Find a Way

◼︎イチャイチャするなら

「秋には温泉旅行の予定を組もうか」
 そう言った榊の言葉に触発されて、二人で温泉旅行、旅館、部屋風呂。といったキーワードが瞬時に脳内で発展し、一緒に入浴、火照った身体、湯上がりの浴衣、褥の上で浴衣を乱し淫らに──まで妄想するのに一秒もかからない良太であった。
「エロいこと考えてるだろ」
「あ、はい」
「旅館ではヤらないからな」
「えええマジ?」
「ラブホじゃあるまいし」
「そん……な、なんのための二人の旅行」
「純粋に温泉旅館を楽しむためだろそんなの」
「それも楽しみっちゃ楽しみですけど、でもやっぱ、どっちが入れるとかそういう役割はひとまず置いといて、とにかくイチャイチャしたい、です」
「イチャイチャなあ」
「俺たちそろそろ手を繋ぐとか、こ、恋人っぽいことしませんか、せめて抱っことか!」
 と言いながら良太は抱き枕でも抱えるような仕草をしてみせた。
 榊は、恋人っぽいことかぁ、と良太の要求を心中で反芻し、彼の両腕の中のうつろに目を止める。
 酔いが回ってきたせいだろう、体温と心拍数が上がり、なにか心地の良いものに身を預けて脱力したい気分になる。良太の広い肩幅、分厚い胸板と逞しい腕の中などまさにうってつけの場所のように思えるが、榊はここでなよなよと縋り付くようなやわな男ではない。
 性的な接触をする前に一応こういうことは伝えておかなきゃな、と榊は自ら酔いを抑圧するかのように背筋を正した。
「私はこっちに戻ってくる前に実費で健康診断を受けたんだけど、結果はなんともなかった。けれど健診では性感染症の検査まではしないから……」
 それでだな、と榊は少し言いにくそうに続ける。
「まあその、お互い相手の性生活を信用するかしないか、これから先どういう行為をするかは別として、検査はしておくべきなんじゃないかと思うんだ」
「性病の検査ですか」
「そう。病院を予約して検査を受けるか、もしくはネットで申し込みをして、自分で血液や粘液などを採取して行う検査キットを使う方法もある。検査は健康保険適用外だけどな。でもキスでうつる感染症もあるわけだし。βってαやΩに比べると免疫力が弱いから感染症にかかりやすいんだ。だからその、これから先そういうことをするというのであれば良太くんに何かあったら困るから、健康でいて欲しいし、検査をしてちゃんと自分の身の安全が保証されてから、したい、と……」
 いうわけなんだが、どうだ?と榊が聞く。
 良太は彼との親密な接触、いわゆる性愛の交わりに感染症対策まで考えてはいなかったのだが、言われてみればその通りである。愛する人の健康を守るためにやはり検査は必要だ。過去に性行為の経験がないわけでもない。現在自覚症状がなくてもウィルスを保有している、ということもある。
「俺も検査受けます。もしも榊さんに変な病気でも移したら大変なんで」
「そうか」
「なので検査結果がお互いなんともなかったら、その……」
 榊は、ふふ、と微笑んで「考えとく」と言った。
 二人で腰掛けたソファの後ろ、寝室への引き戸は開け放してあって、一緒に寝るために購入したベッドが設えてある。寝具も整っていた。
 あそこで夜を共にする日もそう遠くはない、と良太は期待せずにいられなかった。




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