ものしんもの シリーズ
「嘘をついてたんだ…。
ずっと、君に。本当のことは怖くて言えなかった。」
そう話す物間寧人と言う少年は、自身の足元の人達に目もくれず、ただ目の前にいる俺の顔をじっと見ている。その目には何も写ってなくて、ただただ深く暗い闇の中にあるように感じた。
「もの…ま?」
普段と違う雰囲気に俺は柄になく変に緊張してしまった。
上手く声が出せない。出すことも叶わない。物間の何も感じ無い目に吸い込まれるような気がして酷く怖く感じた。
「し、ん…そう。に…げろ」
物間の足元から聞こえるクラスメイトの声に
助けなきゃ
そう思うのに体が金縛りにあったかのように動けない。
なんでだよっ……どうして動けないんだ!
物間はそんなクラスメイトや俺の事を全く気にせずにまた話し出す。
「ごめんね。1番言わなきゃいけない事だったのに」
物間に伝えられた言葉と今まで俺を見ていた眼がゆっくりと伏せられた。
怖いほどゆっくり近寄ってくる物間は、俺の髪に触れようとしてくる。それすらも反応できないほどに俺は動けなかった。
息を吸うことすら忘れるほど静寂と化す空間に、俺と物間の出す音しか反射しないような気がした。
「どう…して。どうしてお前が!敵なんかに!!」
声に出してハッキリとする。ああ物間は敵なのか。敵……なのか。
「どうしてか……ねぇ心操くん。僕ね、実は両親が居ないんだ。あっ隠していた訳では無いよ?ただ聞かれなかったからさ…。ふふ彼らね僕を要らないってさ。真冬の寒い時期に薄着で外に出されてね、どこへでも行ってしまえって、確か8歳くらいの時かなぁ。そして捨てられた僕を助けてくれた人が居たんだ。その人は世間的には敵だった。でもさ助けてくれなかったヒーローや本当の家族なんかよりも、僕にとってとても大事な人で。だからその人の為に動きたいって思ってる。その為に僕は敵になったんだ」
物間は普段の煽り口調とは違う酷く落ち着いた物言いで静かに話す。一つ一つ紡ぐかのように
「あの時誰も…誰も助けてくれなかった。ヒーローも警察も…血の繋がった家族すらも。誰も誰も誰も誰も誰も!!!助けてなんてくれなかった!!!」
俺の知っている物間寧人という人は自分に自信があってひねくれ者で………
「あの人だけなんだ。僕を、僕自身を必要としてくれたのは」
俺の知ってる物間はいつも挑発するように不敵に笑っていて
「今からでも…こっちにこいよ!!」
考えている間に自然とそんな言葉を物間にかける。
「僕はもうヒーローにはなれないよ!!僕はもう罪を犯しすぎた。もう戻れない。後戻り出来ない」
物間は目を大きく開き、胸に手を当てて叫ぶ。その叫びは悲痛がこもっていて。
俺は…そんな物間は見たことがなかった。
「君と出会う前は、なんとも思ってなかった。実習のスケジュールを教えた事も、合宿先をバラしたことも何も思ってなかった。感じてなかった!やっと僕もあの人の為に役に立てるんだってそうすら思ってた。なのに、今、君といると胸がとても苦しいんだ。こんなの僕は知らない!
だから僕はもうここには居れない。居てはいけないんだ」
物間は言い切ったあと大きくはーっと息をつくそしてまた話し出す。今度は酷く落ち着いた声で俺を真っ直ぐみて
「僕はここに居ると僕じゃなくなる。だからここには居れない。
だからね…
さよならだ心操くん」
物間のその声には何も感じなかった
「君と過ごす時間はとても心地よかったんだ。でもねそれ以上に苦しかった。苦しかったんだ……。だからこそ僕はこの苦しさを捨てる。そして…僕はあの人の為に」
そういった物間の目はとても冷たかったように感じた。
やはり俺は動けなかった。
物間の手が俺の頬に触れようと伸ばされた時
「よけろ。心操!」
その言葉とともに俺の横を通ったのはよく見なれた白い包帯のようなもの。
そしてそれは物間の伸ばされた腕に絡みつく
「早いご到着のようで…イレイザーヘッド」
物間は手を上げたままいつもと同じ雰囲気でまた話し出す。
「随分と余裕だな。物間。」
「余裕に見えますか?プロヒーローに捕まっている僕を……それは嬉しい事ですね…っごほ」
物間が咳をすると同時に物間の口から黒い液体が出てくる
それはどんどんと物間自身を飲み込んでいこうとする中、物間は相澤先生の拘束を無視し俺の方に手をまた伸ばしてくる
相澤先生が何かを言っているがそれよりも
「ねぇ。心操くん。僕はね、君と居た時が1番…」
そう言って物間は消えた。
そしてその場に残ったのは物間を飲み込んだ黒い液体の泥臭さと自分だけでは拭いされないほどの大きな後悔と俺自身の叫び声だった。
どうしてあいつはいつも俺に
「あああああああああっ!!!!」
心操くん。僕はね、君と一緒に居た時が1番幸せだったんだ
叫びきった後物間が触れようとした頬にひとつの似合わない筋が走る。
俺もだよ。俺もお前と一緒に居た時が1番幸せだよ
*後書き
個人的になのですが物間くんは敵としてみんなの前に去る時に自身の一番大事にしてる人には後悔が残るように去っていくのではと思っていて。キャラクター紹介本で身内には甘いと書かれていた物間くんだからこそ
身内=自身にとって1番大事な人には自分の優しい姿を記憶に残して欲しいと思うのではないのかと(やられた側からすれば待つ全く優しくなどないけど)思い、最後には本心を告げて出ていくのではないのかと思いこんな感じの小説になりました。
恐らくこの物間くんは敵に行ったとしても最後には心操くんに助け出されると思っています。心操くんは1度心に決めたら強い子だと私は思っていて最後の言葉を聞いて、俺は物間が助けを求めているように聞こえたとかみんなに言い放って1人でも助けに行くと思います。
最後には拙い文書を最後まで読んでくださってありがとうございました
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