Find a Way

◼︎ 麗子と榊、昔の話 1
 
 桧村良太と桜庭譲二が花園地区、芳羅町かぐらちょうの〔葵〕でΩの恐ろしさを語り合っている頃、 同地区の 環舞町かんまいちょうにある居酒屋チェーン店〔つじ芝〕の二階に榊龍時の姿があった。
 こちらのメンバーは元花園高校の、麗子、榊、柳澤。花園定時現役の柿岡。鳥居地区の烏丸翔子、梟極きょうごく。地蔵地区の男ケ田。月輪工業高校の定時現役の鈴鬼すずき刀童とうどう幽銭ゆうぜん。計十名である。
 ちなみに花園定時の四年、柿岡はまだ二十歳未満のため、いちおう今回は酒を控えている。彼が現在の花高の大将と言っていい。
 柿岡は榊が県外の大学へ行ったあと花高定時に入学した男だ。年齢と学年からいえば榊をはじめ麗子や柳澤とも隔たりがある世代なのだが、月輪の現役である鈴鬼たちとは何かと協力関係にあるためこうした集まりにはよく顔を出す。榊とは今日が初顔合わせであった。
 事前にOBの榊龍時が下戸であると情報を掴んでいた柿岡は、ビール瓶ではなく烏龍茶を携え、挨拶と共に酌をした。定時制の生徒とはいえまだ高校生なのだが、こうした仕草が勤続十年目のサラリーマンのように板についている。
「うちの弟が、花高の全日のほうでお世話になってるんスよ」
「確か二年に柿岡って子いましたね」
「たぶんそいつっス、弟。あいつこの間、凰曲おうまが高校の二年と勘違いで揉めて、結局向こうの三年の幹部が出張って丸く治めてもらったってことがあって」
「凰曲学園って麗子さんの弟さんがいる学校じゃなかったっけ?」
「はい。三年の幹部、小田桐悠斗くんっすね。悠斗くんってαなんすよ。てか今のあっちの幹部四人は全員αらしいっス」
「へえ、じゃ相当なんだ」
「花園にもαは何人かいるんすけど、それぞれ派閥でバラけてて凰曲みたいにちゃんと纏まってないんすわ。だから色々、変な奴らに付け込まれたりしてるみたいっスね」
「αかぁ……」
 それ以外にも柿岡は、教師の立場からではあまり詳しく知ることのできない生徒達の出来事やうわさ、現在の御磨花市の勢力情報をさまざま提供してくれた。高校を卒業し喧嘩や抗争といった荒事からは足を洗った榊であったが、やはり現在の状況は気になる。
 また、今の月輪高校の番長、神鏡空明じんきょうくうめい、通称「ジン」のことも教えてくれた。その若き月輪の王「ジン」は東北の蔵元のせがれで、やはり全国に名だたる「不良の天下一武道会・月輪高校」の看板に惹かれてやってきたのだという。
 わずか一年足らずで、それまで月輪を仕切っていたαのみをメンバーとする仙銅せんどう一派の主格をタイマンで撃破し、一気に番長へとのし上がったそうだ。
 「ジン」の名が出ると、すっかり酔っ払った刀童が我が事のように彼について話した。どうやら刀童は彼の存在がよほど嬉しいものであるらしく、
「これで俺もようやく心置きなく卒業できる、ガチ高は任せた!」
 と力強く語った。
 月輪がちりん工業高校の定時は花園と同じく基本的に四年制なのだが、大きく違う点は、金さえ払えば何年でも居られる留年上等な学校であるところだ。二十歳越えがほとんどで、四留、五留は当たり前。最年長の刀童は今年、二十六歳である。
 それに引きかえ花園定時は留年がない。四年経てば自動的に、ハイ、卒業というわけだ。
 刀童から卒業という言葉が出たところで、後輩の幽銭や柿岡らが、
「まだ居てくださいよぉ!」
 と両側から挟んでおだてる。そこに柳澤も加わり、刀童がいかに月輪高校の要となっているか聞かせて持ち上げるのがお馴染みの光景であった。だが実際、月輪高校がこうして他地区の勢力と交流できているのも、地元出身で人情に厚く、裏表のない性格の刀童晴之助のおかげといっても過言ではない。番長、ジンの統率力はまだ未知数だ。
 
「榊くん、相変わらず飲まないんだね」
 そう言って柿岡が移動したあと、空いた榊の隣に座ったのは麗子だ。
「嫌いってわけじゃないんですけどねアルコール。すぐ酔っ払っちゃって駄目です」
「真っ赤になるもんね」
「そうなんですよ。帰りタクシーから降りてアパートの二階まで歩ける気がしないですもん。外の階段で寝そう。麗子さんは帰りどうしますか」
 タクシーを頼むつもりの榊は麗子と帰る方向が同じなので、一緒に乗り合わせようということで話が決まった。
 それから二人は、かつて花園高校時代に世話になった定時制の教員、松元先生が故郷の宮城県に帰ったという話題から発展して、懐かしい昔話に花を咲かせた。
 良太のやらかした屋上告白事件のこと、連合結成のこと、JOKERのクズと抗争した時のこと、そして──
 麗子をはじめとする〔檸檬姐弩レモネード〕の不良少女たちと共に勉強に励んだ日々のこと、である。
 彼女が榊に肩入れするのは、まさにその時の恩義によるものだ。花園高校時代〔檸檬姐弩〕の総長として、また花園の女王として君臨した麗子が、榊龍時という男をこれぞと認めたのには次のような経緯がある。


31/64ページ
スキ