太郎のものだった。
「陽太郎、おかえり!」
「はい、ただい……どうしたんですか?」
身体を縮こまらせている私を見て、陽太郎が心配そうな顔をする。荷物をおろして私を見上げている。縁側の上に立つ私と、地面に立つ陽太郎。見上げられるのはちょっと新鮮だな。
「羽織るもの、衣替えでしまっちゃったから寒くて」
正直に白状すれば、陽太郎は私の両手を掬い取って自分の手の中にすっぽりと包み込んでくれた。
「確かにだいぶ冷えてますね」
そういうと、彼は視線を落とし繋がれた手を見て少しだけ何かを考えたあとゆっくりと顔を上げる。その顔は何度か見たことがある。ちょっとこちらを試すようなときに浮かべる悪い笑顔だ。
「……陽太郎、何を考えたの?」
恐る恐る問いかけてみれば、悪い笑顔はスッと姿を隠し、気のせいだったのかな、と自分を疑うくらい何もなかったかのような優しい顔をして彼は言った。
「あなたを暖める方法を考えていました」
あんなに悪い顔で?
具体的にどんなことを考えたのか聞いてみたいような聞きたくないような。複雑な気持ちになったけど、変わらず繋がれたままの両手と、なんだか嬉しそうに私を見上げる陽太郎を見れば、暖めてもらう間もなく勝手に上がる体温で、もう寒さなんて感じなくなってしまっていた。