Find a Way

◼︎ 琥珀色の目の男

 榊龍時が花園地区内の〔ひいらぎクリニック〕という病院を訪れ、性感染症の検査を終えたのは日曜の午後三時過ぎであった。即日簡易検査ではないので、結果が分かるのは数日後だ。
 この日は朝から小雨が降り、冷え冷えとして肌寒い。
 榊は病院の自動ドアを出、傘をさす。この頃にはもう桧村自動車からの納車も済んでいた。駐車場に停めてある白いSUVを目指して歩みかけたところで、
「榊さんじゃないっすか!」
 と声をかける者がいた。傘を少し傾けてその人物を確かめる。
「桜庭くんか!」
 声の主は桧村良太の幼馴染、桜庭譲二だった。
 桜庭は雨をものともせずに駐車場の隅に停められたハイエースから降りてきて、お久しぶりです、と挨拶する。作業着であったし、車には〔桜庭建設〕とステッカーが貼ってあるので仕事中らしい。
 榊は桜庭が雨に濡れないように傘の中に入れてやる。
「すんません、見えたんでつい」
「今日この辺で仕事?」
「はい、ここの病院の自宅の方、うちで改築してるんすよ」
「お疲れさん。こっちはまあ、検査だ、色々とな。それで……もう知ってると思うけど、いま良太と付き合ってる」
「知ってますよ!アイツ妄想しすぎていよいよ頭ヤバくなったかと思ったらマジだったんで、ちょいびっくりです」
「ああ、私もなあ、自分で自分に驚いてるんだわ」
「一人称、私になったんすね」
「変か」
「全然、むしろ良いっす」
 三時休憩が終わったのだろう、車の運転席から桜庭と同じ作業着の若者が出て、駐車場奥の敷地へ走っていく。それに気付いた桜庭は
「じゃあ俺、仕事なんで。失礼します」
 と傘を抜け出る。榊は、頑張れ、と声をかけた。
 

 その榊と桜庭の親しげな様子を、密かに注視していた者がいる。
 雨で視界が悪く、雨音で人の気配はかき消されていたため、その男がそこに佇んでいたと気付いたものは無いだろう。
 黒い傘の奥、緑混じりの琥珀色の瞳に見詰められながら、榊の白い乗用車が走り去った。

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