Find a Way

◼︎ 番長の初仕事
 
 何事もなく花園地区の〔紅蘭〕で夕食を馳走になった神鏡は、榊の車で月輪高校へ送り届けてもらった。
 まだ帰宅していない定時の連中が出迎える。鈴鬼の様子を見に行かせた刀童も律儀に戻ってきていた。
「おお、ジン!」
「ジン、無事だったか」
「手こずったようだな、ま、しゃあねえか」
「小田桐麗子も出てきたんじゃな」
「鈴鬼なしで奴ら相手によくやった!お疲れお疲れ!」
 刀童が後ろにまわって神鏡の両肩を叩く。
「カッキーから会合のデータ送られてきてるぞ」
 カッキーとは花園四年の柿岡のことだ。幽銭はそう呼んでいる。
 どうやら神鏡が榊や良太と夕食をとっている間に、柿岡が録音を編集して送ってきていたらしい。
 まさか自分が月輪に戻る時刻と録音の編集が完了する時間を合わせるために食事に誘ったのか?と疑いたくなるほど、花園の連中は動きがぴたりとハマる。偶然なのだろうが、こうした連携が花園の結束の強さを物語っている。
「で、どうよ初めての花園は」
「どーもこうも無えよ。俺はレスバとかそういうのは苦手なんだよ」
「自分で乗り込んだんだろ」
「確かに」
「やるんだろ、αの護衛」
「やる。Ωばら撒いてる奴も探す。こっちの地区にいる他の組織にも情報回して、いや、直接言うこと聞かしに行くぞ。それから全日のガキの方もな」
「全日も?」
「ああ。まだ十五かそこらのガキをΩの餌食にはさせたくねえ」
「不純異性交遊は禁止ってか。風紀委員みてえだぞ」
 と幽銭が茶化す。
 幽銭はひと足さきに柿岡から送られてきた音声データを聞いている。その時の神鏡の口ぶりから察するに、どうもこいつはαとΩの〔つがい〕という関係に対して怒りや嫌悪のような感情を抱えているのではないか、という気がしていた。
 月輪に来る前に何かあったのか?と幽銭の情報収集癖が疼く。さては女関係だったりして、などと面白い予想をしてみる。
「ジンさあ、なんでそこまでこだわんの」
 この幽銭からの質問に神鏡はためらいもなく答えた。 
「故郷にいた友達ダチってのがな、Ωと番になってさ」
「うん」
「首吊って死んだ」
 なるほど、だから刀童に鈴鬼の様子を見に行かせる時に「首吊られてても嫌だし」と言ったのだ。親しい友人の死は、神鏡の心に消えない傷跡を残しているのだろう。
「番になるのはαとΩの幸福なんだって、世間ではみんなそう決めつける。でも俺は違う奴もいるって思ってた」
 月輪高校の校章が刻まれた壁の前に進み出た神鏡はその真下、畳を数枚重ねただけの玉座に胡座をかいた。これを合図に皆も各々腰を下ろす。
「そんで今日、花園に行って分かった。ヤバい毒薬でΩを避けようとした奴もいたし、ぶん殴られても番にはなりたくねえって奴もいた」
 確かに神鏡の言う通りで、αは必ずしもΩを望んでいるわけではなかった。そこのところが幽銭にはちょっとした驚きでもある。というのも、αにとってΩという存在は、自分たちβの男にとっての女みたいなものだと考えていたからだ。
 幽銭は女が好きだ。好みでなくとも女がいれば注目されたいし、知り合いたいし、モテたい。なのでαもまた、Ωに対してそのような好感を持ち得るものだと思っていた。それこそ〔番〕ともなればβの恋人や伴侶を捨ててさえ、一緒にいることを選ぶほどの魅力があるのだと。
 だが花園の桧村良太と栃綯とちない真里奈の発言は、その思い込みを否定するものだった。あまつさえ桜庭譲二は毒物を使ってまでΩとの交接を拒絶したという。
 彼らと同じ意思が月輪のαにもあったとするなら、鈴鬼や仙銅たちが誰一人として〔番〕を持っていなかったことも頷ける。硬派な鈴鬼はともかく、仙銅正彦やその配下の幹部たちは女関係が相当派手だったが、Ωと遊んでいたなんて情報は全く聞こえてこなかった。いくらこの辺りにΩが少ないとはいえ、雪城ゆきしろ地区にはΩが春をひさぐためにたむろする公園があったというではないか。Ωは珍しいというだけで、高嶺の花などではないのだ。
 ひょっとしてαにとってのΩは、βの男、少なくとも自分から見た女性とは全く違う存在なのか?と幽銭は勘付き始めている。
「ウチの全日にはαって何人くらい居んの?」
 神鏡が幽銭に訊ねる。
「俺の知る限りでは六人だな。明日ちゃんと調べてみるが」
「六人かぁ」
「こっちのガキどもはαもβもやんちゃ揃いだ。βにαを守らせるなんて、花園のお利口さんじゃあるまいし大人しく従いやしねえよ」
「どうやって言うこと聞かそっかな。あんま悠長なことやってらんねーし」
 神鏡にとって番長初仕事ともいえる今回の出来事は、全日制の子供をどうするかも含めてなかなか厄介な揉め事となるようだ。


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