Find a Way

◼︎ 榊の過去 3

 榊が配属されたのは〔白幻〕ではなく、従業員用の飲食店の一つだった。
 アンティークな雰囲気の喫茶店といった内装の店で、直属の上司となる霜沢しもざわというαの男のもとで働くことになった。もう一人、従業員のβの女性で北野という人も紹介された。
 初日は皿洗いを任された。霜沢と北野は、昼には賄いのカレーライスを用意してくれたし、夕飯のサンドイッチも作って持たせてくれた。
 その日の夕方、身を置かせてもらっている左凪の部屋に戻った榊は、部屋の主とバスルームを使う時間が重なるといけないので、手早くシャワーを済ませた。

 夜、左凪が帰ってきた。なぜかドアの開閉音や足音に苛立ちが込められている。
 左凪は榊の姿を見るやいきなり、
「βなのか!」
 とすさまじい剣幕で怒鳴った。
 Ωと思い込んで連れてきた少年がβであったため、見込みが外れて腹を立てているのだろう、と榊は思った。
 自分のせいではない、しかし口答えすると面倒なことになりそうなので、「βでした。すみません」と謝った。健康診断の結果と配属先を知らせ、明日からは従業員用の寮に移ることも報告した。
 左凪はよろめいて、そんな、どうして、とかぶりを振り、
「嘘だ」
 と榊を否定した。
 次の瞬間、左凪は凄まじい力で榊の腕を掴み、寝室へと引き摺っていった。
 榊はベッドに投げ込まれ、衣服を剥ぎ取られた。
 やられる、と分かったが、泊めてくれたり職を得るきっかけを与えてくれたのがこの男であることに違いはない。
 もともと身体を売ってお金を得るつもりだったこともあって、榊は今夜だけは耐える決心をした。
 αの左凪による性交は、βの榊にとってまさに強姦そのものであった。

 左凪閨介はなんとしてでもこの少年、榊龍時がΩである証拠を見付けたかった。

 この少年が正しくΩであるならば──
 媚びを含んだ鼻声で快楽に啼くはずだ。
 うなじの中央に性的興奮で膨れ上がる、恥丘のような盛り上がりがあるはずだ。
 孕むだけの性は精巣など機能しているはずがない。
 陰茎なんて排尿をするだけの小さく細い管でなければならない。
 そこから子種を含む白い精液が出るはずがない。
 肛門を愛液で濡らし、嬉々として雄を咥え込むはずだ。
 直腸は出産を可能にするほど伸縮性があるはずだ。
 張り詰めた男根を突き入れた先に、αの精子をありがたがる臓器がなくてはおかしい。
 激しい腰の動きに随喜の涙を流して咆哮し、深い絶頂の中でαを受け入れ、狂乱しなければΩではない。

 しかし榊の精神と肉体は、左凪がΩにするのと同じ方法でいくら確かめてみてもβそのものなのであった。
 少年とはいえ十分に男性的な骨格と筋肉。
 声変わり完了間近の低い声。
 αに噛まれるための目印のない、平らな項。
 立派な男の部分を無理やり刺激すると白い精を吐き出した。
 濡れもせず、異物の受け入れを拒む裏門。
 強引に性器を捻り入れると当然、出血した。
 中の作りもΩのそれとは違う。
 Ωであれば恍惚としてよがり狂う左凪の激しい動きも、榊から伝わってくるのは徹底的な嫌悪と不快感、苦痛、恐怖、憎悪、反発。
 いくらΩの部分を探り出そうとしても、榊龍時の生命はことごとくβであることを証明していた。


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