Find a Way

◼︎開湯祭へ

 晴天に恵まれたゴールデンウィーク、五月三日。
 この日、良太と榊は鳥居地区にある 鳥寿ちょうじゅ温泉郷の開湯祭を観光する予定であった。
 桧村自動車は定休日だ。良太は朝早くからシャワーを浴び、身支度を整え、今は榊の迎えを待っている。
 良太は前回、映画を見に行った後にやり取りしたことについて反省していた。
 映画の内容に腹を立て、なおかつ榊がΩとの〔番〕を勧めてくるような態度を取ったことに対し、ガキみたいに拗ねた。しかも彼が自分をどう思っているのか知りたくてしつこく質問してしまった──ような気がする。
 少し冷静になって考えてみれば、映画が気に入らなくたってべつに「こういうストーリーもあるんだな」と流せばいいだけだったし、なんならエンディング曲が割と好きなバンドの歌であったからそれについて話を広げることもできた。
 榊がΩや〔運命の番〕について言及しても、「中にはそういう人も居るかもしれないですね」と言ってしまえばそれまでだったかもしれない。
 また、彼が自分をどのように思っているのかについても、もっとさり気なく確かめる方法を熟考するべきであった。そもそもあの榊龍時が、嫌いな相手に告白されて恋人関係を受け入れるなんてことはあり得ないのだ。それなりに好意はあるとみていいだろう。

 もっと大人にならなきゃダメだ、俺。
 今日は何があっても、Ωとか番とか、色々言われても動じねえぞ。
 俺は榊さんの恋人。榊さんの恋人は俺。
 それが事実!
 
 以上のようなことを反芻しながら精神統一して榊を待つこと三十分。榊から電話があった。
「はい、もしもし」
『おはよう』
「おはようございます」
『今、店の前にいる。準備できたらおいで』
「準備大丈夫っす、今行きます」
 家を出て桧村自動車の事務所側にまわると榊の白いSUVが路駐していた。再度朝の挨拶を交わして、良太は助手席に乗り込んだ。

 連休中ということもあり交通渋滞を予測して朝早く出発した二人だったが、目的地に近くなるほど道路は渋滞していた。
 ようやく第五駐車場に車を停められたのは午前十時半過ぎだった。そこから少し歩いて温泉街へと向かう。
「県外からも結構来てますね」
「ああ、ちょっと前に鳥居の夏祭りが重要無形民族文化財に登録されたからな。今回は小規模で夏祭りの再現をやるんだって。それを目当てで遠方からきてる観光客も多いんだろう」
 温泉街に近づくにつれて硫黄のにおいがただよう。
 江戸時代の宿場町のような風情ある街並みと相まって、随分と遠い世界へ来たような旅情を掻き立てられる。
「俺、ここに来たの小学校のとき以来です」
 と良太がどこか郷愁に浸るような眼差しで辺りを見回す。小学生の頃は両親と妹とよく遊びに来ていたという。
 良太は榊と並んで歩きながら子供のころのことを話し、榊は相槌を打ちながら耳を傾けた。

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