Find a Way
◼︎前戯6
良太はもちろん、自らの陰茎で榊の身体の感触を味わいたいという欲がおおいにある。だが本当の目的は、彼の会陰の内側にある男性特有の臓器、前立腺への刺激だ。
色々調べたところによると、その前立腺という器官は男に極上の快楽をもたらす場所なのだという。
曰く、射精の十倍も気持ちいいとか、ドライオーガズムで女性のように何度もイキ狂うとか、それ系のサイトには体験談が数多く記載されている。是非とも榊にそれを体感してもらいたい。感じさせたい。もちろん彼にそのための奉仕をするのは自分だ。
ただしそこで快感を得るられるようになるまでは根気強い開発が必要とのこと、であれば、外側からでも少しずつそこを意識してもらえるように今のうちから布石を打っておきたい。
短い経路だが、腰を沈めるようにして陰嚢の奥の狭間を進む。そこは吐き出された精が流れ込んでいて滑りがいい。視覚で確認できないため勢い余って強く当たらないよう、慎重に。
すぐに温かで柔らかい壁にうち当たる。その薄い皮膚一枚隔てた奥には、周囲を骨盤に守られた臓器と筋肉と血のぬくもりがあって、絶え間なく生命活動しているのだと思うと妙に崇高な気分になったりもするのだが、そんなことはお構いなしに劣情を表す良太の茎は硬度を維持していた。
このまま自分勝手に強く突き上げ、肉壁の弾力を感じながら欲望の赴くままに動きたいところだが、そんなことをしようものならこの「前戯」に完全に失望されてしまうだろう。第一、あわよくば前立腺を意識してもらおうというのが目的なのだから、ここは我慢だ。
数回ゆっくりと押し込むようにしてみる。今のところ榊に嫌がるそぶりは無いようだが、なにしろ真っ暗なため表情などで察することができない。
脚を閉じようとしているのか、榊の太腿に力が込められたのが分かる。しかし股の間には良太の腰が嵌まっているのでそうはできない。
「嫌な感じとかありますか?」
「いやべつに……これ、お前に何か得があるのか?」
「ありますよ。ここの裏側に前立腺っていうところがあるの知ってますか」
「そりゃ知ってるけどさ」
普通に考えれば理科教師の榊には愚問だろうとわかってはいた。だが今、何の目的があって会陰と呼ばれるそこを標的にしているのか、知らせておいた方がいいかもしれない。
「開発するとよくなれるらしいです。なので、どうかなと思って」
それを聞いた榊は、微かにため息を吐いた。
「前立腺マッサージは快感を得られると共に、前立腺炎に効く場合があるそうだ」
「へえ、そうなんすか」
「ただしそのやり方は肛門に指を突っ込んでやる」
「えっ指入れていんすか!?」
「よくない。そもそも私は至って健康だからそんなとこは弄らなくていい」
「医療行為じゃなくてエロ目的なんすけど」
気持ちよくなって欲しいからやってます、と良太はえらくはっきり言い切った。
どうやら良太はただ単に中に突っ込みたいだけではなく、相手の具合も気にしているらしい。
αの男が、性行為においてΩでも女性でもない男性型βに対してそんなことを考えているのかと、榊にとっては驚きだった。
さきほど脚を閉じ、股で良太のものを挟み込む形をとって協力してやろうかとしたのだが、それに応じなかったのはなるほど、そのような理由があったのかと得心がいった。
この若いαの男は暴力的な「奴」と違って相手のことを思いやり、ネットやら何やらで一通り知識を得てはいるのだろう。そうした善意のあるところが彼らしいといえば彼らしく、実に好ましい。いっそのこと男性型βに欲情する男性型αの認識を大幅に改めたくなるくらいには。
とはいえ榊は、抱かれる側になるつもりは無い。その意思は変わらない──変わらないがしかし、良太の希望に応えたい気持ちも大きくなりつつあるのが悩ましい。
良太なら一回ぐらい──
いやいや何考えてるんだ。
その一度を許容したら大変なことになる。
分かっててする馬鹿はいないだろ。
ともかく今はこの行為に対処しなければならない。肉の突き当たりを強く押されて痛い、などということになったら興醒めだ。何より良太に対して痛覚による恐怖心を持ちたくはなかった。
そこで榊は膝を立てて脚を開き、良太のものを握って股の間に導いた。当たりを調整して、
「いいよ、これで動くんだったら」
と良太を誘う。
良太は曲げられた榊の両膝に軽く左右の手を乗せて、緩々と腰を前後させ始めた。手筒を通ったその先で、つるりとした行き止まりの会陰に良太の陰茎の先端が押し当てられる。何度も何度も繰り返される。
俗にいうM字開脚で股の間に男を受け入れている榊は、暗闇でもなければこんな体勢になることはなかっただろう。しかも良太に強制されたのでもなく、自らこうした姿勢を取ったのだ。
まるで擬似セックスだな。
現在の自分と良太の姿を第三者視点で想像してみた。女性でもΩでもない、かといって後ろを使わせてやれるでもない、臆病で庸劣な男の無様な性交。良太のような優れた男の相手としては、まず失格だろう。その事実に劣等感と羞恥心が掻き立てられる。頼むからもうやめてくれ、と振り払って逃げてしまいそうだ。
でもこの行為で、やっぱり駄目だな、と呆れてくれたらいい加減に現実を分かってくれるんじゃないかとも思う。良太はやけにΩを嫌悪しているようだが、自分に失望したらきっとαの身に相応しいΩという人種に興味が湧くのではないだろうか。とすればこの不格好な擬似性交も、それなりに無意味ではないのかもしれない。
とはいえ、このままマグロになっているのもなんだか居心地が悪くなってきた。
良太には悪いけど、正直なんも感じない。
開発すればどうとか言うが、それはあくまでも成功例が目につきやすいだけなんじゃないか。
この調子だと無理そう、というか、たぶん無理。
自分には受け身の才能がないと榊は早々に諦めたが、せめて良太が果てるまでは付き合うことにした。
扱いて吐精に導いてやる。
「ああちょっと待っ……榊さん俺もうイきそ……」
はいはいどうぞ、というように手の動きを早めると、それにつられた良太は忙しなく腰を振ってあっけなく達した。
放出された精が会陰の谷間を流れ、さらに奥の窄まりまで伝う感触がある。あまり気分の良いものではない。一回目、二回目と下腹部を濡らした体液も冷たくなって不快感が増す。
そろそろこの「前戯」も終わりにしてシャワーを浴びて眠りたい。
今はいったい何時だろうか。確かめたかったが、ナイトテーブルの上にある時計がわりのスマホを精液まみれの手で取ることはためらわれた。
あとで蓄光タイプの時計でも買っておくかな、と榊は思った。
榊が少し白け始めていることにも気付かず、良太は彼を愛おしげに抱きしめて唇を重ねた。
自分の身体はまだ熱を持って彼を欲していたが、榊の肌の表面はひんやりとしている。暮春の時期とはいえ夜は肌寒い。温めるように掻き抱いた。
大人しくキスを受け入れている榊の股の間に指を潜り込ませ、またもやそこを探り始める。
すると榊は、まだそこやるのか?とこれを回避したそうな声をあげた。
「ここ、嫌ですか」
「嫌っていうか……私には才能なさそうなんだけど」
「んん、もうすこし探らせて」
と言いながら、何度か人差し指で円を描くようにまさぐる。次に陰嚢を包み込むようにして揉みながら、中指と薬指の先端で軽く会陰を刺激する。押して、緩めて、と一定の律動を続ける。たまに少し位置をずらしながらそれを繰り返していると、ある一点で榊が身をよじる。
あれ?と思って、そのポイントにやや重点を置いて続行する。
やっぱり何かしらの感覚はあるようで、
「なんか、ちょっと……」
と異変を訴えてきた。
「痛いですか?」
と良太が訊くのに対して
「わかんない」
と妙に舌足らずな口調で答える。
この初めての感覚に戸惑い、まだ明確な快感として認識するまでには至っていないらしい。
根気強く会陰への刺激を続けていると、榊はとうとう自らの根に手を伸ばし、男として馴染みのある快楽を得ようと自慰を始めた。暗闇だがその動きはよくわかる。
良太はつくづく、せめて照明を薄明かりにしてくれたっていいじゃないか!と不満に思わずにはいられない。普段は禁欲的な雰囲気を纏ってさえいる榊が、自らのものを扱いている官能的な姿をしっかりと見てみたかった。しかも会陰を通して、おそらく前立腺への感性に目覚めはじめたであろう瞬間でもある。
先ほど一度は静謐になった自分の逸物が、またしてもぐっと固く反り返る。
「あ、んっ……良太、一緒に……」
どうやら一人だけで扱くよりも、一度目と二度目で覚えた兜合わせをお気に召したようだ。彼がお望みとあらば、その要望には応えたい。
会陰部の開発は惜しいが、はなから最後までやりきるつもりはない。そもそも前立腺を少しでも意識してもらうのが目的だ。おそらく、結果は上々なのではなかろうか。
右手で二人のものを合わせて握り込む。暗い部屋に体液の粘着質な音と、どちらのものともつかぬ荒い吐息が満ちる。
色濃い精のにおいに慣れきった中で、良太は榊のこめかみ辺りに鼻先を埋めて皮膚を嗅いだ。爽やかなシャンプーの残り香とほのかな体臭。それから首筋、鎖骨、胸、なめらかな肌からは微かに石鹸と、彼本来の香り。
さらに脇の辺りと、その奥まで嗅ぎ取ろうとしたが、榊がぴたりと上腕と胴を密着させたので阻まれてしまった。脇のにおいを嗅がれるのはどうも恥ずかしいらしい。
それでもしつこく、嗅ぐのがダメなら舐めてみよう、と脇の下に通ずる隙間に舌を差し込んだら髪の毛を引っ張られた。結構な力で。
「いだだだハゲる!やめて!」
「アホ!やめてほしいのはこっちだ、舐めるやつがあるか!」
「匂い嗅ぐのもダメ?」
「そういう変態じみたことをするなよ」
前戯と称して腹や股の間を精液でどろどろにしておきながら、脇を嗅いだり舐めたりするのは変態的な行為だから止めろという。基準がわからん。
「榊さん、いい匂いなのに……」
良太にとって榊の体臭は芳しいものなのだから、恥ずかしがらずにもっと堪能させてほしいのだ。
なんだか俺、散歩中の犬みたいだな。と良太は、飼い主にリードをめい一杯引っ張られてなお道端の隅っこに鼻を差し出す雑種犬の姿を思い浮かべた。でも髪の毛を引っ張るのは勘弁してもらいたい。
においといえば、αはβよりも嗅覚が発達していて、多くのにおいを嗅ぎ取るとこができるらしい。そしてαはβと違いフェロモンを感じる器官が存在していて、何とかという細胞があって脳みその本能を司る部分に繋がってるとか、そんな文章を読んだことがある。情報源はネットの掲示板か、それともニュースの記事か、学校の教科書だったか。肉体のその部分はΩも同じ造りになっているという。だからこそαとΩはフェロモンで惹かれ合うと──
あー嫌だ!
いま「Ω」なんて言葉を思い出すのさえ、嫌だ。
せっかく大切な人とこうして触れ合っているのに、こんな時にΩのことなんて考えたくはない。自分にそんな器官がああるんだったら、この人のにおいで満たして蓋をして、密閉しておきたい。
「脇じゃなくて髪の毛だったらいいですよね」
と言うや否や覆い被さるようにして側頭部の香りを深く吸い込む。鼻腔内に彼の体臭を充満させ、肺の奥まで行き渡るように。
自らのカリで引っ掻くようにして彼の裏筋を何度もなぞる。誘われるように、そろり、と這う彼のしなやかな手指が互いの亀頭を撫で、あるいは指先が先端の割れ目を擦り、高みに導いてくれる。
ああ、と啼きながら榊が背を撓 らせた。
無防備に開いた唇を探りあてて深く口付け、上顎を舌で押し上げる。
腰が震えている。
果てが近い。
互いの淫水で雄の証を濡らしながら、共に絶頂をむかえた。
良太はもちろん、自らの陰茎で榊の身体の感触を味わいたいという欲がおおいにある。だが本当の目的は、彼の会陰の内側にある男性特有の臓器、前立腺への刺激だ。
色々調べたところによると、その前立腺という器官は男に極上の快楽をもたらす場所なのだという。
曰く、射精の十倍も気持ちいいとか、ドライオーガズムで女性のように何度もイキ狂うとか、それ系のサイトには体験談が数多く記載されている。是非とも榊にそれを体感してもらいたい。感じさせたい。もちろん彼にそのための奉仕をするのは自分だ。
ただしそこで快感を得るられるようになるまでは根気強い開発が必要とのこと、であれば、外側からでも少しずつそこを意識してもらえるように今のうちから布石を打っておきたい。
短い経路だが、腰を沈めるようにして陰嚢の奥の狭間を進む。そこは吐き出された精が流れ込んでいて滑りがいい。視覚で確認できないため勢い余って強く当たらないよう、慎重に。
すぐに温かで柔らかい壁にうち当たる。その薄い皮膚一枚隔てた奥には、周囲を骨盤に守られた臓器と筋肉と血のぬくもりがあって、絶え間なく生命活動しているのだと思うと妙に崇高な気分になったりもするのだが、そんなことはお構いなしに劣情を表す良太の茎は硬度を維持していた。
このまま自分勝手に強く突き上げ、肉壁の弾力を感じながら欲望の赴くままに動きたいところだが、そんなことをしようものならこの「前戯」に完全に失望されてしまうだろう。第一、あわよくば前立腺を意識してもらおうというのが目的なのだから、ここは我慢だ。
数回ゆっくりと押し込むようにしてみる。今のところ榊に嫌がるそぶりは無いようだが、なにしろ真っ暗なため表情などで察することができない。
脚を閉じようとしているのか、榊の太腿に力が込められたのが分かる。しかし股の間には良太の腰が嵌まっているのでそうはできない。
「嫌な感じとかありますか?」
「いやべつに……これ、お前に何か得があるのか?」
「ありますよ。ここの裏側に前立腺っていうところがあるの知ってますか」
「そりゃ知ってるけどさ」
普通に考えれば理科教師の榊には愚問だろうとわかってはいた。だが今、何の目的があって会陰と呼ばれるそこを標的にしているのか、知らせておいた方がいいかもしれない。
「開発するとよくなれるらしいです。なので、どうかなと思って」
それを聞いた榊は、微かにため息を吐いた。
「前立腺マッサージは快感を得られると共に、前立腺炎に効く場合があるそうだ」
「へえ、そうなんすか」
「ただしそのやり方は肛門に指を突っ込んでやる」
「えっ指入れていんすか!?」
「よくない。そもそも私は至って健康だからそんなとこは弄らなくていい」
「医療行為じゃなくてエロ目的なんすけど」
気持ちよくなって欲しいからやってます、と良太はえらくはっきり言い切った。
どうやら良太はただ単に中に突っ込みたいだけではなく、相手の具合も気にしているらしい。
αの男が、性行為においてΩでも女性でもない男性型βに対してそんなことを考えているのかと、榊にとっては驚きだった。
さきほど脚を閉じ、股で良太のものを挟み込む形をとって協力してやろうかとしたのだが、それに応じなかったのはなるほど、そのような理由があったのかと得心がいった。
この若いαの男は暴力的な「奴」と違って相手のことを思いやり、ネットやら何やらで一通り知識を得てはいるのだろう。そうした善意のあるところが彼らしいといえば彼らしく、実に好ましい。いっそのこと男性型βに欲情する男性型αの認識を大幅に改めたくなるくらいには。
とはいえ榊は、抱かれる側になるつもりは無い。その意思は変わらない──変わらないがしかし、良太の希望に応えたい気持ちも大きくなりつつあるのが悩ましい。
良太なら一回ぐらい──
いやいや何考えてるんだ。
その一度を許容したら大変なことになる。
分かっててする馬鹿はいないだろ。
ともかく今はこの行為に対処しなければならない。肉の突き当たりを強く押されて痛い、などということになったら興醒めだ。何より良太に対して痛覚による恐怖心を持ちたくはなかった。
そこで榊は膝を立てて脚を開き、良太のものを握って股の間に導いた。当たりを調整して、
「いいよ、これで動くんだったら」
と良太を誘う。
良太は曲げられた榊の両膝に軽く左右の手を乗せて、緩々と腰を前後させ始めた。手筒を通ったその先で、つるりとした行き止まりの会陰に良太の陰茎の先端が押し当てられる。何度も何度も繰り返される。
俗にいうM字開脚で股の間に男を受け入れている榊は、暗闇でもなければこんな体勢になることはなかっただろう。しかも良太に強制されたのでもなく、自らこうした姿勢を取ったのだ。
まるで擬似セックスだな。
現在の自分と良太の姿を第三者視点で想像してみた。女性でもΩでもない、かといって後ろを使わせてやれるでもない、臆病で庸劣な男の無様な性交。良太のような優れた男の相手としては、まず失格だろう。その事実に劣等感と羞恥心が掻き立てられる。頼むからもうやめてくれ、と振り払って逃げてしまいそうだ。
でもこの行為で、やっぱり駄目だな、と呆れてくれたらいい加減に現実を分かってくれるんじゃないかとも思う。良太はやけにΩを嫌悪しているようだが、自分に失望したらきっとαの身に相応しいΩという人種に興味が湧くのではないだろうか。とすればこの不格好な擬似性交も、それなりに無意味ではないのかもしれない。
とはいえ、このままマグロになっているのもなんだか居心地が悪くなってきた。
良太には悪いけど、正直なんも感じない。
開発すればどうとか言うが、それはあくまでも成功例が目につきやすいだけなんじゃないか。
この調子だと無理そう、というか、たぶん無理。
自分には受け身の才能がないと榊は早々に諦めたが、せめて良太が果てるまでは付き合うことにした。
扱いて吐精に導いてやる。
「ああちょっと待っ……榊さん俺もうイきそ……」
はいはいどうぞ、というように手の動きを早めると、それにつられた良太は忙しなく腰を振ってあっけなく達した。
放出された精が会陰の谷間を流れ、さらに奥の窄まりまで伝う感触がある。あまり気分の良いものではない。一回目、二回目と下腹部を濡らした体液も冷たくなって不快感が増す。
そろそろこの「前戯」も終わりにしてシャワーを浴びて眠りたい。
今はいったい何時だろうか。確かめたかったが、ナイトテーブルの上にある時計がわりのスマホを精液まみれの手で取ることはためらわれた。
あとで蓄光タイプの時計でも買っておくかな、と榊は思った。
榊が少し白け始めていることにも気付かず、良太は彼を愛おしげに抱きしめて唇を重ねた。
自分の身体はまだ熱を持って彼を欲していたが、榊の肌の表面はひんやりとしている。暮春の時期とはいえ夜は肌寒い。温めるように掻き抱いた。
大人しくキスを受け入れている榊の股の間に指を潜り込ませ、またもやそこを探り始める。
すると榊は、まだそこやるのか?とこれを回避したそうな声をあげた。
「ここ、嫌ですか」
「嫌っていうか……私には才能なさそうなんだけど」
「んん、もうすこし探らせて」
と言いながら、何度か人差し指で円を描くようにまさぐる。次に陰嚢を包み込むようにして揉みながら、中指と薬指の先端で軽く会陰を刺激する。押して、緩めて、と一定の律動を続ける。たまに少し位置をずらしながらそれを繰り返していると、ある一点で榊が身をよじる。
あれ?と思って、そのポイントにやや重点を置いて続行する。
やっぱり何かしらの感覚はあるようで、
「なんか、ちょっと……」
と異変を訴えてきた。
「痛いですか?」
と良太が訊くのに対して
「わかんない」
と妙に舌足らずな口調で答える。
この初めての感覚に戸惑い、まだ明確な快感として認識するまでには至っていないらしい。
根気強く会陰への刺激を続けていると、榊はとうとう自らの根に手を伸ばし、男として馴染みのある快楽を得ようと自慰を始めた。暗闇だがその動きはよくわかる。
良太はつくづく、せめて照明を薄明かりにしてくれたっていいじゃないか!と不満に思わずにはいられない。普段は禁欲的な雰囲気を纏ってさえいる榊が、自らのものを扱いている官能的な姿をしっかりと見てみたかった。しかも会陰を通して、おそらく前立腺への感性に目覚めはじめたであろう瞬間でもある。
先ほど一度は静謐になった自分の逸物が、またしてもぐっと固く反り返る。
「あ、んっ……良太、一緒に……」
どうやら一人だけで扱くよりも、一度目と二度目で覚えた兜合わせをお気に召したようだ。彼がお望みとあらば、その要望には応えたい。
会陰部の開発は惜しいが、はなから最後までやりきるつもりはない。そもそも前立腺を少しでも意識してもらうのが目的だ。おそらく、結果は上々なのではなかろうか。
右手で二人のものを合わせて握り込む。暗い部屋に体液の粘着質な音と、どちらのものともつかぬ荒い吐息が満ちる。
色濃い精のにおいに慣れきった中で、良太は榊のこめかみ辺りに鼻先を埋めて皮膚を嗅いだ。爽やかなシャンプーの残り香とほのかな体臭。それから首筋、鎖骨、胸、なめらかな肌からは微かに石鹸と、彼本来の香り。
さらに脇の辺りと、その奥まで嗅ぎ取ろうとしたが、榊がぴたりと上腕と胴を密着させたので阻まれてしまった。脇のにおいを嗅がれるのはどうも恥ずかしいらしい。
それでもしつこく、嗅ぐのがダメなら舐めてみよう、と脇の下に通ずる隙間に舌を差し込んだら髪の毛を引っ張られた。結構な力で。
「いだだだハゲる!やめて!」
「アホ!やめてほしいのはこっちだ、舐めるやつがあるか!」
「匂い嗅ぐのもダメ?」
「そういう変態じみたことをするなよ」
前戯と称して腹や股の間を精液でどろどろにしておきながら、脇を嗅いだり舐めたりするのは変態的な行為だから止めろという。基準がわからん。
「榊さん、いい匂いなのに……」
良太にとって榊の体臭は芳しいものなのだから、恥ずかしがらずにもっと堪能させてほしいのだ。
なんだか俺、散歩中の犬みたいだな。と良太は、飼い主にリードをめい一杯引っ張られてなお道端の隅っこに鼻を差し出す雑種犬の姿を思い浮かべた。でも髪の毛を引っ張るのは勘弁してもらいたい。
においといえば、αはβよりも嗅覚が発達していて、多くのにおいを嗅ぎ取るとこができるらしい。そしてαはβと違いフェロモンを感じる器官が存在していて、何とかという細胞があって脳みその本能を司る部分に繋がってるとか、そんな文章を読んだことがある。情報源はネットの掲示板か、それともニュースの記事か、学校の教科書だったか。肉体のその部分はΩも同じ造りになっているという。だからこそαとΩはフェロモンで惹かれ合うと──
あー嫌だ!
いま「Ω」なんて言葉を思い出すのさえ、嫌だ。
せっかく大切な人とこうして触れ合っているのに、こんな時にΩのことなんて考えたくはない。自分にそんな器官がああるんだったら、この人のにおいで満たして蓋をして、密閉しておきたい。
「脇じゃなくて髪の毛だったらいいですよね」
と言うや否や覆い被さるようにして側頭部の香りを深く吸い込む。鼻腔内に彼の体臭を充満させ、肺の奥まで行き渡るように。
自らのカリで引っ掻くようにして彼の裏筋を何度もなぞる。誘われるように、そろり、と這う彼のしなやかな手指が互いの亀頭を撫で、あるいは指先が先端の割れ目を擦り、高みに導いてくれる。
ああ、と啼きながら榊が背を
無防備に開いた唇を探りあてて深く口付け、上顎を舌で押し上げる。
腰が震えている。
果てが近い。
互いの淫水で雄の証を濡らしながら、共に絶頂をむかえた。