Find a Way
◼︎ 悔いはない?
鈴鬼京一が関西の高校を中退し、月輪定時に入学した頃、榊龍時はもう花園定時の二年。地元のヤンキー達の間ではそれなりに名の通った男であった。
初めて会ったのは、四つの地区で連合を組んだ際の話し合いの場。 錚々 たる顔触れが集結した時のこと。
御磨花市の九つのレディースを束ねた〔檸檬姐弩 〕の総長、小田桐麗子。
花園地区を中心とした不良が集う凶悪高、花園高校定時の大将、柳澤聡。幹部、榊龍時。
鳥居地区に江戸時代から根を張り、町を守護してきた烏丸 一家の若頭、烏丸翔吾。翔吾の双子の姉、レディースチーム〔紅薔薇 〕の頭、烏丸翔子。
地蔵地区の若者を率いる獄烙町 青年団団長、早乙女忍。副団長、男ケ田 銃蔵 。
そして全国から札付きの不良 が集まる「不良の天下一武道会」こと月輪工業高校定時からは、地元出身のまとめ役、刀童 晴之助。新人では折り紙付きの実力者、鈴鬼京一。
彼らは、当時辺り一帯を騒がせていた半グレの人身売買組織〔JOKER〕に対抗するため連合を組んだのだ。
その約一年後、花園高校定時に入学してきたのが、桧村良太、桜庭譲二の世代である。
良太が榊を学校の屋上に呼び出して「告った」時のことを、鈴鬼は今でもよく覚えている。
花高の定時に一年が入学して数ヶ月ほど経ったある日、それは起きたのだという。
中庭で屯 する榊、麗子、柳澤、他の上級生たちの集団に、突然割って入った一年生がいた。怖いもの知らずのその新入りこそが、桧村良太だ。彼は緊張感ある面持ちで榊の前にやって来て「あの!」と声を張り上げ、
「明日、授業が終わったら屋上に来てもらえませんか!」
と呼び出したのだ。なにやら重大な決心を秘めた態度であったという。
年功序列の厳しい花高で、一年が三年を呼び出す。
場所は学校の屋上。
これは間違いねえ──
タイマンだ!!
その場にいた榊を含む上級生の皆がそう思った。桧村とかいう一年が三年幹部の榊に勝負を申し込んだ噂は瞬く間に広まり、地区を越えて連合のメンバーにも伝播した。
下剋上になるかもしれねえな。
あの桧村ってガキ、榊を倒したら次は大将の柳澤を狙うか。
勢力図が書き変わる可能性がある。
となると鳥居や月輪、地蔵の連中との付き合いかたも変わるかもな。
そういやあの一年、榊さんの後付けたり、ガン飛ばしたりしてなかったか。
何か恨みでもあんのか?
そしてタイマン当日、夜十時。花園高校の屋上。
様々な憶測が飛び交うなか、噂を聞きつけた連合軍のメンバーまでもがやってきた。各地区から集まった人数は五十人以上であったという。
中央で対峙する良太と榊。
真剣にことの次第を見守る者、動画を撮影し仲間に配信しだす者、どちらが勝つか賭けはじめる者──
緊迫した空気に包まれる中、いよいよ一年の良太が榊に向かって一歩を踏み出す。
「榊さん!」
「ああ」
拳を握り締め初撃の間合いをはかる榊。
だが良太から突き付けられたのは拳ではない。
「好きです!俺と付き合ってもらえませんか!」
恋の告白だったのだ。
はああ!?
その場にいた五十人以上で綺麗にハモった。
賭けの対象を失った誰かの一万円札が風に吹かれて飛んでいく。
意表をつかれた榊から殺気が消えた。
榊はふっと笑って、
「ダメに決まってんだろ」
と言い返して屋上を後にした。
「お前ちょっと来い!」
そこで良太の首根っこを捕まえて説教をかましたのが、鈴鬼だった。
花園高校の屋上は昔からタイマン勝負の聖地とされてきた。さらにこの勝負で決定された甲乙は卒業まで維持されるという。鈴鬼はその伝統を知らない新入生の良太に花園の慣いを教えてやったのだ、他校の生徒なのに。
告白の状況が状況だったので、あの時のことを思い出すと鈴鬼は今でも少し、笑ってしまう。
そして自分と同じαでありながら榊に臆面もなく「好きだ」「付き合ってほしい」と真っ直ぐに叫んだ少年を羨ましく思う。
俺はあんな人間にはなれない。
βに生まれていれば。
αでもせめて、あんな親から生まれていなければ。
桧村良太のように──
──いや、俺は今のままで十分だ。
鈴鬼京一は榊への想いを胸の奥に仕舞い込み、互いの高校の協力者となり、勉強を教え、善い友人のポジションに居ることを選んだ人間だ。
おかげで榊が花園高校にいる間も連絡先を知らされていたし、しょっちゅう連んで食事に行ったりもできた。大学在学中も彼女ができたとか、サークルに入ったとか、他愛もないことで榊の方から連絡をくれた。
彼への恋情を隠し、αであることを隠し、普通の友人であったからこそ得られた時間。
悔いはない、そう納得している。
鈴鬼京一が関西の高校を中退し、月輪定時に入学した頃、榊龍時はもう花園定時の二年。地元のヤンキー達の間ではそれなりに名の通った男であった。
初めて会ったのは、四つの地区で連合を組んだ際の話し合いの場。
御磨花市の九つのレディースを束ねた〔
花園地区を中心とした不良が集う凶悪高、花園高校定時の大将、柳澤聡。幹部、榊龍時。
鳥居地区に江戸時代から根を張り、町を守護してきた
地蔵地区の若者を率いる
そして全国から札付きの
彼らは、当時辺り一帯を騒がせていた半グレの人身売買組織〔JOKER〕に対抗するため連合を組んだのだ。
その約一年後、花園高校定時に入学してきたのが、桧村良太、桜庭譲二の世代である。
良太が榊を学校の屋上に呼び出して「告った」時のことを、鈴鬼は今でもよく覚えている。
花高の定時に一年が入学して数ヶ月ほど経ったある日、それは起きたのだという。
中庭で
「明日、授業が終わったら屋上に来てもらえませんか!」
と呼び出したのだ。なにやら重大な決心を秘めた態度であったという。
年功序列の厳しい花高で、一年が三年を呼び出す。
場所は学校の屋上。
これは間違いねえ──
タイマンだ!!
その場にいた榊を含む上級生の皆がそう思った。桧村とかいう一年が三年幹部の榊に勝負を申し込んだ噂は瞬く間に広まり、地区を越えて連合のメンバーにも伝播した。
下剋上になるかもしれねえな。
あの桧村ってガキ、榊を倒したら次は大将の柳澤を狙うか。
勢力図が書き変わる可能性がある。
となると鳥居や月輪、地蔵の連中との付き合いかたも変わるかもな。
そういやあの一年、榊さんの後付けたり、ガン飛ばしたりしてなかったか。
何か恨みでもあんのか?
そしてタイマン当日、夜十時。花園高校の屋上。
様々な憶測が飛び交うなか、噂を聞きつけた連合軍のメンバーまでもがやってきた。各地区から集まった人数は五十人以上であったという。
中央で対峙する良太と榊。
真剣にことの次第を見守る者、動画を撮影し仲間に配信しだす者、どちらが勝つか賭けはじめる者──
緊迫した空気に包まれる中、いよいよ一年の良太が榊に向かって一歩を踏み出す。
「榊さん!」
「ああ」
拳を握り締め初撃の間合いをはかる榊。
だが良太から突き付けられたのは拳ではない。
「好きです!俺と付き合ってもらえませんか!」
恋の告白だったのだ。
はああ!?
その場にいた五十人以上で綺麗にハモった。
賭けの対象を失った誰かの一万円札が風に吹かれて飛んでいく。
意表をつかれた榊から殺気が消えた。
榊はふっと笑って、
「ダメに決まってんだろ」
と言い返して屋上を後にした。
「お前ちょっと来い!」
そこで良太の首根っこを捕まえて説教をかましたのが、鈴鬼だった。
花園高校の屋上は昔からタイマン勝負の聖地とされてきた。さらにこの勝負で決定された甲乙は卒業まで維持されるという。鈴鬼はその伝統を知らない新入生の良太に花園の慣いを教えてやったのだ、他校の生徒なのに。
告白の状況が状況だったので、あの時のことを思い出すと鈴鬼は今でも少し、笑ってしまう。
そして自分と同じαでありながら榊に臆面もなく「好きだ」「付き合ってほしい」と真っ直ぐに叫んだ少年を羨ましく思う。
俺はあんな人間にはなれない。
βに生まれていれば。
αでもせめて、あんな親から生まれていなければ。
桧村良太のように──
──いや、俺は今のままで十分だ。
鈴鬼京一は榊への想いを胸の奥に仕舞い込み、互いの高校の協力者となり、勉強を教え、善い友人のポジションに居ることを選んだ人間だ。
おかげで榊が花園高校にいる間も連絡先を知らされていたし、しょっちゅう連んで食事に行ったりもできた。大学在学中も彼女ができたとか、サークルに入ったとか、他愛もないことで榊の方から連絡をくれた。
彼への恋情を隠し、αであることを隠し、普通の友人であったからこそ得られた時間。
悔いはない、そう納得している。