Find a Way
◼︎ 発情Ω投下事件3
午後九時をまわった頃。
花園高校の定時制一年の梨本 は、校門前に見慣れない二つの影があることに気付いた。
「誰、あれ」
と友人達に聞いてみたが、知らないという。どうもこの高校の生徒ではなさそうだ。ここは花園一年として彼らの目的を聞きただし、先輩達に取り継ぐべきと考えた。一人では心許ないので何人か連れて行く。
「あんたら、誰か待ってんの?」
数人で取り囲む。たった二人に対して過剰ともいえる体制だが、相手の強さが未知数ならばこれくらい用心した方が得策だ。武器を持っている可能性もある。
「ん?ああ、終わったのね。花園高校って真面目に授業してるからびっくりしてさー、待機してたわけ。ここに榊って人いる?」
藍色の古びた羽織を肩にかけた青年が、拍子抜けするほど軽い調子で答えた。
「さかき?」
「そー、榊……なんだっけ?」
と羽織の男が神経質そうなスキンヘッドの方に聞くと、りゅうじ、と言う。
「さかき、りゅうじ」
梨本たちは聞いたことのない名だ。だがこれを、知らねえな、と無視しては後々面倒な事態に発展する恐れがある。
曲がりなりにも花園一年を束ねる梨本は、報告も兼ねて先輩の柿岡早人 に聞くのが一番早いと判断した。柿岡は定時を仕切っている四年生で、顔の広い男である。
後輩、梨本の知らせを受けて柿岡ら上級生がやってきた。
「お前、刃薊か!」
と柿岡がまず反応したのは眉のないスキンヘッドの男にであった。刃薊と呼ばれたその男とは知った仲らしい。また柿岡は「さかき、りゅうじ」なる人物についても心当たりがあるようだ。
彼ら上級生達は、羽織の男と刃薊を高校敷地内の中庭に案内した。
さっさと帰って最近ハマっているゲームに興じるつもりだった梨本は、架空の物語よりもこの現実の方に強く興味を惹かれた。ただならぬ雰囲気に背筋がぞくぞくする。これからきっと何かが起こる、そんな予感がする。
花園高校の総勢は各々のバイクや車の停められた中庭に集合し、距離を置いて柿岡と客人をとり囲む。
沢山の先輩達が一挙に集う光景を初めて目の当たりにした梨本は、なぜか武者震いして感激してしまった。さらに梨本の情動を揺さぶったのは、なんと客人の二人が「不良の天下一武道会」と称される月輪高校の定時に所属していたことだった。しかも羽織の男は番長の「神 」だという。憧れの存在だ。
柿岡と彼ら二人はドラム缶に燈された炎に照らされながら、中庭の中央で何やら会話をしている。柿岡はスマホを取り出し、誰かに連絡し始めた。
梨本ら一年の居る場所からでは話の内容を窺い知ることはできない。だが柿岡や刃薊の表情などから深刻な事態であることが予想される。一方でジンはどこか飄然としていた。王者の風格というやつだろうか。
夜に染まった街の向こうから数台の単車を駆る音が響く。此処、花園高校に近づいている。
バイクが三台、駐車場を過ぎてそのまま中庭に入ってきた。
レモンイエローのバイクに跨るのはシルエットから見て女性だ。彼女の後方には黒い大型バイクが二台続く。さらにその後には白いSUV。
花園高校に籍を置く〔檸檬姐弩〕現役の女達は緊張した面持ちで背筋を正す。総長の栃綯 真里奈が黄色のバイクから降りた女性の前に進み出、深く敬意を示して迎えた。その性格が少しきつそうで、どことなく狐を彷彿とさせる美女は栃綯達の先輩にあたる人のようだ。
黒の大型バイクから降り立ったのは大柄な二人の男だった。取り去ったヘルメットから表れた顔貌はいずれも二十代前半といったところで、一人は右頬に傷跡がある厳つい風体。もう一人はというと、これがまた男の梨本から見ても瞠目するほどの凛々しい男前であった。
やや後方に停められた白いSUVからも男が一人。最初その人を目にしたとき、梨本は何かのコスプレをした変な奴が来たのかと思ったのだ。衣服は白いYシャツにネクタイ、黒っぽいスラックスと普通のサラリーマンのようだが、銀色の長髪、色白の肌、通った鼻筋、切れ長の目を眼鏡が縁取り──とまるで二次元から抜け出たような「キャラクター」だったからだ。
驚くべきことに、この人が例の「さかき、りゅうじ」だった。月輪高校の番長が探していた人物である。
「おい梅津、柚木、それから梨本、話があるからこっち来い。それから人数分の椅子持ってきて」
花園を仕切る柿岡が各学年の代表を呼ばう。腰を据えての話し合いとなるようだ。
椅子をもてとの仰せに、ここは一年が率先して動く。
中庭には椅子どころかドラム缶や一斗缶の灯火も増やされた。どこから調達してきたのかタープで屋根まで設えられている。花園高校の校章が染め抜かれた常盤色の旗が掲げられ、現場はさながら怪しいレジスタンスの集会みたいな仕上がりになった。
「じゃあまず初対面も多いと思うんで、紹介ってことで」
柿岡が司会役を買って出る。
ここに集結した全員の素性と、それぞれが集まった理由を知っているのはおそらく彼だけなのだ。適任であろう。
柿岡が紹介した面々は花園地区、月輪地区を合わせて十一名であった。
かくして今宵、花園・月輪の合同会議が始まる。
午後九時をまわった頃。
花園高校の定時制一年の
「誰、あれ」
と友人達に聞いてみたが、知らないという。どうもこの高校の生徒ではなさそうだ。ここは花園一年として彼らの目的を聞きただし、先輩達に取り継ぐべきと考えた。一人では心許ないので何人か連れて行く。
「あんたら、誰か待ってんの?」
数人で取り囲む。たった二人に対して過剰ともいえる体制だが、相手の強さが未知数ならばこれくらい用心した方が得策だ。武器を持っている可能性もある。
「ん?ああ、終わったのね。花園高校って真面目に授業してるからびっくりしてさー、待機してたわけ。ここに榊って人いる?」
藍色の古びた羽織を肩にかけた青年が、拍子抜けするほど軽い調子で答えた。
「さかき?」
「そー、榊……なんだっけ?」
と羽織の男が神経質そうなスキンヘッドの方に聞くと、りゅうじ、と言う。
「さかき、りゅうじ」
梨本たちは聞いたことのない名だ。だがこれを、知らねえな、と無視しては後々面倒な事態に発展する恐れがある。
曲がりなりにも花園一年を束ねる梨本は、報告も兼ねて先輩の柿岡
後輩、梨本の知らせを受けて柿岡ら上級生がやってきた。
「お前、刃薊か!」
と柿岡がまず反応したのは眉のないスキンヘッドの男にであった。刃薊と呼ばれたその男とは知った仲らしい。また柿岡は「さかき、りゅうじ」なる人物についても心当たりがあるようだ。
彼ら上級生達は、羽織の男と刃薊を高校敷地内の中庭に案内した。
さっさと帰って最近ハマっているゲームに興じるつもりだった梨本は、架空の物語よりもこの現実の方に強く興味を惹かれた。ただならぬ雰囲気に背筋がぞくぞくする。これからきっと何かが起こる、そんな予感がする。
花園高校の総勢は各々のバイクや車の停められた中庭に集合し、距離を置いて柿岡と客人をとり囲む。
沢山の先輩達が一挙に集う光景を初めて目の当たりにした梨本は、なぜか武者震いして感激してしまった。さらに梨本の情動を揺さぶったのは、なんと客人の二人が「不良の天下一武道会」と称される月輪高校の定時に所属していたことだった。しかも羽織の男は番長の「
柿岡と彼ら二人はドラム缶に燈された炎に照らされながら、中庭の中央で何やら会話をしている。柿岡はスマホを取り出し、誰かに連絡し始めた。
梨本ら一年の居る場所からでは話の内容を窺い知ることはできない。だが柿岡や刃薊の表情などから深刻な事態であることが予想される。一方でジンはどこか飄然としていた。王者の風格というやつだろうか。
夜に染まった街の向こうから数台の単車を駆る音が響く。此処、花園高校に近づいている。
バイクが三台、駐車場を過ぎてそのまま中庭に入ってきた。
レモンイエローのバイクに跨るのはシルエットから見て女性だ。彼女の後方には黒い大型バイクが二台続く。さらにその後には白いSUV。
花園高校に籍を置く〔檸檬姐弩〕現役の女達は緊張した面持ちで背筋を正す。総長の
黒の大型バイクから降り立ったのは大柄な二人の男だった。取り去ったヘルメットから表れた顔貌はいずれも二十代前半といったところで、一人は右頬に傷跡がある厳つい風体。もう一人はというと、これがまた男の梨本から見ても瞠目するほどの凛々しい男前であった。
やや後方に停められた白いSUVからも男が一人。最初その人を目にしたとき、梨本は何かのコスプレをした変な奴が来たのかと思ったのだ。衣服は白いYシャツにネクタイ、黒っぽいスラックスと普通のサラリーマンのようだが、銀色の長髪、色白の肌、通った鼻筋、切れ長の目を眼鏡が縁取り──とまるで二次元から抜け出たような「キャラクター」だったからだ。
驚くべきことに、この人が例の「さかき、りゅうじ」だった。月輪高校の番長が探していた人物である。
「おい梅津、柚木、それから梨本、話があるからこっち来い。それから人数分の椅子持ってきて」
花園を仕切る柿岡が各学年の代表を呼ばう。腰を据えての話し合いとなるようだ。
椅子をもてとの仰せに、ここは一年が率先して動く。
中庭には椅子どころかドラム缶や一斗缶の灯火も増やされた。どこから調達してきたのかタープで屋根まで設えられている。花園高校の校章が染め抜かれた常盤色の旗が掲げられ、現場はさながら怪しいレジスタンスの集会みたいな仕上がりになった。
「じゃあまず初対面も多いと思うんで、紹介ってことで」
柿岡が司会役を買って出る。
ここに集結した全員の素性と、それぞれが集まった理由を知っているのはおそらく彼だけなのだ。適任であろう。
柿岡が紹介した面々は花園地区、月輪地区を合わせて十一名であった。
かくして今宵、花園・月輪の合同会議が始まる。