Find a Way
◼︎告白2
二人で事務所に戻ると、あんた達なに外で騒いでたのよ、と母に聞かれたので、
「あ俺、榊さんと付き合うから」
と良太は軽く返事をした。
おそらく「付き合う」をちょっとそこまで一緒に行くぐらいの意味で捉えたであろう良太の母親は、別段気にする様子もない。
榊は、丁度良さそうな車が決まったので後日契約に来ます、という。
「そういえば榊くん、帰りはどうするの。タクシー呼ぼうか?」
と聞く良太の母に、榊は越してきたアパートまで試乗できる車があれば乗ってみたいと申し出た。
二人で試乗車でそこまで行き、帰りは良太が運転して事務所に車を戻す、という提案を良太の母親は快く受け入れた。
というわけで、榊の運転する試乗車の助手席に良太を乗せ、白い乗用車がゆっくりと桧村自動車を出た。
好きな人に告白してOKもらって、その上車という密室に二人。さらに住居まで教えてくれるという盆と正月がいっぺんに来たような状態の良太は、助手席で終始ふわふわした心地でいたのだった。
髪の毛伸びたんですね、とか眼鏡変えたんですねとか似合いますとか、浮ついた気分で話しかけたが、運転中に話しかけられることに慣れていないのか、榊の反応は薄かった。
そうしているうちに目的地に到着し、芳羅町 の隣、賀萼町 にあるアパートの駐車場に車が停まった。
「私はここのニ階、二〇三号室に越してきた」
フロントガラスから見上げるようにして建物を示した榊は、
「遊びに来てもいいけど、来る前に電話くれ」
とスマホを取り出した。
「番号」
教えるという。
花園高校時代にも一度、不良仲間のネットワークとして良太をはじめ幼馴染の桜庭や、同級生にも榊龍時の連絡先は知らしめられていたのだ。
だが後輩の桧村良太があまりにも頻繁に電話をしてくる。おやすみから、おはようの間まで。
これに参った榊は番号を変更し、女子を束ねる麗子と、花園を仕切っていた柳澤に頼み込んで幹部以外、特に良太本人と親しい者には知られないように取り計らってもらったのだ。
そうして「良太に榊の番号を教えてはならない」という密約がなされ、今日に至るまで厳守されていたわけだ。
喧嘩が絶えず、時に病院のお世話になったり、仲間が人質にされる、といった事態もなくはないヤンキーの溜まり場、花園高校である。
下級生が幹部の一人である榊龍時に連絡が取れない状況が、花園の領分を守る上で不利にはたらくであろうことは重々承知の上の麗子と柳澤だった。
ではなぜ、麗子、柳澤の両人が榊のこの申し出に応じたのか。
それは良太がαだからである。
αという性質は、これと狙いを定めた物や人物に対して凄まじい執着を持つのだという。
このαの執着の強さは時に相手をノイローゼや鬱病に追い込む。さらに強姦や監禁、相手に拒否されたがための無理心中といった事件を引き起こし、報道されていることを知らぬ二人ではなかった。
そして榊はひとまず電話番号を伏せ、安眠を確保しながらも軽度の付き纏いであれば容認し、時に窘 め、または叱りながらもこちらの要求を呑ませ、絶妙にやっていたのだ。
こうしたαの少年を手玉に取るような作法をどこで会得したものか、榊はやってのけていた。あるいは、本人の資質からくる人心掌握の技なのかもしれない。
良太は榊の電話番号、使っているメールアプリを教えてもらい、いくつか条件を提示された。
「朝七時前と、夜十一時以降は連絡を控えて。我慢しろ。メールは既読がついてもつかなくてもとにかく落ち着け。さっきも言ったけど、部屋に来る前にちゃんと連絡すること。アパートや職場の周りを徘徊するなよ。お互いもう社会人なんだから、仕事に影響が出るようなことはダメだ。私の周りの人に嫉妬して迷惑かけたりしないこと」
普通に生きていればごく当たり前のことである。
「あと、私はβだ。Ωを愛するように私を愛するな」
それができなきゃ番の紹介所へ行ってΩを探せ、と榊は言った。
「じゃあ良太くん、そちらの要求は何かある?」
「いやあの、要求とかそういうこと、あんま考えてなかったっす」
「そうか」
「でも、何があっても俺が榊さんを好きだってことは疑わないで、信じてくれたらいいなって」
「ああ」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
二人で事務所に戻ると、あんた達なに外で騒いでたのよ、と母に聞かれたので、
「あ俺、榊さんと付き合うから」
と良太は軽く返事をした。
おそらく「付き合う」をちょっとそこまで一緒に行くぐらいの意味で捉えたであろう良太の母親は、別段気にする様子もない。
榊は、丁度良さそうな車が決まったので後日契約に来ます、という。
「そういえば榊くん、帰りはどうするの。タクシー呼ぼうか?」
と聞く良太の母に、榊は越してきたアパートまで試乗できる車があれば乗ってみたいと申し出た。
二人で試乗車でそこまで行き、帰りは良太が運転して事務所に車を戻す、という提案を良太の母親は快く受け入れた。
というわけで、榊の運転する試乗車の助手席に良太を乗せ、白い乗用車がゆっくりと桧村自動車を出た。
好きな人に告白してOKもらって、その上車という密室に二人。さらに住居まで教えてくれるという盆と正月がいっぺんに来たような状態の良太は、助手席で終始ふわふわした心地でいたのだった。
髪の毛伸びたんですね、とか眼鏡変えたんですねとか似合いますとか、浮ついた気分で話しかけたが、運転中に話しかけられることに慣れていないのか、榊の反応は薄かった。
そうしているうちに目的地に到着し、
「私はここのニ階、二〇三号室に越してきた」
フロントガラスから見上げるようにして建物を示した榊は、
「遊びに来てもいいけど、来る前に電話くれ」
とスマホを取り出した。
「番号」
教えるという。
花園高校時代にも一度、不良仲間のネットワークとして良太をはじめ幼馴染の桜庭や、同級生にも榊龍時の連絡先は知らしめられていたのだ。
だが後輩の桧村良太があまりにも頻繁に電話をしてくる。おやすみから、おはようの間まで。
これに参った榊は番号を変更し、女子を束ねる麗子と、花園を仕切っていた柳澤に頼み込んで幹部以外、特に良太本人と親しい者には知られないように取り計らってもらったのだ。
そうして「良太に榊の番号を教えてはならない」という密約がなされ、今日に至るまで厳守されていたわけだ。
喧嘩が絶えず、時に病院のお世話になったり、仲間が人質にされる、といった事態もなくはないヤンキーの溜まり場、花園高校である。
下級生が幹部の一人である榊龍時に連絡が取れない状況が、花園の領分を守る上で不利にはたらくであろうことは重々承知の上の麗子と柳澤だった。
ではなぜ、麗子、柳澤の両人が榊のこの申し出に応じたのか。
それは良太がαだからである。
αという性質は、これと狙いを定めた物や人物に対して凄まじい執着を持つのだという。
このαの執着の強さは時に相手をノイローゼや鬱病に追い込む。さらに強姦や監禁、相手に拒否されたがための無理心中といった事件を引き起こし、報道されていることを知らぬ二人ではなかった。
そして榊はひとまず電話番号を伏せ、安眠を確保しながらも軽度の付き纏いであれば容認し、時に
こうしたαの少年を手玉に取るような作法をどこで会得したものか、榊はやってのけていた。あるいは、本人の資質からくる人心掌握の技なのかもしれない。
良太は榊の電話番号、使っているメールアプリを教えてもらい、いくつか条件を提示された。
「朝七時前と、夜十一時以降は連絡を控えて。我慢しろ。メールは既読がついてもつかなくてもとにかく落ち着け。さっきも言ったけど、部屋に来る前にちゃんと連絡すること。アパートや職場の周りを徘徊するなよ。お互いもう社会人なんだから、仕事に影響が出るようなことはダメだ。私の周りの人に嫉妬して迷惑かけたりしないこと」
普通に生きていればごく当たり前のことである。
「あと、私はβだ。Ωを愛するように私を愛するな」
それができなきゃ番の紹介所へ行ってΩを探せ、と榊は言った。
「じゃあ良太くん、そちらの要求は何かある?」
「いやあの、要求とかそういうこと、あんま考えてなかったっす」
「そうか」
「でも、何があっても俺が榊さんを好きだってことは疑わないで、信じてくれたらいいなって」
「ああ」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」