Find a Way
◼︎二人乗り
四月初頭の学校行事、入学式も無事終わり、それから数日が経過した。
花園高校の全日制の生徒はといえば早速、新入生を交えた生徒同士の派閥争いが始まり、新たな群雄割拠の時代へと突入していた。
しかしそれも榊たち教師にはあまり関係のないことで、金曜まで無傷だった生徒が月曜には絆創膏まみれになっていても普通に授業をとり行っていた。これが花高の日常茶飯事なのである。
いわゆる不良高校の花園は生徒の親もそれと納得したもので、喧嘩をしただの成績が悪いだの、そんなことでいちいち学校に苦情を入れたりはしない。ゆえに夜遅くまで親のクレームに対応しなければならないなどという事もなかった。
また、花高には部活動もない。生徒が趣味で勝手に将棋や麻雀をして遅くまで残っていることはあっても、顧問としてそれを指導する必要もない。
なんせ定時の時間帯になれば全日の生徒は恐れをなして、さっさと自主的に引き上げる。
普通の高校と違い学校行事も極端に少ないので残業がほぼ無い職場であるから、榊は退勤後の時間を充分に使うことができた。
良太もまた同じで、桧村自動車での業務が終われば榊と共に過ごす時間はある。あるが、ただし、会う曜日は水曜・土曜と決められた。もちろん榊によってである。
榊は割と一人の時間を持ちたい人間であるらしい。そうしたところがまた、少なからずαの性分を有する良太の気を揉ませる要素であった。
会える時間があるのに何故一緒に居られないのか、良太にはいまいち納得のできないところである。毎日でも会って側に居たいのだ。
この良太の不安を察したかどうか榊の意図は定かではないが、いちいち詮索したりしなければ位置情報共有アプリで居場所を把握してもよい、と榊から許可が出た。
土曜日、桧村自動車の定休日ではないものの、この日良太は休みを取っていた。
良太は午前中に榊のアパートにバイクで乗りつけた。今日は榊が初めてバイクの後ろに乗ってくれるという。
なぜかといえば、榊の自家用車がまだ納品されていないのだ。この辺は榊のリサーチ不足で、中古車の納品には二週間ほどかかることを知らなかったらしい。これをチャンスとばかりに良太はバイクの後ろに乗ってくれと懇願したのだ。自分の単車に恋人を乗せて走るバイクデートが夢だったとか。
ちなみに二人乗りの練習には幼馴染の桜庭譲二が駆り出された。同じバイク乗りの桜庭にも彼女がいるのでそこは互いに、というわけだ。
いつか榊を後ろに乗せることもあるかもしれない、と夢想して取り付けたタンデムシートとバックレストが現実に役立つ時が来たのだ。無論ヘルメットも用意してある。
「おはよう」
「おはようございます」
「変えたんだな、二台目?」
「俺が乗ってるバイク覚えててくれたんすか!」
「バイクには詳しくないけど、高校の時と形が違うなと思ってさ」
「はい、これは一年ぐらい前に買ったやつなんすよ」
榊はちょっと上体をそらし顎を引いて、重量感ある黒い車体と体格の良い良太を視界に収める。
「 格好いい ね」
「あざす!」
「なあ、悪いんだけど今夜は私、麗子さんたちと飲み会あるから五時ごろで解散しないか?」
「あ、実は俺も譲 から飲み誘われてて」
「なんだ、じゃあちょうどいいな。私、タクシー使うから近場なら一緒に乗ってくか?」
「こっち葵なんで徒歩でいけます。でも終わったら連絡しますね」
「わかった」
揃いの黒いヘルメットを被り、良太は榊を乗せて、少し遠回りしながら目的地を目指した。
四月初頭の学校行事、入学式も無事終わり、それから数日が経過した。
花園高校の全日制の生徒はといえば早速、新入生を交えた生徒同士の派閥争いが始まり、新たな群雄割拠の時代へと突入していた。
しかしそれも榊たち教師にはあまり関係のないことで、金曜まで無傷だった生徒が月曜には絆創膏まみれになっていても普通に授業をとり行っていた。これが花高の日常茶飯事なのである。
いわゆる不良高校の花園は生徒の親もそれと納得したもので、喧嘩をしただの成績が悪いだの、そんなことでいちいち学校に苦情を入れたりはしない。ゆえに夜遅くまで親のクレームに対応しなければならないなどという事もなかった。
また、花高には部活動もない。生徒が趣味で勝手に将棋や麻雀をして遅くまで残っていることはあっても、顧問としてそれを指導する必要もない。
なんせ定時の時間帯になれば全日の生徒は恐れをなして、さっさと自主的に引き上げる。
普通の高校と違い学校行事も極端に少ないので残業がほぼ無い職場であるから、榊は退勤後の時間を充分に使うことができた。
良太もまた同じで、桧村自動車での業務が終われば榊と共に過ごす時間はある。あるが、ただし、会う曜日は水曜・土曜と決められた。もちろん榊によってである。
榊は割と一人の時間を持ちたい人間であるらしい。そうしたところがまた、少なからずαの性分を有する良太の気を揉ませる要素であった。
会える時間があるのに何故一緒に居られないのか、良太にはいまいち納得のできないところである。毎日でも会って側に居たいのだ。
この良太の不安を察したかどうか榊の意図は定かではないが、いちいち詮索したりしなければ位置情報共有アプリで居場所を把握してもよい、と榊から許可が出た。
土曜日、桧村自動車の定休日ではないものの、この日良太は休みを取っていた。
良太は午前中に榊のアパートにバイクで乗りつけた。今日は榊が初めてバイクの後ろに乗ってくれるという。
なぜかといえば、榊の自家用車がまだ納品されていないのだ。この辺は榊のリサーチ不足で、中古車の納品には二週間ほどかかることを知らなかったらしい。これをチャンスとばかりに良太はバイクの後ろに乗ってくれと懇願したのだ。自分の単車に恋人を乗せて走るバイクデートが夢だったとか。
ちなみに二人乗りの練習には幼馴染の桜庭譲二が駆り出された。同じバイク乗りの桜庭にも彼女がいるのでそこは互いに、というわけだ。
いつか榊を後ろに乗せることもあるかもしれない、と夢想して取り付けたタンデムシートとバックレストが現実に役立つ時が来たのだ。無論ヘルメットも用意してある。
「おはよう」
「おはようございます」
「変えたんだな、二台目?」
「俺が乗ってるバイク覚えててくれたんすか!」
「バイクには詳しくないけど、高校の時と形が違うなと思ってさ」
「はい、これは一年ぐらい前に買ったやつなんすよ」
榊はちょっと上体をそらし顎を引いて、重量感ある黒い車体と体格の良い良太を視界に収める。
「
「あざす!」
「なあ、悪いんだけど今夜は私、麗子さんたちと飲み会あるから五時ごろで解散しないか?」
「あ、実は俺も
「なんだ、じゃあちょうどいいな。私、タクシー使うから近場なら一緒に乗ってくか?」
「こっち葵なんで徒歩でいけます。でも終わったら連絡しますね」
「わかった」
揃いの黒いヘルメットを被り、良太は榊を乗せて、少し遠回りしながら目的地を目指した。