Find a Way
◼︎榊の過去4
榊は夜半まで続いた酷い行為に気を失い、目覚めた時にはもう明け方であった。
恐る恐る左凪の姿がないことを確認して、浴室で身体を清めた。
潤滑剤を用いずに手荒く使われた肛門からは精液と血が滴っていた。血が止まらない。
それでも仕事に行くため、ティッシュを何枚も重ねて下着と尻の間に挟み込んだ。
制服を着、少ない私物を全て持って逃げるように出勤した。
なんとか時間通りに出勤すると、店長の霜沢は榊の姿を見るなり、
「どうした、何があった?」
と事態の全てを察したかのように青ざめた。
なんでもありません、大丈夫です、と榊は答えたがαの霜沢に通用するものではない。
この時の榊からはαとΩのみが察知できる「マーキング」が色濃く漂っていたのだ。
左凪のフェロモンが所有物の証として榊に纏わり付いる。
シャワーを浴びたが髪は洗っていない。銀色の髪にはフェロモンを含む汗や唾液、精液の類が付着していたのだ。
霜沢は開店準備を北野に任せ、榊から休憩室で事のあらましを聞き取る。そしてすぐに〔白幻〕の施設長、寒崎に通報した。
霜沢は店を北野に任せ、急いで榊を医務室に連れて行った。
榊は年配の女医の指示で制服を脱いだが、自分の体のありさまがここまで酷いとは、正直思っていなかった。
シャワーを浴びたときは急いでいたし、後ろからの出血に気を取られていたせいでもある。
一番最初に左凪に掴まれた左の上腕にはくっきりと、指の本数までわかるほどの内出血が見てとれた。
首から肩にかけて多数の噛み跡。医師の表情からして、項 はもっと酷いことになっているらしい。
乳暈と乳首に血も滲んでいる。これもまた執拗に噛みつかれてできた傷だ。
歯形は首から胸部だけにとどまらず、胴や臀部、陰茎の付け根周辺にまで及んでいた。
腰の両側と腿 の内側にも、左上腕部のように手のあざがくっきりと記されている。
医療診察と割り切って後ろのほうも診てもらった。その部分が一番傷ついているのだ。いまだに出血は続いている。
消毒をしてもらい、体の部位に合わせて塗り薬をもらった。
明日もくるように言われた。
医務室を出ると、待合室には寒崎と霜沢が待っていた。
寒崎は鎮痛な面持ちで、
「警察に被害届を出しますか?裁判や弁護士のことなら心配はいりません、こちらで手配しますが……」
と申し出たが、警察や裁判など、身寄りのない少年であった榊にはあまりにも大事 すぎて、
「いえ、もう会いたくないだけで、裁判とか、考えてないです」
と言わしめた。
霜沢は寮まで付き添ってやるから今日は休んでくれ、と言いさらに、
「奴は上の白幻に収容された。滅多なことではもう、こっちのエリアに来ることはない」
と榊に教えた。
霜沢に案内されてやってきたのは従業員用の寮区域で、一人部屋だという。
およそ十畳のワンルームで家具家電付き。霜沢は、「これ寒崎さんから」と職員用の携帯とタブレットまで渡してくれた。端末にはすでに霜沢、北野、店の連絡先、無料Wi-Fiなどが登録されてあった。
これまでの榊の生活からすれば驚くほど豊かな環境だ。なにしろ榊はスマホも持っていないのである。
その後もきちんと医務室に通い、幸い噛み傷からの感染症もなく、薬物療法で傷を癒やすことができた。
健康を取り戻した榊は日々忙しくたち働き、まともな方法で自分のお金を稼げる生活を嬉しく思っていた。
数週間後、たまには三人で外へ夕飯でも食いに行くか、と霜沢が誘った。
仕事が終わってから霜沢、北野、榊の三人は職場を出て、ビルの外、雪車町 の串揚げ屋へと出かけた。
雪車町といえば、榊が売春で食費を稼ごうとした公園のある街だ。
榊は、金欲しさに体を売ろうとしたこと、左凪にΩと間違われて氷川グランネストに連れてこられたこと、そして暴行されたことなど、今までの経緯を話した。
霜沢は〔白幻〕のことや、そこでの仕事について語った。
「俺もちょっと前まで上の方で働いてた。そこで奴とも、まあまあ喋る機会もあったんだけどさ、なんか暗くてよく分かんねえ奴でなあ」
霜沢は白幻で、左凪とともにΩを慰める業務に就いていたのだそうだ。
Ωへの「慰め」とはすなわち性行為である。
発情期は無論のこと、一度αの肉体の逞しさ、激しさ、それを受け入れる喜びを知ってしまったΩはαを求めずにはいられない。
白幻にはそうした幅広い年齢層のΩが多数在籍し、かつての霜沢や左凪のようなαがΩの心身安定のために奉仕する仕事もあるという。
さらに左凪が行っていたのはΩへの奉仕ばかりではないらしい。
「フェロモンにも人の顔みたいに個性があるんだよ。奴のフェロモンはさ、Ωをこう、強烈にふらふらーっと引き寄せる。α様ぁん、抱いてぇってな。発情期みたいにな、向こうから股を開きに来る。だから雪車町の立ちんぼ公園で売春してるΩを引っ付けてきて、白幻に入りませんか?と交渉するんだ」
「ああ、それで……」
だから健康診断後の面接で寒崎に、あなたから近付いたのですか?と聞かれたのだ。榊がもしΩであれば、自ら左凪に肉体関係を迫ったであろう。
職場の外に出た開放感からか霜沢と北野は饒舌だった。
榊は彼らの経験したα、Ω、βにまつわる過去や〔白幻〕のことなどを色々と教えてもらったのだった。
榊は夜半まで続いた酷い行為に気を失い、目覚めた時にはもう明け方であった。
恐る恐る左凪の姿がないことを確認して、浴室で身体を清めた。
潤滑剤を用いずに手荒く使われた肛門からは精液と血が滴っていた。血が止まらない。
それでも仕事に行くため、ティッシュを何枚も重ねて下着と尻の間に挟み込んだ。
制服を着、少ない私物を全て持って逃げるように出勤した。
なんとか時間通りに出勤すると、店長の霜沢は榊の姿を見るなり、
「どうした、何があった?」
と事態の全てを察したかのように青ざめた。
なんでもありません、大丈夫です、と榊は答えたがαの霜沢に通用するものではない。
この時の榊からはαとΩのみが察知できる「マーキング」が色濃く漂っていたのだ。
左凪のフェロモンが所有物の証として榊に纏わり付いる。
シャワーを浴びたが髪は洗っていない。銀色の髪にはフェロモンを含む汗や唾液、精液の類が付着していたのだ。
霜沢は開店準備を北野に任せ、榊から休憩室で事のあらましを聞き取る。そしてすぐに〔白幻〕の施設長、寒崎に通報した。
霜沢は店を北野に任せ、急いで榊を医務室に連れて行った。
榊は年配の女医の指示で制服を脱いだが、自分の体のありさまがここまで酷いとは、正直思っていなかった。
シャワーを浴びたときは急いでいたし、後ろからの出血に気を取られていたせいでもある。
一番最初に左凪に掴まれた左の上腕にはくっきりと、指の本数までわかるほどの内出血が見てとれた。
首から肩にかけて多数の噛み跡。医師の表情からして、
乳暈と乳首に血も滲んでいる。これもまた執拗に噛みつかれてできた傷だ。
歯形は首から胸部だけにとどまらず、胴や臀部、陰茎の付け根周辺にまで及んでいた。
腰の両側と
医療診察と割り切って後ろのほうも診てもらった。その部分が一番傷ついているのだ。いまだに出血は続いている。
消毒をしてもらい、体の部位に合わせて塗り薬をもらった。
明日もくるように言われた。
医務室を出ると、待合室には寒崎と霜沢が待っていた。
寒崎は鎮痛な面持ちで、
「警察に被害届を出しますか?裁判や弁護士のことなら心配はいりません、こちらで手配しますが……」
と申し出たが、警察や裁判など、身寄りのない少年であった榊にはあまりにも
「いえ、もう会いたくないだけで、裁判とか、考えてないです」
と言わしめた。
霜沢は寮まで付き添ってやるから今日は休んでくれ、と言いさらに、
「奴は上の白幻に収容された。滅多なことではもう、こっちのエリアに来ることはない」
と榊に教えた。
霜沢に案内されてやってきたのは従業員用の寮区域で、一人部屋だという。
およそ十畳のワンルームで家具家電付き。霜沢は、「これ寒崎さんから」と職員用の携帯とタブレットまで渡してくれた。端末にはすでに霜沢、北野、店の連絡先、無料Wi-Fiなどが登録されてあった。
これまでの榊の生活からすれば驚くほど豊かな環境だ。なにしろ榊はスマホも持っていないのである。
その後もきちんと医務室に通い、幸い噛み傷からの感染症もなく、薬物療法で傷を癒やすことができた。
健康を取り戻した榊は日々忙しくたち働き、まともな方法で自分のお金を稼げる生活を嬉しく思っていた。
数週間後、たまには三人で外へ夕飯でも食いに行くか、と霜沢が誘った。
仕事が終わってから霜沢、北野、榊の三人は職場を出て、ビルの外、
雪車町といえば、榊が売春で食費を稼ごうとした公園のある街だ。
榊は、金欲しさに体を売ろうとしたこと、左凪にΩと間違われて氷川グランネストに連れてこられたこと、そして暴行されたことなど、今までの経緯を話した。
霜沢は〔白幻〕のことや、そこでの仕事について語った。
「俺もちょっと前まで上の方で働いてた。そこで奴とも、まあまあ喋る機会もあったんだけどさ、なんか暗くてよく分かんねえ奴でなあ」
霜沢は白幻で、左凪とともにΩを慰める業務に就いていたのだそうだ。
Ωへの「慰め」とはすなわち性行為である。
発情期は無論のこと、一度αの肉体の逞しさ、激しさ、それを受け入れる喜びを知ってしまったΩはαを求めずにはいられない。
白幻にはそうした幅広い年齢層のΩが多数在籍し、かつての霜沢や左凪のようなαがΩの心身安定のために奉仕する仕事もあるという。
さらに左凪が行っていたのはΩへの奉仕ばかりではないらしい。
「フェロモンにも人の顔みたいに個性があるんだよ。奴のフェロモンはさ、Ωをこう、強烈にふらふらーっと引き寄せる。α様ぁん、抱いてぇってな。発情期みたいにな、向こうから股を開きに来る。だから雪車町の立ちんぼ公園で売春してるΩを引っ付けてきて、白幻に入りませんか?と交渉するんだ」
「ああ、それで……」
だから健康診断後の面接で寒崎に、あなたから近付いたのですか?と聞かれたのだ。榊がもしΩであれば、自ら左凪に肉体関係を迫ったであろう。
職場の外に出た開放感からか霜沢と北野は饒舌だった。
榊は彼らの経験したα、Ω、βにまつわる過去や〔白幻〕のことなどを色々と教えてもらったのだった。