Find a Way

◼︎獣の夜

 朦朧とした春の夜空に、霞んだ月の浮かぶ丑三つ時。

 月輪地区のはずれにある、錆びたフェンスが張り巡らされた廃工場の駐車場に、一台の黒い乗用車が停まった。
 運転席から男が一人、ひび割れたアスファルトに降り立つ。
 目元には前髪が覆い被さっていて、緑色の混じった琥珀色の瞳を月が照らすことはない。
 彼が後部座席のドアを開ければ、シートには中年の女性型Ωがもたれかかっていた。表情筋は弛緩していたが、大きな二つの眼球は興奮で濡れ、まるで発情期のように息を荒げている。
 男がΩの腕を無碍に引っ張れば軽々と人形のように引きずり出され、勢い余って横腹あたりにぶつかった。
 Ωはそのまま縋るようにしがみつき、男の脇に潜り込むようにして顔を埋めてαのフェロモンを鼻で、口で存分に嗅いだ。性欲の昂りに腰をくねらせる。Ωの座っていた後部座席には潤沢な愛液によってできたいやらしい染みがくっきりと残っていた。

 彼らは荒れ果てた建物の奥へ消えていく。
 やがて獣の咆哮のような、性の快感に狂喜する雌の喘ぎ声が、むき出しの鉄筋やコンクリートに反響しはじめた。

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