Find a Way
◼︎キスで目覚める
良太は榊の寝顔を眺めていた。
寝ているのにうるさい人間なんてそう居るものでもないのだろうが、少なくともこの榊龍時という人は、寝乱れてもおらず、鼾 や歯軋りで音を立ててもいない。実に端然としてそこに横たわっていた。
あまりにも整っていて物静かで、まるで精巧な人形のようだ。ふと、このまま数百年も目覚めることがなかったら、なんてお伽話みたいな空想をしてしまう。
おとぎ話だったら王子様のキスで目覚めるのがお約束だよな。
でも俺は王子様って柄じゃないし。
いくらキスしたってメルヘンチックな「愛の力」とやらで彼を目覚めさせることはできない、というかむしろ、折角寝ている人にうざ絡みした挙句に起こしてしまうのが現実ってやつだろう。それに今日は日曜日で、榊にとっては貴重な休日なのだ。ならば睡眠を邪魔するべきではないけれど──
俺、王子様じゃねえからキスしても起きない、大丈夫。
ならちょっとだけ。
と良太が悪戯心を出して唇を重ねると、そのタイミングで榊は薄らと目を開けた。
油断していた良太は、はっと唇を離し、咄嗟に朝の挨拶をした。
「おはようございます」
すみません起こしちゃったみたいで、と言うと、
「…………………………ぉぁょ……」
掠れた小さな声が返ってきた。聞き取り辛かったが、おはよう、と挨拶に応えてくれた。
榊はゆっくりと身じろぎ、スマホに手を伸ばした。時刻を確認する。
「良太くんは、今日、どうするの」
「特に用事はないです。今日も一緒にいてもいいですか?」
当初の取り決めでは会える日が水曜・土曜と限定されているので、本来なら日曜日は彼一人の時間を優先するべきなのだが。
「いいよ」
榊はあっさり許諾してくれた。
「カーテン開けましょうか」
「ああ」
窓の外は快晴の青空。
リネンの感触を楽しむように頭と手足を何度か寝具に擦り付けた榊は、猫みたいに伸びをした。
良太はリビングでトーストとコーヒーを準備する。榊は洗面所兼脱衣場で軽く身支度を整えてから洗濯機を作動させ、食卓についた。今日はどうする、とかそんなことを喋る。
結局どこへも行かずにこの部屋でのんびりと過ごすことになった。
ドラム型の洗濯機には乾燥機能もついているが、榊は日光にあてて乾かす方が好きだ、と言ってベランダに洗濯物を干す。
風にはためく洗い立ての衣類が、日差しを遮って細やかに動く影を作り出している。衣類だけではない、ライトグレーの寝具、青地にオレンジ色の差し色の入ったタオルなど。もちろんその中には良太の下着なんかもある。
側から見れば男の一人暮らしの洗濯物がずらりと並んでいるだけだが、実は二人分なのだという事実に良太は満足感を覚える。
新婚さんみたい、俺たち。
実際は男同士だから結婚できねえけど。
でも、パートナーシップ制度ってのがあるよな、あれは自治体が承認してくれるんだっけ?
婚姻届みたいな用紙に記入するのか?
リビングの床に掃除機をかけながら良太は考える。
基本的に榊の居住範囲は片付いているので掃除が楽だ。掃除機のスイッチを切って窓の外の洗濯物を眺め、いつか必ず同棲するぞと決心した。
良太は榊の寝顔を眺めていた。
寝ているのにうるさい人間なんてそう居るものでもないのだろうが、少なくともこの榊龍時という人は、寝乱れてもおらず、
あまりにも整っていて物静かで、まるで精巧な人形のようだ。ふと、このまま数百年も目覚めることがなかったら、なんてお伽話みたいな空想をしてしまう。
おとぎ話だったら王子様のキスで目覚めるのがお約束だよな。
でも俺は王子様って柄じゃないし。
いくらキスしたってメルヘンチックな「愛の力」とやらで彼を目覚めさせることはできない、というかむしろ、折角寝ている人にうざ絡みした挙句に起こしてしまうのが現実ってやつだろう。それに今日は日曜日で、榊にとっては貴重な休日なのだ。ならば睡眠を邪魔するべきではないけれど──
俺、王子様じゃねえからキスしても起きない、大丈夫。
ならちょっとだけ。
と良太が悪戯心を出して唇を重ねると、そのタイミングで榊は薄らと目を開けた。
油断していた良太は、はっと唇を離し、咄嗟に朝の挨拶をした。
「おはようございます」
すみません起こしちゃったみたいで、と言うと、
「…………………………ぉぁょ……」
掠れた小さな声が返ってきた。聞き取り辛かったが、おはよう、と挨拶に応えてくれた。
榊はゆっくりと身じろぎ、スマホに手を伸ばした。時刻を確認する。
「良太くんは、今日、どうするの」
「特に用事はないです。今日も一緒にいてもいいですか?」
当初の取り決めでは会える日が水曜・土曜と限定されているので、本来なら日曜日は彼一人の時間を優先するべきなのだが。
「いいよ」
榊はあっさり許諾してくれた。
「カーテン開けましょうか」
「ああ」
窓の外は快晴の青空。
リネンの感触を楽しむように頭と手足を何度か寝具に擦り付けた榊は、猫みたいに伸びをした。
良太はリビングでトーストとコーヒーを準備する。榊は洗面所兼脱衣場で軽く身支度を整えてから洗濯機を作動させ、食卓についた。今日はどうする、とかそんなことを喋る。
結局どこへも行かずにこの部屋でのんびりと過ごすことになった。
ドラム型の洗濯機には乾燥機能もついているが、榊は日光にあてて乾かす方が好きだ、と言ってベランダに洗濯物を干す。
風にはためく洗い立ての衣類が、日差しを遮って細やかに動く影を作り出している。衣類だけではない、ライトグレーの寝具、青地にオレンジ色の差し色の入ったタオルなど。もちろんその中には良太の下着なんかもある。
側から見れば男の一人暮らしの洗濯物がずらりと並んでいるだけだが、実は二人分なのだという事実に良太は満足感を覚える。
新婚さんみたい、俺たち。
実際は男同士だから結婚できねえけど。
でも、パートナーシップ制度ってのがあるよな、あれは自治体が承認してくれるんだっけ?
婚姻届みたいな用紙に記入するのか?
リビングの床に掃除機をかけながら良太は考える。
基本的に榊の居住範囲は片付いているので掃除が楽だ。掃除機のスイッチを切って窓の外の洗濯物を眺め、いつか必ず同棲するぞと決心した。