Find a Way

◼︎ 良太、通い妻?

 桜もすっかり葉桜になり、昼の気温がじわじわと上昇しつつある四月の中旬。
 桧村自動車の定休日である水曜の日中を、良太は榊とのデートに使えそうな飲食店や娯楽場の事前調査に費やした。桜庭から得た情報、ノーオメガの店の場所もいくつか見て回った。
 その日の暮れ方。身支度を整えた良太は、位置情報共有アプリで榊の現在地が賀萼町ががくちょうのアパート〔コーポ館花〕にとどまったのを確認し、十五分ほど待ってから榊に連絡を入れた。今からそっちに行きます、と。
 
 そこそこ新しいアパートの二階、角部屋の二〇三号室のインターホンを押すと、ラフな部屋着姿の榊が開錠して招き入れてくれる。
「お邪魔します。あのこれ、北海道の親戚から送られてきたやつなんすけど」
 と良太はアニメキャラクターのついたビール一パックと、さまざまな菓子類、海産物の燻製、酒の肴が入った袋を渡した。家を出るとき母親が、りょうこれ持っていきなさいよ、と持たせてくれたものだ。
 白いビール缶に描かれたその絵を見るなり榊は、おお!と目を輝かせて喜んだ。知っている作品のものであるらしい。
「いいのこんなに頂いて」
「はい、親父もお袋も自分の取り分は確保してるんで大丈夫っす。榊さんあんま酒飲まないって聞いたんすけど、苦手だったら俺が飲むんで無理しないでください」
「アルコールには結構弱くてな。でも嫌いじゃないから大丈夫」
 喜色をあらわにした彼は、今夜飲むよ、とすっかり上機嫌だ。良太は母が榊を気に入ってこうした土産物などを分け与えてくれることに感謝した。帰宅したらこのことを報告しなくてはならない。
「晩メシまだですよね、俺なにか作りますよ」
 早速、良太が張り切って台所に立つ。
 とにかく自分が彼にとって役立つ男であるということをアピールしたい良太だった。榊もまたそれをわかってある程度は好きにさせている。
「ああ、ありがと。昨日からタレに鶏むね漬けこんであるから焼こうと思ってた。あと玉子そろそろ消費期限だから使っちゃって」
「オッケーっす」
 青地に橙色のストライプの入ったエプロンを借り、冷蔵庫を開ける。タッパーの中には言われた通りの食材が用意されていた。
 エプロン姿でてきぱきと立ち働く良太を見て榊は、通い妻みたいだな、と思ったりもした。
 良太が調理をしているその間に、榊はボウルに氷を詰め込んでその中にビール缶を横に入れた。ローラーを回転させるみたいに缶をくるくる回しながらテレビを眺めつつ冷やしている。ニュース番組を見ているようだ。
 台所からではテレビ画面は見えないが、音声を聞く限りこの御磨花市にある個人医院で何やら事件が起きたと報道されていた。ニュースキャスターが緊迫した声色で事のあらましを伝えている。

『医院長である医師が知人のα男性を……人体実験……Ωの発情期に……フェロモンを遮断する方法を……移植手術……妻が警察に相談して発覚……』

 途切れ途切れに物騒な内容が伝わってくる。榊は缶を冷やす手はそのままに、食い入るようにテレビを見ている。
 
 もし手術で、Ωの発情期に反応しなくて済むような身体になれるとしたら──
 俺は手術を受けて、Ωのフェロモンに支配されない身体になりたい。
 榊さんは俺に手術を受けて欲しいと思ってくれるかな?
 
 
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