Find a Way
◼︎ 榊とジン 3
待てよ、と良太が榊と神鏡の口論に割って入った。
「鈴鬼さんと譲 がαだって知ってた奴が一番怪しいなら、それは俺でなくちゃならねえ」
どういうことだ、と神鏡が鋭く聞き返す。
「榊さんは、いや榊さんだけじゃねえ、βはフェロモンで性別を知ることができないんだよ。でも俺はαだ。だから鈴鬼さんが俺と同じだってことは、随分前から知ってた」
この告白に神鏡だけではない、皆が良太に注目する。
「二番目の性別について俺や譲はともかく、鈴鬼さんに関しちゃ花園の皆はほとんど知らなかったはずだ」
良太の発言を受けて麗子が、そうね、と呟いた。彼女の同意はほんの少しであっても心強い。
「鈴鬼さんはな、お前ら月輪がどのαを頭に担げば損するか得するかって、派閥作ってゴチャゴチャしてんのが嫌だったんだよ。拳ひとつで頂点 取るために月輪に来たのに、蓋ァ開けてみればンな状態だ。俺と譲は、鈴鬼さんから派閥作りなんぞに関わりたくねえから黙ってろって口止めされてた」
だから一番怪しいのは俺だよ、と良太は言い切った。
間髪を入れずに榊が神鏡に問う。
「しかし京一さんの第二性を知っている人物を怪しいと見るのならば、以前月輪にいた仙銅一派は全員その疑いがあるということになりませんか。それについて何か情報は?」
かつて月輪地区一帯を実質支配していた仙銅正彦のチームが、αのみを構成員としていたことは周知であった。
この問いに神鏡は答えない、というより答えられない。神鏡に敗れた仙銅たちはすでに月輪高校を去っている。ナワバリに居ない彼らについて、新入りの神鏡はまともな情報を持っていないに等しい。
「京一さんと仙銅たちの間でなにか諍 いがあったという話は?」
榊は、神鏡よりも月輪高校に長く居るらしいと見て刃薊に視線を移す。
「あるっちゃあるが、噂 程度に聞いた話だ」
と前置きして刃薊は語り始める。
「仙銅正彦は確かに強かったよ、ガチ高に来る前は海外で格闘技やってたみたいだからな。でも他とトラブった時に率先してケジメつけたり、仲間を助けたりするような人間じゃなかった。金 にも汚えし、麻薬みてえなもんも捌いてた。女関係もだらしねえ。そんなんだから一派の中で、どこの派閥にも属さない鈴鬼さんを自分たちの新たなボスに担ごうとした奴らがいたそうだ。今思うと、鈴鬼さんがαだからってのが理由だったんだな」
「でも京一さんは拒否した?」
「そういうことになる。けどその話が仙銅に漏れてな。裏切り者ってことで制裁食らって、病院送りになった奴が何人かいる」
それを聞いて心当たりのある柿岡が反応した。
「あっ、片方の目ェ失明したやつがいたっていう?」
「それそれ。だからまあそのぉ、鈴鬼さんの性別知ってて尚且つ恨みがある人間となると、病院送りになった奴らが逆恨みしてんのかもしんねえし、仙銅は仙銅で鈴鬼さんに嫉妬して潰そうとしてたかもしれねえってことだ」
「仙銅が鈴鬼さんの情報を何者かに売った可能性は」
「いや、分かんねえ。仙銅達がガチ高からいなくなった後どうなったか、幽銭さんがそこんとこも含めて今回の件を調べてるんじゃねえかな。あとJOKER関係の方もな」
鈴鬼と仙銅一派は因縁があるということが分かったが、却って容疑者の範囲を拡大することになったのはいうまでもない。
「ちょっといいかな」
とここで軽く挙手をして麗子が意見を述べる。
「鈴鬼くんの情報がどこから漏れたかってことに関して言えば、本人が親しい人間に打ち明けたと考えるのが自然じゃないかな」
例えば恋人とかね、と麗子は言う。
いくら鈴鬼京一が第二性を隠していたとしてもごく親密な、それも性的な関係を持つに至った相手に対してであれば自ら性別を表明することは不思議ではない。
「鈴鬼くんに彼女がいた、なんて聞いたことある?榊くん」
「京一さんの恋人となると……いるかもしれませんが、聞いたことはありませんね」
鈴鬼と付き合いの深い榊が知らなければ、おそらく誰も知らないのが現実だ。
「それにね、JOKER関連でいえば、奴らの頭だった籬 唇遣 と部下の数人はいま刑務所 に入ってる。それで果たして鈴鬼くんや、抗争に参加していなかった世代の桜庭くんを発情したΩに襲わせろなんて、あれこれ細かい指示を出せるものかな。皆の意見を聞きたいね」
麗子は「皆の」と言うがその実、標的が神鏡であることは伝わるものだ。神鏡はそれを受けて立つ。
「できねーことは無いと思うけどな、俺は」
「そう」
「刑務所に居たって面会やら何やら、連絡手段はあるだろうが」
「確かにね」
神鏡の意見など誰でも知っている常識の範囲内だ。麗子は嘲弄することもなく、極めて寛容な態度でこれをいなし次の一手に出る。
「けど、仮に刑務所の中にいる籬 が娑婆 にいる仲間になにか指図して復讐するとしても、ウチらが標的にされるのは順番がもう少し後にならなきゃいけない」
「順番?」
これについて麗子の目配せを察した榊が説明する。
「JOKERを率いていた籬が逮捕された経緯というのが、仲間割れなんですよ。奴の部下が警察に情報を売ったんです。ですから復讐路線で考えるならば、まず初めに当時の組織内の裏切り者から始末されなくてはならない。もしも裏切り者への警告として先にこちらを狙ったのだとしても、奴らの残党が勘付けば海外にでも高跳びしてしまうでしょう。それだと却って復讐の相手を見失うことにもなりかねない」
「……その残党ってのは、今どーなってんだ」
神鏡の質問に答えたのは檸檬姐弩 の現総長、栃綯 だ。
「我々が現在把握している情報だと、奴らはこの御磨花市から隣県の怪可市 に拠点を移している。ただし籬ほどの商才はないらしい。せいぜいがところ借金で雁字搦 めにした女やΩを、違法風俗店で売春させている程度のようだ」
「その残党どもは、何かトラブったりは……」
「元から怪可市を根城にしている反社組織と小競り合いは頻繁に。消滅も時間の問題だという話はよく聞く」
これで神鏡がJOKERの復讐説にこだわる材料もほぼ無くなった。
待てよ、と良太が榊と神鏡の口論に割って入った。
「鈴鬼さんと
どういうことだ、と神鏡が鋭く聞き返す。
「榊さんは、いや榊さんだけじゃねえ、βはフェロモンで性別を知ることができないんだよ。でも俺はαだ。だから鈴鬼さんが俺と同じだってことは、随分前から知ってた」
この告白に神鏡だけではない、皆が良太に注目する。
「二番目の性別について俺や譲はともかく、鈴鬼さんに関しちゃ花園の皆はほとんど知らなかったはずだ」
良太の発言を受けて麗子が、そうね、と呟いた。彼女の同意はほんの少しであっても心強い。
「鈴鬼さんはな、お前ら月輪がどのαを頭に担げば損するか得するかって、派閥作ってゴチャゴチャしてんのが嫌だったんだよ。拳ひとつで
だから一番怪しいのは俺だよ、と良太は言い切った。
間髪を入れずに榊が神鏡に問う。
「しかし京一さんの第二性を知っている人物を怪しいと見るのならば、以前月輪にいた仙銅一派は全員その疑いがあるということになりませんか。それについて何か情報は?」
かつて月輪地区一帯を実質支配していた仙銅正彦のチームが、αのみを構成員としていたことは周知であった。
この問いに神鏡は答えない、というより答えられない。神鏡に敗れた仙銅たちはすでに月輪高校を去っている。ナワバリに居ない彼らについて、新入りの神鏡はまともな情報を持っていないに等しい。
「京一さんと仙銅たちの間でなにか
榊は、神鏡よりも月輪高校に長く居るらしいと見て刃薊に視線を移す。
「あるっちゃあるが、
と前置きして刃薊は語り始める。
「仙銅正彦は確かに強かったよ、ガチ高に来る前は海外で格闘技やってたみたいだからな。でも他とトラブった時に率先してケジメつけたり、仲間を助けたりするような人間じゃなかった。
「でも京一さんは拒否した?」
「そういうことになる。けどその話が仙銅に漏れてな。裏切り者ってことで制裁食らって、病院送りになった奴が何人かいる」
それを聞いて心当たりのある柿岡が反応した。
「あっ、片方の目ェ失明したやつがいたっていう?」
「それそれ。だからまあそのぉ、鈴鬼さんの性別知ってて尚且つ恨みがある人間となると、病院送りになった奴らが逆恨みしてんのかもしんねえし、仙銅は仙銅で鈴鬼さんに嫉妬して潰そうとしてたかもしれねえってことだ」
「仙銅が鈴鬼さんの情報を何者かに売った可能性は」
「いや、分かんねえ。仙銅達がガチ高からいなくなった後どうなったか、幽銭さんがそこんとこも含めて今回の件を調べてるんじゃねえかな。あとJOKER関係の方もな」
鈴鬼と仙銅一派は因縁があるということが分かったが、却って容疑者の範囲を拡大することになったのはいうまでもない。
「ちょっといいかな」
とここで軽く挙手をして麗子が意見を述べる。
「鈴鬼くんの情報がどこから漏れたかってことに関して言えば、本人が親しい人間に打ち明けたと考えるのが自然じゃないかな」
例えば恋人とかね、と麗子は言う。
いくら鈴鬼京一が第二性を隠していたとしてもごく親密な、それも性的な関係を持つに至った相手に対してであれば自ら性別を表明することは不思議ではない。
「鈴鬼くんに彼女がいた、なんて聞いたことある?榊くん」
「京一さんの恋人となると……いるかもしれませんが、聞いたことはありませんね」
鈴鬼と付き合いの深い榊が知らなければ、おそらく誰も知らないのが現実だ。
「それにね、JOKER関連でいえば、奴らの頭だった
麗子は「皆の」と言うがその実、標的が神鏡であることは伝わるものだ。神鏡はそれを受けて立つ。
「できねーことは無いと思うけどな、俺は」
「そう」
「刑務所に居たって面会やら何やら、連絡手段はあるだろうが」
「確かにね」
神鏡の意見など誰でも知っている常識の範囲内だ。麗子は嘲弄することもなく、極めて寛容な態度でこれをいなし次の一手に出る。
「けど、仮に刑務所の中にいる
「順番?」
これについて麗子の目配せを察した榊が説明する。
「JOKERを率いていた籬が逮捕された経緯というのが、仲間割れなんですよ。奴の部下が警察に情報を売ったんです。ですから復讐路線で考えるならば、まず初めに当時の組織内の裏切り者から始末されなくてはならない。もしも裏切り者への警告として先にこちらを狙ったのだとしても、奴らの残党が勘付けば海外にでも高跳びしてしまうでしょう。それだと却って復讐の相手を見失うことにもなりかねない」
「……その残党ってのは、今どーなってんだ」
神鏡の質問に答えたのは
「我々が現在把握している情報だと、奴らはこの御磨花市から隣県の
「その残党どもは、何かトラブったりは……」
「元から怪可市を根城にしている反社組織と小競り合いは頻繁に。消滅も時間の問題だという話はよく聞く」
これで神鏡がJOKERの復讐説にこだわる材料もほぼ無くなった。