岩男腐向け短編まとめ
ブレス・ミー
フ、と意識が浮上する。
真っ黒だ。1ドッドの光無く、完全な黒であった。一面の視界を、便宜上の暗闇で塗りつぶされている……アイカメラからの信号がない、ということだ。
イヤーパーツも同様に、なんの情報も伝えてこない。完全なる静寂、閑散たる世界。台かなにかに横たえられていることは辛うじて理解できる。
任務でポカをやらかした。やらかさざるを得なかった。一番身軽で、支援役で、その場でダウンしてもミッションの遂行が滞らなさそうだったのが自分だけだった。味方を庇って中破して、気がつけばこれだ。
肘が動かない。膝も。起き上がることはおろか、首を回すことすらできないようであった。全身の感覚がおそろしく鈍い。
しかし一際敏感なハンドパーツの一部のセンサーだけはかろうじて反応を示した。
掴まれている気がする。右の手の平から、甲から、その両面から圧迫感を感じる。誰かが、己の手を握っている。両手で包んでくれているのではなかろうか。痛みはない、やさしい。けれども確と抱えこまれ、片時も離すまいとしている、意志ある握手であった。
(博士じゃない)
てっきり修理をされているのだと思っていた。違う。己の冷静なところが横から否定する。
主君ワイリーは、こんな、すがるような手つきはしない。もっとハッキリと、冷酷に、美しく、切り込むように強かに触れてくれるのだった。彼が己の故障を確かめているのではない。
ならば弟だ。きっとそうだろう。後輩ではないのだろう。ここまで広範囲に不具合を起こしている己に触れるのを許可されたなら、そうだろう。
両手がハンドパーツなのは誰だ?
デフォルトでそうなのはクイックだが、違う気がする。じいっと耐えるような、堪えるためといった触れ方は、せっかちな四男には向かないだろう。
嬉しそうにハンドパーツを使うのはクラッシュだ。彼ならもっと不器用だろう。柔く握り込んで包容することは、破壊魔の五男にはまだできない。
ああ、嗚呼……すぐに分かってしまった。こんな遠回りな証明をしなくとも、なんとなく直感に頼れるようであった。あるいは心のどこかで、そうであればいいと考えていた。
自分やクイックのような、うまれつきに鮮やかな両手捌きを羨んでいた、あの子の顔を。
一緒に映画を見て笑って。知育菓子を作って。油まみれの白衣を嫌な顔で洗って。そのためにわざわざバスターをハンドパーツに切り替えてくれた、いじけていじらしい、あの子の名前を。
「バブル」
心配してくれたのか?
残っているかも分からないマスクの下、痺れたくちびるを動かして、答え合わせを求める。自分の声がどのように出力されているのかさえ、壊れた聴覚センサでは判断できない。力を振り絞って手を握り返す。
フ、と指先に息がかかった。笑っているような気がした。
フ、と意識が浮上する。
真っ黒だ。1ドッドの光無く、完全な黒であった。一面の視界を、便宜上の暗闇で塗りつぶされている……アイカメラからの信号がない、ということだ。
イヤーパーツも同様に、なんの情報も伝えてこない。完全なる静寂、閑散たる世界。台かなにかに横たえられていることは辛うじて理解できる。
任務でポカをやらかした。やらかさざるを得なかった。一番身軽で、支援役で、その場でダウンしてもミッションの遂行が滞らなさそうだったのが自分だけだった。味方を庇って中破して、気がつけばこれだ。
肘が動かない。膝も。起き上がることはおろか、首を回すことすらできないようであった。全身の感覚がおそろしく鈍い。
しかし一際敏感なハンドパーツの一部のセンサーだけはかろうじて反応を示した。
掴まれている気がする。右の手の平から、甲から、その両面から圧迫感を感じる。誰かが、己の手を握っている。両手で包んでくれているのではなかろうか。痛みはない、やさしい。けれども確と抱えこまれ、片時も離すまいとしている、意志ある握手であった。
(博士じゃない)
てっきり修理をされているのだと思っていた。違う。己の冷静なところが横から否定する。
主君ワイリーは、こんな、すがるような手つきはしない。もっとハッキリと、冷酷に、美しく、切り込むように強かに触れてくれるのだった。彼が己の故障を確かめているのではない。
ならば弟だ。きっとそうだろう。後輩ではないのだろう。ここまで広範囲に不具合を起こしている己に触れるのを許可されたなら、そうだろう。
両手がハンドパーツなのは誰だ?
デフォルトでそうなのはクイックだが、違う気がする。じいっと耐えるような、堪えるためといった触れ方は、せっかちな四男には向かないだろう。
嬉しそうにハンドパーツを使うのはクラッシュだ。彼ならもっと不器用だろう。柔く握り込んで包容することは、破壊魔の五男にはまだできない。
ああ、嗚呼……すぐに分かってしまった。こんな遠回りな証明をしなくとも、なんとなく直感に頼れるようであった。あるいは心のどこかで、そうであればいいと考えていた。
自分やクイックのような、うまれつきに鮮やかな両手捌きを羨んでいた、あの子の顔を。
一緒に映画を見て笑って。知育菓子を作って。油まみれの白衣を嫌な顔で洗って。そのためにわざわざバスターをハンドパーツに切り替えてくれた、いじけていじらしい、あの子の名前を。
「バブル」
心配してくれたのか?
残っているかも分からないマスクの下、痺れたくちびるを動かして、答え合わせを求める。自分の声がどのように出力されているのかさえ、壊れた聴覚センサでは判断できない。力を振り絞って手を握り返す。
フ、と指先に息がかかった。笑っているような気がした。