Find a Way

◼︎αの性分

 酒に弱いと自称するだけあって、榊の目の周りや耳の先はすっかり朱に染まっていた。
 肌全体もほんのりと薄紅色で、普段の涼しげな目つきも今は、とろん、として艶やかに潤んでいる。身体の力も抜けているせいかどことなく隙があるような、気怠い雰囲気だ。
 そんな榊の姿態を素直に愛おしいと思う良太であった。胸の辺りに締め付けられるような切なさが込み上げる。
 もし獣のように理性を取り払えるならば、と妄想せずにはいられない。
 ここで彼の肩を抱き寄せ唇を奪って口内を味わいたい。喉に首すじに舌を這わせて、鎖骨を噛み、乳首をねぶり、全身余す所なく舐め回したい。中に挿入はいって何度も突き上げて精液をぶちまけ、内側からなにから雄の証を擦り付けマーキングしたい。部屋に閉じ込めて外へ出さず独占し、世話をして大事に囲っておきたい。一生、永遠にだ。
 こんなロクでもない欲望が発露するたびに、良太は自分の第二性がαであることを自覚して後ろめたくなる。彼を監禁して所有物にするような、そんな残酷なことをしたくないのに、したくなる、という矛盾を現実で限りなく薄めながらやり過ごすしかない。

 榊さんにこの、αの醜い部分を知られるわけにはいかない。
 ここで警戒されるようではいけない。
 自分は榊さんにとって有用で、安全で、誠実で、αとしての欲求など微塵もない普通の人間であると認識してもらわなければならない。
 俺は〔白幻〕で榊さんを襲ったクズ野郎とは違う男だと、自らの行いをもって証明しなければならない。
 そのためならどんな周りくどい手順も踏んでやる。
 
 笑顔の裏で渦巻くαの性分をおくびにも出さず、良太は榊と談笑した。
 それから二人でアクションもののドラマを見たり、ビール缶に描かれたアニメキャラクターの原作漫画を読んだりして過ごした。色気の「い」の字もない健全さである。

 夜十時半をまわったところで良太はいとまを乞うことにした。
 本当はもっと居たいけれど、榊の生活の邪魔になる男だと思われたくはない。そもそも交際条件に「夜十一時時以降は連絡を控えろ」と言われているのだ。おそらく十一時には歯磨きや入浴などの寝支度に取り掛かり、日付が変わる前にベッドに入るのが習慣なのだろう。
「じゃあ俺帰りますけど、榊さん本当に大丈夫ですか、顔真っ赤」
「だいじょうぶ」
「お邪魔しました」
「うん」
「ちゃんと鍵閉めてくださいね」
「うん」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
 心なしかふらふらしている榊に念を押して、良太は榊の部屋を出る。閉まった玄関ドアが、かちり、と施錠されたのを確かめてからその場を後にした。



 
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