Find a Way
◼︎悪役β、それもいい
αの恋人にΩの番ができるまで、と諦めがつくよう期限を設定したのは自分だ。
そのくせ良太と一緒に居るのは嬉しくて心地よくて、もう別れたくないと思ってしまう。
一番初めに良太から思いを打ち明けられたとき、何かの罰ゲームか下級生の肝試し、あるいは趣味の悪い冗談だと判断して受け流した。
だがどうやら真剣らしいな?と気付いたのはかなり後になってからだ。それも麗子に、
「あの桧村って一年のこと、どうすんの?あいつかなり本気 だよ」
と教えられてから。
初対面から良太のことは嫌いではなかったし、むしろ好感を持っていた。なので、そのまま告白を受け入れて付き合っても良かったのだ。
しかし人伝に良太の第二性がαだと聞いた。本人にも確認したところ、やはりαであるという。
それからは彼が何度もめげずに「好きだ」とぶつかってくるたびに感じていた微かな陶酔と甘美な切なさが、心苦しくなってしまった。
相手がαで自分がβである事実に葛藤し、かつてαの男に与えられた屈辱の記憶が強烈な苦味となって、気を緩めるな!と己に警告を発するのだ。
良太には、αはΩと一緒になるべき、βはαを幸せにはできない、と聞かせた。
Ωの紹介所の連絡先も教えた。
Ωに興味が湧くように番の素晴らしさを語った。
βの肉体と精神ではαを満足させられないのだと説いた。
本人の知らぬところで彼の両親とともに対策をし、年下の子供だからと距離を置いた。
でも、何度も告白されて「ダメだ」と断ったけれど、「嫌いだ」と言ったことは一度もない。
こちらの本音を晒さず、かといって嘘を吐いてもいない。学校の先輩として好かれたまま、彼の方から恋愛感情だけを諦めてはくれないだろうか、と都合のいい願望を抱いた。
この浅ましく狡賢いやり方に良太は気付いただろうか。
大学を出て母校の花園高校に配属が決まり、故郷に帰ってきて、車を買い求めに桧村自動車を訪れたのはなぜだったか。車だったら良太の実家でなくても入手できるのに。
麗子からは、良太はまだΩと番っていないと聞いていた。それをわざわざ確かめに行った──いや、番がいないならばチャンスだと、彼が欲しくなったのではないか。
大人になってもなお番のいない良太ならば、まだ自分を恋慕ってくれているかもしれないと淡い期待があったから。
結果として彼はまた告白してくれて、自分はそれを期限付きで受け入れた。
私はもう非力な子供ではない。
相手がαであっても、楽しむ余裕があるはずだ。
多少傷ついたって今ならきっと自己修復できる。
いずれαはΩと番う。
承知の上だ。
どうせ番ができるまでの仮初 の恋人。
αのヒーローがΩのヒロインと結ばれて断罪される悪者、なんだっけなそういう役──
悪役令嬢か!私の場合、男だけど。
なるほど悪役ね、それもいいかもな。
最初は、αにとってβなど使い勝手のいい慰み物なのだから、こっちもせいぜい楽しませてもらおう、とそれこそ「悪役」のような気持ちでいたことは間違いない。ドラマや映画に描かれる「運命の番」の乗り越えるべき障害となるβのようにだ。
自分たちαとβの組み合わせに未来なんて無いと分かっている。
だがどうにも良太を前にすると悪役たるβの心意気というか、悪の気概みたいなものが暖められて溶けて、消えていってしまうらしい。真っ当な未来ある恋人同士のような錯覚に陥るのだ。
おかげで独りになった時処分に困るようなものまで買ったし、また買おうとしている。
いかんいかん、悪役らしくな。
悪い男として、さあ何をすべきか。
この間言ったこと気になってるだろうな。
抱かれるのに向いていない実績がある──という部分。
今夜にでも薄汚れた私の過去を教えてやろう。
充電器からスマホをとりあげ、キャンプチェアにどっと腰をおろす。
少し浮ついた気分で、寝室に無事ベッドが設置されたことを良太に知らせた榊であった。
αの恋人にΩの番ができるまで、と諦めがつくよう期限を設定したのは自分だ。
そのくせ良太と一緒に居るのは嬉しくて心地よくて、もう別れたくないと思ってしまう。
一番初めに良太から思いを打ち明けられたとき、何かの罰ゲームか下級生の肝試し、あるいは趣味の悪い冗談だと判断して受け流した。
だがどうやら真剣らしいな?と気付いたのはかなり後になってからだ。それも麗子に、
「あの桧村って一年のこと、どうすんの?あいつかなり
と教えられてから。
初対面から良太のことは嫌いではなかったし、むしろ好感を持っていた。なので、そのまま告白を受け入れて付き合っても良かったのだ。
しかし人伝に良太の第二性がαだと聞いた。本人にも確認したところ、やはりαであるという。
それからは彼が何度もめげずに「好きだ」とぶつかってくるたびに感じていた微かな陶酔と甘美な切なさが、心苦しくなってしまった。
相手がαで自分がβである事実に葛藤し、かつてαの男に与えられた屈辱の記憶が強烈な苦味となって、気を緩めるな!と己に警告を発するのだ。
良太には、αはΩと一緒になるべき、βはαを幸せにはできない、と聞かせた。
Ωの紹介所の連絡先も教えた。
Ωに興味が湧くように番の素晴らしさを語った。
βの肉体と精神ではαを満足させられないのだと説いた。
本人の知らぬところで彼の両親とともに対策をし、年下の子供だからと距離を置いた。
でも、何度も告白されて「ダメだ」と断ったけれど、「嫌いだ」と言ったことは一度もない。
こちらの本音を晒さず、かといって嘘を吐いてもいない。学校の先輩として好かれたまま、彼の方から恋愛感情だけを諦めてはくれないだろうか、と都合のいい願望を抱いた。
この浅ましく狡賢いやり方に良太は気付いただろうか。
大学を出て母校の花園高校に配属が決まり、故郷に帰ってきて、車を買い求めに桧村自動車を訪れたのはなぜだったか。車だったら良太の実家でなくても入手できるのに。
麗子からは、良太はまだΩと番っていないと聞いていた。それをわざわざ確かめに行った──いや、番がいないならばチャンスだと、彼が欲しくなったのではないか。
大人になってもなお番のいない良太ならば、まだ自分を恋慕ってくれているかもしれないと淡い期待があったから。
結果として彼はまた告白してくれて、自分はそれを期限付きで受け入れた。
私はもう非力な子供ではない。
相手がαであっても、楽しむ余裕があるはずだ。
多少傷ついたって今ならきっと自己修復できる。
いずれαはΩと番う。
承知の上だ。
どうせ番ができるまでの
αのヒーローがΩのヒロインと結ばれて断罪される悪者、なんだっけなそういう役──
悪役令嬢か!私の場合、男だけど。
なるほど悪役ね、それもいいかもな。
最初は、αにとってβなど使い勝手のいい慰み物なのだから、こっちもせいぜい楽しませてもらおう、とそれこそ「悪役」のような気持ちでいたことは間違いない。ドラマや映画に描かれる「運命の番」の乗り越えるべき障害となるβのようにだ。
自分たちαとβの組み合わせに未来なんて無いと分かっている。
だがどうにも良太を前にすると悪役たるβの心意気というか、悪の気概みたいなものが暖められて溶けて、消えていってしまうらしい。真っ当な未来ある恋人同士のような錯覚に陥るのだ。
おかげで独りになった時処分に困るようなものまで買ったし、また買おうとしている。
いかんいかん、悪役らしくな。
悪い男として、さあ何をすべきか。
この間言ったこと気になってるだろうな。
抱かれるのに向いていない実績がある──という部分。
今夜にでも薄汚れた私の過去を教えてやろう。
充電器からスマホをとりあげ、キャンプチェアにどっと腰をおろす。
少し浮ついた気分で、寝室に無事ベッドが設置されたことを良太に知らせた榊であった。