Find a Way

◼︎良太と榊、再会

 昨晩、居酒屋〔葵〕にて麗子から得た情報は、桧村良太をおおいに興奮させるものであった。
 榊龍時が母校である花園高校に赴任してくるということ、そして、もう既に花園地区に引っ越してきていること。

 あの人がいま自分と同じ町に居る!
 
 そのことに気持ちが騒いで、一旦帰宅したものの、とても寝るどころではなかった良太だった。
 酔い覚ましに行ってくる、と家族に伝えてその辺をうろついたりもした。無論、もしかしたら榊に会えるかも、という拙い希望があったためだ。夜中にあてもなく徘徊する立派な不審者であった。

 朝になり、顔を洗い髭をあたって、かきあげた前髪を整髪料でかためる。パンをかじりながらコーヒーを飲み、天気予報を眺め、時間になれば出勤する。
 職場はすぐ隣だ。急ぐこともない。
 いつものようにスマホの待ち受けにしてある榊の肖像を眺める。今夜はジョギング中を装ってその辺を探ってみようか、などと思った。
 桧村自動車は、主に中古車販売を生業としているが、取り寄せれば新車も販売する。車検、自動車保険、修理、その他もろもろやっている。父と母と、ベテランの整備士一人、そしてまだまだ未熟な良太の四人で営業していた。
 良太は自動車販売店のせがれあったが、乗るのはもっぱらバイクだ。幼馴染の桜庭とは一緒に流すことが多い。
 
 その日の午後、事務所の二階にある倉庫兼休憩所で三時休憩を終えた良太は、階段の中ほどで来客の気配を感じ取った。
 誰かと話す、というか一方的におしゃべりしている母親の声のトーンから推し量るに、嬉しい来客があるのだとわかる。接客は苦手だが挨拶の一つもしなくてはならない。
 階段を降り切って
「いらっしゃ……」
 そこまで言いかけて、最後まで言葉が出なかった。
「おお、久しぶり」
 と軽く手をあげて答えたのは、榊龍時だった。
 
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