Find a Way

◼︎試させて 1

 鳥寿温泉郷の開湯祭で突如Ωに遭遇するという「イベント」があったものの、良太と榊は何事もなくクリアすることができた。
 二人は温泉街の風情を楽しみ土産物を買い込んで、Ωの存在に注意をはらいつつも存分に観光を満喫した。
 行きは榊が運転したので、帰りは良太が運転を申し出た。
 秋の連休には泊まりがけの温泉旅行計画がある。榊は助手席にて旅館のパンフレットを広げ、熱心に旅行サイトと比較しながら眺めている。良太は期待せずにはいられない。もっとも榊は旅先でそうした行為はしないつもりであるらしいが、それでも嬉しいことには違いない。


 花園地区の〔コーポ館花〕に帰ってきたのは午後三時過ぎ。
「お疲れさま、運転ありがとう」
 上がって休んでってよ、と榊は良太を労い、さっそく土産で買った茶葉を使って温かいお茶を淹れた。
 もはやお馴染みのソファでくつろぎながら榊は、
「お土産、ご両親に渡してくれ」
 とこの間の北海道土産のお返しに、クッキーとラスクの詰め合わせを持って帰るように頼んだ。
 それはそうと、今日はなんだか距離が近いな、と良太は気になってどうしようもない。距離とはそのまま物理的な距離だ。
 いつもこの三人掛けのソファに座るときは間に一人分のスペースが空くのだが、現在榊は良太の隣に腰を下ろしている。
 榊からはやっぱり、以前二人して真新しいベッドに横たわったときに嗅いだ、大人っぽいフレグランスの香りがたちのぼっている。体温さえ感知できるほどの至近距離だとなおさらだ。

 これはひょっとしてマズいのでは?

 良太は急激に湧き上がる凶暴な欲求を自覚する。もう一人の自分とでもいうべき本能が、今すぐこの人を抱け!どれだけ愛しているか抱いて分からせろ!と唆かす。

 ダメダメ分からせるとか!
 理性あるとこ見せんかい俺!
 自制心仕事しろ!!
 
 しかしまたなぜ今日はこんなに近いのだろう。性病検査でお互いに健康であることが判明したから、いよいよ積極的になってくれたのでは?と都合よく予想してみるが、だからといってこちらから仕掛けて拒まれたらと思うと恐ろしくて肩も抱けない。
 けれどもしも、こちらがリードすることを望んでいるならば手を出さないのは逆に失礼なのでは?などと良太は葛藤している。
 そんな懊悩を知ってか知らずか、榊はこう切り出した。
「この間の話で検査が終わったらってやつ、覚えてるか?」
「こないだ……あ、はい」
 検査が終わって互いになんともなければ恋人らしいことをしたい、という良太からの要求の件だ。
「考えてみたんだけど、恋人とはいえ男同士なわけじゃん」
「そう、ですね」
「私べつに、男が好きで良太くんと付き合ってるわけじゃないんだよな。でさ、少し触れ合って嫌な気分になるようなら、そこから先の性的な行為はもうダメだと思う」
「そ、そうなんすかね……?」
「とりあえず抱き合ってキス、試してみたいんだけど、いいかな」
 まさかの驚くべき要望に絶句し、小刻みに頷く良太の様子を肯定ととった榊は、一旦ソファから立ち上がる。
「ちょっと歯ぁ磨いてくる」
「えっ、あの!俺も歯磨きとか、しときたいんですけど」
「いいよ別に。試させてもらうのはこっちなんだし」
「榊さんとそういうことするなら、綺麗でいたいんです!」
 綺麗でいたい、などとそこだけ聞けば乙女みたいなことを言い出した良太が面白くて、榊は軽く噴き出してしまった。

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