Find a Way

◼︎前戯5

 良太は相手の存在をもっと感じたくて、左手を榊の脇腹から胸、喉元と辿って顔の輪郭を捉えた。
 耳、頬、顎、ときて唇の位置を確かめ、キスを落とす。だが榊の唇はきつく閉じられて舌の侵入を拒む意思があるとみえる。それどころか少し顔を背けているような気がしないでもない。

 あれ?
 榊さん、なんか嫌がってる?
 ひょっとして痛いかな、強く握りすぎかも。
 いや、でも腰動いてるし、気持ちよくなってくれてはいるっぽいけど。
 
 良太は榊の唇を舐めたりんでみたりして侵入の可否を問うが、なぜだか拒まれる。こで気づいた、頬力の入り様。彼は歯を噛み締めて喘ぎ声を出さないように耐えているのではないだろうか。
「もしかして声、出さないように我慢してる?」
 この暗い寝室の中で知覚できる榊のものなら何だって感知したいというのに、声を我慢するなんてとんでもない。聞きたいのに。
 せっかくの声を堰き止めているのはこの喉か?と少し意地悪して、左手で探り当てた彼の喉元に軽く噛み付く。そういえば以前、彼が酔った時にここを舐めたり噛んだりしてみたいと思ったんだよな、とふと想起する。
 今まさに念願叶って良太は執拗に榊の喉を舐め、あるいは噛み、上下する喉仏の動きを堪能する。苦しくないように注意深く。
 筒のように形づくられた互いの右手の中、自らのもので榊の裏筋を剃り上げるようにして責め立てる。
 ところが良太のそれはなかなかの上反りで、きつく押さえなければ上手く筋に沿わないのが難点ではあったが、それでも榊を快楽の頂点へと追い詰めるには十分のようだ。その証拠に、喘ぎ声を封じる声帯からはだんだんと切なげな音が漏れ出している。
 あと少しで決壊する、という所まできている手ごたえはあるのだが、如何せん榊龍時はそう易々と崩れてくれるような男ではない。
 良太が思うに、なぜか自己評価の低いらしい榊は自分の声で喘げば相手が幻滅するとでも考えているのだろう。良太に限ってそんなことは全然ない。むしろ榊の低くて艶のある、男らしい声色が好きだ。その声で快感に抗わず鳴いて欲しい。
「聞かせてよ」
 お願い、と耳に唇を当てて囁く。同時に右手の人差し指をカウパーまみれの亀頭へと滑らせ、先端の割れ目を少し強めにえぐる。
 流石の榊もこれに参ったのか、歯を食いしばりながらくぐもった呻きを発する。
「……ッん゙、んぅ……」
 おおよそ色気のある喘ぎとは程遠いが、それでも良太を興奮させる材料には違いない。二人ほぼ同じ瞬間に熱い白濁液を吐き出しだ。互いの指の隙間から、榊の下腹部にぼたぼたと精がこぼれた。随分と量が多いが、これは男性型αの良太のものがほとんどだ。
 良太は射精後の放心と脱力で緩んだ榊の唇の隙間へ舌を差し入れる。そうして彼の弱点である上顎の窪みをくすぐり、舐めあげる。舌を絡ませあい、あるいは軽く唇を噛んで弾力を確かめる。拒絶される心配がないと分かって、良太はキスをしながらまた雄の証を擦り付け始めた。
 榊は現在、俗にいう賢者タイムというやつだが、そこは良太への慈愛というか親切心というか要するに惚れた弱みで、拒みもせずにされるがままになっていた。
 まだまだ臨戦体制の良太のものの刺激を受け、榊も兆しはじめる。先ほど溢れた粘液でぬめる感触が悦びの局地へとうながす。すっかり充血し勃ち上がったそれを自ら良太の雄にこすり付け、腰を上下、前後に動かして快楽を求める。
「あ、ああ、んっ……あぅ、はぁ、あっ……」
 榊の喉の奥からは控えめだが、確実に性的な陶酔を伝える音色が奏でられている。今度は口内に良太の侵入を許してしまっているので、きつく歯を食いしばることができない。また、良太のキスを振り切ってしまうことも今の榊にはできないほどに、この行為に溺れていた。
 二度目はなかなかイきづらいもので、甘やかな痺れはあるものの容易に絶頂に到達することのできないもどかしさが榊を苛んでいる。
「っく、う……あぁもっ……と、良太ぁ、もっと……」
 早く精を吐き出して楽になりたい焦燥感からか、榊はもっともっとと煽るように懇願して悶えた。

 もっと、って言った!
 俺にもっとして欲しいって!

 それだけで良太のものがぐっと膨らんでますます固くなった。性感の急所へより一層の圧迫を受けた榊は掠れた声をあげる。良太は互いの右手で握り込まれた男のしるしを、体内への抜き差しのように律動させて彼を二度目の絶頂へと導いてゆく。
「ああ、は……あ、きもちいいっ……ああー……」
 いよいよ榊の吐精も近い。
 良太に口内をまさぐられながらも喘ぎ、悦びの声をあげて榊は極致に至る。その脈動を感じ取って良太も二度目の精を吐き出した。

 またもや、榊の腹になみなみと精液が注がれる。
 性欲の残滓は左右の脇腹を通ってシーツに流れ落ちた。陰毛と睾丸もまた性の蜜液にまみれ、股の間からも白濁が溢れている。暗闇では窺い知ることはできないが、ライトグレーのシーツには白い体液が染みとなり、吸い込まれては濃い灰色となっていることだろう。
 二度目を終えてもなお良太のものは力を蓄えていた。榊は射精の余韻で思考が覚束ない、それでいて性器は神経が剥き出しになったかのように鋭敏な状態だ。良太はそこをさらに責め続け、三度目の果てへ追い込もうとする。
「お、いっ、ちょっと待てって」
 容赦ない、ともいえる良太の責めに榊は堪らず拒絶の意志をあらわした。
 互いの幹を包んでいた右手を離すと、通常状態の自分のものと、萎えもしない年下の男のものの間に隙間ができる。離れないで、と縋るように良太が右手に力を込めて二人のものを密着させる。
「疲れました?今夜はもうやめましょうか?」
 と良太は優しい声色で訊くが、俺はまだやる気です!と元気に主張する下半身の一部分のせいで気遣いも無に帰していた。建前に対して本音が分かりやすすぎる。
 顔貌よろしく体格の逞しいことから、ものの大きさ持続力、何からなにまで雄として羨ましいというかなんというか、αの彼と比較すればささやかな劣等感や嫉妬心も湧いて出ようというものだ。
 性欲旺盛な若い男性型αと、凡庸な、どちらかというと性欲が薄いと自認するβの自分とでは生まれ持った精力に差がありすぎる。
 とはいえこのまま良太を放置するのも気の毒に思う。ならばこの間のようにひとまず落ち着くまで手で抜いてやるしかなさそうだ。
「いったん離せ。私はもう今夜はいいって。満足したから」
 今までの経験からいってそう続けざまにイけはしない。自分は淡白な男だからこればかりは仕方がない。三回目に応じるとしても回復期間が必要だ。
「貸してやるから、手」
 とふたたび良太のものに手を伸ばし、しごいてやろうとしたのだが、良太が次に要求してきたことは意外なこと、というか部位だった。
「あの、ここ、いいですか?」
 良太が指を這わせて許可を乞うたのは、睾丸と裏門の間、会陰といわれる場所だ。女性であればそこに膣口があるが、男性なので当然そこは塞がっている。
「後ろには触らないので、ここで……」
 つまり素股?の要領で快感を得たいということだろうか。榊はこのよくわからない要望を飲んだ。ただし──
「間違っても中には入れんな」
 との戒めを守るならば、という条件付き。
 会陰の数センチ後ろには慣らしていない菊座があるのだから、うっかりだとかちゃっかりでそこに捩じ込まれては負傷すること間違いなし。なにしろ相手のものはご立派だ。
 榊にとって良太は愛おしい特別な人間なのだが、それでもそこに牡の杭を受け入れる恐怖心を払拭できるものではなかった。


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