Find a Way
◼︎挑むように待つ
月曜の朝、榊は息苦しさに耐えかねて目を覚ました。
良太が抱き枕よろしく榊を抱えながら、幸せそうに眠っている。
重い。
今、何時だ。
榊は緩慢にもがいて良太の腕から脱し、深呼吸した。
時刻を確認するとまだ朝の五時だ。普段の目覚めより一時間も早い。良太を向こうに転がしてもう一度まどろみたいところだが、体格のいいこの男をあちらに押しやるのは至難だ。
いっそのこともう起きるか、と諦めをつけてベッドを抜け出ようとしたところで、良太の腕が獲物を探るように動く。逃がさない、とでもいうように榊の胴を抱き込んで密着させた。
「く、る……」
苦しい、と絞られるようにして呻いた榊の声が良太の意識を覚醒させる。
「あ……」
「起きたか、苦しいよ」
「ごめんなさい」
力のこもった腕を緩めると、榊は安堵したように息を吐いた。
良太は、おはようございます、と挨拶して榊の胸元に顔を埋め肌の匂いを吸い込む。べつに汗臭くもないのだが、榊はそれを嫌がった。
「やめろよ」
「榊さんいい匂い、俺好き」
「βにいい匂いもフェロモンも無い」
「ありますよ、いい匂い」
甘えながら拗ねるようにして、紺色のパジャマの前たてを左右に掻き分ける。良太は榊の胸に頬擦りした。
「ヒゲじょりじょりすんな」
「いい匂いだもん」
普段は整髪料でオールバックにしている良太の前髪が、今はやわらかく降りて榊の鎖骨の辺りをくすぐっている。
くすぐったいよ、と言う声には優しい微笑の色が滲んでいる。それに気をよくした良太は、寝起きの元気なものを押し付ける。
「押し付けんなそれ」
「えー、しましょうよ。まだ五時ですよ、時間ありますって」
「寝る前にやったろ」
昨晩もまた戯れあい以上性交未満の行為をしてから眠りについたのだ。
「朝から疲れたくない。さっさと顔洗ってトイレ行ってこい」
と榊はつれない。良太はすごすごとトイレに立った。
普段よりだいぶ余裕をもって身支度を整えることができるが、かといって今からYシャツとスラックスというのも落ち着かない。榊はとりあえず寝室とリビングのカーテンを開けて朝日を取り込む。
パジャマのままソファに腰を下ろし、タブレットでざっとニュースと天気予報に目を通す。
髭をあたってさっぱりとした良太が隣に腰を下ろし、
「ヒゲ、生えてませんね」
と榊の頬に指先で触れた。
「生えるよ。剃ってる」
「こんな産毛みたいなの剃る必要あります?」
「毎日じゃない。一日おきくらい」
わりと髭の濃い良太は、朝になっても無精髭にならない榊が珍しいのだ。すげえ、つるつる、とか言いながらフェイスラインを撫まわす。そうして顔を近づけて唇を押し当てた。
「こら、まだ顔洗ってないぞ」
「大丈夫でーす」
わざとリップ音を立てて吸い付く良太の脇腹を、タブレットの角でつついて止めさせる。榊は、顔洗ってくる、と言い残して洗面所へ向かった。
それから二人揃って少し早めの朝食をとり、洗い物が済んだ後は仕事着に着替える。良太は作業着、榊はスーツだ。
良太がいつも着ている青い作業着は、度重なる洗濯でだいぶ色落ちしている。朝から榊に見られるなら新品を持ってくればよかったな、と良太は恥じた。土曜に仕事が終わった後、この部屋に来る前に入浴もしたし着替えてもきたけれど、作業着はそのまま持ってきてしまったのだ。しかも丸めてバッグに詰め込んできたので皺になっている。
一方、榊はくっきりとした折り目のYシャツに濃いグレーのスーツパンツ。彼が今、ちょうど手に取ったのは良太のプレゼントしたネクタイだ。クローゼットの扉内にある鏡を見ながら器用にネクタイを締めている。
自分が買い与えたネクタイを彼自らが締める──良太にはこの動作が、榊が首枷を望んで嵌めているような仕草にも見えていた。
それは無意識にもαの執着心と支配欲を満たし、安心をもたらした。
次にプレゼントするなら香水がいい、と良太は決めている。というか、昨日決めた。
榊は二種類のトワレを使い分けているそうだ。休日の外出用と自宅用だ。その内のひとつ、外出用は元カノから貰ったものを使い続けているという。ただ単に、まだ残ってるから、というのが理由らしいが良太としてはあまり面白くない。要するに嫉妬だ。
しかし榊の性格からして新しいものを送ったとしても、今あるものをきちんと使いきってからでなければ手を付けてはもらえないだろう。これについて良太は──
前の恋人の匂いが消えるまで何年でも待ってやる!
などと挑むような気持ちでいる。
月曜の朝、榊は息苦しさに耐えかねて目を覚ました。
良太が抱き枕よろしく榊を抱えながら、幸せそうに眠っている。
重い。
今、何時だ。
榊は緩慢にもがいて良太の腕から脱し、深呼吸した。
時刻を確認するとまだ朝の五時だ。普段の目覚めより一時間も早い。良太を向こうに転がしてもう一度まどろみたいところだが、体格のいいこの男をあちらに押しやるのは至難だ。
いっそのこともう起きるか、と諦めをつけてベッドを抜け出ようとしたところで、良太の腕が獲物を探るように動く。逃がさない、とでもいうように榊の胴を抱き込んで密着させた。
「く、る……」
苦しい、と絞られるようにして呻いた榊の声が良太の意識を覚醒させる。
「あ……」
「起きたか、苦しいよ」
「ごめんなさい」
力のこもった腕を緩めると、榊は安堵したように息を吐いた。
良太は、おはようございます、と挨拶して榊の胸元に顔を埋め肌の匂いを吸い込む。べつに汗臭くもないのだが、榊はそれを嫌がった。
「やめろよ」
「榊さんいい匂い、俺好き」
「βにいい匂いもフェロモンも無い」
「ありますよ、いい匂い」
甘えながら拗ねるようにして、紺色のパジャマの前たてを左右に掻き分ける。良太は榊の胸に頬擦りした。
「ヒゲじょりじょりすんな」
「いい匂いだもん」
普段は整髪料でオールバックにしている良太の前髪が、今はやわらかく降りて榊の鎖骨の辺りをくすぐっている。
くすぐったいよ、と言う声には優しい微笑の色が滲んでいる。それに気をよくした良太は、寝起きの元気なものを押し付ける。
「押し付けんなそれ」
「えー、しましょうよ。まだ五時ですよ、時間ありますって」
「寝る前にやったろ」
昨晩もまた戯れあい以上性交未満の行為をしてから眠りについたのだ。
「朝から疲れたくない。さっさと顔洗ってトイレ行ってこい」
と榊はつれない。良太はすごすごとトイレに立った。
普段よりだいぶ余裕をもって身支度を整えることができるが、かといって今からYシャツとスラックスというのも落ち着かない。榊はとりあえず寝室とリビングのカーテンを開けて朝日を取り込む。
パジャマのままソファに腰を下ろし、タブレットでざっとニュースと天気予報に目を通す。
髭をあたってさっぱりとした良太が隣に腰を下ろし、
「ヒゲ、生えてませんね」
と榊の頬に指先で触れた。
「生えるよ。剃ってる」
「こんな産毛みたいなの剃る必要あります?」
「毎日じゃない。一日おきくらい」
わりと髭の濃い良太は、朝になっても無精髭にならない榊が珍しいのだ。すげえ、つるつる、とか言いながらフェイスラインを撫まわす。そうして顔を近づけて唇を押し当てた。
「こら、まだ顔洗ってないぞ」
「大丈夫でーす」
わざとリップ音を立てて吸い付く良太の脇腹を、タブレットの角でつついて止めさせる。榊は、顔洗ってくる、と言い残して洗面所へ向かった。
それから二人揃って少し早めの朝食をとり、洗い物が済んだ後は仕事着に着替える。良太は作業着、榊はスーツだ。
良太がいつも着ている青い作業着は、度重なる洗濯でだいぶ色落ちしている。朝から榊に見られるなら新品を持ってくればよかったな、と良太は恥じた。土曜に仕事が終わった後、この部屋に来る前に入浴もしたし着替えてもきたけれど、作業着はそのまま持ってきてしまったのだ。しかも丸めてバッグに詰め込んできたので皺になっている。
一方、榊はくっきりとした折り目のYシャツに濃いグレーのスーツパンツ。彼が今、ちょうど手に取ったのは良太のプレゼントしたネクタイだ。クローゼットの扉内にある鏡を見ながら器用にネクタイを締めている。
自分が買い与えたネクタイを彼自らが締める──良太にはこの動作が、榊が首枷を望んで嵌めているような仕草にも見えていた。
それは無意識にもαの執着心と支配欲を満たし、安心をもたらした。
次にプレゼントするなら香水がいい、と良太は決めている。というか、昨日決めた。
榊は二種類のトワレを使い分けているそうだ。休日の外出用と自宅用だ。その内のひとつ、外出用は元カノから貰ったものを使い続けているという。ただ単に、まだ残ってるから、というのが理由らしいが良太としてはあまり面白くない。要するに嫉妬だ。
しかし榊の性格からして新しいものを送ったとしても、今あるものをきちんと使いきってからでなければ手を付けてはもらえないだろう。これについて良太は──
前の恋人の匂いが消えるまで何年でも待ってやる!
などと挑むような気持ちでいる。