Find a Way

◼︎俺のほうが先に

 小一時間ほどで、ソファを選び終えた榊と良太は一階に戻る。彼らはその後も展示してある中古のバイクや、車の部品などを眺めていた。
 程なくして鈴鬼が煙草をふかしている応接スペースにやってきた榊と良太は、
「持って帰れないので発送をお願いしたいんですが」
 と言って鈴鬼を伴ってふたたび二階の家具置き場まで移動し、これをいただきます、と中古のソファとローテーブルを示した。
 榊は商品代金と輸送費を前払いで支払い、
「じゃあまた今夜」
 と良太のバイクの後ろに乗り鈴鬼に手を振った。


 その日の深夜。
 月輪地区と雪城地区の狭間にある 夜宵町やよいちょうの、裏路地にひっそりとたたずむ酒場〔とぎ〕。
 薄暗い店内のカウンターに突っ伏すようにして独り、項垂れる鈴鬼の姿があった。

 ああ、俺がβだったらなぁ。
 せめて両親がβだったらなぁ。
 でも仕方がない、仕方がない。
 友達でよかったんだ。
 友達がよかったんだ。
 恋人になろうなんて思ってなかった。
 なんでαなのに、同じαなのに。
 俺のほうが。
 俺のほうが先に──
 好きだったのに。

 店主に閉店の時間を告げられ、鈴鬼は「すみません」と力無く両手で目元を擦った。


 客人の力無い後ろ姿が〔伽〕から消えるのを見送った店主は、カウンターの中で愛用のグラスを取り出し、ウイスキーをそそいで飲み干した。
 店主の瞳と同じ色合いをした琥珀色の、切子のロックグラス。
 たった一度だけこの場所で榊龍時が使ったもの。
 
 俺のほうが先に好きだった──

 確かに、その通りだ。


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