Find a Way

◼︎ 前戯 2

 児戯じみた仕草をして笑ったり。
 かと思えば欲情の気配を纏って接触したり。
 今度は打って変わって胸の上で大人しくなったり。
 良太の知る榊龍時という男はもっと冷静で、感情や態度に起伏の少ない人間のはずだった。それが──こんなふうに目まぐるしく態度を変えるなんて。この人が俺にこんなにも心を開いてくれる、と嬉しさが込み上げてくる。
 いくら身長差があって良太の方が大きいといっても、普段は胸の位置に榊の頭部が来ることはない。ひし、と取り縋られるようなこの位置関係に庇護欲を掻き立てられる。
 自分が彼を庇護したり援助したり、そんなお節介はおそらく必要とされないだろうけど、それでも無性に「大丈夫、俺がついてる、守ってあげる」なんて陳腐な台詞を吐きたくなってしまう。これもα性の執着心や支配欲に起因するものなのかと思うと我ながら情けなくなる。相手を一方的に弱者と看做してしまうことに違いないからだ。

 分かってるよ、そんなこと。
 榊さんは俺なんかいなくても大丈夫だし、強いってことは分かってる。
 縋っているのはこっちの方だ。
  
 良太は榊の背に左腕をまわし、慎重に抱きしめて、頭を右手で優しく撫でた。
 静かな愛撫を受けた榊の目から不意に涙が溢れる。雫は止まらずに鼻根を横切り良太の黒いスウェットに吸い込まれてゆく。
 心から満ち足りた歓喜の涙を意思で堰き止めることは到底不可能と悟って、榊はほんのわずかだが負けを認めた。とうとう良太の胸に控えめに顔を擦り付ける。
 ようやく自らに少しだけ甘えを許して、こうすることは間違いではないのだと容認を心底に深く落とし込んだ。
 ほんの数分間だったが、榊がそうしていたおかげで良太の上着にはすっかり涙が染み込み、濡れそぼってしまった。
「ああごめん、随分と濡らしちゃったな」
 顔を起こした榊の銀色の睫毛やこめかみのあたりが濡れているのが良太にも分かった。まさか榊が泣いているとは思っていなかった良太は、自分が何か悪いことをしてしまったのかと狼狽える。
「ど、どうしました?」
「なんでもねえよ」
「でも」
「いいから」
 榊は指先で目元の雫をぬぐった。良太は胸の上の榊を軽く抱き込み、押し潰さないよう注意深く体を反転させた。今度は良太が榊を見下ろすかたちとなる。
「嫌ならもう、これ以上はやめましょう」
「べつに嫌じゃない」
 良太が成人男性一人分の体重や、そこにかかる重力などまったく苦にする様子もなく易々と体勢を反転させたことに対し、榊は内心舌を巻く。やはりαとβでは生物として決定的に骨格や筋肉の質量が違う、と認めざるを得ない。
 同じ男でありながらこうも力量に差があるのかと悔しくもなるし、同時に恐ろしくもなる。こいつはやろうと思えばβの男ぐらい簡単に手篭めにできる生き物なのだ。そう、奴みたいに──と、どうしてもそこに行き着いてしまう思考が忌々しい。ここまで良太との密接な間柄を欲して、認めて受け入れておきながら、今更あんな有害な記憶に囚われるなんて──

 マジで馬鹿馬鹿しい!
 そろそろガチでウザってえ。
 こっちはいい加減、良太とエロいことして楽しみたいってのに。

 いっそ快楽で塗り潰してしまえば何も考えなくて済むのかもな?と思い、良太の頭を引き寄せる。
 榊は自らの顎を上げ、半開きの唇の間から少し舌先を覗かせて深いキスをせがんでみせた。

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