Find a Way

◼︎耐えろ俺

 日中、ベッドがきたとの一報を受けていた良太は、その日の仕事が終わってからすぐさま榊の部屋へ向かった。
「広いっすね!」
「寝てみ?」
「失礼します!」
 大きくバウンドしながら良太がベッドに倒れ込む。その横に榊が静かに横たわる。
「やっぱマットレス、二分割のやつにしといて良かったな。あ、そうだ、隙間パッド買っときゃよかった」
 な?と仰向けだった榊が、良太の方へ身をかえす。
 真新しい寝具のにおいの中に、榊の身体からシャンプーか、あるいはフレグランスの香りが漂ってくる。高校時代に彼が愛用していたものとは違う品を使っているらしい。
 今の榊にふさわしい、爽やかさの中に官能的な大人の余裕を含んだ香りだ。
 まさかこうも簡単に隣に榊が寝てくるなんて、良太にとっては予想外だった。
 少し手を伸ばせば簡単に触れられる距離。夢にまで見た「榊さんと一緒に寝る」の状態が再現されている。

 ひょっとして誘われてる?
 いやしかし、榊さんは俺を抱こうとしているわけで。
 このままなだれ込むわけにはいかない。
 迫られたら間違いなく、力づくで榊さんを「やられる側」にしてしまう。
 それはダメだ。
 そもそもシャワー浴びていない、俺は別に全然いいけど。
 でも綺麗好きな榊さんは嫌がるだろう。
 てかこのサイズのベッドでも実際二人で寝てみると意外と近いな。
 にしても榊さん無防備すぎじゃね?
 忍耐力を試されてんのかも。
 耐えろ俺!!
 
 榊は、狭いか?とか寝る時タオルケット使う派か?とかそんなことを聞くばかりで、残念ながら甘く誘うような仕草は見られない。

「なあ、セックスの話なんだけどさあ」
 いきなり直接的な言葉が切り出されたので、良太は身を硬くする。といっても下半身の一部分のことではない。
 良太はがばりと起き上がってベッドに正座し、
「お、俺は!もうずっと前から榊さんを抱きたいって思ってたんですよ!」
 と堰を切ったように喋りだす。
「俺別に男が好きなわけでもないのにゲイの人たちの動画とかSNSとかで、相手に気持ち良くなってもらう方法とか、そういう情報見て勉強してました。そんで一回だけ高校んときに、榊さんとの本番に備えて経験積んどこうと思って、マチアプで出会った慣れてるっぽい人とラブホ行ってみたんですけど、チンポ反応しなくてかね置いて撤退したことあります」
 榊は寝転んだまま面白そうに良太を見上げて、おお、と言う。
「でも家帰って榊さんの画像見たら全然余裕で反応しました!」
「ははあ」
 のろのろと身を起こした榊は胡座をかいて、
「私、明日から花高に出勤だからさ、仕事に慣れるまでその件しばらく保留にしないか?」
 と言う。
 続けてこう告げた。
「昔、まだ花園に入る前にさ、雪城地区にいた時期があって……」
 
 そこで語られたのは、榊が中学を卒業してから花園高校の定時制へ入学するまでの、空白期間に起こった出来事。
 良太の推察とはだいぶかけ離れてはいたが、「特定のα」そして「白いビル」で起きた榊の過去であった。


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