Find a Way
◼︎終会
これまでに得た情報で柿岡は早々にαに護衛をつけることを決心した。
花園高校定時の仕切り役として下級生代表の梅津、柚木、梨本に言い渡す。
「梅津、柚木、梨本、お前らはこの後各クラスのαの人数と名前、それと行動範囲を聞き取って報告しろ。大まかでいい。少なくとも登下校の時は、αには数人の護衛を付ける。特に単車で来てないやつにはな」
四年の柿岡に指示された三人は、いつになく凛々しい面持ちでこれに返事をした。
「気を付けなきゃなんねえポイントは、番 になりたくないαを守るのが俺たちの目的であって、Ωをブチのめして駆除するのが目的じゃないってことだ。Ωが居ても無闇に危害を加えるな。常に発情してるわけでもないだろうしな。あくまでも発情したΩと、番を望まないαの物理的な距離を置く、それだけでいいんだ」
αの護衛がΩへの危害に転じないよう、柿岡は厳しい口調で言った。
「檸檬姐弩 の方はどうする?」
柿岡は栃綯に伺いをたてる。
同じ花園高校の生徒とはいえ、檸檬姐弩のメンバーは柿岡の采配では動かせない。彼女たちはほとんどが花園地区の出身だが、鳥居や月輪から来ている者も含まれている。ゆえに花園高校の代表者である柿岡が他地区の人間にあれこれ指示するとなると、領分を越えてしまうことになるのだ。協定を結んでいるとはいえ、過干渉は各地区との均衡が崩れてしまいかねない。
ただし檸檬姐弩の総長命令であればこの限りでは無い。これは小田桐麗子が総長を務めた時代からの規則であった。
「我々もそのつもりだ。花園、鳥居、月輪のメンバーには今回の件を広く知らしめる手筈を整え、情報収集も同時進行でいく。できれば地蔵地区と雪城地区の方にも注意喚起しておきたい。ただし桜庭さんと鈴鬼さんって人の個人情報は極力伏せる。しかし……フェロモンで性別を知ることができないβは、どうやってΩを見分けるんだ?」
なにしろこの辺は元々Ωの数が少ない上、数年前にJOKERに拉致されるなどしたものだから実物のΩを目にする機会はそうそう無い。しかも最近はβの若い女性の間でΩのように見せるファッションやメイク、整形や体型補正が流行っている。また、鈴鬼の前に現れたΩのように、老齢であった場合はさらに見分けが難しいだろう。
「Ωの外見的な特徴は?」
麗子の質問に答えたのは榊だ。Ωの少ない御磨花市を離れて県外の大学に行った榊は、そこで本物のΩを目にする機会が多かった。
「一番の特徴は、男女共に成人しても小柄であるということろでしょう。確か、身長は百四十センチから百五十センチくらいのはずです。顔つきは目が大きな人が多い印象を受けます。柏葉さんが言った通り、声は幼い子供のような高音。女性型であれば胸部と臀部 が非常に発達していて、男性型でも骨盤は大きい。そして大抵の場合、ネックガードを付けています」
「ネックガード、つまり首輪だね」
「そうです。番がいないΩは項 の部分を広く覆う硬質タイプの首輪で、αからの噛みつきを防いでいます。これが番持ちとなると、ほとんどアクセサリーのような洒落たデザインになるようですね。もう実用性を重視する必要がなくなるからでしょう」
榊の説明を聞いた柿岡が、
「なるほど特徴は、低身長で目がでかい、巨乳で巨尻、首輪してるんっスね」
と雑にまとめた。
「とりあえず俺らは、αの外出時には三、四人の護衛を付ける方向でやっていこうと思います。最低でも単独行動は控えてもらうっスわ。そんでΩのフェロモン抑制剤、これも性別関係なく持たせたいっスね。花高だけじゃなく、他の学校 の奴らにも情報を提供していきます」
花園地区には花園高校以外にもいくつか定時制を有する高校がある。幸い柿岡は、それらの連中とも上手く付き合いをこなしていた。
「で、問題は全日と中坊 の方っスね」
確かに柿岡は花園地区の、いわゆる不良を統率するような立場ではあるが、「まともな子供 」に関してはその手綱を握ってはいない。花園地区においては、普通のまともな子供のことは普通の大人に任せることにしている。
地区を跨いでの喧嘩も、子供同士の些細なやらかし程度ならば連合メンバーは首を突っ込まないし、また、連合に関わる争いに子供を巻き込まないのは暗黙の了解だ。
花園高校を含む各校の定時の連中にとって、全日の生徒や中学生などは不良といえども「まともな子供」の範囲内だった。
「花高の全日には俺の弟がいるんで、ソイツから情報を拡散させます。それでまあなんとか、子供 どもも対策してくれるといいんだが……」
柿岡に続くようにして榊が発言する。
「全日の方でしたら、私からも先生方に話をしてみましょう」
「助かります」
次に麗子も柿岡の案に協力を申し出た。
「この件、あたしもできる限り対策方法と情報を広めておくわ。現役ばかりに負担はかけられないからね」
「ありがとうございます」
良太や柏葉も麗子に倣って情報の拡散に努めると言う。花園の動き方はこれでほぼ決定だ。
「てなわけで、俺ら花園は犯人探しよりもαの護衛を中心にやっていくことになりましたけど、月輪のほうはどうします?」
すっかり大人しくしていた神鏡に柿岡が訊ねる。
神鏡と刃薊は、麗子と花園メンバーの受け答え、そのテンポの速さに舌を巻いていた。提供された知識や情報に対して疑いを持たず信用しきっているのも、彼らの信頼関係の強さを物語っている。
今回の件に対して早々に方向性を定めた柿岡や栃綯、協力を申し出た麗子や榊に対しても口を挟む余地すらなかった。月輪高校ではおそらく、こうはいくまい。
「俺らも……そうだな、多分、そっちと同じやり方で行くと思う」
歯切れのあまりよくない神鏡の言葉に、刃薊が黙って頷いた。
「じゃあ決まりっスね。今回録音したやつ、鳥居と地蔵に回す前に幽銭さん経由でそちらに送りますんで、後で確認してください」
なんかあったらよろしくお願いします、と潔く頭を下げた柿岡に、ああ、と生返事をした神鏡だった。
これまでに得た情報で柿岡は早々にαに護衛をつけることを決心した。
花園高校定時の仕切り役として下級生代表の梅津、柚木、梨本に言い渡す。
「梅津、柚木、梨本、お前らはこの後各クラスのαの人数と名前、それと行動範囲を聞き取って報告しろ。大まかでいい。少なくとも登下校の時は、αには数人の護衛を付ける。特に単車で来てないやつにはな」
四年の柿岡に指示された三人は、いつになく凛々しい面持ちでこれに返事をした。
「気を付けなきゃなんねえポイントは、
αの護衛がΩへの危害に転じないよう、柿岡は厳しい口調で言った。
「
柿岡は栃綯に伺いをたてる。
同じ花園高校の生徒とはいえ、檸檬姐弩のメンバーは柿岡の采配では動かせない。彼女たちはほとんどが花園地区の出身だが、鳥居や月輪から来ている者も含まれている。ゆえに花園高校の代表者である柿岡が他地区の人間にあれこれ指示するとなると、領分を越えてしまうことになるのだ。協定を結んでいるとはいえ、過干渉は各地区との均衡が崩れてしまいかねない。
ただし檸檬姐弩の総長命令であればこの限りでは無い。これは小田桐麗子が総長を務めた時代からの規則であった。
「我々もそのつもりだ。花園、鳥居、月輪のメンバーには今回の件を広く知らしめる手筈を整え、情報収集も同時進行でいく。できれば地蔵地区と雪城地区の方にも注意喚起しておきたい。ただし桜庭さんと鈴鬼さんって人の個人情報は極力伏せる。しかし……フェロモンで性別を知ることができないβは、どうやってΩを見分けるんだ?」
なにしろこの辺は元々Ωの数が少ない上、数年前にJOKERに拉致されるなどしたものだから実物のΩを目にする機会はそうそう無い。しかも最近はβの若い女性の間でΩのように見せるファッションやメイク、整形や体型補正が流行っている。また、鈴鬼の前に現れたΩのように、老齢であった場合はさらに見分けが難しいだろう。
「Ωの外見的な特徴は?」
麗子の質問に答えたのは榊だ。Ωの少ない御磨花市を離れて県外の大学に行った榊は、そこで本物のΩを目にする機会が多かった。
「一番の特徴は、男女共に成人しても小柄であるということろでしょう。確か、身長は百四十センチから百五十センチくらいのはずです。顔つきは目が大きな人が多い印象を受けます。柏葉さんが言った通り、声は幼い子供のような高音。女性型であれば胸部と
「ネックガード、つまり首輪だね」
「そうです。番がいないΩは
榊の説明を聞いた柿岡が、
「なるほど特徴は、低身長で目がでかい、巨乳で巨尻、首輪してるんっスね」
と雑にまとめた。
「とりあえず俺らは、αの外出時には三、四人の護衛を付ける方向でやっていこうと思います。最低でも単独行動は控えてもらうっスわ。そんでΩのフェロモン抑制剤、これも性別関係なく持たせたいっスね。花高だけじゃなく、他の
花園地区には花園高校以外にもいくつか定時制を有する高校がある。幸い柿岡は、それらの連中とも上手く付き合いをこなしていた。
「で、問題は全日と
確かに柿岡は花園地区の、いわゆる不良を統率するような立場ではあるが、「まともな
地区を跨いでの喧嘩も、子供同士の些細なやらかし程度ならば連合メンバーは首を突っ込まないし、また、連合に関わる争いに子供を巻き込まないのは暗黙の了解だ。
花園高校を含む各校の定時の連中にとって、全日の生徒や中学生などは不良といえども「まともな子供」の範囲内だった。
「花高の全日には俺の弟がいるんで、ソイツから情報を拡散させます。それでまあなんとか、
柿岡に続くようにして榊が発言する。
「全日の方でしたら、私からも先生方に話をしてみましょう」
「助かります」
次に麗子も柿岡の案に協力を申し出た。
「この件、あたしもできる限り対策方法と情報を広めておくわ。現役ばかりに負担はかけられないからね」
「ありがとうございます」
良太や柏葉も麗子に倣って情報の拡散に努めると言う。花園の動き方はこれでほぼ決定だ。
「てなわけで、俺ら花園は犯人探しよりもαの護衛を中心にやっていくことになりましたけど、月輪のほうはどうします?」
すっかり大人しくしていた神鏡に柿岡が訊ねる。
神鏡と刃薊は、麗子と花園メンバーの受け答え、そのテンポの速さに舌を巻いていた。提供された知識や情報に対して疑いを持たず信用しきっているのも、彼らの信頼関係の強さを物語っている。
今回の件に対して早々に方向性を定めた柿岡や栃綯、協力を申し出た麗子や榊に対しても口を挟む余地すらなかった。月輪高校ではおそらく、こうはいくまい。
「俺らも……そうだな、多分、そっちと同じやり方で行くと思う」
歯切れのあまりよくない神鏡の言葉に、刃薊が黙って頷いた。
「じゃあ決まりっスね。今回録音したやつ、鳥居と地蔵に回す前に幽銭さん経由でそちらに送りますんで、後で確認してください」
なんかあったらよろしくお願いします、と潔く頭を下げた柿岡に、ああ、と生返事をした神鏡だった。