short story


◼︎ネクタイ

 晴れて榊とお付き合いすることになった良太は、間近に迫る榊の誕生日プレゼントをどうするか、悩みに悩んでいた。
 榊は明後日の桧村自動車の定休日にベッドを買いに行こうと誘ってくれた。
 これはチャンスか?
 日にちは少しズレるが、ベッドを買ってあげればそれが誕生日プレゼントということになるのでは?
 いや待て。
 榊さんが自分で買おうとしている品物の代金だけ支払ったところで、それはプレゼントとして見なされるものなのか?
 手抜きや適当だと思われたくはない。
 しかし手作りだとか、あまりに凝ったものでは逆に引かれる恐れがある。
 ここは「普通に」貰って嬉しいものの方がいい。
 なんせこの間付き合いはじめたばかりだ、ここは無難に。
 無難に……
 ……………………
 無難な誕生日プレゼントってなんだ?
 ケーキ?花束?時計?
 高級ななんかそういう、ホテルのフレンチレストラン的な店でディナー?
 そのあとはスイートルームとかいう部屋で、二人で夜景をバックに見つめあって、いい雰囲気になってそのまま熱く抱き合……
 いや待て!
 それは俺にとっての嬉しいプレゼントであって榊さんへのプレゼントじゃねー!
 どうすりゃいいんだ。
 分からない。
 恋人への誕生プレゼントが分からない!!
 ・
 ・
 ・
 そして桧村自動車の定休日、花園駅のバス乗り場にて。
 鳥居地区のショッピングモール行きのバスを待つ榊の前に、明らかに憔悴しきった良太があらわれた。
 聞けば、誕生日に何をプレゼントしたらいいものか悩みつくし、ロクに眠れていないのだという。
「もうどうしたらいいか、分かんねっす……」
 涙ながらに訴える良太に榊は呆れた。 
「いいよ今年は。来年に期待するからさ」
 案の定この言葉を受けた良太は、来年までは確実に一緒っすね!と回復した。

 その後、榊は良太と共にショッピングモールでベッドと寝具を購入し、良太の妹の働く店を過ぎ紳士服売り場に差し掛かったところで、ふと立ち止まる。
「なあ、誕生日プレゼントだけど、もしよかったらネクタイを選んでくれ。職場では基本スーツだから。べつに来年でもいいし」
 
 そして誕生日当日。
 某有名ブランドのすっきりとした清潔感あるデザインのネクタイが、良太から榊へとプレゼントされた。


 ネクタイを贈る意味──
 尊敬。
 あなたに首ったけ。
 あなたを、束縛したい。
 
 
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