Find a Way
◼︎月輪地区へ
この日は榊の部屋のリビングに置くソファを選びに行く約束だった。
鳥居地区のショッピングモールではなく、月輪地区のリサイクルショップを見てみることにしていた。なかなか味のある掘り出し物が多いという。
月輪地区は、良太や榊の住む花園地区に隣接する区域だ。
工場が多く立ち並び、長く大きな煙突が何本も天に向かってそびえ、煙を吐き出している。
金網、鉄パイプ、スチールダクト、トタン、鉄板、釘、錆、機械油、コンクリート、そんな無骨な印象の町。
昔は花園と月輪、少なからず揉めることもあったが、今は双方とも比較的穏やかな関係を維持している。
良太は榊を乗せて工場地帯の狭間にある古い倉庫のような店にやってきた。錆の浮いた金属の引き戸の前にバイクを停める。
すると中からエンジン音を聞きつけたらしい店員が出てくる。背が高く色の浅黒い、目元にどことなく険のある男だ。
「おい、花園の桧村じゃねえか。そこに止めると色々持っていかれるから、中入れろ」
と彼は良太と榊を店内へ手招いてくれた。
この男は月輪地区にある月輪工業高校の定時制に通う、鈴鬼京一 だ。日中はこのリサイクルショップで店番をしている。
バイクの後部座席から降り、ヘルメットをとった榊が、
「ご無沙汰してます、 京一さん」
と銀色の髪を揺らして挨拶した。
ああ、龍時さん!と驚きとも感嘆ともつかない声で鈴鬼は再会を喜ぶ。
花園の榊と月輪の鈴鬼は、両校が共通の外敵に対して連合を組んだ際に、情報交換、作戦立案などのやりとりを行う関係であった。また、月輪高校定時に入学する前の鈴鬼は関西地方の進学校にいたこともあり、榊の大学受験対策に協力してくれた人物でもある。
「もしかしてもうご存知かもしれないですが……」
と切り出した榊は、良太と恋人になったと言う。
桧村良太が榊に執着をみせていた件に関しても、鈴鬼は何かと助言してくれたのだ。
「知らなかっ……た、ええ?まじ?」
「はい。なんだか散々、皆さんに協力してもらって避けていたのに、結局こうなったわけでして」
「そりゃ、まあ、あん時は桧村はガキだったし」
「ええ、そう思って。あ、今日の飲み会、京一さんも来るんでしょ?」
「行きますよ、六時半開始っすよね。刀童 さんと幽銭 も来るんで」
榊と鈴鬼が店の入り口で話していると、中にバイクを停めた良太が「なに話してんすか」と顔を覗かせる。
「すんません、中のものちょっと見せてもらっていいっすか。ソファとか、椅子とか」
と良太が訊いたので、鈴鬼は、二階の右側に家具を集めてあるから自由に見ていってくれと言った。
倉庫をほぼそのまま使った店は、一階には主に中古の車やらバイク、それらの部品、消耗品、修理工具その他多種多様な資材、機材が並べられている。趣のあるクラシックカー、四トントラックまでもが堂々と鎮座していた。
それらの間を縫って二階へのびた金属製の階段を登ってゆく二人を眺めながら、鈴木は応接用の黒革を張ったソファに腰を沈め溜息を吐き出した。
鈴鬼は桧村良太がαであることを知っている。何しろ鈴鬼自身もαなのだ。α同士もフェロモンによって互いの性質を察することができる。
煙草に火をつけ、深く煙を吸いこむ。
店内の中央は吹き抜けになっていて二階の様子がわかる。
榊と良太の姿。
紫煙を吐き出し、視界にうつる彼らを白い靄 で覆い隠した。
この日は榊の部屋のリビングに置くソファを選びに行く約束だった。
鳥居地区のショッピングモールではなく、月輪地区のリサイクルショップを見てみることにしていた。なかなか味のある掘り出し物が多いという。
月輪地区は、良太や榊の住む花園地区に隣接する区域だ。
工場が多く立ち並び、長く大きな煙突が何本も天に向かってそびえ、煙を吐き出している。
金網、鉄パイプ、スチールダクト、トタン、鉄板、釘、錆、機械油、コンクリート、そんな無骨な印象の町。
昔は花園と月輪、少なからず揉めることもあったが、今は双方とも比較的穏やかな関係を維持している。
良太は榊を乗せて工場地帯の狭間にある古い倉庫のような店にやってきた。錆の浮いた金属の引き戸の前にバイクを停める。
すると中からエンジン音を聞きつけたらしい店員が出てくる。背が高く色の浅黒い、目元にどことなく険のある男だ。
「おい、花園の桧村じゃねえか。そこに止めると色々持っていかれるから、中入れろ」
と彼は良太と榊を店内へ手招いてくれた。
この男は月輪地区にある月輪工業高校の定時制に通う、
バイクの後部座席から降り、ヘルメットをとった榊が、
「ご無沙汰してます、 京一さん」
と銀色の髪を揺らして挨拶した。
ああ、龍時さん!と驚きとも感嘆ともつかない声で鈴鬼は再会を喜ぶ。
花園の榊と月輪の鈴鬼は、両校が共通の外敵に対して連合を組んだ際に、情報交換、作戦立案などのやりとりを行う関係であった。また、月輪高校定時に入学する前の鈴鬼は関西地方の進学校にいたこともあり、榊の大学受験対策に協力してくれた人物でもある。
「もしかしてもうご存知かもしれないですが……」
と切り出した榊は、良太と恋人になったと言う。
桧村良太が榊に執着をみせていた件に関しても、鈴鬼は何かと助言してくれたのだ。
「知らなかっ……た、ええ?まじ?」
「はい。なんだか散々、皆さんに協力してもらって避けていたのに、結局こうなったわけでして」
「そりゃ、まあ、あん時は桧村はガキだったし」
「ええ、そう思って。あ、今日の飲み会、京一さんも来るんでしょ?」
「行きますよ、六時半開始っすよね。
榊と鈴鬼が店の入り口で話していると、中にバイクを停めた良太が「なに話してんすか」と顔を覗かせる。
「すんません、中のものちょっと見せてもらっていいっすか。ソファとか、椅子とか」
と良太が訊いたので、鈴鬼は、二階の右側に家具を集めてあるから自由に見ていってくれと言った。
倉庫をほぼそのまま使った店は、一階には主に中古の車やらバイク、それらの部品、消耗品、修理工具その他多種多様な資材、機材が並べられている。趣のあるクラシックカー、四トントラックまでもが堂々と鎮座していた。
それらの間を縫って二階へのびた金属製の階段を登ってゆく二人を眺めながら、鈴木は応接用の黒革を張ったソファに腰を沈め溜息を吐き出した。
鈴鬼は桧村良太がαであることを知っている。何しろ鈴鬼自身もαなのだ。α同士もフェロモンによって互いの性質を察することができる。
煙草に火をつけ、深く煙を吸いこむ。
店内の中央は吹き抜けになっていて二階の様子がわかる。
榊と良太の姿。
紫煙を吐き出し、視界にうつる彼らを白い
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