Find a Way

◼︎連休の予定

 夕食が済んだ後。
 皿洗いは私がやる、と榊が言い出す前にさっさと流し台の前に陣取った良太は洗い物を済ませた。
 榊はカップボードから大きめのタンブラーを取り出し、冷蔵庫からよく冷えたビール缶を持ち出した。北海道土産の入った袋からは酒の肴になりそうな燻製を選ぶ。良太にはコーヒーを淹れた。バイクで帰らなければならないので一緒に酒を飲むわけにもいかない。
 ソファの端と端に二人は腰を下ろす。いきなり肩を抱けるような距離で座るのは、少し躊躇われる良太だった。ここで警戒されては元も子もないからだ。
 月輪地区のリサイクルショップで購入した頑丈な三人掛けのソファは、ブラウンの合皮が張られたマット部分が多少擦れてはいるが、気にするほどでもない。黒い鋼鉄製フレームは大の男二人が座っても軋むことなく体重を支えてくれる。
 陶器製の青みがかったタンブラーにビールを注いだ榊は、
「では、いただきます」
 と飲み始める。軍帽とマフラーが特徴的なアニメキャラクターのついた空缶は捨てずに取っておくようだ。
 彼はアルコールには弱いらしいが存外大胆に、半分ほど一気にあおる。無防備に晒された喉仏の上下する様を盗み見ながら良太は控えめにコーヒーを飲む。いつかもっと親密な関係になったらそこに触れて、舌を這わせたり軽く噛んだりしたいな、と欲が溜まって行くのを自覚する。まだ当分、性的なことはできなさそうだけど。
「そういえば榊さん、ゴールデンウィークって学校の先生は休みなんですか」
「ああ、休みはカレンダー通りだよ。公務員だから」
「教師って公務員なんすか?市役所の職員みたいな」
「そう、学校によって違うけど。花園は公立高校だから、そこで働く私は公務員。でも例えば、月輪工業高校は私立だからそこの先生たちは教員免許を持っていても公務員とは違う、ガチ高に先生がいればの話だけど」
「連休中に休みが被る日は……」
 と良太はスマホのカレンダーを確認する。
「五月の三日、七日ですね」
「ん、七日は日曜だな。一日まるっと休み?」
「はい、定休日以外にも休みあるんで」
「そっか。なあ、鳥居の開湯祭かいとうさい、私が車出すから行ってみないか」

 鳥居地区はその名の示すとおり、さまざまな神を祀った多くの神社と朱塗りの鳥居がそこかしこに存在し、ともすれば一種の異界のような奇観をみせる地域である。
 郊外にある鳥寿ちょうじゅ温泉郷では毎年、五月の一日から七日まで開湯祭を催している。
 記録によれば湯治場としての歴史は室町時代中期から始まり、江戸時代は宿場町として栄えた。明治、大正、そして昭和、大戦後の復興を期にインフラ整備されて高度経済成長期、バブル景気を経て地元の観光産業を支えた。さらに令和、鳥居地区を牛耳る烏丸一家の采配により平成、昭和時代の遺物ともいえる老朽化した観光ホテル群を取り壊し宿泊施設の規模を縮小、日本的な美観の再生につとめた。
 現在では伝統的な風趣あふれる温泉街として多くの観光客が訪れ、隆盛を誇っている。

「夏の祭りでやる出し物もやるって。去年は新型インフルエンザの流行で中止だったから今年は色々大変らしい。この間の飲み会で梟極きょうごくさんが言ってたよ」
「あー、流行りましたねインフルエンザ」
「私は今年も一応ワクチン打ってるけど、人混みが不安だったら別の所にしようか」
「いえ、俺も予防接種してあるんで大丈夫っすよ。祭り行きましょう」
「そうか。それじゃあ観光して、日帰りで温泉も入ろうか。菖蒲湯の準備もしてるってさ」
「お、温泉って、それ混浴ってことになりません⁉︎」
「……なにが?」
「榊さんが俺と男風呂に入るってことっすよね」
「そりゃ男湯に入るだろうよ」
「ヤバいっすそれは、混浴っすね」
「混浴の概念どうなってんだお前」
「しかも大勢の男の前で全裸になるってことじゃないっすか!」
「当たり前だろ」
「ダメです。危ない」
「あのなあ、こんなおっさんの素っ裸に興味ある奴なんざいねえって」
「全然おっさんじゃないっすね。ていうか榊さんは気付いてないんすよ、自分の魅力に」
「ああ?」
「まず俺がヤバい。榊さんの裸とか、ちょっと正気じゃいられないっすね。それに他の奴がじろじろ見るかもしれないんで」
「いちいち風呂場で他人の体つきなんか気にしないから、普通。刺青スミ入ってるわけでもないのに。良太くんと付き合ってると公衆浴場の使用が禁止されるのか私は、んん?」
「だって……」
「なに」
「他の男に榊さんの裸を見せたくないんすもん」
「わかったよ。じゃあ今回、温泉は無しな」
 結局、入浴はせず観光のみということで合意となったが、榊はやや不満そうだ。

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