short story

◼︎バニラパフェ

「セックスらしいですよ、俺と榊さんがしてるやつ」

 いきなり何を言ってんだ、と不審気な視線を投げかける榊に、
「ほらこれ、バニラ」
 と良太はスマホの画面を向けた。ゲイ向けかなにかの解説サイトのようだ。
 たいして興味もなさそうに一瞥した榊は、
「ふーん、いろんな用語があるんだな」
 と浅い感想を述べる。
「知ってました?」
「いや、知らないけど。バニラがなんだって?」
「えっとぉ」
 良太はそのページを読み上げる。
「…… 淡白であっさりしている、ありきたり、当たり障りのない、男性同士の挿入のない行為をバニラセックスといいます……だそうです」
 二人の間で前戯と称し睦み合っている行為が、まさにそれ。
「ただの抜き合いのことか」
「みたいっすね」
 とはいえ、と榊は訝しげに首を傾げる。挿入がないとしても良太との営みは「淡白であっさり」の範疇を越えている気がするのだ。それとも平凡なβだからこそ、αとの触れ合いをそう感じるのだろうか。
「そんなあっさりしてるか?」
 榊は自分と良太を交互に指し示す。
「で、やるとき」
「もしかして俺、執拗しつこいですかね、触りかたとか」
「嫌なら抵抗ぐらいする」
 それもそうかと良太は思った。不快なら殴られたりいろんなモノを潰されたりしているに違いないが、今まで攻撃をされた覚えはない。むしろ触れ合いを求めてくれている、ような気がする。
 性的な話題にも関わらず、榊はファミレスでメニューを選ぶかのような素っ気なさでこう言った。
「バニラパフェだな」
 どういう意味?と訊けば、お前との絡み合いは甘くて豪華だからパフェ、なのだそうだ。あの行為に否定的ならそんな例えは出てこないだろう。
 次からお誘いするときはパフェって言おうかな、今夜にでも──などと内心、良太は浮かれるがそれも束の間。
「あれもセックスってことはだな、今まで前戯だと思ってたやつが……」
 という榊の解釈で雲行きがあやしくなる。
「実は本番だったってことだろ」
「ん?そう……っすか、ね?」
「もうあれが本番ってことで」
 よくないか?と言い終わらないうちに良太が慌てて遮る。
「やっぱ違いますあれは本番の前にやるやつ!」
「でもバニラ”セックス”なんだろ」
「あれも気持ちいいし嬉しいし大事なことですけど」
「だろ?」
「その先があると信じて俺はやってきました!」
 あまりの必死さに榊は思わず笑ってしまった。可愛いやつだな、と良太を引き寄せて頬にキスをひとつ。優しくベッドへ誘えば軽々と抱え上げられてそのまま。

 今夜もバニラパフェ。


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