えんだんのおはなし
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私は気付いていたんだ。
陽太郎は春の陽だまりみたいで、人に好かれるというか、不思議とみんなが集まるような、そんな魅力もある人だから。女の子たちに人気があるのもわかってた。幼馴染の気軽さっていいな、なんて私も話に混ぜてもらいながら陽太郎の昔の話を聞かせてもらったりして楽しく過ごしていたのだけど。
気軽なはずの幼馴染たちの中に、陽太郎への本気の視線があることを。本当は気付いていたんだ。
気付かないふりをしていたのは、陽太郎がそういう好意的な意識にちょっと鈍感で、何より私のことを大事にしてくれていることを知っているから。陽太郎に向けるものとは真逆の、底冷えするような視線を感じることはあったけど、実害も何もないから受け流せばいいかなと思っていて。だから陽太郎に差し入れに行こうと歩いていた畑に続く道から、幼馴染のひとりが陽太郎へ直接迫っているのを見て私はひどく動揺してしまった。
本気だったもんなー、なんてぼんやりと思いながら畑に寄らずにふわふわした足取りのまま家に帰ったら、虎が「おばけかと思った」なんて失礼なことを言っていたから、グリグリとちょっとだけ強めになでてあげた。
畑から泥だらけで帰ってきた陽太郎と一緒に虎をお風呂に促して、夕ごはんの用意をしながらも今日見た光景が頭にこびりついて離れなくて。
お風呂から上がった陽太郎たちと一緒にご飯を食べていたはずなのにあまり覚えていないまま今度は私がお風呂に入るようすすめられていた。
陽太郎が心配そうに見ていた気がするけど、それもなんだかおぼろげで、自分が思っているより衝撃的な出来事だったんだと思い知る。
お風呂から上がったら、陽太郎になんて言おう。やっぱり何か言ったほうがいいのかな。今日私がぼんやりしていたこと、きっと聞いてくる筈だもの。
のぼせないうちにお風呂から出ることに成功した私は髪を乾かしながら縁側に向かう。
陽太郎にはきっと、嘘やごまかしが通じない。いつだって私の目をまっすぐ見てくれるから。
縁側に陽太郎が座っている。
見慣れたはずの後ろ姿なのに、静かな月明かりに照らされていると神聖な感じがしてくるから不思議だな。
今、彼は何を考えているんだろう。
今日は彼女と何を話したの?なんて答えたのかな。月を見上げながら、ねぇ、私のこと想ってくれている?
なんだか急にいてもたってもいられなくなって、縁側まで走り出した私は、陽太郎がこちらを振り向く前にその首の後ろから手を回してぎゅっと力を込めた。抱きしめるじゃなくて、抱きつく、になってしまったけれどこの際何でも良かった。陽太郎が何か言ってる気がするけど、今は聞こえないふりをさせてね。
今日は静かな夜だな。陽太郎の心臓の音が聞こえてくる。後ろから抱きついたまま、ただ陽太郎の音を聞いていると、ついさっきの焦燥感が治まって、代わりに安心感に包まれてる気がしてきて、ふと、子供体温だからみんなが湯たんぽ代わりにするんです、なんて笑って言う彼を思い出す。そうだ、陽太郎は女の子だけじゃなくてみんなから慕われてるんだったなぁなんて微笑ましくなった。
でもね、陽太郎の身体は湯たんぽよりもっともっと熱くなるんだよ。みんなは知らないだろうけど。私は知っている。これは私だけが知っているんだから。
そこまで考えたところで、あぁそうか、私はきっとちょっとだけ悔しかったんだと気付いた。
私の知らない時代の陽太郎のことを教えてくれるのは嬉しいし楽しいのだけど、本当はその思い出に私がいないことが残念で、自慢げに聞こえてしまうことがあったりして。
だから陽太郎の子供時代を知る村の人や、幼馴染、そこから飛び出そうとした彼女だって知らないことを私は知っているんだなって思ったらなんだか嬉しくなってついクスクスと笑ってしまった。
私がしっかり背中からくっついているせいで振り向くこともできないままの陽太郎が、どうしたんですか?って聞いてくるから、ちょっとだけヤキモチだったけど、もう良いのとだけ伝えてみたら、彼が一瞬固まったような気がしたけど、私はそれがおかしくてまた笑って。
なんだか陽太郎を独り占めできていることにいつもと違う幸せを感じてしまって、私も現金だなぁ、とどんどん熱くなる、誰も知らない私だけの体温をもっとしっかり抱きしめることにした。
陽太郎は春の陽だまりみたいで、人に好かれるというか、不思議とみんなが集まるような、そんな魅力もある人だから。女の子たちに人気があるのもわかってた。幼馴染の気軽さっていいな、なんて私も話に混ぜてもらいながら陽太郎の昔の話を聞かせてもらったりして楽しく過ごしていたのだけど。
気軽なはずの幼馴染たちの中に、陽太郎への本気の視線があることを。本当は気付いていたんだ。
気付かないふりをしていたのは、陽太郎がそういう好意的な意識にちょっと鈍感で、何より私のことを大事にしてくれていることを知っているから。陽太郎に向けるものとは真逆の、底冷えするような視線を感じることはあったけど、実害も何もないから受け流せばいいかなと思っていて。だから陽太郎に差し入れに行こうと歩いていた畑に続く道から、幼馴染のひとりが陽太郎へ直接迫っているのを見て私はひどく動揺してしまった。
本気だったもんなー、なんてぼんやりと思いながら畑に寄らずにふわふわした足取りのまま家に帰ったら、虎が「おばけかと思った」なんて失礼なことを言っていたから、グリグリとちょっとだけ強めになでてあげた。
畑から泥だらけで帰ってきた陽太郎と一緒に虎をお風呂に促して、夕ごはんの用意をしながらも今日見た光景が頭にこびりついて離れなくて。
お風呂から上がった陽太郎たちと一緒にご飯を食べていたはずなのにあまり覚えていないまま今度は私がお風呂に入るようすすめられていた。
陽太郎が心配そうに見ていた気がするけど、それもなんだかおぼろげで、自分が思っているより衝撃的な出来事だったんだと思い知る。
お風呂から上がったら、陽太郎になんて言おう。やっぱり何か言ったほうがいいのかな。今日私がぼんやりしていたこと、きっと聞いてくる筈だもの。
のぼせないうちにお風呂から出ることに成功した私は髪を乾かしながら縁側に向かう。
陽太郎にはきっと、嘘やごまかしが通じない。いつだって私の目をまっすぐ見てくれるから。
縁側に陽太郎が座っている。
見慣れたはずの後ろ姿なのに、静かな月明かりに照らされていると神聖な感じがしてくるから不思議だな。
今、彼は何を考えているんだろう。
今日は彼女と何を話したの?なんて答えたのかな。月を見上げながら、ねぇ、私のこと想ってくれている?
なんだか急にいてもたってもいられなくなって、縁側まで走り出した私は、陽太郎がこちらを振り向く前にその首の後ろから手を回してぎゅっと力を込めた。抱きしめるじゃなくて、抱きつく、になってしまったけれどこの際何でも良かった。陽太郎が何か言ってる気がするけど、今は聞こえないふりをさせてね。
今日は静かな夜だな。陽太郎の心臓の音が聞こえてくる。後ろから抱きついたまま、ただ陽太郎の音を聞いていると、ついさっきの焦燥感が治まって、代わりに安心感に包まれてる気がしてきて、ふと、子供体温だからみんなが湯たんぽ代わりにするんです、なんて笑って言う彼を思い出す。そうだ、陽太郎は女の子だけじゃなくてみんなから慕われてるんだったなぁなんて微笑ましくなった。
でもね、陽太郎の身体は湯たんぽよりもっともっと熱くなるんだよ。みんなは知らないだろうけど。私は知っている。これは私だけが知っているんだから。
そこまで考えたところで、あぁそうか、私はきっとちょっとだけ悔しかったんだと気付いた。
私の知らない時代の陽太郎のことを教えてくれるのは嬉しいし楽しいのだけど、本当はその思い出に私がいないことが残念で、自慢げに聞こえてしまうことがあったりして。
だから陽太郎の子供時代を知る村の人や、幼馴染、そこから飛び出そうとした彼女だって知らないことを私は知っているんだなって思ったらなんだか嬉しくなってついクスクスと笑ってしまった。
私がしっかり背中からくっついているせいで振り向くこともできないままの陽太郎が、どうしたんですか?って聞いてくるから、ちょっとだけヤキモチだったけど、もう良いのとだけ伝えてみたら、彼が一瞬固まったような気がしたけど、私はそれがおかしくてまた笑って。
なんだか陽太郎を独り占めできていることにいつもと違う幸せを感じてしまって、私も現金だなぁ、とどんどん熱くなる、誰も知らない私だけの体温をもっとしっかり抱きしめることにした。