Find a Way
◼︎ α×βは異種間恋愛 3
「良 は間近で成人したΩを見たことってないんだよな」
「うーん、大人は無いなあ。でもガキの頃だったら確か、小学校の時にクラスに一人いなかったっけ?」
「いた。でも中学上がる前に東京に引っ越したよな。お別れ会もやった」
「思い出した」
人口全体に占めるΩの割合は十パーセントだが、国や地域によってかなりの偏りがある。
特に治安のあまり良くない花園、鳥居、月輪ではもともと五パーセントを下回る。数年前に御磨花市を中心に暗躍した人身売買組織〔JOKER〕のターゲットに番を持たぬ若いΩが含まれていたことも、現在のΩ数の減少に拍車をかけた。Ωを家族にもつ家庭は引っ越すか、Ωだけをどこか安全な場所へ避難させたのだ。
「俺が花園の一年だった時の話なんだけどさ」
「ああ」
「実は遠い親戚にΩがいてさ、血は繋がってねえんだけど。向こうの親が是非うちの娘と桜庭さんちの息子を番にって、一回お見合いしたことあんの」
「お見合い⁉︎」
「もちろん断ったけど」
桜庭と親戚のΩの見合いは、御磨花市を遠く離れた向こうの地元の料亭で行われたのだという。
見合い相手となったそのΩは幼児のような顔立ちで、小柄なわりにアンバランスなほど胸と尻の大きな女性だった。もともと気合の入った強い女が好みの桜庭にとっては、彼女の外見に全く惹かれる要素は無い。
だが、料亭のこぢんまりとした一室に入り、先に待ち構えていたそのΩと会った瞬間に「押さえつけたくなった」のだという。
それは恋や情からくる愛おしさの衝動ではない、強制された肉欲の発露といっていいものだった。もっというなら、腕力で締め付けて床に押し倒し、豊かな肉と脂肪をひねり潰してやりたい、この体を傷つけて滅茶苦茶に穢してやりたい、という加虐の欲望でもあった。
桜庭は本能的に、こいつはヤバい、と悟った。自分がまともな人間ではなくなると。
そして向かい合ったその女から漂ってくる、生々しいΩのフェロモンをはっきりと嗅ぎ取ったとき、自らの敗北を確信した。
Ωはまるで巨大な触手の塊のような、人ならぬ異様な存在感を放っていた。そいつは粘液でぬらぬらと濡れて蠢き、何度引きちぎっても永遠に再生し、いずれこちらの脳を、理性を喰い尽くして性の奴隷にするだろう。
こんな怪物に人間は勝てない。
桜庭はΩと同じ部屋にいる間中、ねばつく甘い毒を鼻腔から喉に延々と流し込まれるような感覚と、皮膚の上を数千本の触手が這い回るような凄まじい不快感に苛まれた。
このΩがもし発情期になったらどんなに恐ろしいことになるか、想像もつかない。
とにかくこのバケモノの前から逃げ出したい。
こいつは捕食者だ。
もう俺の負けでいい。
早くここから解放してくれ!
桜庭は見合いが終わるまで脂汗をかきながら、助けてくれ、と念じていた。
「だから俺、Ωには見合いと風俗で二回も負けてんの。特にお見合いの方のΩ、ありゃ無理だって。海外の奴らに比べても段違い でヤバい奴だった。リベンジすら考えられねえ」
今もなお、吸い込んだ空気にうっすらとあの毒が溶け込んでいるような錯覚に陥るときがある。
その度に、どこか近くにΩが潜んでいるんじゃないかと怯えてしまう。もちろんそんなはずはないのだが、そういう時は何をしても気が晴れない。
「前々から思ってたんだけどよ、榊さんっていいよな」
たとえ親友であっても恋敵となるなら容赦しない、と敵対心に火をつけそうな良太を、
「違ぇよ、そういう意味じゃねえ」
と桜庭はたしなめる。
「なんかこう、周りの空気が清涼感あるっつうか。真夏のプールとか、綺麗な水の中みたいな感じ」
「よく分かんねえけど」
不思議なことに見合いのあった日以降、学校で先輩の榊龍時を前にすると、あのおぞましい触手の粘液が洗い流されていくような清々しさを覚えることに気が付いた。
「Ωのフェロモンで汚れたところを浄化してくれるっていうかさ」
この感覚はΩと間近で「対戦」したことのない良太にはわからないものであるらしい。
「いつか、良も分かるときがくるかもしれねえよ」
それはきっと良太が成熟したΩに遭遇し、αとして対峙した時だ。
「
「うーん、大人は無いなあ。でもガキの頃だったら確か、小学校の時にクラスに一人いなかったっけ?」
「いた。でも中学上がる前に東京に引っ越したよな。お別れ会もやった」
「思い出した」
人口全体に占めるΩの割合は十パーセントだが、国や地域によってかなりの偏りがある。
特に治安のあまり良くない花園、鳥居、月輪ではもともと五パーセントを下回る。数年前に御磨花市を中心に暗躍した人身売買組織〔JOKER〕のターゲットに番を持たぬ若いΩが含まれていたことも、現在のΩ数の減少に拍車をかけた。Ωを家族にもつ家庭は引っ越すか、Ωだけをどこか安全な場所へ避難させたのだ。
「俺が花園の一年だった時の話なんだけどさ」
「ああ」
「実は遠い親戚にΩがいてさ、血は繋がってねえんだけど。向こうの親が是非うちの娘と桜庭さんちの息子を番にって、一回お見合いしたことあんの」
「お見合い⁉︎」
「もちろん断ったけど」
桜庭と親戚のΩの見合いは、御磨花市を遠く離れた向こうの地元の料亭で行われたのだという。
見合い相手となったそのΩは幼児のような顔立ちで、小柄なわりにアンバランスなほど胸と尻の大きな女性だった。もともと気合の入った強い女が好みの桜庭にとっては、彼女の外見に全く惹かれる要素は無い。
だが、料亭のこぢんまりとした一室に入り、先に待ち構えていたそのΩと会った瞬間に「押さえつけたくなった」のだという。
それは恋や情からくる愛おしさの衝動ではない、強制された肉欲の発露といっていいものだった。もっというなら、腕力で締め付けて床に押し倒し、豊かな肉と脂肪をひねり潰してやりたい、この体を傷つけて滅茶苦茶に穢してやりたい、という加虐の欲望でもあった。
桜庭は本能的に、こいつはヤバい、と悟った。自分がまともな人間ではなくなると。
そして向かい合ったその女から漂ってくる、生々しいΩのフェロモンをはっきりと嗅ぎ取ったとき、自らの敗北を確信した。
Ωはまるで巨大な触手の塊のような、人ならぬ異様な存在感を放っていた。そいつは粘液でぬらぬらと濡れて蠢き、何度引きちぎっても永遠に再生し、いずれこちらの脳を、理性を喰い尽くして性の奴隷にするだろう。
こんな怪物に人間は勝てない。
桜庭はΩと同じ部屋にいる間中、ねばつく甘い毒を鼻腔から喉に延々と流し込まれるような感覚と、皮膚の上を数千本の触手が這い回るような凄まじい不快感に苛まれた。
このΩがもし発情期になったらどんなに恐ろしいことになるか、想像もつかない。
とにかくこのバケモノの前から逃げ出したい。
こいつは捕食者だ。
もう俺の負けでいい。
早くここから解放してくれ!
桜庭は見合いが終わるまで脂汗をかきながら、助けてくれ、と念じていた。
「だから俺、Ωには見合いと風俗で二回も負けてんの。特にお見合いの方のΩ、ありゃ無理だって。海外の奴らに比べても
今もなお、吸い込んだ空気にうっすらとあの毒が溶け込んでいるような錯覚に陥るときがある。
その度に、どこか近くにΩが潜んでいるんじゃないかと怯えてしまう。もちろんそんなはずはないのだが、そういう時は何をしても気が晴れない。
「前々から思ってたんだけどよ、榊さんっていいよな」
たとえ親友であっても恋敵となるなら容赦しない、と敵対心に火をつけそうな良太を、
「違ぇよ、そういう意味じゃねえ」
と桜庭はたしなめる。
「なんかこう、周りの空気が清涼感あるっつうか。真夏のプールとか、綺麗な水の中みたいな感じ」
「よく分かんねえけど」
不思議なことに見合いのあった日以降、学校で先輩の榊龍時を前にすると、あのおぞましい触手の粘液が洗い流されていくような清々しさを覚えることに気が付いた。
「Ωのフェロモンで汚れたところを浄化してくれるっていうかさ」
この感覚はΩと間近で「対戦」したことのない良太にはわからないものであるらしい。
「いつか、良も分かるときがくるかもしれねえよ」
それはきっと良太が成熟したΩに遭遇し、αとして対峙した時だ。